クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
No.38712016年10月5日(水)放送
病院で何が? 点滴異物混入事件の深層

病院で何が? 点滴異物混入事件の深層

新証言 点滴異物混入事件 内部に詳しい人物の可能性は?

寝たきりのお年寄りの点滴に異物を混入させ、殺害した、異例の事件。
まず、ここまで分かっていることを整理します。
先月(9月)横浜市の大口病院で、4階の大部屋に入院していた男性の容体が急変し、死亡しました。
この男性の体内と点滴から、消毒液に使われる「界面活性剤」が検出されました。
警察は、殺人事件として捜査を開始。
すると、同じ病室に入院していた男性も、同様に中毒死していたことが分かりました。
点滴は1人目が死亡した前日に、ナースステーションの机などに置かれていたことが分かっています。
このナースステーションは原則、病院関係者しか立ち入ることはありません。
警察は、病院内部に詳しい人物による犯行の可能性もあると見て、捜査を続けています。

亡くなった、八巻信雄さんと西川惣藏さん。
殺害された経緯は、どのようなものだったのか。
独自の取材から、内部の事情を知る人物による犯行の可能性を検証します。

点滴異物混入事件 なぜ 寝たきりの高齢者が…

殺害された、八巻信雄さん。
亡くなった日は、88歳米寿の誕生日でした。

八巻さんと親交があった、栗原さん夫婦です。
地元の老人会で、一緒にコーラス部の活動をしていました。
八巻さんは、周りから慕われる優しい人柄だったといいます。

栗原トク子さん
「八巻さん歌ったら、みんなで手ばたき(拍子)してさ。
部屋の中も明るくなるよね、にぎやかになって。
感じのいい人でね。」

なぜ、こんな最期を迎えなければならなかったのか。
やりきれない思いにかられるといいます。

栗原一年さん
「普通は死ななくてもいいようなのに、こういう薬物で本人も無念というか。
今回のこういう事件って、すごいショックだよね。」

八巻さんが大口病院に入院したのは、先月14日のことです。
この病院の4階には、積極的な治療が難しい、終末期医療を受ける人が数多く入院しています。

八巻さんが入ったのは、その4階にある8人部屋。
寝たきりの状態で栄養をとるために点滴をしていました。
7日目の早朝、心拍数が急激に下がり、1時間ほどで死亡が確認されました。
事件性が疑われたのは、八巻さんの点滴に泡立っている異常が見つかったためです。
点滴と遺体からは、消毒液などに使われる、界面活性剤の成分が検出され、中毒死だったことが分かりました。

さらに2日前、八巻さんと同じ部屋で亡くなった西川惣藏さんの体内からも検出されました。
内部に詳しい人物と見られる根拠は何なのか。
取材を進めると、犯行の手口が専門知識がないと難しい、巧妙なものだったことが明らかになりました。

警察は、未使用の点滴の袋とチューブをつなぐゴム栓に貼られたシールに小さな穴が見つかったとしています。

今回、都内の別の病院の協力を得て、シールが貼られている場所に注射器で穴を開けてもらいました。
しかし、この点滴を逆さにしても、中の液体が漏れることはありませんでした。
さらに、未使用を示すシールが貼られたままであれば、誰かが手を加えたとは、通常は想像しないといいます。

松江病院 安田和弘院長
「穴が開いているなんて、全く考えないですね。
これ(シール)がついていれば、大丈夫だと思って。
(一般の人は)知らないでしょうね。
やっぱり、ある程度知識がないと、わからないでしょうね。」

病院の監視態勢が手薄になる状況を狙われた可能性があることも分かってきました。

点滴がナースステーションに移されたのは、先月17日。
連休が続くため、3日分がまとめて保管されていました。
大量の点滴にもかかわらず、スタッフは5人前後と、平日の半数ほどしかいませんでした。

点滴は無造作に置かれ、周囲に人がいない時間帯もあったといいます。
犯罪心理学に詳しい専門家は…。

東洋大学 桐生正幸教授
「どの場所、どの時間帯が、いちばん犯行に適しているかと。
この病院の状況をよくわかっている、なおかつ監視が少ないことを熟知している。
そういう意味では外部よりも内部の可能性が高いとみていいのではないでしょうか。」

点滴異物混入事件 広がる 不審の声

リポート:大野桃(首都圏センター)

