クローズアップ現代

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No.37762016年2月25日(木)放送
大統領選挙に“異変”あり ~アメリカ社会に渦巻く不満~

大統領選挙に“異変”あり ~アメリカ社会に渦巻く不満~

トランプ旋風 支える 白人の“怒り”

共和党 ドナルド・トランプ氏
「この国を、かつてないほど強力で偉大な国にしてみせる!」




共和党で支持率トップのドナルド・トランプ氏。
資産総額は5,000億円。
経営者としての手腕を有権者に訴えています。



トランプ氏のCM
“私の最大の誇りは仕事を創ったことだ。
何万もの雇用をこの国にもたらしてきた。
私は史上、最も多くの雇用を生み出す大統領になる。”


なぜ、大富豪のトランプ氏が経済的に苦しい白人たちの支持を集めているのか。

トランプ氏に投票した、ドミニク・チョリーノさんです。
もともと大手航空会社に勤めていましたが、12年前、経営不振でリストラに遭いました。
その後、観光バスの運転手として働いてきましたが、賃金は一度も上がっていません。


年収は手取りで2万5,000ドルほど。
家賃や保険料などを支払うと月300ドルしか手元に残りません。
チョリーノさんは、庶民の生活を改善できない既存の政治家に深く失望しています。

ドミニク・チョリーノさん
「どこが豊かになったというんだ?
僕の生活はちっとも変わらない。
もう黙っていられない、限界なんだ。」

4回の経営破綻からはい上がったトランプ氏であれば、庶民の生活を立て直せると期待しています。

ドミニク・チョリーノさん
「トランプは懸命に働き、正しい決断をしてきた。
大統領になれば変化を起こすはずだ。」



トランプ氏が支持を集めるもう1つの理由が、その過激な発言です。
同盟国や移民をも激しく非難する語り口が、これまでの政治家にはないものだと支持者の共感を呼んでいるのです。



共和党 ドナルド・トランプ氏
「日本が攻撃されたらアメリカは助けなければならないが、逆の場合は日本は助ける必要がない。」

共和党 ドナルド・トランプ氏
「シリア難民には来てもらいたくない。
何者なのか分からない。」

共和党 ドナルド・トランプ氏
「(メキシコからの)移民は、麻薬や犯罪を持ち込みレイプする。
万里の長城をつくり、費用をメキシコに払わせる。」

白人の保守層が高い関心を寄せているのが、移民の問題です。
アメリカでは、ヒスパニック系の移民が年々増え、その多くは建設現場などで低賃金で働いています。
ネバダ州では、その割合は28%を占めます。
さらに、メキシコから不法に入国する移民も増え続けています。


この日開催された共和党候補のディベートを見る集まりでは、多くの参加者がトランプ氏の発言を称賛していました。

共和党 ドナルド・トランプ氏
“国境もなく、秩序もない人々が押し寄せている。”

参加者
「移民の問題と治安はつながっているのよ。」

参加者
「誰が入国しているか把握できないなんて。
“めちゃくちゃだ”とトランプが言うのも、もっともだ。」



移民に対して高まる不満。
トランプ氏を支持する、マイク・クランピットさんです。
塗装工として働いていますが、移民が通常の半額で仕事を請け負うため、最近、仕事が急激に減りました。



年収は3万ドルから8,000ドルに。
姉の家に身を寄せ、なんとか暮らしています。




マイク・クランピットさん
「多くの移民が破格の値段で働くから、塗装工としての仕事はもうない。
(トランプが大統領になれば)仕事が戻り、正規の値段で働けるようになる。」

