クローズアップ現代

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No.38152016年6月2日(木)放送
“奨学金破産”の衝撃 若者が… 家族が…

“奨学金破産”の衝撃 若者が… 家族が…

“奨学金破産”の衝撃

奨学金は、親に経済的な余裕がない学生が、アルバイトや仕送りでは足りずに、学費などを賄うために借りるものです。

その大学の授業料が今、私立で平均86万円、国立で53万円と上がり続けている一方で…。

世帯年収が減り続け、親からの仕送り額は過去最低となっています。
そのため、2人に1人が奨学金に頼らざるをえなくなっているのです。

本来、奨学金は社会人になってから返済するものですが、今、ご覧のように、返済しきれない人が急増。
自己破産に追い込まれるケースも、1万件に上っています。

“奨学金破産”衝撃の実態

この日、弁護士事務所を訪れた、29歳の美香さんです。
奨学金の返済が滞り、自己破産するしかないと告げられました。

「奨学金なんですけれども、もう2口あったんで300万のもあります。」

美香さんは高校と大学に通うため、およそ600万円の奨学金を借りました。
しかし、就職したのは非正規の保育士の仕事でした。
給与は平均で月14万円。

家賃や食費、光熱費を支払うと月5万円の奨学金を返済する余裕はほとんどありません。

「心配なのは今の残高が330円になっているんですけど、他に使ってない通帳にはどのくらい入ってます?」

保育士 美香さん(仮名)
「全然入ってないです。」

奨学金に頼ったのは、母子家庭で生活が苦しかったためです。
昼間は働いて家計を支え、夜、奨学金で学校に通いました。

大学2年生のときに迎えた成人式。
晴れ着を借りるお金を節約し保育士を目指してきました。

保育士 美香さん(仮名)
「子どもと遊ぶのが好きというのと、小さい子の笑顔を見るのが大好きで、保育士になるための夢をかなえるために大学でも奨学金を借りられることを知ったので、自分の力で資格を取ってやっていけると思った。」

返済することもできずにのしかかる600万円の奨学金。
結婚を考えていた恋人もいましたが、お金のことで迷惑をかけたくないと婚約を解消しました。
美香さんにとって自己破産しか道はなかったのです。

「予定通り破産の手続きに入ろうと思っています。」

自己破産をすれば、一定期間、住宅や教育ローンが組めなくなり車などの財産も手放さなければなりません。
返したい気持ちと返せない現実のはざまで揺れ動いた末での決断でした。

保育士 美香さん(仮名)
「借りたお金は返したい気持ちが強くて、だけどやっぱり2年3年延滞を待ってもらえる期間があっても、一生かけて払わなければいけないというところがついてくるので、全部一回借金などを整理して、悩んだのですが、何回も家族と話し合って決めました。」

奨学金 急増する滞納

132万人の学生に1兆円以上の奨学金を貸し付けている日本学生支援機構です。
ここ数年、回収の強化に力を入れてきました。

「返済をしないということであれば、今の状態ですと延滞金がついちゃっている。」

「5月末に個人信用情報の登録予定者に上がってきているので。」

滞納している人への督促の仕組みです。
返済予定日を過ぎると、5%の延滞金が上乗せされます。
延滞が3か月続くと、個人信用情報機関に登録。
一定期間、クレジットカードの使用が制限されます。
それでも返済できずにいると、債権を回収する専門の会社が督促に乗り出します。
会社に直接電話をかけたり自宅を訪問することもあります。
最終的には裁判所から一括返済を求める督促通知が届くことになります。

裁判所から督促を求められたケースは、年間で8,400件ほど。
この10年で40倍に増えています。
一括で支払いできない場合、自己破産しか選択肢がないという人も少なくありません。

社会問題となっている奨学金破産。
本人が破産してもそれで終わりではありません。

愛知県に住む20代の恵理さんです。
正社員の仕事を4年間続けてきましたが、去年(2015年)失業し奨学金を返せなくなりました。
今、自己破産を申請しています。

恵理さんが借りた奨学金は476万円。
残っているのは、407万円です。
自己破産をすれば恵理さんの返済は免除されます。
しかし…。

奨学金を借りるとき、恵理さんは父親を連帯保証人にしていました。
恵理さんが自己破産すれば父親が奨学金を返さなくてはならないのです。

「奨学金どうなった。」

恵理さん(仮名)
「お父さんの方に渡ったんですけど、結構、痛手です。」

「そりゃきついよね。」

突然、407万円の奨学金を背負うことになった60代の父親。
毎月2万2,000円ずつ15年かけて返済しなければなりません。

恵理さん(仮名)
「自己破産したら結構いろいろ迷惑かかるのが分かっているから、親に相談するの悩んだし、奨学金がお父さんの方にいったと考えると共倒れになるのが見えそうで怖いというのはあります。」