中毒死が相次いだ、大口病院。
2人の事件の前にも、異例の事態が起きていたことが取材で分かりました。

病院関係者
「一度に6人お亡くなりになったことがあったんですね。
あれは夕方から朝にかけての時間だと思うんですけど。」

6人が亡くなったのは、8月下旬。
うち4人は、わずか2時間余りの間に亡くなったといいます。

病院関係者
「『6人亡くなったんだよね』ということで、『ビックリしたよね』って、そういう感じですよね。
異常ですよね。」

病院側は、4階で亡くなった患者の数が、事件発覚までの、およそ3か月の間に48人に上ることを明らかにしました。
事件と何らかの関係があるのか。
遺族たちは、真相を求めています。
この男性は7月、4階に入院していた母親を亡くしました。

母親を亡くした男性
「今年の7月だから、やっぱり息子としては信じたいけど、疑いますよね。
四十九日も終わって、それから、こんなことだから。
病院から説明を受けたいですよ。」

遺族たちが不審に思う声は広がり続けています。
異変は、もっと早い時期から起きていたのではないか。

この男性が大口病院で87歳の妻をみとったのは、半年前です。
体調を崩した妻が入院したのは、4階の病室。
栄養を補うため、点滴を受けていました。
入院3日目。
面会した時には元気に話をしていましたが、その3時間後、容体が急変しました。

妻を亡くした男性
「『呼吸困難、おかしいから、至急来てください』と言うんで行ったら、人工呼吸と酸素吸入やって、意識なかったからね。」

男性にとって、妻を受け入れてくれた、数少ない病院でした。
しかし、死因は心不全という診断を、今はそのまま受け取ることができないといいます。

妻を亡くした男性
「本当に元気だったんですよ。
意識もしっかりしてたしね。
あんな、あっけない死に方なんでね、何かおかしいんじゃないかと。」

点滴異物混入事件 内部に詳しい人物の可能性?

ゲスト 三宅康史さん(帝京大学救命救急センター長)
ゲスト 長井孝太記者(横浜局)

まず、事件について、分かっていることは?

長井記者:これまでの警察の捜査で、異物は点滴に注射を使って混入された可能性があると見られています。
また、毒性の強い消毒液の疑いがあり、同じ成分のものは、この病院にもありました。
さらに、異物が混入された場所はナースステーションやその周辺とみられ、平日に比べて人員が少ない3連休中に混入された疑いも出てきています。
こうしたことから、医療器具などの扱いに慣れた人物や病院内部の事情に詳しい人物の犯行の疑いも出てきています。

ここまで導き出されたのに、いまだ犯人の特定に至っていないのは、なぜ?

長井記者:確かにナースステーションや、その周辺は原則、病院関係者しか入れない場所です。
ただ、今回の病院では鍵もなく、業務の都合で人がいない時間もあって、誰でも出入りできる可能性があったんです。
さらに、病棟には防犯カメラもなく、入院患者の多くも寝たきりの状態で、有力な目撃情報を得ることが難しい状況でした。
このため、いつ、誰が異物を混入したのか特定に至っていないんです。

三宅さんは、救命救急センター長として、医療の安全に取り組んでいるが、今回の事件をどう受け止めている?

三宅さん:われわれは1999年に、患者取り違えとか、あるいは静脈内に消毒液が入ったという事件を受けて、この医療安全、点滴でいえば、間違えないように、正しい患者に正しい点滴が入るように、そういったことをずっと頑張ってやってきたんですけれども、今回、また新たに医療防犯というか犯罪に対しても何らかの手を打たなきゃいけない、大変なことになったというのが印象です。
(言ってみれば、想定していない医療の安全とはどう守るべきかという根本から問い直されるような事件である?)
われわれの想像からも飛び出したような事件が起こってしまったというふうに感じています。

大口病院の4階では、殺害された2人以外にも、この3か月で46人が亡くなっています。今も病院に入院している患者の家族などからは不安の声が上がっています。

点滴異物混入事件 広がる不審の声

91歳の母親が入院している男性です。
点滴に栄養を頼っている母親のためにも、一刻も早い事実の解明を願っています。

母親が入院している男性
「ばあさん、大丈夫かな。
こんなこと起きるとは思わないしね。
病院というのは、安全第一だと思っているから。」

点滴異物混入事件 46人死亡との関連性は?

2人が中毒死したことと、この3か月で46人が亡くなっていることの関連性を、どう見ている?

