クローズアップ現代

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No.38422016年7月21日(木)放送
“消費される”若者たち ~格差社会の新たな現実~

“消費される”若者たち ~格差社会の新たな現実~

広がる“個人請負” 格差社会の新たな現実

非正規雇用で働く人は増え続け、今や、すべての労働者の37.5%を占めるまでになっています。
そうした中で、若い世代を中心に「個人請負」という働き方が広がり、波紋を呼んでいます。

この個人請負とは、自ら会社などと契約を結んでできた仕事の分だけ、歩合制で報酬をもらう働き方のことで、もともとは商店の店主やプロスポーツ選手などもそうなんです。
自分の裁量で、高い専門性を生かせると、フリーのIT技術者や経営コンサルタントにも広がっています。
ただ、近年問題になっているのが、サービス業にも広がっていることです。

格安リラクゼーション店やホストなど、専門家の調査では、個人請負は161万人に上ると見られています。
この個人請負の担い手の多くは若者です。
取材を進めますと、その若者の多くが低収入で、不安定な暮らしを余儀なくされていることが分かってきました。

ホスト・風俗… 若者に広がる“個人請負”

今、なぜ若者たちの間に、個人請負が広がっているのか。

個人請負で人材を募集している全国各地のサービス業に取材を申し込んだところ、東京・歌舞伎町にあるホストクラブが応じてくれました。

Aoi サブマネージャー
「こちらが履歴書。
日本大学、早稲田大学、慶応大学。」


この店では、ここ数年、学費を稼ぐために働く大学生が増えています。
うまくいけば、高収入も見込める歩合制に引かれているといいます。

Aoi サブマネージャー
「夜(の世界)とは無縁な子たちが集まってきている。」

「一流ホストとしての商品価値の向上に努めます。」

都内の有名私立大学に通う、高崎仁史さんもその1人です。
高崎さんは週に2日、夕方6時から夜12時まで歩合制で働いています。
指名の量が収入に直結します。

高崎仁史さん(仮名・18)
「名前覚えていますか、僕の?」

大学で生命科学を学ぶ高崎さん。
3人兄弟の長男で、家計も苦しいため、学費をすべて自分で賄わなければなりません。

高崎さんは入学の際、480万円の奨学金を借りました。
しかし、卒業までの学費を払うには、まだ170万円足りません。
その上、生活費も自分で確保しなければなりません。
大学での研究と両立させるために選んだのが、短時間で高収入が見込める個人請負の仕事でした。

高崎仁史さん(仮名・18)
「(最初)抵抗はすごくあった。
水商売をやって、短時間、歩合制でサクッと稼げて、勉強に時間を費やせるほうが、僕にとって好都合だった。」

高収入を見込んでいた高崎さんですが、現在の月収は6万円程度。
研究のため、働く時間を増やすこともできません。
歩合も思い通りには増えません。
この日も指名を受ける予定だった客からキャンセルの連絡が入りました。

高崎仁史さん(仮名・18)
「きょうも盛り上がっていきましょう。」

高崎仁史さん(仮名・18)
「稼げなかったら、大学の学費も払っていけなくなるので、大学もやめなければいけない。
どんどん努力して、どんどん指名されるように自分も磨いて。」

161万人に及ぶという調査もある、個人請負。
さらに踏み込んだサービス業に従事する、若い男性も増えています。

都内にある、女性向けの風俗サービスの会社です。
5,000人あまりの男性が登録しています。

プレシャス 代表
「バーチャルな恋人になるイメージ。
本当に恋人同士。」

不安定な非正規の仕事と兼務する若い男性がほとんどだといいます。

プレシャス 代表
「お金のためにやる、生活のために働くと言っているので、本業だけでは食べていけないから、こういった業界に足を踏み入れる。」

個人請負で、この店で2年前から働くようになった竹岡洋さん、30歳です。
サービスを利用するのは、20代から60代。

月に20万円程度を得ています。
竹岡さんは、大学卒業時に正社員の仕事に就けませんでした。
その半年後に起きたリーマンショックで、さらに就職難になったため、非正規の仕事を転々とせざるを得ませんでした。