“奨学金破産”家族にも連鎖

連帯保証人となっている親や親戚が奨学金を払えないと、破産が連鎖する可能性もあります。

大阪に住む62歳の吉男さんです。
子ども4人を育て上げた吉男さん。
離婚し、現在は1人で暮らしています。

老後の暮らしに備えようと中古のマンションをローンで購入した直後、奨学金の督促状が届きました。

吉男さん(仮名)
「もうこんな金額だったら分割しても無理だと思いました。」

次男が850万円の奨学金を返済できず、自己破産。
連帯保証人だった吉男さんに一括請求されたのです。

吉男さん(仮名)
「(次男は)自分が返すからと言っていた。
本人が返すつもりだと思っているから、気にしてなかった。」

家計に余裕がなかった次男は、奨学金を借りて大学院に進学しました。
非正規のカウンセラーとして働いていましたが、収入が少なく多額の奨学金を払えなかったと言います。

しかし、吉男さん自身も奨学金を一括で返せる余裕はありません。
マンションのローンを抱えている吉男さんは、民事再生という方法で奨学金を200万ほどに減額し分割で払うことにしました。

吉男さん(仮名)
「払うのが大きいから、みんな払えと言われても金ないものは払えない。
そんな返せないような金を貸すのが間違っていると思う。」

払えなかった残りの600万円は、保証人となっている別れた妻の元に請求が行きます。
専業主婦の妻には自己破産しか道はありません。
親に迷惑をかけたくないと借りたはずの奨学金。
しかし、老後を迎えた親を苦しめる結果を招いてしまったのです。

“奨学金破産”の衝撃

ゲスト 小林雅之さん(東京大学教授)
ゲスト 尾木直樹さん(法政大学教授・教育評論家)

家族にまで破産の連鎖が行ってしまっている現状をどう見た?

尾木さん:僕、60代ですけれども、われわれの世代から見れば、これが僕が育った国なのかと思うぐらいショックですね。
ここまでひどいとは思わなかったっていうか。
だから、奨学金というシロアリが日本社会、土台をずーっと食い荒らしちゃって、家族から、あるいは離婚した先の奥さんのところまで崩壊させていくなんて、これはおかしいと思います。
それで、やっぱり基本的に学生が夢を持って、保育士の資格取って、就職したあと、全然おかしくない、夢、実現してるのに、それで生活できない、返済できないような低賃金だっていうのも大問題だし、だから本当に、能力や意欲を全部むだにしている、もったいないことで。
(本来は大切な制度だが…)
制度でおかしくないのに、出た社会がおかしいということもありますよね。
だから皆さん、払わないんじゃなくて、払えない現状、これは大変だと思います。

そもそも奨学金制度がどういうものか、簡単に説明すると、学費などのためにお金がなかなか難しいという場合はお金を借ります。
無利子のものもあるが、基本的には利子がつくものは、それを社会人になって返済していく仕組み。
ただ条件によっては、一定期間、支払いを猶予してもらう仕組みもあるが、それを超えると、利子に加えて、結構なボリュームですが、延滞金も上乗せされて、極端な場合は、もともとの元金を上回ることもある。
なぜ破産にまで追い詰められる人が急増しているのか?

小林さん:結局、日本社会全体の問題として、以前のように終身雇用制だったら安定した収入がありましたから、返せたんですけれども。
今のように非正規の方が多くなって、返せないという人も増えているという、これが一番根本の問題です。
ですから、奨学金の問題だけじゃなくて、社会全体の問題なんです。
(親がなんとか返さなきゃいけない、督促状まで受け取ってしまう現状だが?)
日本の場合には、親が子どもの教育に責任を持つという考え方が非常に強いので、家族全体で考えるということになってしまうんですね。
それが一番、逆にいうと、社会が支えるっていう考え方にならない部分なんです。

このように自己破産の件数が増えてきているきっかけの一つが、奨学金の回収が強化されてきたことなんです。
国が推し進めてきた、あの構造改革の一環として、奨学金事業が見直され、日本育英会から、日本学生支援機構が事業を引き継いだのです。

