クローズアップ現代

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No.38022016年5月10日(火)放送
北朝鮮 秘密資金を追え

北朝鮮 秘密資金を追え

北朝鮮 秘密資金を追え

一体、北朝鮮で今、何が起きているんでしょうか。
昨日(9日)、キム・ジョンウン氏を党委員長に選出し、閉会した朝鮮労働党大会。
現地ピョンヤンには、中国総局の伊藤総局長がいます。
伊藤総局長は長年、北朝鮮を取材してきていますけれども、今回も制限のある中での取材だったと思いますが、何を特に一番、印象強く感じましたか?

伊藤良司総局長(中国総局)
「実は、北朝鮮入りするのは私、15年ぶりなんですけれども、ピョンヤン市内では、以前見られなかった高層マンションが立ち並んでいたり、市内を走る車の量、タクシーをはじめ、非常に増えているという印象を受けました。
そして取材で、あるスーパーに案内されたんですけれども、そのスーパーの中でも、非常に品ぞろえが豊富でして、多くの市民が買い求めている、そういった風景はさして日本と変わりないというふうに感じました。
そして特に、印象に残ったのは、人々の顔の表情なんですけれども、以前、15年前は、非常になんとなく暗いという印象があったんですが、今回、それが非常に明るい感じに変わっていました。
ここピョンヤンだけを見ますと、北朝鮮の生活が少しずつですけれども、豊かになっているといった印象を受けました。」

このように、36年ぶりの党大会で、ピョンヤンの発展ぶりを盛んに海外メディアにアピールする一方で、キム・ジョンウン氏は、今後も核開発を続けていくと、高らかに宣言しました。
では、こういった資金は一体どこから来ているんでしょうか。
今年(2016年)の3月、国連の安保理は、北朝鮮の核開発の資金を断つために、これまでにない厳しい経済制裁を科しました。
大きな資金源となっている、石炭や鉄鉱石などの輸出の制限。
そして、北朝鮮の一部の金融機関の海外支店の閉鎖などです。
こういった経済制裁の下で、実は秘密の資金が流れている実態が明らかになりました。
朝鮮労働党39号室という組織に所属していた、元高官の内部証言です。

スクープ!北朝鮮 秘密資金の流れ

私たちが接触した、39号室の元高官。
北朝鮮から亡命し、現在、韓国政府の厳重な管理下に置かれています。

『39号室』元高官
「党の重要な資金を準備する仕事に強い誇りを持っていました。」

この元高官が所属していた39号室は、海外から北朝鮮に入る外貨を管理しています。
集められた外貨は、秘密資金として使われていました。

『39号室』元高官
「最高責任者はただ1人です。」

「39号室を管理しているのは、キム・ジョンウン氏ですか?」

『39号室』元高官
「当然です。」

北朝鮮にとって、貴重な外貨獲得手段の一つが、韓国との共同事業、ケソン工業団地でした。
2004年、北朝鮮のケソンで始まった、この事業。
進出した韓国企業で、北朝鮮の労働者5万4,000人以上が働いていました。

賃金は労働者には直接支払われず、韓国企業から北朝鮮側にドルで渡されていました。
これまでの総額は、日本円でおよそ600億円。
そこから、39号室に金が流れていたといいます。
ケソン工業団地の金が、核開発に使われていたのではないかと尋ねると、元高官はこう答えました。

『39号室』元高官
「たった1人の人間(キム・ジョンウン氏)が『これに使え、あれに使え』と決定します。
金は1か所に集まり、使いみちを決めるのは1人だから、それで説明できるでしょう。」

私たちは、39号室に集められた外貨を使って、武器を製造していた脱北者にも話を聞くことができました。
ケソン工業団地で手に入るドルの現金は、特に貴重だったといいます。
経済制裁の強化で、海外への送金が難しくなる中、核兵器やミサイルの開発に欠かせない精密機器の購入に充てていたというのです。

軍需産業に関わった脱北者
「レーザーの部品や反射鏡などは、現金でないと買えません。
ケソン工業団地の金は現金でもらっています。
現金は大事です。
現金であることに意味があるんです。」

