クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
No.38222016年6月15日(水)放送
沖縄 埋もれていた被害 ~米軍属女性殺害事件の波紋~

沖縄 埋もれていた被害 ~米軍属女性殺害事件の波紋~

沖縄 埋もれていた被害 米軍属事件の波紋

沖縄県にある、アメリカ軍・嘉手納基地の前です。
すぐ後ろがゲートです。
逮捕された男は、この基地の中で働く軍属でした。
20歳の女性が、ウォーキング中に突然襲われ、命を奪われるという事件。
女性の遺体が発見されてから、まもなく1か月になろうとしています。
私もかつて、ここ沖縄で勤務したことがありますが、沖縄は今、これまでにないほどの深い悲しみと怒りに包まれていると感じます。
重い基地負担を背負ってきた沖縄では、基地があるがゆえの事件が繰り返されてきました。
殺人や強かんなどの凶悪犯罪の発生件数は、本土復帰以降の40年余りで、警察が把握しているだけでも600件近くに上っています。
さらに今回、取材を進めますと、事件を受けて沖縄に広がっている、この悲しみと怒りの背景には、この数字には表れない埋もれた被害があることが分かってきました。

語り始めた女性たち 米軍属事件の波紋

事件発覚後、現場を訪れた亡くなった女性の遺族です。

被害者の父親
「お父さんだよ。
みんなと一緒に帰るよ。
お願いだから、お父さんと一緒に帰るよ。」

女性は、安全なはずの自宅近くをウォーキング中に襲われました。

被害者の父親
「どんな思いで娘が逝ったのか、それを考えると耐えられません。」

逮捕されたのは、アメリカ軍の基地で働く軍属の男でした。

事件が発覚してから、およそ1か月。
今も献花に訪れる人が後を絶ちません。
雨が降りしきる中、犠牲となった女性と同じ世代の人たちが数多く訪れていました。

大学院に通う砂川真紀さんです。
何度も訪れようとしてはためらい、この日ようやく来ることができたといいます。

砂川真紀さん
「怖いです。
こんな山奥に人も通らない所に。
来るのが怖くて逃げてたんですけど。」

砂川さんが、この場所に足を運んだのは、今回の事件が他人事とは思えなかったからでした。
砂川さんは、友人の体験を語り出しました。

砂川真紀さん
「今回の事件の彼女と同じような経験をした友達が身近にいて、その子も警察に言ってなくて。
本当に今でも、警察に言えない。
泣き寝入り。」

友人は、見知らぬアメリカ兵に乱暴され、殺されるのではないかという恐怖を味わったといいます。
友人は、砂川さん以外の誰にも打ち明けられず、今も深い心の傷に苦しめられているといいます。

砂川真紀さん
「命はあっても、心臓は動いていても、いきいきしてない。
生きている心地がしていないって話していて。
(彼女の)一生を奪ったんだなと。
安全を守る、暮らしを守る名目で基地があって、米兵が何万人もいて。
でも、その彼ら自身が脅威なんじゃないか、沖縄の人にとって。」

事件をきっかけに、今まで表面化することのなかった自らの被害について、重い口を開く人も出始めました。

金城葉子さん、61歳です。
17歳の時、アメリカ兵に首を絞められた上、強かんされかけました。

金城葉子さん
「これは精神安定剤。
ドキドキした時に。」

金城さんは今も、つらい記憶のフラッシュバックに苦しめられています。

金城葉子さん
「突然、事件のときに引き戻されるんです。
突然苦しくなって、息もできなくなって、胸たたいて。」

アメリカ兵による被害を訴え出れば、世間から大きく注目されてしまうと、口を閉ざしてきた金城さん。
しかし、そのことで、自分以外にも被害を受ける人が出たのではないか。
今、自責の念にかられています。

金城葉子さん
「私にあんなことをした後に、(その米兵が)誰かにそういうこと、何度も何度もやったんじゃないかな。
基地があって、こういう事件が繰り返されてきたのに、その現状を変えられなかった、大人の責任。
申し訳なかったなって。」

今回の事件をきっかけに明らかになった、埋もれた被害。
基地と共に生きてきた沖縄の現実を突きつけています。

沖縄 埋もれていた被害 米軍属事件の波紋

ゲスト 西牟田慧記者(NHK沖縄放送局)

VTRを見て率直に、若い世代の女性を含め、被害には遭っていたけれども声に出すことができなかった方が、これだけいることに驚いたが?

西牟田記者:表に出ないこうした被害がどれくらいあるのかっていうのは、実際には分からないというのが実態です。
ただ今回、取材を通して、ここ沖縄に暮らす女性たちにとって、こうした被害が決して遠い問題ではないということを改めて痛感させられました。
だからこそ、多くの方が基地と隣り合って暮らす現実に改めて向き合って、我が事として、この事件を悲しんでいるんではないかと感じます。

そんな中、事件の後に、アメリカ兵による飲酒運転の事故が起きたが?

