クローズアップ現代

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No.38452016年7月27日(水)放送
360兆円!企業のカネは誰のものか~“内部留保”をめぐる攻防~

360兆円!企業のカネは誰のものか~“内部留保”をめぐる攻防~

360兆円! “内部留保”めぐる攻防

ゲスト 加戸正和デスク(社会部)

日本の国家予算96兆円。
その4倍近くに当たる、360兆円という巨額のお金が、全国の企業に蓄えられた内部留保です。
では、模型を使って、社会部の加戸デスクに説明してもらいます。
そもそも、この内部留保とは?

加戸デスク:企業は、このように積み上げた利益を現金ですとか、株などの金融商品、それに不動産などとして、蓄えています。
(すべてが現金というわけではない?)
これが、内部留保と呼ばれるものなんです。
今、起きている議論は、この内部留保をため込まずに、ほかに使うことなんです。
(ほかに使う?)

設備投資に振り向けたり、消費拡大のために働く人の賃金に振り向けたり、あるいは株主に配当として還元したりということで、経済全体を活性化させようということなんです。
政府の成長戦略の柱の1つとしても期待されているんです。

麻生副総理・財務相
「内部留保して何するんです。
企業は金ためるのが目的ですか。
違うでしょ。」

政府としても、企業のお金を使って、日本経済全体を成長させようという狙いがあるんですね。
この内部留保に特に注目して、配当を増やせと主張しているのが、“モノ言う株主”?

加戸デスク:ただ、企業にとってみれば、内部留保がなくなると、業績が悪化した時ですとか、リーマンショックの時のような金融危機の際に、とたんに経営が立ち行かなくなる可能性があるため、はき出すことに慎重なんです。

まずは、モノ言う株主と企業の攻防をご覧いただきます。

存在感増す “モノ言う株主”

今、内部留保を配当に回せという、モノ言う株主からの提案が相次いでいます。
ある上場企業に出された提案です。

“これ以上、会社内に資金を留保する必要はなく、剰余金の配当を大幅に増額すべき。”

別の会社では…。

“株主還元策の実施状況が非常に低位。
株主総会の決議によって、剰余金の配分を定めることを可能とすべきである。”

株主総会の決議によって、モノ言う株主とどう向き合うのか。

今月(7月)開かれた企業経営の在り方を学ぶセミナーでも、テーマの1つとなりました。
上場企業の役員など、およそ100人が参加しました。

牛島信弁護士
「アクティビストファンド(モノ言う株主)の方は、無視できない。
株主というものが経営者を選ぶ。」

高まるモノ言う株主の存在感。
経営者にとって、重要な課題になると指摘しました。

牛島信弁護士
「株主というものが経営の中で大きな役割を果たすということが、改めてみなさんに鮮明になった。
これまで以上に真剣に考えなければいけない。」

去年(2015年)、ある上場企業を揺るがす出来事がありました。
自動車の電子部品などを扱う商社で、ほぼ無借金経営の黒田電気。
余った利益は、すべて株主に渡すべきという厳しい要求を突きつけられたのです。

“当期利益の100%の株主還元は可能である。
株主目線のガバナンスが行われておらず、利益還元を軽視している。”

企業VS株主 “内部留保”めぐる攻防

リポート:中村幹城(社会部)

この提案を実質的に行ったのが、あの村上世彰氏です。
今、シンガポールで暮らしています。
村上氏は、日本には過剰な内部留保を持つ会社が多くあると見ています。

村上世彰氏
「チャンスですよ、一番のチャンスです。
株主というものをリスペクトしながら、きちんと経営をしていくことがすごく大事。」

かつて村上ファンドを率いて、有名企業の株を買い進め、厳しい要求を突きつけた村上氏。

村上世彰氏
「もうけることが第一番だと思っています。」

挑発的な発言から、企業や世間の反感を買い、金の亡者とまで批判されました。

株のインサイダー取引の容疑で逮捕。
ファンドを解散し、表舞台から姿を消しました。

その後、シンガポールに拠点を置き、アジアの不動産開発などに投資をしてきました。
今、数人のメンバーと共に、日本企業への投資を進めています。
チェックしているのは、内部留保。
投資した企業の財務情報から、株主に還元できる元手がないか分析を続けています。

