クローズアップ現代

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No.38772016年10月18日(火)放送
追跡 五輪予算 ~なぜ費用は膨らんだのか~

追跡 五輪予算 ~なぜ費用は膨らんだのか~

追跡 五輪予算 なぜ費用は膨らんだのか

オリンピック・パラリンピックの競技会場見直しを巡っては、今日(18日)も新たな動きがありました。

ボート会場の整備費は、招致段階で69億円。
それがその後、1,038億円。
一昨年(2014年)には491億円と、金額が変遷してきました。
さらに今日になって、300億円前後にまで縮減できるという試算が明らかにされるなど、私たちから見ると非常に分かりにくい状況です。
何が起きていたのか、試算は妥当だったのか、舞台裏を取材しました。

追跡 五輪予算 会場はこうして決まった

海の森水上競技場が会場の候補にあがったのは、10年前。
2016年大会の招致を目指した時でした。

当時、都庁で招致活動に携わった鈴木知幸さんです。
国際オリンピック委員会が打ち出したコンパクトな大会を実現するため、都心に近い臨海部に注目したといいます。

元東京都職員 2016年大会
招致を担当 鈴木知幸さん
「コンパクトにする場所というのは、土地が空いているあそこしかないわけですよ。
埋め立て地は基本的に東京都の所有ですから。」

しかし、問題がありました。
通常、オリンピックのボート競技は、波や風の影響を受けないよう、水面が比較的穏やかな、川や湖で行われます。
候補となった海の森は、強風が吹きつけ、大きな波が立つ上に、潮位の変動もあります。

都は競技団体である、日本ボート協会に意見を求めました。

当時、ボート協会の役員だった、舘次郎さん。
都内には、競技に必要な全長2,000メートルのコースが確保できる場所はほかになく、海で競技をするしかないと考えました。
東京に競技場が出来ることは、長年の悲願だったといいます。

日本ボート協会 元施設委員長 舘次郎さん
「多少の不都合があるかもしれないけれども、というのが正直なところですね。
オリンピックを招致するというのは、千載一遇のチャンスであるなと。」

東京都とボート協会が合意した、海の森での開催。
最終的にオリンピックの競技会場を認定する、国際ボート連盟にも承認されました。

この海の森の計画は、2020年大会の招致の際も引き継がれました。
当初、示された整備費は69億円でした。

追跡 五輪予算 費用“膨張”の軌跡

しかし今、海の森の整備費は491億円に膨らんでいます。
一体、何があったのか。

その詳細な経緯が、複数の都庁職員への取材から明らかになってきました。
費用が膨らんだ最大の原因は、国際ボート連盟に求められた、水位の調整でした。

当初、東京都はコース内の水位を一定にするために、コースと海を1枚の板で締め切ることを考えていました。
ところが、海底の地盤が緩く、板が不安定で水位を一定にできません。

板を増やし、地盤を改良せねばならず、これだけで383億円かかることが分かりました。

さらに、テレビ中継用の設備も問題に。
撮影用のカメラレーンは逆光にならないよう、南側への設置を求められていました。

ところが、南側には1.6キロに及ぶ配管とフェンスがあり、その移設に100億円近くかかると試算されたことも分かりました。
さらに、建設資材の高騰や消費税の増税なども加わり、見込まれる費用は一時1,000億円を超す事態となりました。

東京都の担当者
「これはやっぱりまずい。
1,000億を超える競技場を作るということ自体は、コスト的にもやはり問題がある。」

その後、東京都は見直しに着手。
国際ボート連盟と交渉し、南側のカメラレーンを北側に変更。
配管などの移設費用を削減できました。

また、練習用のスペースを縮小することなども認められ、261億円減らしました。
しかし、海を会場にする以上、費用の削減には限界があり、整備費は491億円までしか下げられませんでした。

小池知事 単独インタ 費用“膨張”どう見る?