クランピットさんの友人たちも、移民の増加で自分たちの立場が脅かされるのではないかと危機感を募らせています。

マイク・クランピットさん
「移民は僕らの仕事を奪っている。」

クランピットさんの友人
「歩いて簡単に国境を超えられるのよ。」

マイク・クランピットさん
「毎日どれだけ多くの移民が来ているか、想像できるかい?」

クランピットさんの友人
「想像するだけで嫌になるわ。」

クランピットさんの友人
「流入を止めないと。
彼らは決して文化を変えず、アメリカに同化しないんだ。」

クランピットさんの友人
「アメリカ人になりなさい!
英語で話しなさい!」

クランピットさんの友人
「英語を話せないなら仕事を与えるな!」

クランピットさんの友人
「これを解決するのはトランプだけね。」

クランピットさんの友人
「トランプだ、トランプ。」

クランピットさんは、移民問題を解決し、白人が築いてきた古きよきアメリカを守れるのは、トランプ氏しかいないと考えています。

マイク・クランピットさん
「トランプ!」




共和党 ドナルド・トランプ氏
「このままのアメリカのやり方じゃダメなんだ!
絶対勝つぞ!投票してくれ!」



社会の底辺に滑り落ちる不安の中、トランプ氏に将来への希望を託しています。

マイク・クランピットさん
「今こそ政治家ではない人間が大統領になるべきだ。
彼は絶対に大統領になる。」

大統領選挙に“異変”あり

これまではアメリカの政治では許されなかったトランプ氏の過激な発言に聞き入り、そして熱狂する人々。
これはアメリカ社会の底流のどんな変化を意味しているのでしょうか。
この選挙戦を、自分の築き上げた自己資金で戦っているトランプ氏。
勢いは、7月の党の候補が選ばれる共和党大会まで続いていくのではないか、その可能性がささやかれるまでになっています。
続いて、民主党候補のサンダース氏です。
白人労働者に加えて、同じく格差社会に対して不満を持つ若者たちの支持を取り込んでおり、民主党の候補者選びに大きな影響を及ぼしています。

サンダース旋風 支える 格差への“怒り”

今月(2月)、予備選挙が行われたニューハンプシャー州。
毎週末、地域のNGOによる食料の無料配布が行われています。
そこに並ぶのはおよそ300人の白人たち。
この6年で4倍に増えました。
ここに集まる低所得層の間で、トランプ氏と人気を二分する候補が、民主党のサンダース氏です。

市民
「トランプかサンダースか迷っているわ。」

市民
「サンダースなら、貧しくなった中間層を元に戻してくれるよ。」


演説のたびに富裕層への攻撃を繰り返すバーニー・サンダース上院議員。

民主党 バーニー・サンダース氏
「アメリカを変える唯一の方法は、ウォール街と大企業中心の社会に立ち向かう勇気を持つことだ。」




社会保障の充実や富裕層への増税などの政策を掲げています。
アメリカではこれまで拒否感が強かった「社会主義」ということばまで使いながらも、急速に支持を集めています。
テレビの風刺番組に出演して、コメディアンと共にこんなコントも演じました。

“なんか社会主義みたいに聞こえるな。”

民主党 バーニー・サンダース氏
“民主社会主義だ。”

“どこが違うの?”

民主党 バーニー・サンダース氏
“大違いだよ。”

“そんなに違うの?”

民主党 バーニー・サンダース氏
“全然違うよ。”

アメリカ社会の変革を訴えて登場した、オバマ大統領。

オバマ大統領
「アメリカに変革の時がきた。」




しかし7年の間、アメリカ社会の格差はむしろ拡大。
ウォール街に象徴される富裕層に富が集中する現状に、失望感が強まりました。
オバマ大統領にもできなかった格差の是正を、サンダース氏ならば成し遂げられる。
そう考える低所得層の有権者が増えているのです。

サンダース氏の勢いを支えるもう1つの柱が、若い有権者です。





民主党 バーニー・サンダース氏
「ワシントンで決定されることに、すべてのアメリカ人が影響を受けるが、もっとも影響を受けるのは、これから何十年も生きる君たち若者だ。」


サンダース氏が勝利したニューハンプシャー州の予備選挙での出口調査では、29歳以下の有権者から8割以上の支持を集めました。

サンダース氏を支持するボブ・キーフさん。
環境問題を学ぶ大学生です。




キーフさんの今の悩みは、大学の学費を払うために借りた学生ローンの支払いです。
卒業までには、ローンは8万ドルに上る見通しです。




ボブ・キーフさん
「公立の大学は貧しい家の学生もたくさんいますが、学費をどこかから調達しなければなりません。
しかし奨学金が得られない場合、学生ローンに頼らなければいけない。
それが貧しい若者を一層苦しめています。」

アメリカの学生の7割はこうしたローンを組んでいて、その平均は3万ドルともいわれています。
こうした若者の不満を自分なら解決できると、サンダース氏は強く訴えています。