今、竹岡さんは、IT企業でパートの仕事もしています。
しかし、生活が苦しいため、インターネットで偶然見つけたこの仕事を始めました。
年齢を考えると、今後も正社員になることは難しいと考えている竹岡さん。
今のうちに貯蓄を作っておきたいと考えています。

「この仕事あとどれくらい続ける?」

竹岡洋さん(仮名・30)
「2年以内。」

格差社会の新たな現実 広がる“個人請負”

個人請負の広がりはさまざまなトラブルも生んでいます。

年間8,000件近くの労働に関する相談が寄せられるNPOです。

NPO スタッフ
「むちゃな業務っていうのは、具体的にはどういう?」

近年、個人請負で働く人からの相談が増加。
去年(2015年)は135件に上りました。

運送業の個人請負
“1日13時間働いて3,212円しかもらえなかった。”

個人請負の仕事で、死に至るケースまで出ています。

4年前、学費を稼ぐためにホストクラブで働いていた21歳の男性が、急性アルコール中毒で亡くなったのです。

男性がつづっていたノートです。
少しでも歩合を増やすために、周囲を盛り上げようと、苦手なアルコールを無理して飲んでいたといいます。

NPO労働相談センター 副理事長 須田光照さん
「『腕一つで能力があれば稼げますよ』という、うたい文句に誘われてしまって、実際に仕事に就いたけれど、なかなか思っていた収入が得られない。
非常に使い勝手のいい労働力として扱われているのが実態。」

個人請負は、派遣社員などの非正規雇用と比べても、労働法による保護が限られています。

格安のリラクゼーション店を掛け持ちして働く、村中文也さん、26歳です。

村中文也さん(仮名・26)
「今から行く(リラクゼーション)店は夜がメインなので、今日は11時から入って。」

個人請負は、いわば自営業者と同じなので、労働時間の制約がありません。
独立を夢みる村中さんは、3つの店を掛け持ちしています。

この日、村中さんが1件目の勤務を終えたのは、午前5時。
そのまま次の勤務先に向かいました。

村中文也さん(仮名・26)
「疲れました、眠たいですね。」

一日中、仕事に時間を費やしても、村中さんの月収は15万円程度。
それでも、自分の技術を磨き、歩合を増やしていきたいと考えています。

村中文也さん(仮名・26)
「(お客さんから)『楽になったわ、ありがとう』っていう。
それを聞くだけで、体も心も楽になりますし、今はとにかく早く自分の店を出したいので、体力がある限りは勉強したり、働く時間が長くても、とにかく働いて、知識と経験を得ていきたい。」

“消費される”若者たち 個人請負 なぜ拡大

ゲスト 鈴木晶子さん(臨床心理士)
ゲスト 阿部真大さん(甲南大学准教授)

なぜ、ここまで個人請負の若者が増えている?

鈴木さん:1つには、やはり非正規雇用の広がりというのがあると思います。
そうした中で、若者や若者の親世代に貧困が広がっている。
あるいは、先ほど大学生がホストクラブで働くというのが出ていましたけれども、支える親がいなければ、自分で奨学金を借り、さらに学業と両立するための短時間高収入の仕事を選ばざるを得ない。
それでも、高卒と大卒の就職や賃金の格差を考えると、リスクを取ってもいかなくてはいけないという現状があると思います。
さらに、先ほどのホストクラブのことで言えば、そうした夜の商売には、よく住まいが付いてくるんですね。
1人で暮らしていくのが大変という若者、住まいにも問題を抱えている若者が、そうした住まい付きの仕事を選ばざるを得ないという現実もあると思います。

阿部さんも個人請負の経験があるということだが、そもそも個人請負とは、自分の専門性を生かして、自分の裁量で、能力をスキルアップできる働く場だった なぜ、こうした実態になっている?

阿部さん:おっしゃる通り、もともとは専門性の高いスキルを持った人が、いろんな会社を渡り歩いて、高収入を得るという新しい働き方とされていたんです。
ただ、特にサービス業に顕著なんですけれども、デフレが続いて、規制がどんどん緩和される中で競争が激化すると、どうしても人件費を抑えていかなくてはならなくなると。
その1つの方法として、専門性の低い仕事での個人請負っていうのが広まっていったんだと思います。

VTRに出てきた、3つの店を掛け持ちして、独立したいという思いがある男性 そうした向上心や前向きな気持ちが、いつの間にか自分を苦しめている実態が起きている?