海の森水上競技場では今日、カメラ用設備などをとりやめると、300億円前後まで費用を削減できるという試算が明らかになりました。
知事は、どのように受け止めているのか聞きました。

小池百合子東京都知事
「一時は1,000億円という大台にまで乗せていた。
しかし、いろいろと工夫をしていくと、このような形にまで下がるという話であります。
むしろ驚きます。
また、ある種のあいみつ(複数の業者から見積もりを取ること)を取り始めると、いろいろと交渉ということもできるし、工夫もされると。
いわゆるIF(国際競技団体)、NF(国内競技団体)とありますけれども、それぞれベストのものが欲しい。
それからIOCの基準に合ったものでなければならない。
いろんなものを積み重ねていくと、知らぬ間にといいますか、本当に膨れ上がる。
これは、この海の森だけではありません。
各会場で言えることです。
そして、それぞれが別々に、競技ごとにこういう活動をしておりますから、足していくと『あら、まあ大変』ということが起こっていったということが、これまでの経緯だと思います。
しかし、ここは税金で、かつ東京都の場合は組織委員会が、約5,000億円出資をするというお話があります。
かかる経費が2兆から3兆という例の話になりますと、そうすると残りの分は東京都の負担という話に、現時点ではなるわけです。
そうなりますと都民の皆さんに、これが現状です、ということを私はちゃんとお示しをしなければならないし、これだけ高いもの、本当に大丈夫ですか?じゃなくて、私はもっと、この経費削減ということは当然やっていかなくてはならない、それがまさしく知事選の時の大きなテーマでもありました。
このように途中から膨らんでいくというのは、招致の際と、それから実際に大会を開催した実際の経費と、例えばロンドンなどでは、最初7,500億だったのが、実際には2兆1,000億ということで膨らむ傾向はあるんです。
しかしながら、だからいいんだというわけにはいきませんし、ましてや今、見直しをすべきは、やはりすばらしい会場を作ったとしても、その後の使われ方などをチェックしておかなければ、結局その後のメンテナンス、そしてランニングコストがかさんで、維持経費、それを管理していくためのコストがかかっては、さらに赤字が膨らんでいく。
これが負の遺産になる、負のレガシーになってはいけないと主張しているところです。」

海の森の整備費の削減を進める一方で、東京都は会場を東京以外に移すことも検討していました。
しかし、そこで直面したのが、国際競技団体の存在と大会後も新たに作った施設がレガシーとして活用できるのかという問題でした。

追跡 五輪予算 会場はこうして決まった

先週、東京都が新たに公表した資料です。
全国各地のボート場や湖など、10か所。
2年前、すでに都は、海の森水上競技場からの会場の変更も検討していたのです。

中には、海の森より整備費が低い会場が6か所含まれています。

しかし、見直しにはクリアしなければならない条件がありました。
会場を変更するには、国際競技団体である、国際ボート連盟の承認を得なければならないのです。

今回の取材で、都は当初、茨城県潮来市を有力な候補地として考えていたことが分かりました。

成田空港から車で30分と利便性がよく、整備費も試算では、海の森より130億円ほど低くなるといいます。
しかし、国際ボート連盟の幹部を現場に連れていくと、施設を作っても大会後は利用されないのではないかと難色を示したといいます。

都の幹部 取材メモより
“ここに移せたらいいなと期待していたが、会場が近づいてくると表情が変わった。
周りは田んぼばかりで、論外という雰囲気だった。”

現在、ここでボート競技をしている人は100人ほど。
地元の関係者ですら、オリンピック後の会場利用に疑問を感じています。

地元ボート協会関係者
「会場に適しているかというと適している、間違いなく。
ただレガシー(良い遺産)にはならなうだろうなと。」

ほかにも相模湖など、5つの会場が候補から外されました。
コースの形状などが国際ボート連盟の要望を満たしていないことが理由でした。
オリンピックの会場選定では、国際競技団体に強い発言力があるといいます。

スポーツジャーナリスト 小川勝さん
「国際競技団体として最大限の望みを、理想を要望していくと。
これは当然と言えば当然のこと。
(開催都市とは)必ず、思っている方向が大体、逆になるんです。
そこでどこで妥協するのか、どこで満足してもらうのか。」

会場は最終的に、どのようにして海の森に絞られたのか。
NHKは、その経緯を記した議事録を入手しました。

2014年11月、都内のホテルに集まったのは、国際ボート連盟、日本ボート協会、東京都、そして大会組織委員会の4者。
実はこの時、宮城県にある長沼のボート場への変更も議論されていました。

今、都の調査チームが海の森からの変更先として提案しているボート場です。

東京都の発言
“長沼の補足事項の説明をしたいと思うが、いかがか。”

国際ボート連盟の発言
“長沼については、説明に時間を割かなくてもいい。
競技という側面ではいいが、道路の状況、ホテル、レストランなどの状況を考慮すると難しいと思っている。”