今年2月、韓国政府は、ケソン工業団地の操業を全面的に中断。
企業は引き揚げました。
韓国では、北朝鮮に現金を渡したことが、核開発につながったという声も出ています。

韓国政府 元高官 チョン・ヨンウ(千英宇)氏
「賃金を現金で支払ったことが、最大の過ちです。
生活必需品で与えていたら、核開発に利用されなかったと言えます。」

北朝鮮にとって、外貨獲得のもう一つの重要な手段となっていたのが、中国との貿易です。
中国は、北朝鮮の貿易額の6割以上を占める、最大の貿易相手国です。
国連の制裁決議後、私たちは北朝鮮との国境の町を訪れました。
中国東北部の丹東。

橋の向こうは、北朝鮮です。
トラックが頻繁に行き交っていました。

税関では、北朝鮮に向けて輸出される建設機械などが数多く見られました。

「今、北朝鮮側から、貨物列車が到着しました。」

貨物列車に積まれた、黒い物体。

「石炭を積んでいるようです。」

経済制裁で、北朝鮮からの輸出が厳しく制限されている石炭。
しかし、経済制裁には、北朝鮮の市民生活を圧迫しないという例外が設けられています。
そのため、制裁が十分に機能していないのではないかという指摘も出ているのです。

制裁では、外貨の送金に使われていた銀行の海外支店の閉鎖も求められています。
しかし、支店のあった場所を訪ねると…。
廊下で突然、朝鮮語を話す人物が近づいてきました。

「なぜカメラで撮影しているんだ?」

「ここに銀行があると聞いたのですが。」

「ない、帰れ。
あちこち撮影するな。」

日を改めて訪ねてみると…。
中では、ガラス張りの窓口を挟み、男性との間で書類がやり取りされていました。

「ダメだ!出て行け!」

中国での制裁の実効性は、今も不透明なままです。

そして、外貨獲得のため、北朝鮮が今、力を入れているのが、中国への労働者の派遣、いわば労働力の輸出です。
中国の丹東では、北朝鮮の労働者たちが次々と到着していました。

労働者たちは、中国人が経営する縫製工場などに派遣されています。
労働が目的で、去年(2015年)中国に入った北朝鮮の人たちは、公式の数だけで9万4,000人。
この5年間で倍増しています。
労働者受け入れの実態に詳しい中国人実業家は、中国と北朝鮮の双方に、大きな利益を生み出していると証言しました。

中国人実業家
「北朝鮮の人たちを雇うのは、人件費を削減するためです。
賃金は2万5,000円、3分の2は北朝鮮の政権に渡っています。」

北朝鮮 秘密資金を追え

ゲスト 三村光弘さん(環日本海経済研究所 調査研究部主任研究員)

これだけ経済制裁が厳しくなっている中でも、今回の党大会で、キム・ジョンウン氏は「核開発を続けていく」と宣言した その裏ではやはり、この制裁の網をくぐり抜ける方法、実態があったが?

三村さん:もともと、国連の安保理制裁というのは、そういうものだと思います。
(そういうもの?)
というのは、実施は各加盟国に任されていて、国内法のように、これを実施しないと、何か罰則があるというわけではないですし、特に中国のような、常任理事国であれば、大国ですから、どうするかというのは自分で決めると。
周りの常任理事国も、中国の立場に配慮して、あまり批判をしない。
そういうような、これはもう、国連の中での大国の政治ということで、穴があるというふうに見るか、もともと穴だらけのものであるというふうに認識するかというのは、いろいろありますけれども、まずこういうのが普通の国連制裁の姿だと思います。
(3月の制裁は、これまでにない厳しいものだが、そこにはやはり穴があるものだと見るべき?)
ものすごく大きな穴があったのが、小さな穴になったということだと思います。

視聴者の方より:「経済制裁、やはり中国が本腰を入れなければ、効果が弱いのではないか」 中国の制裁の姿勢をどう見ている?

