クローズアップ現代

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No.37712016年2月17日(水)放送
黒字企業が消えていく ~自主廃業3万社の衝撃~

黒字企業が消えていく ~自主廃業3万社の衝撃~

世界が愛した名品 メーカー廃業で消滅!?

スタンフォード大学教授 ブライアン・コンラッドさん
「ドメインから外れた場合、どんな時でも0以下の整数になり…。」

理系の世界最高峰、スタンフォード大学の数学者たちが愛してやまない日本製品があります。

それは、このチョーク。
1本30円以上しますが、このチョークでなければ研究や授業が進まないと言います。



スタンフォード大学教授 ブライアン・コンラッドさん
「しなやかで折れにくい。
書き心地が悪いと思考が妨げられるんだ。
まさに最高のチョークだよ。」


この大学で5年以上愛用されてきた日本製のチョーク。
しかし今は、これまでのように入手できなくなりました。
製造していた日本の会社が1年前に廃業したからです。

「数学界にとって悲劇だ。」

スタンフォード大学教授 ブライアン・コンラッドさん
「他のチョークよりとても質が良くて、なくなるのが残念だ。」

世界に誇る技術 優良企業がなぜ廃業

世界最先端の研究を支えてきたチョークは、名古屋市にある社員12人の会社で作られていました。

渡部隆康さん
「ここが、うちの工場だった。
ここら辺一角が。」

経営者だった渡部隆康さん、72歳です。
3年前、病気で体調を崩したことをきっかけに、父親の代から82年続けてきた会社を畳みました。

世界が認めるオンリーワンのチョークは、渡部さんが40年以上、改良を重ねた結果、生まれたものでした。




渡部隆康さん
「(これは)食品の機械。
小麦粉を練るとかパン屋さんが使う機械。」

折れにくく、しかも滑らかなチョークを作るために、材料を均一に混ぜる機械を改良しどこにもまねのできないチョークの生地を仕上げました。
そうした改良を100回以上重ねた結果、最盛期には年間9,000万本を受注。
国内シェアの3分の1を占めるまでに成長しました。
渡部さんは、自分が病気になるまで後継ぎの問題を真剣に考えたことがありませんでした。
いざそのとき迫られたのが、3人の娘か社員の中から後継者を選ぶこと。
ところが、実際に引き継ぐ内容を整理し始めたところ、その種類と量の多さに途方に暮れたと言います。

渡部隆康さん
「小さい企業というのは、何もかも自分でやらないといけない。
営業から、生産のことから、人事のことから、すべてやらないといけない。
そう簡単に『やりますよ、やりますよ』というふうにはいかない。」

次に、渡部さんの頭に浮かんだのは、会社を丸ごと買ってもらうM&Aでした。
しかし、病気になる1年前、偶然取り引き先の銀行から聞いたM&Aの経費は、2,000万円。
会社の2年分の利益に当たる額でした。
今や、電子黒板やタブレット端末が出回る中、多額の経費を払ってまでチョークの将来性はあるのか。
渡部さんは、M&Aも断念。
社員たちにせめてもの退職金を渡せるうちに廃業することを決断しました。

渡部隆康さん
「従業員にも退職金が払えないとかなっちゃいますよね。
他にもいろいろ迷惑かけることのないように。」

「そこは重視した?」

渡部隆康さん
「当然やめるとなれば、そういう資金もいるということで、現在の資金の状況などを考えてやめましたよ。」

改良を重ねてきた設備や、他社にはまねのできない配合のレシピ。
渡部さんは、そうした秘伝のノウハウを韓国に売却。
82年続いてきた会社をみずから畳んだのです。
ところが、廃業から1年たった今、渡部さんは自分の選択に心残りがあると言います。

12人いた社員のうち、再就職を果たせたのは分かっているだけで2人のみ。
多くの人は働き口が見つかっておらず、失業保険などで暮らしをつないでいる状況だと言います。
さらに、チョークの将来性に疑問を持って辞めた渡部さんにも予想だにしない皮肉なことが起こりました。

これは、廃業を公表してから渡部さんのもとに届いた経営者などからのメールです。
そのほとんどが渡部さんの会社の技術力とブランド力を高く評価し、事業を継承したいという申し入れでした。
さらに、新たなマーケットの可能性を指摘するものさえありました。

“中国ではチョークの市場は大きい。中国人にアピールできるのではないか?”