長沼のボート場について、国際ボート連盟は設備だけではなく、集客の面で懸念を示していました。

この会議に出席していた日本ボート協会の山崎佐知夫さんです。

日本ボート協会施設委員長 山崎佐知夫さん
「現地でIF(国際ボート連盟)の方と食事もしたんですけども、食事をする場所を探すのに大変な苦労をしたようなところでしたので、オリンピックは無理じゃないかなというようなことをもらしておられました。」

結局、残る3か所も理解を得られず、都は改めて、海の森を会場とすることを決めます。
工事に3年近くかかるため、すでに設計が始まっていることも決定を後押ししました。

海の森を一貫して推し続けた、国際ボート連盟。
何を重視したのか今回、回答が寄せられました。

国際ボート連盟の回答
“私たちが求めるのは、将来にわたって活用され、競技の発展に寄与し、レガシー(遺産)となる会場です。”

会場の選定や予算を巡って続く議論を、選手たちは複雑な心境で見守っています。

リオデジャネイロ五輪出場 中野紘志選手
「どの会場に決まっても、たくさんのお金をつかうことになる。
やっぱりボート選手としては、絶対につかっていただいたお金以上の活躍、結果を出さなきゃいけないなと、ひしひしと感じています。」

追跡 五輪予算 なぜ費用は膨らんだのか

会場選定では、競技団体の存在が大きく、開催都市だけでは決められない構造が見えてきました。
しかも海の森以外の選択肢も、時間をかけて議論がされたにもかかわらず、なぜ今、知事は見直しを探っているのか聞きました。

小池百合子東京都知事
「2020年まで、あと時間がたった4年しかない。
そういう意味では、今、ラストチャンスだと思います。
そして改めて、私は新しい知事ですから、ゼロベースに戻ってみて、オリンピック・パラリンピック2020がどうあるべきなのか。
例えば原点に戻って、復興五輪という言葉もあったよね、それからいろんな会場もあったよねと。
それでは都民にとって、また、大会にとって何が一番ベストなのか、そこを平たく比べてみて、そして今、調査チームの方にそれをまとめていただいているところです。
ですから、ラストチャンスであるということ。
それから、お金の額が69億から1,000億になって今度、今日は300億っていって、あまりにも激しくって、このへんはやっぱりもっとオープンにしていくことが一番肝心だと思うんです。

今日のバッハ会長との会談についても、一番のポイントはフルオープンにしたことです。
これは、私の方から申し入れをいたしました。
バッハ会長も快く受けていただきました。
このことは、これからの流れを進めるにおいても言った言わないとか、どういう形で誰が決まったんだということを知らしめていくということが、大会への信頼性を高めていくのではないか、納税者の納得を深めていくのではないか、こう思っております。
そしてアスリートの皆様方も、いろいろな思いがおありだと思いますが、アウエーではなくてホームですから、やはり練習を始めたいという方もおられるでしょう。
いろんな要素を考えながら、私はもう何度も申し上げているように、総合的に判断するということを申し上げています。」

“ゼロベースの検討” どんなところに課題が?

小池百合子東京都知事
「レガシーがあるのかないのか、アスリートにとってプラスなのかどうなのか、それから何よりもコストの削減の問題があります。
こういったことをトータルで、東京大会が世界に何を発信するのかを考えなければなりません。
そして、オリンピック・パラリンピックの招致活動というのも今、行われて、かつ2024年の候補都市があります。
しかし、これまでもハンブルグであるとか、それからボストン、最近はローマが手を下げてしまったんです。
つまり、有権者や納税者の納得を得られないんじゃないか、こんなにコストがかかるんだったら、これはもう招致活動には入らないでおこうという流れが見えてきているわけです。
だからこそ今日も、IOCのバッハ会長ほか、コーツ副会長、そしてギラディ委員長と、三役がそろい踏みされたのは、ある意味で今後のオリンピック・パラリンピックにとって、この東京は1つの試金石になるんじゃないか、そのように考えておられるからではないでしょうか。
その分、重要な役割を担っていると思いますし、私は東京大会こそが、レガシーになるようなものにしていきたいと思っております。」

追跡 五輪予算 なぜ費用は膨らんだのか

津武圭介(NHK記者)

東京大会は、今後のオリンピックを考える上で、1つの試金石になるということだったが?

津武記者:そのために設けられたのが東京都、国と組織委員会、それにIOCの4者による協議でして、これについて小池知事はインタビューで、国内外の競技団体も加えて、解決を図りたいという考えを示しています。

しかし、その協議に加わる組織委員会は、今回の会場見直しについて、疑問の声を上げているが?