三村さん:中国は今回、相当厳しい制裁条項が入ったものをアメリカと相談をしながら合意をして、制裁リストも4月5日に出しましたし、これから特に核、それから弾道ミサイル関連のもの、そして武器取り引きについては厳しくやっていくと思います。
ただ一方で、やはりこの国連制裁自体が、一般市民の生活に影響を与えないように配慮するべきだというふうに書いてあるんですけれども、石炭も、どの石炭が核に使われていて、どの石炭が一般市民が使うような食べ物であるとか、服になるとかというのは、色がついてないから分からないんですよね。
中国では一応、輸入する会社が、これは核やミサイル開発に関連のあるものではありませんという誓約書を出すと、輸入していいことに今のところ、制度上なっています。
ですから、そういう意味で、中国の制裁に対する決意というのは、もちろん外交的には非常に強い決意があると思いますけれども、実際の現場では、これは地方政府が、自分たちの地方にある企業をなんとか生かしたいという気持ちもありますので、中央政府と地方政府の間で、温度差があるということも否定できないと思います。

地方政府にとっては、北朝鮮との貿易というのは、経済にとって欠かせないもの?

三村さん:そうですね。 例えば、今、VTRに出たような丹東であれば、北朝鮮との貿易というのが、一つの地場産業になっていますから、それをみすみす見殺しにできないというのが、丹東の地方政府の立場じゃないかと思います。
(中国の制裁への姿勢は、今後も鍵を握るのは間違いない?)
そうですね。

今回の党大会でキム・ジョンウン氏は、社会主義体制の堅持を改めて強調したわけなんですけれども、取材を進めますと、その言葉とは、かけ離れた実態が見えてきました。

激変 北朝鮮 進む“市場経済”

北朝鮮 キム・ジョンウン氏
「社会主義完成に向けて、歴史的な契機になる。」

党大会で、社会主義を貫いていくことを強調した、キム・ジョンウン氏。
ピョンヤンの市民も、社会主義の恩恵を受けていると語りました。

市民
「地上の楽園のような暮らしで、何の心配もありません。」

しかし取材からは、そうした発言とは異なる実態が、水面下で進んでいることが見えてきました。

政権のために、国内で資金を調達する朝鮮労働党38号室の元幹部です。
日本のメディアの取材に初めて応じました。

『38号室』元幹部 キム・ヒョンス氏
「北朝鮮はすでに資本主義化しています。
当局は否定するでしょうが、進行しているのは、市場経済です。」

市場経済の広がりを裏付けるのが、かつて取締りの対象だった、市場の存在です。
北朝鮮では、90年代の経済難などで、国からの配給が滞り、国民は自力で生活していくことを余儀なくされました。
そうした中で、市場の存在を、当局も容認せざるを得なくなったと見られています。

赤い服と名札は、当局公認の証し。
当局に一定の現金を納めれば自由に物を売ることができます。
今、北朝鮮では、こうした市場が増えていると見られています。

北朝鮮の衛星写真を分析している、アメリカの大学の研究所です。
写真の分析から市場と見られる施設の数は、この5年で倍増し、400か所以上に上るといいます。

ジョンズ・ホプキンス大学 カーティス・メルビン研究員
「この10年で北朝鮮における商品の流通は驚くべき成長を遂げています。
人々が生き残るには、こうした市場での経済活動しか方法がないのです。」

北朝鮮での市場経済の広がりを裏付ける、もう一つの存在が、中国との貿易などで急増していると見られる富裕層です。

北朝鮮の経済特区ラソンで、去年開かれた、海外の物品を展示販売するイベントです。
中国など、外国製の時計や貴金属などが販売されていました。

会場には、高価な品々を求める富裕層の姿も見られました。
脱北者の証言からも、北朝鮮の新たな富裕層の豊かな生活ぶりが浮かび上がりました。

脱北者
「金持ちの家に行ったことがあります。
布団が中国製でとてもびっくりしました。
炊飯器や服、ズボン、ブラジャーまで中国製を使う人がいたんです。」

取材を進めると、社会主義をうたう北朝鮮では認められなかった実質的な不動産の売買まで行われていることが分かってきました。

中国との国境の町では、4年前にはなかった高層ビル群が生まれていました。
その多くが、マンションだと見られています。
北朝鮮でビジネスを展開する中国人実業家が、富裕層の実態を証言しました。

