クローズアップ現代

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No.37812016年3月14日(月)放送
女性たちの“戦争”~知られざる性暴力の実態~

女性たちの“戦争”~知られざる性暴力の実態~

女性たちの“戦争” 被害者に向き合う医師

戦闘の跡が色濃く残るイラク北部。
ISに襲撃された、ヤジディ教を信じる人たちが避難しています。
ここで、女性たちの支援にあたる1人のドイツ人医師がいます。
ヤーン・イルハーン・キジルハーン医師。
紛争によるトラウマの治療を専門としています。
ヤジディ教徒であるキジルハーン医師は、この1年、ドイツから通い診察にあたってきました。
これまで見てきたのは、性暴力の被害に遭った1,400人以上の女性たち。
ヤジディ教徒だけで7,000人近い女性や子どもが誘拐された中、命からがら逃げてきた人たちです。

ヤーン・イルハーン・キジルハーン医師
「彼らは暴行しましたか?」

ヤジディ教徒の女性
「一晩中、殴られ、あごが砕けました。
その後、3か月監禁されました。」

被害者の多くは10代から20代の若い女性たち。
中には、8歳の少女もいました。
祖父が目の前で殺害されたうえ、レイプの被害に遭いました。

ヤーン・イルハーン・キジルハーン医師
「1人の人間として、1人の父親として、衝撃を受けました。
『自分の子どもだったら』と、ひと事とは思えませんでした。
彼女たちは、初めての性的関係をテロリストと結ばなければならなかったという事実に、一生向き合っていかなければならないのです。」

女性を奴隷に ISの戦略

女性たちを襲った過激派組織IS。
一昨年(2014年)10月、奴隷制の復活を宣言しました。




「戦利品についてのルール」を発表し、宗教の異なる人たちを「奴隷」として扱うことを認めています。





ISが、女性たちを戦利品としてインターネット上に公開した写真です。
戦闘員に褒美として与えることで、士気を高め、勢力拡大をねらっています。
さらに、奴隷として売ったり身代金を得ることで、活動資金としているのです。

IS戦闘員とみられる男性
「女を売るぞ。
青い目の女ならもっと高くなる。」

IS戦闘員とみられる男性
「ヤジディの女はどこだ。」

女性たちの“戦争” 被害者が語る実態

深刻な心の傷を負った女性たち。
キジルハーン医師は1,100人をドイツに避難させ、治療にあたっています。

ヤジディ教徒の移民が多いバーデン・ビュルテンベルク州。
被害を受けた女性を積極的に受け入れてきました。
女性たちは21か所の隠れがに分かれて、ひっそりと暮らしています。
キジルハーン医師が今、最も心配している女性がいます。

ヤーン・イルハーン・キジルハーン医師
「ようこそ、元気?
どうぞこちらへ。」

半年前、避難してきたシリンさん、19歳です。
8か月間にわたってISに拘束され、繰り返し暴行を受けました。

ヤーン・イルハーン・キジルハーン医師
「眠れていますか?」

シリンさん
「事件のことがたくさん夢に出てきます。
忘れたいけど、できません。
怖いです。
たまに息ができなくなります。」

ヤーン・イルハーン・キジルハーン医師
「強くて忍耐力のあるあなたなら、きっと暮らしを取り戻せます。」

シリンさん
「私に起きたことを忘れられる?」

ヤーン・イルハーン・キジルハーン医師
「完全に忘れることはできなくても、友達ができたり結婚したりすれば…。」

セラピーが終わった直後のことでした。
突然、シリンさんが廊下で倒れました。

ヤーン・イルハーン・キジルハーン医師
「どうしたの?落ち着いて。」

シリンさん
「さわらないで、あっちへ行って!」

同じ村から逃げてきた女性と立ち話をしたことをきっかけに、フラッシュバックを引き起こしたのです。

ヤーン・イルハーン・キジルハーン医師
「やつらはいないよ、安心して。
ここは安全な場所だよ。
安心して、落ち着いて。」

シリンさん
「これからの私の人生、どうなるの?」

ヤーン・イルハーン・キジルハーン医師
「これは一時的な状況。
あなたならきっと乗り越えられる。
あきらめないで。」

2日後。
落ち着きを取り戻したシリンさんが、今も拘束されている女性たちの力になりたいとインタビューに応じてくれました。
家族が今もISに捕らわれているため、身元を明かすことはできません。