民主党 バーニー・サンダース氏
「公立大学の無償化や、学生ローンの負担軽減は過激な考えではない。
これはすでに世界各地で実現していることだ。」



若者がサンダース氏を支持するもう1つの理由、それは選挙資金の集め方にあります。
大企業や富裕層からの大口献金を受け取らず、一般市民に小口献金を呼びかけています。



サンダース氏のCM
“私の選挙活動に、200万人以上もの人たちが献金してくれました。
ウォール街の銀行や億万長者から献金を受け取れば、彼らに対抗できません。”


先月(1月)末までに集まった金額は総額およそ9,500万ドル、日本円で100億円以上に上ります。
市民からの小口献金で選挙活動を行うサンダース氏ならば、大企業ではなく庶民のための政治をしてくれるとキーフさんは考えています。


ボブ・キーフさん
「僕のような小口献金者がサンダース氏を支えています。
富裕層や企業に影響されないので、彼は自分が本当に信じていることを言えると思います。」



サンダース氏の勢いを受けて、クリントン氏の訴えにも変化が表れています。
格差の問題を意識した発言を繰り返すことで、サンダース氏への支持を切り崩そうとしています。



民主党 ヒラリー・クリントン氏
「学生は多額の借金を抱え、中小企業の経営者は休む暇もない。
中間層には、賃上げともっと多くの仕事が必要だ。」


格差社会への怒りが生み出したサンダース旋風。

民主党 バーニー・サンダース氏
「政治革命は今夜から始まるのだ。」




異色の候補者の躍進は、アメリカ社会の大きな変化を映し出しています。

大統領選挙に“異変”あり

ゲスト中山俊宏さん(慶應義塾大学教授)

●共和党はトランプ氏がリードし、民主党はサンダース氏がクリントン氏に肉薄する展開 予想していた?

全く予想していなかったですね。
今年(2016年)始まったぐらいのときも、サンダースとトランプが予想外にいくなというふうに思っていましたけれども、まさかこの時点で、ここまで頑張るというふうには、ほとんど想像してなかったですね。

●アメリカの大統領選挙においては「革新的」や「リベラル」などのレッテルを貼られたら、勝てないといわれていた サンダース氏は社会主義的な政策を打ち出しているが?

特に若い人の間で響いているというところがあると思うんですけども、やっぱり「資本主義」っていうことばの前に、例えば「カジノ的」とか、「投機的」ということばがつきがちで、さらにそれが格差を生む根源になってるというような見方が、やっぱり若い人たちの間で相当強く(ある)。
なおかつ、若い人たちっていうのは冷戦時代の米ソ対立というのを知らないですから、「共産主義」とか「社会主義」っていうことばのイメージが全然違うと思うんですよね。
ただ、社会主義っていうのはアメリカでタブーだったっていうのは知っていて、でもあえて、そのタブーを破って、変化を訴えるそのサンダース氏に、若者はやっぱり大きな期待を寄せているということじゃないんですかね。
オバマ大統領が「チェンジ」って言ってましたけど、サンダース氏の場合は「レボリューション」と、革命だということを言っているので、若者はサンダースが示すこの大胆なビジョンに引きつけられてるということなんだろうと思います。
新鮮さということだと思いますね。
それから彼は年配ですけど、知名度は高くなかったので、やっぱり新しいんだと思うんですよね、若い人たちにとっては特に。

●短期間でのムーブメント ベースにはウォールストリートに対する嫌悪感があった?

格差ということばを、ビデオにあった「オキュパイ・ウォールストリート運動」っていうのはアメリカ政治にもう一度引きずり戻したってことがいえると思うんですけども、格差というのは、これまでアメリカではあったんですけど、常に「明日は自分は向こう側に行けるんだ」という希望がアメリカ人の間にあって、それがアメリカンドリームと言われるやつですけれども、ですからその格差そのものを告発し始めると、もうアメリカンドリームというのは成立しないんだっていう意味合いを持ってしまうんですよね。
ですから、格差というのはありつつも、これまであんまり政治問題化してこなかったんですが、やはり若者の間ではこの格差はなかなか乗り越えられないというようなイメージが非常に強くなってきているということの、兆候なんじゃないでしょうか。

●サンダース氏が訴えている政策、本当に政治的に実現可能なのかと思うものが多いが、それでも夢を託したいと?

