クローズアップ現代

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No.38502016年8月4日(木)放送
リオ五輪“最強伝説”への道 柔道・井上康生監督 再び頂点へ

リオ五輪“最強伝説”への道 柔道・井上康生監督 再び頂点へ

柔道男子 金メダル奪還へ!

日本時間の明後日(6日)から、いよいよリオデジャネイロオリンピックが開幕します。
今夜お伝えするのは、柔道男子。
あの井上康生監督の下、再び世界の頂点を目指すのは、7人。
世界選手権の優勝者が5人。
監督は、全員、金を狙えると期待しています。
すでに日本代表はリオに入っています。
杉浦さん。

杉浦友紀キャスター
「開幕直後に始まる柔道。
81キロ級までの4選手が、すでにこちらに到着しています。
稽古では時折、笑顔を見せるなど、順調な最終段階に入っています。

こちらのスタジオには、ロンドンオリンピック代表で、今大会の柔道の解説をする穴井隆将さんにお越しいただきました。
後ほど、一緒にお伝えします。」

さあ、その柔道ですが、東京オリンピックから26個の金メダルを獲得してきた、まさに「お家芸」です。
しかし4年前、初めて金メダルゼロに終わりました。

背景には、世界の柔道=「JUDO」が台頭して、日本がこれまで培ってきた戦い方だけでは、なかなか対応が難しくなっていることにあります。
世界の頂点を奪還するための、井上監督の秘策とは?

柔道 井上康生監督 常識こえた大改革

オリンピックを1年後に控えた、去年(2015年)7月。
井上監督率いる日本代表は、ブラジルで異例の合宿を行いました。

この国で盛んな格闘技、ブラジリアン柔術の選手たちとの練習。
進化する世界の柔道への対応力を身につけるねらいです。
ブラジリアン柔術の特徴は、柔道よりはるかに多い寝技の種類。
相手がどんな技を仕掛けてくるか分からない状態でも対応できる、身のこなしを養いました。

66キロ級代表 海老沼匡選手
「ブラジリアン柔術に触れられたことは、すごく僕にとってプラスになると思う。」

柔道男子 井上康生監督
「世界の柔道に対応していくためには、そのルーツから勉強しないと対応できない。」

柔道の本家をプライドを捨て、ほかの格闘技から学ぶ。
背景には、日本柔道の苦い経験がありました。

日本の伝統的な柔道の技。
襟と袖を持ち、相手との距離、「間合い」を作ります。

その間合いを生かし、相手のバランスを崩して技に入り、一本を取ります。
現役時代の井上監督も、切れ味鋭い内股を武器に間合いを使って一本を取る、日本伝統の柔道を貫きました。
ところがこのところ、国際大会では日本の得意とする間合いが封じられています。
日本人を上回るパワーと、民族格闘技の技術を持つ外国人選手が席けんしているのです。青のジョージアの選手。
民族格闘技「チダオバ」の技で体を密着させて投げます。
白のモンゴルの選手。
足で相手を持ち上げるのは「モンゴル相撲」の技です。
井上監督自身、現役時代の最後は、こうした柔道に対応しきれなかったといいます。

柔道男子 井上康生監督
「“一本を貫いた柔道”を最後までやった。
それだけだったために、最後頂点に立てなかった。
一生懸命、死に物狂いで頑張っている選手たちに、そういう思いをさせたくない。」

得意の形になれなかったときに、どう戦うか。
1月、沖縄で行われた日本代表の合宿。

井上監督は500年以上の歴史を持つという伝統の格闘技、「沖縄角力(ずもう)」との練習を取り入れました。

73キロ級の元世界チャンピオンが、地元の若者と対戦。

見事に裏返されました。

自分たちの間合いとは異なる沖縄角力の密着した体勢からの技に…。

戸惑う選手たち。

しかし、次第にこつをつかんでいきます。

重心の位置をずらすことでバランスを取り、相手の投げをしのげるようになりました。

柔道男子 井上康生監督
「今回、沖縄角力から学んだ技術は、世界で戦う選手たちが使う技が多くみられた。
選手たちがそれを体感できたのは非常に良かった。」

柔道界の常識にとらわれず、改革を進める井上監督。
柔道の専門家だけで固めていたチームに、外部から人材を招く異例の人事も行いました。

岡田隆コーチ。
パワーで勝る外国人選手に対抗するための、肉体作りを担います。

スポーツ医学が専門で、現役のボディービルダーとしても活躍。
効果的な筋肉のつけ方を熟知しています。
岡田さんは、国際大会の練習会場で外国人選手の肉体を観察。
どうすれば対抗できるか分析しました。