村上世彰氏
「売掛金の方が買掛金より、50億減っているんだよね。
キャッシュ(現金)が増えてる。
変だよね、ここまで持つ必要ないよ。」

村上世彰氏
「企業の中にためるんじゃなくて、新しい投資をするか株主に返す。
もし株主に返したら、株主が別のところに投資する。
そしてどんどん変わっていく。
変化がこの国に起きてほしいと思っている。」

内部留保を還元するよう要求を突きつけられた黒田電気。
真っ向から反論しました。

“一定の手元資金を持つことは、財務上不可欠であり、仮に村上氏の主張する株主還元を行うと、手元資金が枯渇し、取引関係に大きな悪影響を及ぼす。
短期的な株主価値の追求は、企業価値を損ねる。”

黒田電気の内部留保を狙う、村上氏。
そこに援軍が現れました。
世界中の投資家にアドバイスする、アメリカの助言会社が発表した文書です。

村上氏の提案に賛成すると表明。
ほかの株主にも支持するよう勧めたのです。
株主総会に諮られた村上氏の提案。
最終的に否決されましたが、4割まで支持が拡大しました。

存在感増す “モノ言う株主”

内部留保を巡る対立を企業経営に詳しい専門家はどう見ているのか。

数々の企業再生を手がけてきたコンサルタントの冨山和彦さんです。
一定の内部留保は必要だと考えています。

経営コンサルタント 冨山和彦さん
「企業経営はいろんなリスクを伴います。
リーマンショックみたいな金融危機が起きるかもしれない。
そういった危機が起きたときに、十分耐えられるだけの手元の現金。
それを蓄えていくということは経営にとって最も大事。」

一方、経営者側も内部留保をどう生かすのか、明確に示すべきだと指摘します。

経営コンサルタント 冨山和彦さん
「背骨を持って真剣勝負で、有権者である株主と対じすることが大事。
経営者なり企業なりがどういう長期的な哲学を持って信念を持って、企業価値を高めようとしているのか、その信念に基づいて、戦略が組み立てられる。
ちゃんと背骨を持っておくことです。」

株主総会で提案が否決された3か月後。
村上氏のもとに、証券取引等監視委員会の強制調査が入りました。
別の会社の株価を意図的に下げた相場操縦の疑いで、東京の事務所などが捜索されました。
村上氏は、不正を否定しています。

「相場操縦の意図はあった?」

村上世彰氏
「大量の株を持っていて、なるべく高く多く売りたかった。
他の人を巻き込んで安くする意図も、理由もあるはずがない。」

なぜ活発化? “モノ言う株主”

内部留保を巡って、元祖モノ言う株主の村上氏まで参入して、企業との激しい攻防が行われているが、なぜ今、にわかに、モノ言う株主の行動が活発化している?

加戸デスク:その背景にあるのがこちら、国と証券取引所が去年、策定した上場企業のための指針「コーポレートガバナンス・コード」といわれるものなんです。
この目的なんですが、中長期的に会社の価値を向上させて、経済全体の発展に寄与することなんです。

そのために、国内外から投資をしやすい環境を作りなさいということで、いくつかの原則を掲げています。
株主の権利の確保ですとか、情報開示、それから株主との対話などです。
これによって、モノ言う株主たちが自分の意見を反映しやすくなったとして、投資を活発化させているんです。
(こうした流れの中で、村上氏も投資を再開した?)
村上氏は、企業は株主の意見を尊重すべきだという、かねてからの自分の考えにお墨付きを得たとしています。
ただ、村上氏の投資スタイルを巡っては、否定的な見方も多くあります。