中国人実業家
「北朝鮮の富裕層は私よりずっと稼いでいますよ。
自分のお金でマンションを買う人がたくさんいるんです。」

社会主義を掲げる北朝鮮で進行している、市場経済の広がり。
38号室の元幹部は、国民の国家への忠誠心が揺らぎ始めていると指摘します。

『38号室』元幹部 キム・ヒョンス氏
「国が“一心団結”を叫んでも、国民の心には響きません。
人々は国ではなく、自分のために生活しているのです。」

激変 北朝鮮 進む“市場経済”

再び、ピョンヤンにいる伊藤総局長に聞きます。
これまで伝えられてきた北朝鮮のイメージとだいぶ違う姿を見たんですけれども、一体、今、北朝鮮の中はどうなっているんですか?

伊藤総局長
「北朝鮮では現在、富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなるという、いわば資本主義のような現象が起き始めています。
特に、ピョンヤンやシニジュといった大規模な開発が行われている都市では、富裕層が生まれ、お金を持っている人は、金に糸目をつけないなど、旺盛な消費意欲を持っているといわれています。
他方、地方では、食料の配給制度がほぼなくなり、苦しい生活から抜け出せずに、明日への展望もないまま暮らしている人が少なくありません。
キム・ジョンウン委員長は、今回の党大会で、2020年までの国家経済発展5か年戦略を打ち出し、人民の生活を決定的に向上しなければならないと指示しました。
しかし、妙案があるわけではありません。
北朝鮮は核開発を巡って、国際社会から経済制裁を受けていまして、輸出入が厳しく制限されているほか、外国からの投資や支援といったものも期待できません。
結局のところ、市場経済の要素を導入して、企業や農場の裁量権を拡大して、自助努力を促す以外に方策はありません。
その結果、貧富の差や、都市や農村との格差が、さらに広がる恐れが出ています。」

社会主義体制を堅持するという今回の宣言の一方で、格差もこれだけ生まれてきている だから新しい富裕層を指す言葉も生まれていると聞くが?

三村さん:「トンジュ」というふうに紹介されたりしますけれども、お金を持っている主というような言葉ですね。
(これが新しい富裕層という意味?)
お金を持っている人という意味なので、そのお金が消費に向かえば、富裕層ということになると思います。

こういう人たちが増えてきている?

三村さん:そうですね、例えば需給関係で値段が決まると、あるいは個人で商売している人がいると。
国営企業の副業経営とか、相対取り引きというような、そういうものがあるということで、そういうところから、副業でお金を得たりするような機会、チャンスがある人が増えているというのは事実だと思います。

「トンジュ」と呼ばれる人たちが増えてくることは、今後の北朝鮮の体制にどういう影響を及ぼす?

三村さん:こういう人たちがみんな土着の人というか、商売人から上がっていった人だけではなくて、やっぱり官職がある、公務員出身、そういう人もいますので、そういう意味では、国のバックがあって、そういうふうなお金持ちになったということでありますから、すぐに揺らぐというふうには言えないかもしれませんが、ある時、臨界点が来るかもしれません。

今回のグラレコ

番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。

質問
コーナー

Q1

なぜ36年ぶりに党大会を開くことにしたのですか?

長く開催できなかった党大会を開くことで、キム・ジョンウン(金正恩)氏の権威を高める狙いがあったのではないでしょうか。だからこそ、キム・ジョンウン氏が新たなポストに就き、新時代の到来といったイメージを内外に示すことを選んだのでしょう。 また、党全体のトップであることを明確にする意味で「党委員長」を作り、党を重視する姿勢も明確化したのだと思われます。これも、祖父のキム・イルソン主席と同様に、党を重視する姿勢を明確化し、自らの権威づけを図るねらいと思われます。
Q2

北朝鮮は今後、どうなっていくのでしょうか?

核開発を続ける北朝鮮は、今回の党大会で、「核強国としての地位に上りつめた」として「それに見合う対外関係を発展させる」としています。これはすなわち、北朝鮮を「核保有国」として認めるならば、それを前提に話し合う用意があるというもので日米韓だけでなく中国にとっても、到底受け入れられない提案です。それでも北朝鮮は、当面、こうした方針を堅持するものと見られます。

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