岡田隆コーチ
「この選手は当時90キロ級でしたけど、この選手ほど筋肉量がついている選手は日本人にはほとんどいないので、フィジカルで圧倒的に負けていると、持っている技術を出せない可能性がある。

外国人を倒せる状況までフィジカルを上げるという発想で取り組んできました。」

浮かび上がったポイントの1つが、背中の筋肉。
外国人選手と比較したとき、筋肉量が大きく劣っていると判断したのです。

その1人が、100キロ級代表の羽賀龍之介選手。

得意技は、切れ味鋭い内股。
瞬間的に相手を自分の間合いに呼び込み、はね上げます。
しかし、国際大会では力の強い相手に逆に引き付けられてしまい、得意の内股を出せませんでした。
トレーナーが指摘したのは、相手を自分のほうに引き付けるための「広背筋」の弱さでした。

日本スポーツ振興センター 男子柔道フィットネス担当 守田誠さん
「懸垂が1回もできない状況だった。
外国人の選手に比べると、当初はかなり劣っていた。」

背中を鍛えて、自分の有利な体勢に持ち込む。
この日の練習は、懸垂、綱登りなど、およそ2時間。
背中の筋肉だけを鍛え抜きました。

その成果が、この背中。
臨んだ世界選手権。
相手を引き出し、次々と得意の内股。
低迷が続いたこの階級で、5年ぶりの優勝を果たしたのです。

100キロ級代表 羽賀龍之介選手
「だいぶ力負けをしなくなってきたなと自分の中にあって、もちろん力の差はあったが、徐々に埋まってきている感覚があった。
それは間違いなく『引く力』があったのかなと思う。」

羽賀選手以外の日本代表も全員、筋肉の量が増加。
多い選手では、6キロ近く増えました。
鍛えた筋力と未知の技への対応力、それが日本代表の金メダル奪還への原動力となっています。

柔道男子 井上康生監督
「いま体力の面でも、数字の面でも、非常に上がってきている。
少しずつですが、成果は上がっているのではないか。」

変貌するJUDO どう挑むのか

ゲスト 増田俊也さん(作家)
ゲスト 穴井隆将さん(リオ五輪柔道解説・ロンドン五輪100キロ級代表)

スタジオのゲストは、長年、柔道や格闘技などを取材されている、作家の増田俊也さんです。
世界のJUDO、ここまで様変わりしている?

増田さん:そうですね、今、柔道関係者とか格闘技関係者と話すと必ず出るのが…。

もう五輪の柔道の舞台が、世界の着衣・服を着た、組み技格闘技の「異種格闘技」、「天下一武道会」のようになってしまっている。
非常に見ていても、今までのトラディショナルな柔道の技術だけじゃなくて、各国の民族格闘技であるとか、そういう、あらゆる技が試される場になっています。

それだけ、それぞれの個性がぶつかり合ってる場ということ?

増田さん:そうですね。
もともと柔道っていうのはルールが非常に幅広くて、空手やボクシングのようなパンチとか蹴りをやってはいけないけれども、ほかは何をやってもいいっていうぐらい、柔道っていうのはルールの自由度が高い格闘技でして、だからこそ着衣で組み技をやる柔道の場所に、例えばタイのムエタイ、キックボクシングの選手が、いろんな、その国だけのヒエラルキーじゃなくて、外に出るためにボクシングの世界戦などに出てきて、強豪選手が非常に多いですけど…。
(いろんな選手がオリンピックという舞台を目指してやって来る?)
「組み技」で「着衣」という格闘技は柔道だけなので、歴史的に、非常に世界的に広まってるので、自分の格闘技の強さを証明するためにやっぱり出て、そこで金メダルを取りたいっていうことですね。

それに対して井上監督の改革が通用するのか、心強いおことばも頂きました。
これは簡単に言うとどういうこと?