シリンさん
「私は何回も(奴隷として)売られました。
子どもだったのにレイプされました。
普通に暮らしていたら知らなくてよいことを、たくさん経験してしまいました。」

イラク北部の小さな町で家族と暮らし、高校に通っていたシリンさん。
勉強が好きで、将来は弁護士を目指していたといいます。

シリンさん
「一日中、勉強していました。
それがとても楽しかったのです。
いちばんうれしかったのは、成績表をもらうときです。
両親がごほうびに携帯電話を買ってくれたこともありました。」

悲劇が襲ったのは一昨年8月。
17歳のときでした。
ISがシリンさんの暮らしていた地域を占領。
成人男性のほとんどが殺害され、女性は誘拐されました。
シリンさんは家族と引き離され、奴隷として8か月の間に9人の男に次々と売られました。
繰り返し暴行を受けたうえに、買春宿で働かされたこともあったといいます。
18歳のとき、妊娠していることに気付きました。

シリンさん
「流産しようとコンクリートブロックを3つ、わざと持ち上げました。
激痛が走り『お母さん』と何度も叫びました。
そして出血し、流産したのです。
その後、また奴隷として競りにかけられ、売られました。
ISは私から全てを奪いました。
家族、そして私の誇りと純潔を。」

その後、シリンさんはISから抜け出そうとしていた男性の協力を得て、ようやく逃げ出すことができたのです。


戦争の犠牲になる女性たち。
絶望のあまり、究極の行動を取らざるをえなかった少女もいます。
マドリンさん、18歳。
全身の80%にやけどを負って入院しています。
15歳のころのマドリンさん。
町でも評判の聡明な少女でした。
この直後、ISに拉致されレイプされました。
その後、再び襲われるのではないかというあまりの恐怖から、ガソリンをかぶって、みずから火をつけたのです。
「やけどを負えばレイプだけは免れられる」という必死の思いからでした。
今の自分の姿を撮影することで何が起きたのか伝えてほしいと、取材に応じました。

マドリンさん
「私はISが怖かったのです。
目の前を通るだけでも怖かったのです。
だから私はみずからガソリンをかぶったのです。
私たちは誰も傷つけたことなどないのに、どうしてこんな恐ろしい目に遭わなければいけないのでしょうか。
どうして誰も助けてくれないのですか。」

今もISに捕らわれたままの女性は、ヤジディ教徒だけでも3,800人に上ると見られています。





繰り返し暴行され、トラウマを抱えているシリンさん。
家族は今もISに捕らわれたままです。
とりわけ、9歳の妹のことが心配でなりません。

シリンさん
「妹が来ているこのドレスは、私のドレスとおそろいです。
妹はいつも『お姉ちゃんと一緒がいい』と言って、母に作ってもらっていました。
1人になると家族を思い出して、涙が出てきます。
でも私よりもひどい状況の少女たちもいます。
いつか家族と再会できるよう祈るしかありません。」

今、キジルハーン医師は、ドイツ各地で医療や福祉の関係者に協力を呼びかけています。

ヤーン・イルハーン・キジルハーン医師
「女性たちのありのままを、敬意を持って受け入れてください。」

長期にわたって女性を苦しめる性暴力。
キジルハーン医師は息の長い支援の必要性を訴えています。

ヤーン・イルハーン・キジルハーン医師
「戦争で最も被害を受けているのは、女性たちです。
この先、悪夢にうなされ発作を起こし、恐怖にさいなまれる日々が長く続きます。
この問題を多くの人々に知ってもらい、有効な対策を取っていかなければなりません。」

女性たちの“戦争” 性暴力の実態

ゲストザイナブ・バングーラさん(国連事務総長特別代表)

●女性が、結婚させられるために何度も男性に売られることは、当たり前のように起きていること?