長井記者:警察は、関連については分かっていないとしています。
この病院は、終末期の患者を積極的に受け入れてきました。
この病棟で亡くなった方々の人数については評価はし難いんですが、院長は「この夏以降亡くなる人が多いなと感じた、院内感染も疑った」と話しています。
事件が発覚してから10日あまりたちましたが、その間、死亡した2人が入院していた4階では亡くなった人は出ていません。
警察は、関連の有無を慎重に調べることにしています。
(この夏、亡くなる方が多いなと、院長自身も感じていた そして、事件発覚後は4階で亡くなった方はいない?)
はい、出ていないということです。

今回、不特定多数の患者を狙った可能性の有無について、どう見ている?

長井記者:4階のナースステーションなどに残っていた未使用の点滴50個以上のうち、7個について、点滴のゴム栓に貼られたシールに、見えにくい不審な穴が見つかりました。
これらの点滴は、2人以外の複数の患者の分も含まれていて、さらに、名前のない予備のものと見られる点滴にも不審な穴が見つかっていたことが新たに分かりました。
ただ、これらの点滴に実際に異物が混入されていたかどうかは分かっていません。
(中身に何が入っていたのかは調査中?)
このため警察は、未使用の点滴の分析と共に入院患者たちの血液検査を進めていて、亡くなった2人以外に被害が広がっていないか、捜査を進めています。

実は、ほかにも大口病院では、2人が亡くなる今回の事件の数か月前から病院内でさまざまなトラブルが相次いでいたことが分かっています。

点滴異物混入事件 相次ぐ院内トラブル

未解決事件と書かれたメール。
大口病院の関係者から横浜市に宛てたものです。
事件の2か月前から、3回にわたって送られていました。
「看護師のエプロンが切り裂かれた」
「カルテが紛失した」
「漂白剤らしきものが飲み物に混入し、飲んだ看護師の唇がただれた」

メールを送った男性です。
複数のトラブルが起きていたにもかかわらず、病院が何もしなかったため、メールを送ったといいます。

メールを送った男性
「どうして起きているのか分からない、何があるか分からないって一番怖いし、気持ち悪いっていうのは、現場スタッフは感じていた。
やっぱり次が起きるのではないのか。」

病院の指導・監督を行っている横浜市。
メールに対し、すぐに対応することはありませんでした。
結果的に、定期的な立ち入り検査が行われたのは、事件発覚のおよそ3週間前でした。

横浜市 健康安全部 大貫義幸部長
「院内の職員のトラブルと申しますか、そういったことについては、9月2日にきちんと対面で、面談で確認すべきということで、そこまでは保留しておりました。」

立ち入り検査の際の面談で、横浜市が使うチェックリストです。
カルテの紛失については、チェック項目に入っていました。
しかし、メールで寄せられていたトラブルに対して、市として、踏み込んだ対応を取ることはありませんでした。

横浜市 健康安全部 大貫義幸部長
「正直な話(立ち入り検査は)きちんとやったと、私どもは考えておりました。
今思えば、もう少しその辺を掘り下げられなかったのかと考えています。」

点滴異物混入事件 院内トラブルとの関係性は?

これまでにあった数々のトラブルと、事件の発生との関連は?

長井記者:犯人が特定されていない中で、関連については、現時点では不明です。
ただ、こうしたトラブルに対して、病院側は内部で解決できる問題だとして、自ら横浜市などには報告していませんでした。
また、通報が寄せられた横浜市も、踏み込んだ対応をしていませんでした。
関連は分からない状況なんですが、このトラブルをきっかけに、病院も行政も、さらなるトラブルを防ぐための意識をもう少し持つべきだったのではないかと感じます。

トラブルが続いていて、そのサインも外に出ていた 病院として、何らかの対応ができたのではないか?

三宅さん:やはり異常ですねっていう表現が職員の方からありました。
ですから、そういった表現をちゃんと発信できたか。
職員の方が「これは、おかしいんじゃないの」ということを表現して、それを経営者側、いわゆる病院側の方が、ちゃんと受け止めて、これは普通じゃない、やっぱりいつもと違うから、ちゃんとみんなで情報を共有する。
「これはもう院長がやりますよ、こっちでやりますよ」というのではなくて、全職員、いろんな職種の方を入れて、情報をオープンにして、みんなで解決していく。
これはもう、われわれだけでは解決できないとなったら、警察や行政にちゃんと連絡をして、次の手を打ってもらう。
そういった対応が必要だったというふうには感じております。
(小さな異常を看過せずに受け止めていくことが大切だったのではということが見えてくるが?)
そういったことをちゃんと発信できる、それを病院側も受け止められる、そういった体質が重要だというふうに思います。