増田さん:今回こういうふうに、日本のテレビ局が、海外の柔道=JUDOを怖いっていう特集番組を作ってますけども、きっと今ごろ、フランスやブラジルでは、日本の柔道に対する、「日本の柔道は怖いぞ」っていう特集番組を流してるんじゃないかなと思います。
それぐらいやっぱり、日本の柔道って恐れられてるんですね。
(もう恐れずに、これを貫いてもいいのではないかと?)
向こうの選手はやっぱり、日本の柔道の間合いであるとか、スピード、切れ味というものを非常に怖がってますので、その部分を、自信を持ってやっていけばいいんじゃないかと思います。

ここで、リオのスタジオの穴井さんにも聞いてみたいと思います。
穴井さんご自身も、ロンドンオリンピックで非常に悔しい思いをしたが、今回の日本柔道男子、世界に飛び込んでいける?

穴井さん:本当に、選手権とオリンピック、この違いっていうのはあるんですよね。
出てる選手もあまり変わりませんし、対戦したことのある選手が多い中でも、やはり選手の緊張感であったり、独特の会場の雰囲気、こういったことに飲まれて、私も4年前、非常に悔しい思いをしました。
ぜひとも選手には、そういった意味でも自分自身の力をすべて出してほしいなと、出し切ってほしいなと、そういう思いがあるんですけれども、今回の代表選手は、個性豊かな選手がそろいました。
ですので、自分の「ストロングポイント」というものを非常に理解してるかなと。
そのストロングポイントを出し切れば、全選手に金メダルの可能性があるんじゃないかなというふうに、私は期待してますね。

ストロングポイントを出そうというアドバイスもありましたが、その日本柔道に、まさに立ちはだかる最大の壁が、柔道で最強の階級といわれる、100キロを超えるクラスの王者、フランスのテディ・リネール選手。
身長がなんと2メートル4センチ、体重が135キロ、しかも6年間負けがないということです。
この最強の王者に、果たして死角はあるのでしょうか。

“世界最強王者” 打倒への秘策は

世界最強の男、テディ・リネール。
全階級を通じて、一番金メダルに近いといわれています。
鍛え抜かれたこの体。
圧倒的な肉体に加え、パワーとスピードも兼ね備えます。

テディ・リネール選手
「常に今の自分を超える。
狙った目標は必ず達成する。
それが私の哲学だ。」

リネール選手の柔道の最大の特徴は、相手に組ませない技術です。
相手につかまれてもすぐにパワーで切り離し、攻撃の芽を摘みます。
自分が袖を取ると、すかさず長身を生かして相手の後ろ襟を深くつかみ、腕力で頭を下げさせます。
長身とパワーを最大限生かし、相手に反撃を許さないのが、リネール選手の攻め方です。

柔道男子 井上康生監督
「彼ほど冒険せずに、確実に相手をしとめていく、勝っていく柔道に徹する選手はいないと思います。」

今回、井上監督から打倒リネールを託されたのが、原沢久喜選手です。
1メートル91センチ、125キロの均整の取れた体から、切れ味鋭い内股で大きな相手を宙に浮かせます。
国際大会で7連勝。
リネール選手に次ぐ世界ランキング2位で、海外でも注目を集めています。