そうした村上氏の活動に注目している、作家の真山仁氏。
経済小説「ハゲタカ」の作者ですが、今回、村上氏と論戦し、その真意を探りました。

激論! 真山仁VS村上世彰

コーポレートガバナンス・コードの目的は、株主が短期的利益を得ることではなく、企業の中長期的な成長を促すことではないか。
真山氏がまず問いかけました。

作家 真山仁氏
「コーポレートガバナンス・コードを読んでみて、中長期的な投資家と経営者とが仲よく手をとりながら、日本を成長させましょうと理解をしているが?」

村上世彰氏
「中長期的と短期を分ける必要ない。
“株主平等の原則”に明確にある。
とにかく日本に投資してよと、経済を活発にするのが、一番の重要な目的。」

さらに村上氏は、今後は積極的に経営者を代えることもやりやすくなると主張します。

村上世彰氏
「日本で一番よくないのは、従業員がそのまま経営者になって、株主を見ない経営者がいる。
これは変えられないといけないのかな。
従業員を変えることはできないが、経営者は株主によって変えられる。
そういう世の中がきっと来る。」

作家 真山仁氏
「経営者が変われば変わるという単純なものではない。
誰かを排除したりとか、誰かを上から落下傘で落としてくるのではなく、じっくり腰を据えて、もう1回、日本の経営を見直して、従業員も株主もお客様も含めて、ひとつの集団として考えようと思う。
これは多分時間がいる。」

村上世彰氏
「僕はやっぱり、日本の経営者のレベルは高くない。
そこを変えれば難しくない。
劇的に変わるという期待感。」

作家 真山仁氏
「(コーポレートガバナンス)コードは、コミュニケーションが一番大事。
敵とか味方という問題ではなく、コミュニケーションしましょう。
価値観、目的も違います。
違うもの同士だけれども、1つの企業をよりよくしようというゴールは同じ。
どうやって折り合うか、必要なのは、根気よくコミュニケーションをして、相手の立場、自分たちの要望を伝えていく。」

コーポレートガバナンス・コードによって、株主が経営者を代えていくなど、積極的に関与できるようになったと主張する村上氏。
コードは、企業や株主などが一体となって、よりよい経営を行っていくためのものだと主張する真山氏。
議論は、企業の内部留保の在り方にも及びました。

村上世彰氏
「日本の内部留保は、上場企業でものすごく大きい。
投資をして利益を出す自信がないならば、思い切って株主に返す。
株主はもらったお金を次の成長企業に投資する。
そこのお金がまた使われるという、お金の流れができた方がいい。」

作家 真山仁氏
「内部留保が多いというのは正しい指摘だと思う。
何かあったときにどうするという不安。
未来は不安じゃない、企業にも社会にも言わないといけない。
不安解消。
そこをどうやって埋めていくか、日本の投資家や経営者や関係者との中で一番欠けている。」

村上世彰氏
「僕の意見と経営者の意見、どっちが正しいか対話して、(株主)総会で議論をしよう、そういう大きな方針が示された。
言い過ぎもあるかもしれない。
でも反省しても、正しいかどうかをみんなで考えるべき。」

作家 真山仁氏
「いきなり(株主)総会ではなく、対話の時間を長くやりとりする、お互いがもっと相手の意見を聞いて、自分たちも理解して、さらに返す時間がもっと長く必要なんじゃないか。」

株主の優位性を主張する村上氏と、株主と経営者の協調を重視する真山氏。
2人の議論は平行線をたどりました。

村上世彰氏
「僕が真山さんと考え方が違うのは、日本経済は徐々に変わってきている。
株主と経営者の関係が、劇的に変わり始めていると感じている。」

作家 真山仁氏
「村上さんの頭の中にあるのは、友好や敵対的はどうでもいいと、ようやく経営者が投資家の言うことを聞く土壌を国が整備したんだと。
それ以外全く考える必要はないというところが、(コーポレートガバナンス)コードに対しての非常に偏った理解なのかなと。」

村上氏の投資手法 どう見る?

ゲスト 神田秀樹さん(学習院大学教授)

真山氏と村上氏の議論は、結論を出すのが、なかなか難しいように感じたが?

加戸デスク:村上氏がコーポレートガバナンス・コードを追い風に、株主としての主張を強めるのは、分からなくはありません。
ただ、真山氏も言われていましたように、村上氏のやり方で、企業の長期的な価値の向上が図れるのか、疑問を持ちました。

神田さんは、コーポレートガバナンス・コードの策定に関わったということだが、これにはどういう理念が込められている?