“奨学金破産”回収強化の背景

日本学生支援機構は、なぜ回収を強化してきたのか。
遠藤勝裕理事長は国が進めてきた構造改革の方針に沿って事業を立て直してきたと言います。
事業方針に掲げられたのは、奨学金を返すのは自己責任だということ。
返還率を上げるために、回収の強化を進めてきたと言います。

独立行政法人 日本学生支援機構 遠藤勝裕理事長
「学生支援機構になって回収が厳しくなったというよりは、通常の金融の枠組みでもって、仕事をするようになったとご理解いただければ。
一番苦しんでいるのは、JASSO(日本学生支援機構)なんです。
この出口の社会環境、雇用環境の変化と、こっちの入り口の学費の高騰、それをつないでいるわけです。
ですから、こちらの雇用環境の変化による人たち、若者の給与水準の低下の中から回収していって次の世代の貸与原資をひねりださなければいけない。」

どうする 日本の奨学金制度

今の言葉をどう考えるか?

尾木さん:確かに支援機構の立場では、そのとおりだろうと思うんですけれども、でも、言葉を翻訳しちゃうと、普通の銀行のというか、金融機関の役割を果たしてるんだってことは、スカーラーシップ的な精神なんていうのは全くなくて、これは教育ローンだということを、はっきりおっしゃっているわけで、それはいけないわけじゃなくて、そういうふうに政策上なっているわけですから、これはやむをえないことかも分かりませんけれども、だけれども、これは予定日が来たら5%の延滞金がつき、3か月になったら、信用機関に名前が登録され、9か月で裁判になるって、これは処罰があまりにもきついでしょうと。
サラリーマン金融でもそこまでしなかったんじゃないかっていうほど僕はむごい取り立てだというふうに思います。

今日(2日)、いわゆる1億総活躍プランが決定し、これまで議論がされてきた給付型、貸し付けるのではなくて、給付、与える形の奨学金について議論を進めて、今回も“給付型の奨学金についても、創設に向けて検討を進める”という文言にとどまってはいるが、ようやく入り口に立ったとは思うが、今の日本の現状は世界の中で見るとどうなのか?

小林さん:日本で一番問題なのは、教育に対して公的負担が非常に少ないんですね。
例えば、北欧諸国のように公的負担すべてで私的負担が全くない国もあります。
それからオーストリアのように、授業料は安くという国もあります。
アメリカとかイギリスの場合は授業料は非常に高いんですけれども、奨学金はたくさんあるんですね。
これも給付型といわれる、渡しきりのものです。
(いずれも給付型の奨学金の制度がある?)
あります。
ところが日本の場合には、授業料が高いのに、給付型の奨学金がないというのが大きな特徴なんですね。
ですから、非常に家計の、教育費の負担が重くなるという。
先ほど申しました、家計が責任を持たなければいけないという備え方が非常に強いわけです。

一目見ても、どうしても日本はまだ、ようやくということがわかるが?

尾木さん:大問題だと思うのは、実は1969年に国際人権A規約というのに明確に書かれてるんですけれども、高等学校の教育、それから大学の教育は、これは無償の方向を目指すのが好ましいというのがあるんですけど、日本は外して条約を批准したんです。
そういう国はないんですけど、それで実は2012年に、内閣が“いやもう、それは認めます”というのを世界に発信して、日本はやっと肩を並べたんですよ。
それから4年間、何にもしてなかったということになるんですよね。
(ようやく今回…)
ようやくです。
あまりにも遅れ過ぎで、国際的に見たら、非常識な国家だと思いますね。

今まさに、実際に奨学金の返済が重い負担となっている現実が、大学で学んでいる若い人たちの将来設計に大きな影を落としているんです。

奨学金 今年の新入生たちは

奨学金破産が問題化する中、今年(2016年)も入学の季節がやって来ました。

奨学金説明のビデオ
“借りた奨学金は、ちゃんと返還しないとな”

奨学金説明のビデオ
“さすが先輩”

奨学金説明のビデオ
“輝く夢への第一歩を踏み出してください”

経済的に厳しい学生が増える中、奨学金は分割して返済可能な安心できる制度だと紹介されています。

新入生
「姉も大学生でお金が間に合わない。」

新入生
「父親も今年で仕事辞めちゃって、収入も減っちゃうので借りないと厳しい。」

奨学金を借りることには不安も広がっています。
東京大学法学部に通う黒川睦夫さん。
母子家庭で育ち、きょうだい全員奨学金を借りています。
愛媛県に実家がある黒川さんは、上京して1人暮らしをしています。