100キロ超級代表 原沢久喜選手
「(リネールと)一緒に戦えるところまではいけている。
土俵に上がれたというか。」

去年6月、リネール選手が練習相手を求めて来日。
受けて立ったのが原沢選手でした。

しかし、リネール選手の得意な形に組まれ、強引に頭を下げさせられます。
この日、原沢選手は15分の間に4回投げられてしまいました。

テディ・リネール選手
「原沢は、技はきれいだが経験が足りない。
国際大会で戦い始めてやっと1年、もっと勝ち続けないと。」

世界最強のリネール選手に死角はないのか。
原沢選手はコーチとリネール選手と練習した映像を繰り返し見直しました。
すると…。

「こんな状態、こういう間合いの。」

「これいいよね。」

「こういう戦いぶり。」

「前に出てくれば。
今のは絶対、嫌がる。」

映像からは、リネール選手の僅かな隙が見えてきました。

原沢選手が左手で腕の長いリネール選手のわきの下を握ります。

懐に入られたくないリネール選手は、切ろうとして下がります。
そこに乗じて前に出る原沢選手。
技を仕掛ける絶好のチャンスが生まれていたのです。

「勝負する技は?」

100キロ超級代表 原沢久喜選手
「大内(刈り)とか。
後ろについて、ひっくり返すとか、そういう技になってくると思う。」

原沢選手が考える攻略法です。

左手で、わきの下を持ちます。

嫌がったリネール選手が下がるところに大内刈りで飛び込みます。

原沢選手は長身の相手をリネール選手に見立て、練習を繰り返しています。
左わきを持つ組み手から先に攻めてプレッシャーをかける。
リネール選手の焦りを誘う戦略です。

柔道男子 井上康生監督
「リネール選手が全く予期していない動きだとか、そういうものが一つ二つあるだけで変わってくると思う。
普通のことでは絶対に勝てないと思っているので、そこを越えた『異常な世界』に足を踏み入れてやらなければいけない。」

柔道男子 金メダル奪還へ!

井上監督の言う「異常な世界」、増田さんはなんだと思う?

増田さん:恐らく、ペースを乱す「奇襲技」。
具体的に言うと、リネールに奥襟を取られたときに、わき固めという奇襲技で切るとか、そういうがむしゃらな、死に物狂いの攻撃のパターンを期待しているんじゃないかなと。
(仕掛けていくということですね。)
力技を。

視聴者の方からも「絶対諦めない」という声なども届いていますが、再びリオのお2人を呼んでみましょう。

杉浦キャスター
「同じ重量級だった穴井さんから見て、このリネール選手に対しての原沢選手、どんなところに期待しますか?」

穴井さん:今映像にあったように、2人は稽古はしたことはあると思うんですね。
ただ、もしこのオリンピックで戦うことになるとすれば、これは初対戦ということになるんですね。
ですからリネール選手、最強といえども、やはり人間ですので、もう初めて対戦する相手が何を仕掛けてくるか分からないと、そういった不安というのは必ずあると思いますので、そこにワンチャンス、勝機があるんじゃないかなと見ていますね。
(その隙をついて?)
そうですね。

杉浦キャスター
「井上監督の下で7人の選手が金メダル奪還に挑むわけですが、特に注目しているところはどこでしょうか?」

穴井さん:60キロ級の高藤選手、66キロ級の海老沼選手、それから73キロ級の大野選手、この軽量級3人ですね。
特に大野選手ですね。
私も常日頃、稽古を見ていますので、世界でいちばん美しい柔道をするというふうにいわれていますけれども、今回は彼自身のことばの中にも、なんとしても金メダルがほしいと、そういった執念のある戦いをしたいというふうに言ってますので、その美しい柔道と、執念のある戦い。
この2つを皆さんにもぜひ見ていただいて、応援していただきたいと。
この前半の軽量級の流れが、後半の重量級のいい流れにつながってくるんじゃないかなと期待しています。

杉浦キャスター
「楽しみにしましょう、皆さんで応援しましょう。」

東京のスタジオの増田さんは、何を期待しますか?」

増田さん:もう今、VTRを見て十分、日本の選手がもう対応してますので、そのまま日本の柔道を貫けば、全員、金メダルを狙えると思います。

力強いおことばです。
この柔道ですが、日本時間の6日の夜から始まります。

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今回のグラレコ

番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。

質問
コーナー

Q1

井上監督が世界で勝つために選手たちに意識させたこと、意識した育成のポイントとはなんでしょうか。

世界各国の民族格闘技を取り入れた新しい柔道に対応するため、井上監督は沖縄角力やブラジリアン柔術との合宿を行うなど多様な格闘技への対応力を培う練習を取り入れていました。また、スポーツ医学を専門にするスタッフを招き、パワーで勝る外国人選手に負けない体作りに取り組むことで日本の伝統的な「一本を取る柔道」に磨きをかけていました。新たな柔道に対応しつつ、自分達の柔道を信じて戦うことが勝利につながるという井上監督の哲学が取材を通して感じられました。

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