阿部さん:それが社会学では、いわゆる「やりがいの搾取」と言われている問題なんです。
個人請負の方の場合、特に雇われずに、自分の腕一本で稼いでいくという起業家精神「アントレプレナーシップ」と言うんですが、それに当たると思うんですけれども、それが彼らの仕事に対するプライドにもなってしまっているんです。
ただ、それは結局、かなうことの少ない夢で「ベイト・アンド・スイッチ」というんですが、餌は与えられるけども、最終的にはしごを外されるということになってしまうんですね。
だから、特に若い人が引っ掛かりやすい、仕事をしていく中でのわななのではないかなと僕は考えています。
(「ベイト・アンド・スイッチ」という言葉があるということは、海外でもこうした問題は広がりつつある?)
もともとは、アメリカのバーバラ・エーレンライクという人の言葉なんですけれども、ほかの国でも問題になっています。

実際に増えている個人請負なんですけれども、では、どういうサポートがあるのか見てみますと、本当に一目見て顕著に分かるんですが、実は正社員はもちろん、非正規労働者と比べても、最低賃金や労働時間の決まり、そして各種保険を見ても、すべて守られていないという現状が見えてきます。
これがまさに、個人請負の実態であるということ?

阿部さん:同じ不安定な働き方でも、派遣や契約社員、パートタイムなどの非正規の場合は、企業に雇用された労働者としての保護を受けることができるんですが、個人請負の場合、請負契約を結んだだけで雇用されているわけではないんです。
だから、相手の指揮命令を受けない個人事業主として扱われて、基本的には、労働者としての保護を受けることはできないということになっているわけです。
トラブルから裁判になったケースで、労働者としての地位を認められることもあるんですが、判例がまちまちで、泣き寝入りのケースも多いと言われているわけです。

若い人がこの働き方を選ばざるを得ないというのは、いろんな相談を受けてきた中で、何か特性は見えてくるものはある?

鈴木さん:大きくいうと2つ。
若い方が、こうした状況に陥りやすいというのは、十分こうした労働関係法令に関して学ぶ機会が少なかったので、リスクが分かっていないということ。
もう1つは、個人請負の職業というのが日銭、日払いでもらえるというのもあって、例えば今、お金がないという方にとっては、日銭として入ってくるという働き方でなければ、生活が成り立たないというところもあって、こうした働き方でも働かざるを得ないという、そういう現状もあると思います。

もちろん個人請負で夢をかなえた方もいらっしゃいます。
ただ、そうした方というのは、いわば一握りです。
実際は多くの若者の方が、なかなか自分の夢をかなえきれない。
さらに、厳しい現実が待っているという状態にあります。

若者が使い捨てに!? “個人請負”の実態

5年前まで、格安リラクゼーション店の全国チェーンで働いていた、夏原勇介さん、39歳です。
夏原さんは当時、朝9時から夜2時まで、時には泊り込みで働いていました。

親指が重度のけんしょう炎になり、店員の労働環境の改善を会社に訴えた夏原さん。
しかし、会社側の回答は契約の解除でした。

元大手チェーン勤務 夏原勇介さん(仮名・39)
「不安とショックで寝られないときもありました。
『これからどうなるん?』っていう。」

個人請負は、派遣社員などの非正規雇用と違い、失業保険を受けられない場合がほとんどです。
30代半ばで、特別な資格も持たない夏原さんは、別の仕事も見つかりませんでした。
今は、痛む親指をかばいながら、別のリラクゼーション店で個人請負の仕事をしています。

元大手チェーン勤務 夏原勇介さん(仮名・39)
「(友人に)子どもが生まれたとか、小学校あがったとか、ああ…普通の生活してるなって。
それを羨ましいなって思うだけで、しんどくなるので。」

働いている時も、仕事を失った後も、自己責任を求められる個人請負。

ホストクラブがセーフティネット!?