今回の事件は、点滴が施錠されていないスペースに置かれていたり、室内に防犯カメラが設置されていなかったことなど、病院側の安全管理態勢の隙をついた犯行だと見られています。

視聴者の方より:「以前、病院で働いていました。昔聞いたかぎりでは、あの病院の体制は普通だと思います。」
そういう声も来ているわけなんですが、事件に衝撃を受けている医療現場を取材しました。

点滴異物混入事件 病院の安全管理どこまで

東京・世田谷区の病院です。
今回の事件を深刻に受け止めています。

事件に使われたと見られる消毒液を点滴用のブドウ糖に混入した場合、どうなるのか。
医師、看護師、薬剤師が確認しました。

薬剤師
「大きい泡が違和感がありますね。
あまり見ない状態ですね。」

病院は、これまでにも鍵をかけた場所に点滴を保管。

取り出す際も2人の看護師で異常がないか確認しています。

さらに各階の廊下など、16か所に防犯カメラを設置しています。

武久敬洋医師
「経営面は圧迫されますが、質と安全を保つためにはしょうがないことだと割り切ってやっています。」

病院は、今回の事件を受けて、新たな対策に乗り出しました。

まず休日、鍵のかかった保管庫から1日分をまとめて取り出していた点滴。
必要な時だけ取り出すことにしました。

さらに、緊急用にあえて鍵をかけずに保管していた医療用の薬剤の棚にも、専用のテープを貼るようにしたのです。

看護師
「誰かが(薬剤を)持って行った後に、明らかに『何かあったんじゃないか』って分かるようにした方がいいね。」

医療現場に詳しい人物が犯行に及んだ場合、どうすれば患者の安全を守れるのか。
試行錯誤が続いています。

武久敬洋医師
「すべてを完全に防げることはないと思いますが、とても大きな抑止力になると思うので、そこを我々は徹底する以外に方法はない。」

点滴異物混入事件 病院の安全管理どこまで

こういった対策をどう見た? すべての病院でこれだけのことができるのか?

三宅さん:本当に涙ぐましい努力をやっているとは思うんですけれども、病院の規模にかかわらず、もし医療に詳しい方がこういったことをするとしたら、防ぎようがないというのが実感だろうと思います。

先ほど、医療の安全から防犯に考えなきゃいけないとおっしゃっていたが、何ができる?

三宅さん:防犯まで力を入れるというのは、ちょっと無理なんですが、でも、みんなが異常があったら、これは異常じゃないかというふうに考える。
それをみんながオープンにして、みんなで話し合う。
病院全体で、そういったことを考えられる医療安全文化というのを育てていって、新しく入ってくる新人さんも、それにちゃんとならって同じことをしていく文化が病院の中で積み重なっていって、患者や患者家族が安心していく。
それを見て、われわれ自身も「あっ、いい医療ができてるんだな」。
これで感謝されて、われわれとしてもプライドを持って仕事ができる、安心して仕事ができる。
そういったことで解決していく方が、むしろ日本には合っているような気がします。

今後の捜査の焦点はどうなっていく?

長井記者:異物を混入できるタイミングがいつだったのか、どんな人物だったら可能だったのか、これを絞り込むこと。
また、点滴や消毒液などの鑑定も並行して行われていて、警察は犯人特定を急いでいます。

一刻も早い事件の解決が待たれます。

今回のグラレコ

番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。

質問
コーナー

Q1

病院内部の事情に詳しい人物の犯行が浮かび上がっているのに、なぜ犯人を特定できないのですか。

混入の疑いがあるナースステーションは、カギがなく、誰もいない時間もあったため、不特定多数の人が侵入できる可能性がありました。また、病棟には防犯カメラもなく、入院患者も寝たきりで目撃情報を得ることが難しい状況でした。このため、いつ誰が異物を混入したのか。警察は病院関係者に不審な目撃情報がないか、事情を聴いています。
Q2

3か月で46人が亡くなったことと、2人の中毒死との関連はあるのでしょうか?

警察は、「分かっていない」としています。大口病院は終末期の患者を積極的に受け入れてきました。病棟で亡くなった方々の人数についての評価は難しいものの、院長は、「この夏以降、亡くなる人が多いと感じた。院内感染も疑った」と話しています。事件のあと、死亡した2人が入院していた4階で亡くなった人はいません。警察は、関連の有無を慎重に調べることにしています。

あわせて読みたい

PVランキング

注目のトピックス