西牟田記者:綱紀粛正が叫ばれる中でも、事件や事故が起きるというのは、沖縄の方、これまでも繰り返し見てきた現実なんです。
こうした事件に対する悲しみや怒りが広がる中であっても、事件や事故が絶えないと、それが怒りに拍車をかけているんではないかというふうに感じます。

VTRでは、水面下に埋もれていた被害の実態を見たわけなんですが、被害者が勇気を振り絞って声を上げたとしても、裁かれないケースというのもあるんです。
法務省の資料をもとに集計したところ、事件や事故を起こしたアメリカ軍関係者の起訴率は、35%。
女性を乱暴した事件に限っていいますと、およそ20%にとどまっているんです。
要因の1つにあるといわれているのが、日本に駐留するアメリカ軍関係者の地位や権利を定めた「日米地位協定」の存在です。

事件はなぜ 繰り返されるのか

沖縄県警の元幹部、島袋善雄さんです。
アメリカ軍関係者による犯罪の捜査に長年当たってきました。
島袋さんは常に地位協定を念頭に置き、捜査に当たってきたといいます。

元沖縄県警 島袋善雄さん
「捜査員の各自もある程度そこで、何か目に見えない壁があるような感じは持っていたのではないですかね。
私も持っていましたし。
この制約がなければ、もっとスムーズに捜査できるんだけどなと。」

地位協定では、容疑者が基地内に入るなど、アメリカ側が先に身柄を抑えた場合、日本側の捜査は大きく制限されます。
起訴するために必要な捜査も、原則任意でしか行えなくなります。
島袋さんは、地位協定が犯罪を犯す側の意識に影響を与えていると感じています。
4年前、アメリカ兵2人が女性を乱暴する事件が起きました。

当時の裁判資料です。
兵士は「強かんをしても警察に捕まることはない」と犯行に至った背景を語っていました。
2人は沖縄の基地からグアムに移動する、およそ5時間前に事件を起こしていました。
基地に入りさえすれば、その後の捜査は及ばないと考えていたのです。

元沖縄県警 島袋善雄さん
「基地の中に行ったら、自分は守られているという(意識)。
だからこそ基地に逃げるんじゃないですか。
いつも悔しさを持ってましたよ。」

日本で犯した罪は、日本で裁かれるべきだ。
沖縄では、県を挙げて、地位協定の抜本的な改定を求め続けてきました。
しかし、それはいまだに実現していません。

新垣翔士さん、25歳です。
5年前、基地から帰宅途中のアメリカ軍の軍属が起こした事故で、親友を亡くしました。

新垣翔士さん
「米軍属の車がはみ出してきて、そこで正面衝突して。」

当時19歳だった親友は、全身を強く打ち亡くなりました。
成人式に出席した3日後のことでした。

新垣翔士さん
「優しくて、周りに合わせてくれる、話も聞いてくれる、とてもいい友達でした。
自分だけ年をとってる感じがして、あのときは成人式を迎えたばっかりで、4年くらいたつけど、なんか悔しい。
もっと遊びたかったな。」

しかし、事故を起こした軍属は当初、不起訴処分になりました。

地位協定では、公務中に起こした事件や事故であれば、アメリカ側に優先的に裁判権があると定められています。
帰宅途中だった軍属は公務中と見なされ、アメリカ軍が下したのは、5年間の運転禁止の処分でした。

新垣翔士さん
「たった(免許停止)5年だけで片付けられたんですよ、最初。
友人の命が免許証と変わらないのかと思って。
裁判できないんだ。
何で友人は死んだんだって、友人の命とかどうなるんだと思って、無念だろうな。
それも許せなくて。」

こうした処分となった理由。
それはアメリカでは、平時に軍属を軍法会議にかけることは憲法違反であるという判決があるからです。

その結果、地位協定の下では、公務中の軍属は、日本からもアメリカ軍からも裁かれない司法の空白に置かれていたのです。

弁護士 池宮城紀夫さん
「軍属に対しては公務中の事件・事故については、全部無罪放免にされてきてるわけですよね。
これが実態として、日本国民、沖縄県民に知らされてなかったんですよ。」

事故後、新垣さんが中心となり、地位協定の改定を求める署名活動が広がり、その数は7万を超えました。

事故から10か月、日米両政府は地位協定の運用を一部見直すことに合意。
軍属が公務中に起こした事件・事故について、日本側が裁判を行えるようになりました。

ただし、日本側が要請した場合、好意的考慮を払うとされており、裁量はアメリカ側に委ねられています。
抜本的な改定を求める新垣さんたちの要望とはかけ離れたものでした。
親友の死から5年。
何度事件が繰り返されても、なぜ自分たちの声が真剣に受け止められないのか。
新垣さんは今憤りを強めています。

新垣翔士さん
「『県民は我慢しとけ』ってことなんですかね。
犠牲になっても、一人や二人犠牲になってもいいだろうみたいな、そういう感覚なんですかね。
本当に助けてほしい、ただそれだけなんですよ。」

なぜ事件は繰り返される 米軍属事件の波紋

地位協定の見直しを、沖縄はずっと求め続けているが、その声が届かないことに無力感を感じている人もいる?