個人請負の店員に対する、将来へのサポートを売りに人材を集めようというホストクラブがあります。

この日は、社会常識を広く身につけてもらうために勉強会が開かれていました。

宝地蔵 経営者 渡邊清隆さん
「最近、大ニュースになってますけども、EUでイギリスの離脱。
このニュース知ってる人、手を挙げてください。」


店が参加費を負担し、外部のビジネス研修や、効果的に貯蓄するための講習会にも参加させています。
さらに、再就職先をあっせんすることもあります。

宝地蔵 経営者 渡邊清隆さん
「ホストを卒業した後、どんな会社に行っても通用するような人材になってほしい。」

元ホスト 渡辺風太さん(26)
「こんにちは。
よろしくお願いします。」

渡辺風太さんです。
この店の支援で、ウェブ制作会社で正社員として働けるようになりました。
生活費を稼ぐためにホストになった渡辺さん。
手に職がないまま、年を重ねることに不安を感じるようになっていったといいます。

元ホスト 渡辺風太さん(26)
「懐かしいですね。
紅葉雪也(クレハ ユキナリ)っていう名前で。
不安でしたし、『辞めてどうしよう』とは、ずっと常に思ってました。」

ホストを辞めた渡辺さんを、店は2年間事務員として雇用し、その間にウェブ制作の技術を身に付けさせました。
個人請負の仕事を辞め、正社員になった渡辺さん。
初めて将来の自分の姿が具体的に思い描けるようになったといいます。

元ホスト 渡辺風太さん(26)
「30歳40歳になったらこうなりたいっていうのが、はっきりしてるから、今は不安なく、やりがいを感じてできている。
今の自分があるのは、バックアップがあったから。」

広がる“個人請負” 若者をどう守るか

雇用のセーフティーネットには、3段階ある ただ、こうした現状があるということは、個人請負の人たちを守りきれてはないということ?

鈴木さん:第2のネットも、もちろん個人請負だった方も使えますし、第3のネットも、働いていても生活保護が、悪い収入しかなければ、活用することができます。
ただ今回、個人請負という働き方でいうと、第1のネットの在り方が結局、雇われて働くという働き方しか想定されない、カバーされないので、第1のネットを、現状の働き方の多様化に合わせて考え直していくということが必要だと思います。

視聴者の方より:「行政や制度はどうなっているの?」
今後、どうしていけばいいと思う?

阿部さん:行政がしっかりしなくてはならないというのは当然のこととして、どうしてもばらばらになりがちな彼らが、組合を作るなりして連帯していくことが必要だと思います。
今の時代、中間層が薄くなる中で、生活者と労働者の権利が、利害にぶつかるようになってきていると思うんです。
彼らは見方によっては、すごく都合のいい労働者なんです。
だから、彼らの待遇を良くするために、われわれが少しは我慢するというか、生活者主義を見直していく必要があるかなと思います。

鈴木さんは、どのようにすればいいと考える?

鈴木さん:今、子どもたちや若者の貧困が広がっている中で、チャレンジするために、3つのことが必要だと思います。
この3つぐらいはないと、再チャレンジどころか、チャレンジすらできないと思います。
1つは、住宅の問題ですね。
住まいがなければ、ああした住み込みのところしか選ぶことができません。
また奨学金も、大きな借金になってしまってリスクになりますので、給付型奨学金。
さらに、大学生になる方以外にも、高卒者向けの既存の職業訓練大学校などもございますけれども、そうしたものの拡充やメニューの多様化が必要だと思います。

今回のグラレコ

番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。

質問
コーナー

Q1

個人請負へのサポート態勢はどうなっているのか?

正社員や派遣・契約社員と比べて、最低賃金や労働時間、各種保険など守られていません。個人請負の場合、請負契約を結んだだけで企業に雇用されているわけでなく、労働者としての保護をうけることはできないためです。裁判で労働者としての地位を認められることもありますが、泣き寝入りのケースも多いといわれています。
Q2

多くの若者が個人請負で働くというのは、いつの時代にもあることなのでしょうか?

もともと、個人請負は、専門性の高いスキルを持った人がいろんな会社を渡り歩き、高収入を得られる新しい働き方とされていました。しかし、昨今デフレや規制緩和により、人件費削減の一環として、専門性の低い仕事でも個人請負が広がり始めていると専門家は指摘しています。その数は161万人にのぼるとみられています。

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