夢を託したいと同時に、これはトランプ氏についてもいえることですけれども、問題の原因をそのシンプルに定義して、ピンポイントして糾弾するっていうことを両候補ともやっていると思うんですけれども、サンダース氏の場合は、格差であり、なおかつウォールストリートがすべての諸悪の根源だという形でメッセージを組み立てて、ここを変えていかなきゃいけないと言う。
そのメッセージの単純さということに引きつけられているという側面も多いと思うんですね。

●トランプ氏は移民や難民に対して差別的な発言を繰り返し、自分は雇用を作る大統領になる、アメリカをグレートな感じにまた戻すと言うが、それだけで具体的な政策があまりない?

あまりないですね。
トランプ氏の場合も、やはり主として共和党の側にある不満を刺激してるんだと思うんですけれども、その不満っていうのは、変わっていくアメリカに対するこの不安感というんでしょうか。
これまで自分たちはメインストリームにいて中産階級を支えてきたんですけれども、その人たちが、ともすると転落するかもしれないという恐怖感を示す。
トランプ支持層の共通項として、よく学歴があまり高くないということが言われるんですけれども、この人たちは恐らく、グローバリゼーションの波の中で生き残っていくスキルをもはや身につけてないと。
だから、今ある境遇からなかなか抜け出せない中で、トランプ氏が「こいつらがいけないんだ」ということをピンポイント(で指摘)してくれる。
たぶんこの層っていうのは、もはや自分たちが白人のアメリカ人であるっていうところしか、もう自己確認をするすべがない。
そのへんの不満とか、いらだちみたいなものを、トランプ氏は非常に鋭敏に、たぶんこれは練ったというよりも感覚的に察知したというところが多いと思うんですけれども、刺激して、ある種の大きなうねりを共和党の中で作っているんだろうというところだと思うんですね。

●両者はイデオロギー的にも全然違うが、支持者はトランプ氏かサンダース氏だと言う 8年間のオバマ政権を見て、どんなことが言える?

2人の共通項っていうのは、既存の政治の枠外にいるということだと思いますけれども、ある意味、オバマ時代が生み出した現象だと思うんですが、その左派の人、リベラル派からしてみますと、オバマ大統領は期待したほどリベラルではなくて、そういう意味では不十分だったと。
この穏健派の人からしてみますと、オバマ大統領はアメリカを真っ二つに割ってしまったと。
その保守派の人からしてみますと、「オバマケア=医療保険制度改革」等でやたらとこの政府を大きくしてしまったと。
不安ばかりが目立つような感じになってしまって、オバマ大統領は非常にこのふわっとした「チェンジ」というビジョンを掲げて、アメリカをいい方向に持っていこうとしたんですけれども、その期待がいわば裏切られて、このトランプ氏とサンダース氏、双方がいわばこの非常にダークな部分、不満とか怒りみたいなものを刺激して、今こういうことになっているという状況だと思いますね。
(アメリカの資本主義に対する問いかけ、アメリカの国の在り方が問われている?)
それは大きい問題だと思いますね。

ただ、このトランプみたいな、恐らく「デマゴーグ」と言っていいと思うんですけど、あとサンダースのような、ある種、社会主義的な人というのは、実はアメリカの歴史にも過去にもいたんですね。
ですから、この2人がこうやってこのエネルギーを獲得しているというのは、やっぱりアメリカが難しい局面に陥ってるってことは、間違いないと思うんです。
ただこれまでもアメリカは変わってきたので、私はまた揺り戻しがくるというか、バランス感覚が働くんじゃないかと見てるんですけどね。

●誰が党の候補になるのか、共和党・民主党をどう展望する?

これはもう、全然分からないですね。
これまでのセオリーが全く役に立たないようなのが今回の選挙なので、現時点で言いますと、トランプ氏が共和党の候補になる可能性が一番高いと。
(民主党では)これまでですと、クリントン候補が勝つだろうということでしたけれども、そこはもはや、ちょっと自信を持っていえないような感じですね。
「分からない」というのが今回の選挙の特徴だと思います。

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