そのため、年間の授業料53万円のほかに、生活費も月10万円ほどかかります。
親にすべてを頼ることができないため、アルバイトのほかに月5万円の奨学金を借りています。

その額は、4年間で200万円を超えました。

東京大学法学部4年 黒川睦夫さん
「卒業してからは、しっかりと安定した職業が用意されて安定した給料が入って、奨学金を借りることにそんなに抵抗なく当たり前のこと、当たり前のような感覚で申請していました。」

困った人の役に立ちたいと弁護士を目指している黒川さん。
弁護士になるにはロースクールに通う学費が、さらに200万円以上かかります。
しかし、奨学金を返せるか不安が募り、将来の夢が揺らぎ始めています。

東京大学法学部4年 黒川睦夫さん
「何年かかるか分からない道よりも無難に就職活動して、4年で卒業したらすぐ自分の給料がもらえる状態の方が、今の自分の状況を考えるといいんじゃないかというのを考えたり、実際自分が進路を考える際は(奨学金)逆に足かせになっている。」

“奨学金破産”どう防ぐのか?

奨学金が重荷のようになってしまっている現状をどう見るか?

小林さん:これは日本だけじゃなく、国際的に大きな問題になってるんですよ。
というのは、こういうふうに返済が大変になってくると、借りないっていう人も出てくるんですね。
ところが、もともと学費がないので借りたいわけですから、それが借りられないということは、非常に大きな問題なんですね。

視聴者からもいろんな意見、反響がとても多くあり、中には“本当に学びたい人だけが大学に行けばいいんじゃない”という率直な声もあるが?

尾木さん:これは本当に学びたい、昔の僕らのころと比較すると今の学生は全然違うんです。
すごく学んでいるし、一生懸命バイトもしてるし、そのバイトのしかたが、遊ぶお金のバイトではないんですよ。
生活費のバイトなんです。
1日当たり、学生平均850円しか使ってないんです、食費から全部入れて。
だから朝ごはんなんか抜いちゃうから、法政大学もそうですけど、100円朝食というサービスを、340円かかってても全部学生に与えて、それで健康とかやってるんです。

この試算をぜひということですが、日本財団によるデータで、大学に行きたい、進学したい人が増えると?

尾木さん:実は2.9兆円もの税収に入ってくる、税収というか、経済効果があるということなんですよね。
それからそうなってくると、今度は具体的に社会保障などの支出が減ってくるわけです。
ですから1.1兆円、トータル4兆円の経済効果があるということがもう出てる。
社会全体のところを見ないとだめだと思いますね。

給付型の奨学金については、全国で署名活動も広がり、303万もの“ぜひこれを進めましょう”という声が集まっているそうだが、進める課題は何があるのか?

小林さん:給付型というのは、渡しきりになりますので、公平感が一番問題です。
ですから、皆さんが納得して、これなら奨学金を出してもいいと、そういうふうな形にもってくということが、これから一番大きな課題になると思います。

そもそも奨学金は誰のための、何のためのものなのかということに、もう一回立ち返り、この入り口から歩みを進めていくということになる?

小林さん:日本全体の課題だと思います。

(しかも、それは未来への投資で)

尾木さん:未来への投資ですね。

<関連リンク>
奨学金破産の衝撃II ~“中退続出”の危機~

今回のグラレコ

番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。

質問
コーナー

Q1

返済しないものができるとありがたいのですが、そうなるためにはどれくらいの予算が必要なのでしょうか。

文部科学省が、奨学金に関する有識者会議で示したシミュレーションによりますと、年収300万円以下で、成績の最上位層に限った場合、約380億円かかると言います。給付型奨学金については、6月2日に閣議決定された一億総活躍プランの中で「創設に向けて検討」という文言が盛り込まれました。
Q2

給与に応じた返還額の変動などがあればいいのですが…。

来年度から新たに「所得連動型奨学金」が始まります。これは、個人の年収に応じて返済額が決まるという仕組みです。たとえば300万円の年収のときは毎月8500円、400万円になった場合、13100円の支払いとなっていきます。ただし、適用されるのは、無利子の奨学金のみで、有利子の奨学金については、現状通りとなります。有利子奨学金についても適用できないか、現在、有識者会議で検討が行われています。

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