神田さん:コーポレートガバナンス・コードというのは、政府に成長戦略というものがありまして、その中で作られたものです。
なぜ作られたかといいますと、日本の企業が成長しないからなんですね。
(成長していない?)
日本の企業に成長してほしいという、そういう思いから、このコードが作られました。
具体的には、経営者と株主が対話を通じて、中長期的な視点を持って、それぞれの企業が成長する具体的な道を探して、それを実施してほしい、それによって、日本の企業が成長してほしいというのが、コードが作られた目的といっていいと思います。

議論になっている内部留保を巡っても、コーポレートガバナンス・コードというのは影響してくる?

神田さん:内部留保を巡っては、例えばアメリカでは、株主の間でも大きな意見の対立があります。
それはどういうことかと言いますと、基本の考え方は、内部留保というものが成長という観点から見た場合は、企業が成長する、つまり利益を上げるために具体的な使い道があるなら、その使い道に充てられるべきですし、もしそういう使い道がないのであれば、株主に返すというのが基本的な考え方なんですね。
しかし問題は、その企業が利益を上げ、成長するために使う方法があるという場合に、中長期的に考えるのか、短期的に考えるのかで、株主の間でも意見が対立しています。
(二分している?)
つまり、短期で企業の利益に貢献するような使い道がないならば、株主に返すべきであるという意見が一方にあり、他方、同じ企業の利益成長という観点なんですけれども、中長期的に研究開発ですとか、設備投資ですとか、そういうものに充てれば、それで企業が利益を上げ、成長する場合であれば、そういう使い方をすべきであって、短期的に考えて、株主に返還するのではなくて、そういう中長期的な使い道が望ましいという意見が、他方にあるという状況なんです。

視聴者の方より:「サラリーマンの視点で、内部留保分をもっと給与に回してほしい。」
アメリカでも意見が分かれているということだが、日本では今、どうなのか

神田さん:結局、企業の目的を成長という観点から見ますと、企業の目的というのは、利益を上げること、それによって成長すること、それによって国の経済も成長するし、また、私どもの生活も良くなっていくであろうということなんですけれども、企業の目的は、成長と並んで、別の目的もあるという考え方も日本ではよく言われてきましたし、十分、有り得る考え方だと思うんですね。
(別の考え方とは?)
それは、結局のところ、例えば働く人を大事にする、つまり雇用の安定、あるいは企業の存続ということを第一に考え、そうしますと、例えば内部留保でも、何かあった時にとっておくということも十分理由があるわけでして、単に成長に充てるための使い方ではなくて、企業の存続ですとか、雇用の安定という観点から持っておくという使い方も十分に正当化されることになる。
その辺りが意見が分かれるところだと思います。

企業の価値観はさまざまあるが、どうやって、誰が決めていくもの?

神田さん:それは株式会社という仕組みの謎を解かないと答えは出ません。
この株式会社という仕組みからすると、それはひと言で言いますと、経営者と株主が対話をする中で決めていくという仕組みになっていると言っていいと思います。

今回のグラレコ

番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。

質問
コーナー

Q1

内部留保を、従業員の賃金上昇のために使うことは出来ないのでしょうか?

内部留保の使い道を巡っては、麻生副総理兼財務大臣も「企業は内部留保をため込むのではなく、株主に返すか、賃金を払うか上げるか、設備投資をするか」と、賃上げも選択肢の一つと話しています。一方、企業側は、中国経済の減速など世界経済の先行きが不透明になる中、大きな賃上げには慎重な姿勢です。株主に対しては、還元が進んでおり、今年度は17.1兆円(16年度予想・野村證券調べ)と過去最高を記録すると見られています。これは、番組でご紹介したコーポレートガバナンス・コードの影響もあるとみている専門家もいます。企業のお金を、誰に、どのくらい配分するか、それが、社会全体の利益につながっていくのかどうか。企業経営者、政治家、株主の考えを注視しながら、社会全体で議論を深めていく必要があります。

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