西牟田記者:そうですね。
沖縄が求めているのは、アメリカ軍関係者であっても、国内で犯した犯罪については、国内で裁けるようにしてほしいということです。
その背景には、事件や事故で被害を被った上に、地位協定でもって、時には加害者の責任追及もままならなくなると、いわば二重の苦しみを味わうということに、強い不平等感が広がっています。

あと何人、犠牲を出せばいいんだという思いでさえいるが?

西牟田記者:大きな事件や事故が起きると、そのつど、日米両政府は運用の改善によって、個別の課題に対処してきました。
それでも沖縄の方には、人命が失われるなど、大きな犠牲が出なければ、状況が改善しないというふうに映っています。
こうして得た改善でさえも、別の新たな事件を防ぎきれないと、こうした思いの蓄積が抜本的な改定を求めさせていると思います。

では、今回の事件を受けて、日米両政府による再発防止への動きというのは、どうなっているんでしょうか。
こちらをご覧ください。

再発防止できるか 日米両政府の対策

先月(5月)行われた、日米首脳会談。
安倍総理大臣は、アメリカのオバマ大統領に対し、実効性のある再発防止策の徹底を求めました。

安倍首相
「身勝手で卑劣きわまりない犯行に、非常に強い憤りを覚えます。
こうした日本国民の感情を、オバマ大統領にはしっかりと受け止めてもらいたい。」

日本政府は、沖縄県内の防犯体制を強化。

国の職員からなるパトロール隊が創設され、今日(15日)から繁華街などの見回りを始めています。

さらに、日米地位協定については、今月(6月)さらなる運用の改善を図ることでアメリカ政府と一致。

具体的には、軍属のうち、地位協定が及ぶ対象者が絞り込まれる見通しです。
その範囲については、現在、協議が行われています。
一方で、地位協定の改定など、抜本的な見直しについては、日米両政府共に消極的な姿勢です。

アメリカ オバマ大統領
「日米地位協定は、刑事責任の追求を妨げるものではなく、日本の法律のもとで、正義がなされることを防げるものでもない。」

栗原岳史(政治部)
「地位協定の改定に、アメリカが難色を示す背景には、世界各地に軍を展開させている事情があります。

韓国やドイツなどとも地位協定を結んでいるため、日本との間で協定の改定が行われれば、こうした国々でも見直しの議論が高まる可能性があり、ひいては軍の運用そのものにも影響が出かねないと懸念しているのです。
一方、日本政府も課題が生じるたびに、そのつど、協定の運用改善を図るという形で対応してきました。
なぜ協定の改定に消極的なのか。
外務省関係者に話を聞くと、『仮に改定に向けた交渉を提起しても、実現までには長い時間がかかることが確実で、現実的ではない』という答えが返ってきました。
つまり改定には踏み込まず、運用改善という形を取るほうが、むしろ迅速に、かつ実情に即した対処ができて、結果的に日米双方が歩み寄れる、最良の解決策になると判断しているのです。
こうした事情を踏まえますと、地位協定の改定は現状では難しいと感じます。」

米軍属事件 突きつけるもの

専門家の中には、問題の背景には、沖縄のことに関する国民の関心の低さもあると指摘する人もいます。

流通経済大学 植村秀樹教授
「地位協定の改定というのは、基地周辺の住民にとっては、自分の生活や、場合によっては、命に関わることですけれども、本土の国民が関心をもたずにきてしまったことが、1つの要因になっていますね。
遠く離れた所の特殊な事件なんだとか、特殊な事情なんだということではなくて、これは我々も共有している問題なんだ、ひと事ではないんだということを、本当は感じなければいけない。」

米軍属事件 突きつけたもの

改めて事件のことを、国民1人1人が自分にもつながることだと捉える必要がある?

西牟田記者:前提として、国土面積の0.6%に、アメリカ軍専用施設の74%が集中するという沖縄の過重な基地の負担があります。
沖縄で起きた事件だからといって、沖縄の問題として片づけるのではなくて、背後にある沖縄が置かれた現状に目を向けて、一緒に考えてほしい、事件を繰り返さないために何が必要なのか考えてほしい、それが沖縄の願いだと思います。

質問
コーナー

Q1

基地内やアメリカ軍では事故再発防止のための教育がされているのでしょうか?

日本に駐留するアメリカ軍は、事件や事故が起きるたびに、隊員などへの教育を行って再発防止を図るとしてきました。ことし3月に那覇市で海軍兵が女性に乱暴したとして逮捕された事件のあとには、兵士に対し、沖縄で暮らす人たちに敬意を払って生活することなどを学んでもらう研修を実施したとしています。しかしその後も、今回の事件や、飲酒が絡んだ事故などが相次ぎ、沖縄では、再発防止策の実効性が見えないことに反発が高まっています。

あわせて読みたい

PVランキング

注目のトピックス