はい。
シリアやイラクを訪問したときISに捕まった多くの少女たちに会いました。
中には何度も被害に遭った少女がいて、2年間で22回売られた子もいました。
大半の少女たちは、まず奴隷市場でISの戦闘員に売られ、その男が飽きてしまうとまた別の男に売られます。
たばこ1箱と引き換えにされた少女もいました。
値段表があって、若ければ若いほど、男性経験がないほど高い値段がつきます。
ISは組織的に奴隷売買をしていて、完全にシステムが出来上がっています。
信じられないことですが、この21世紀に女性を奴隷市場に連れていくということが起きているのです。

●少女たちは伝統的に純潔や処女性を重んじてきた地域の出身だが、女性たちが受ける屈辱感や心の傷は、どれほど深刻なもの?

暴行を受けた少女たちに対する偏見や差別は、極めて深刻です。
被害者の自殺率は非常に高いのです。
しかし幸いだったのは、ヤジディ教の指導者が彼女たちを被害者として扱うように宣言し、家族や地域社会に彼女らを受け入れるよう促しました。
それによって、ようやくヤジディ教徒の少女たちの自殺率が低下したのです。

●過激派グループが少女や女性たちをテロの戦略として利用する目的は?

それは、ISの資金源の一部なのです。
女性たちは、身代金のために利用されています。
家族は、女性たちを取り戻すのに何万ドルというお金を支払わされています。
さらにISは、少女たちを使って外国からの戦闘員を勧誘しています。
ここへ来れば4人、5人もの妻と結婚することができるとアピールし、女性との接触が限られた男性たちを勧誘しているのです。

●女性を奴隷にすることによって地域を支配したり、領土を拡大しようというもくろみもある?

そのとおりです。
ISは、ある地域を支配するために、そこにあるものすべてを破壊しようとします。
そのために、男性を殺害し女性や少年を誘拐します。
少年は訓練キャンプに連れていき、自爆テロを行うよう洗脳します。
ISは、みずからの戦略のためにすべてを利用しようとしているのです。

●このような方法は中東のみでなくアフリカでも行われているが、世界中に拡散している?

そのとおりです。
過激派は、性暴力を重要な戦略の中に組み込んでいて広がっています。
これは、彼らにとって都合のいい方法なのです。
そのため、女性たちが紛争に巻き込まれるのです。

●シリアではISなどに空爆が続いている 女性たちの命も危険にさらしかねない中、彼女たちを救い出す方法はある?

ヤジディ教徒の人たちは、とても高度な情報ネットワークを持っています。
ISの支配下に住む人たちとも密接な協力関係を持っています。
その人たちの支援と保護を受けられたため、一部の少女たちは逃げ出すことに成功しました。
ISが支配する地域の人すべてが、ISを支持しているわけではありません。
少女たちが逃げ出せるタイミングがあれば、こうしたネットワークを使って助け出すことも不可能ではありません。

●逃げ出した女性はフラッシュバックに見舞われるなど深刻なトラウマに苦しんでいるが、今後、女性たちのリハビリをどのように支援していく?

そこが大きな問題だと感じています。
心理的なサポートやトラウマのカウンセリングをするためには、現地の状況、社会、そして言語も分からなければなりません。
外国人はなかなか受け入れてもらえません。
国連も全力を尽くしていますが、彼らの社会に踏み込むのは易しいことではないのです。
ですから私たちは、現地の専門家を育成することが何より大事だと思います。

●世界中に広がるテロに対抗するために、何をすべき?

私たちはISを過小評価していました。
彼らは、社会を崩すすべをよく知っています。
あらゆる手段を使って阻止しなければなりません。
女性はその社会をつなぎ合わせる要です。
だからこそ、標的にされるのです。
女性を支配すれば、社会の基盤を破壊し、回復させることは不可能になります。
逆に女性を支援すれば、平和への道が開けます。
紛争を解決するには、被害を受けた女性たちの声に耳を傾けることが大切です。

和平のプロセスで女性たちの問題が取り上げられ、女性が議論に参加するようになったとき、平和の社会が訪れると思います。

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