津武記者:組織委員会は、都の調査チームが選択肢の1つとして挙げている長沼のボート場について、会場のバリアフリー化が進んでいないことや、選手の移動に時間や費用がかかることなど、9つの問題点を挙げています。
話を聞きました。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 布村幸彦副事務総長
「東京都と組織委員会が一体となって、国際オリンピック委員会、パラリンピック委員会、そして競技団体と話をしてきましたので、その関係は引き続き、今後ともしっかり連携よく取り組んでいく必要があると思います。
ボート会場ひとつにしても1年半以上かかって、国際競技団体、IOCと議論を重ねてきました。
その中にも十分いかにしてコストを削減するか、あるいはレガシー(良い遺産)として、後利用が十分できるのかと、そういうことは重視されてきましたので、それを踏まえた形で9つの課題というものも整理させていただきましたので、今後、小池都知事におかれまして、東京都の貴重な税金をどう使っていかれるか、どう削減するかという観点も踏まえて、ご判断いただけるものと思っておりますので、それを今ご判断を待っているということになります。」

今後、協議が始まるとはいえ、あまり時間はかけられないが?

津武記者:このボート会場の工事は、すでに始まっていまして、小池知事は今月(10月)中にも方針を決めたいとしているんです。
今回の問題は、単にボート会場をどこにするのかといったことにとどまらず、オリンピックが今後、どうあるべきかという課題を突きつけているんだと思います。
オリンピック運営の在り方について研究している専門家に聞きました。

早稲田大学スポーツ科学学術院 教授 原田宗彦さん
「あまりにもイベントが巨大化してしまいましたし、オリンピックが出来る都市は、かなり限られてきているわけですね。
オリンピックが去ったあとに、都市の重荷になって、借金を払い続けるというようなケースが出てきているわけですね。
やはりオリンピックが終わったあと、施設がどれだけ都民、国民のためになるのか、十分に検証しなければならない。
どうも、施設のレガシーばかりに目がいくが、実はそこはそれほどお金をかける必要はないのかもしれません。
本当のレガシーを考えた場合、(社会や環境に対する)もっと大事なレガシーを残す、そういう術を考えていかなければならない。」

視聴者の方より:「お金をかけることよりも、選手が全力でプレーできる環境を作ることが一番大事だと思います」「オリンピックの原点にかえって、真摯な態度で臨んでほしい」
本来、レガシーとは、幅広い意味での遺産という言葉だと思うが、施設にこだわり、コスト増につながっているのは、本末転倒な気もするが?

津武記者:やはり、何のために誰のためにオリンピックを開くのかということを考えるべきなんだと思います。
オリンピックのすばらしさ、これは多くの人が認めるものだと思うんですけれども、かつてのような右肩上がりの社会が望めない中、大会がもたらす負の側面から目をそらすことはできないんだと思います。
大会まで4年という時間は決して長くはなく、東京で再び開くオリンピックで、私たちは何を目指すのか、その方向性を定める時期に来ているんだと思います。

視聴者の方より:「国内でマイナーな競技こそ、オリンピックの今、レガシーを考慮すべきだと思う」「開催地が決定してから、いろいろ変更している気がするけれど、これはありなの?」
私たちが当事者意識を持って、この問題について、引き続き考えていかなければなりません。

今回のグラレコ

番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。

質問
コーナー

Q1

場所や費用がどう決まっていったのか?

ボート・カヌーの「海の森水上競技場」に関しては、2016年大会の招致を目指した際に候補にあがりました。IOCが打ち出したコンパクトな大会を実現するため、臨海部に注目したといいます。競技団体にとっても、都内に競技会場ができることは長年の悲願だったといいます。この計画は、2020年大会の招致でも引き継がれました。しかし、その後、整備費用が膨らんでいることを受けて、削減を進める一方で会場の変更も検討。コースの形状や集客の面、そしてレガシーに関する国際競技団体の要望などを勘案して、最終的には海の森水上競技場に決定しています。
Q2

透明性とレガシーをどう考えるか

小池知事は、インタビューに対して、「都民のお金で会場作りを進めるためには、徹底して情報開示し、コスト削減に努める」ことを重視していると答えました。五輪の素晴らしさは誰もが認めることではありますが、大会がもたらす負の側面から目をそらすことはできません。レガシーは幅広い意味での「遺産」であり、施設にこだわりコスト増につながってしまっては本末転倒となります。オリンピックで何を目指すのか、方向性を定める時期にきているのではないでしょうか?

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