メールの指摘のとおり渡部さんから設備を購入した韓国では、これから中国を含めた5か国に売り出そうとしています。
後継ぎ問題に一人孤独に悩み続けた渡部さん。
会社の価値を客観的に知ることができたのは、後になってからでした。

渡部隆康さん
「こんなに反響が出るとは思っていなかった。
外から客観的に見るのと、自分で考えているのとでは違いは出ますね。」

悩める中小企業 なぜ廃業を選択

ゲスト山口義行さん(立教大学教授)

●余力を持って廃業を決断する中小企業の経営者 いろいろな経営者と接して全体としての空気はどうか?

そうですね、もともと、あと10年で辞めようかとかね、あともっても5年かなとかね、そういう先を考えちゃってて、腰が引けてる経営者っていうのは、やっぱり全国的にはたくさんいますよね。
だから、ここで本当は設備変えたい、借金してもやりたいんだけど、それをやってしまうと借金が残ってしまうので、やっぱり辞めるときにハッピーリタイヤで、ちょっとは資産を残したいと思うと、無理をしないでってなりますから、やっぱり経済全体としては元気を失っていくということになりますね。

●VTRの渡部さんはちょっと心残りがあるということで、見ていてもったいなかったなと思うが?

もったいないですね。
ひと言で言うと、もっと早めの準備が必要だったと。
やっぱり体調壊されてからっていうことになったんだけど、もっと早い時期に、事業をどうやって承継するか、M&Aをやるならやるとしても、どういうふうに計画的に進めるか。
なかなか、でも実際、日々、経営してると、そういうことはあまり考えませんけどね。
でもやっぱりそれが本当に今、求められてるんだと思いますよね。

●積極的に自分の子どもや誰かに継がそうと思えない経営環境があるのでは?

やっぱり将来性の問題だと思うんですね。
先ほどのチョークでも、もう業界として古いんじゃないかと。
でも実は、日本で古いものは海外で新しいっていうことも、まだありますから、いろんな可能性あるんですけど、やはり自分の目で見ると、ちょっと無理かなと思ってしまう。
そうすると、将来の不安定な中で、子どもに継がせようってなかなか言いにくいと。
周りから言うと、本人が言ってくれないと、この話題、出せないんですよ。
下手に言って“お前、俺を殺すつもりか”なんて言われちゃったら困っちゃうので、みんな、なかなか言えなくて、みんなが腰が引けてる状態のままずるずるいく。
ある程度の年齢になってから継いでくれって言われると、子どももそれなりの社会的な地位を持ってますから、急に変わるってわけにはいきませんということで、こういう問題が発生しちゃうんですね。

●自分の企業価値を低く見つもる傾向にあるのか?

2種類あると思います。
本来、もっとポテンシャル持ってるんだけど、そこが見えてないという経営者、これもたくさんいます。
一方では、思い入れが非常にあるために、うちの会社の価値はもっと高いはずだと思ってる人もいますよね。
結局、M&Aやりましょうって言って、ぎりぎりまで詰めていくと、価格の折り合いがつかなくて、いや、こんな値段じゃ俺は許せないって言って、結局だめになるというケースも非常にあるんですよ。
だから、M&Aって結構難しいんですよね。

●渡部さんも相談する相手がいないと話していたが、孤独になりがちなのか?

本当に情報の不足というのは、ものすごく大きいと思いますし、先ほど、(M&Aの)仲介料2,000万円っていう話がありましたけど、これは本当に高く売れれば、その売った値段からその分払えるわけですよね。
だから、“2,000万、大変だ”と思う前に、もう少しいろんな人と相談をして、うちの会社の価値はどれぐらいになるんだろうかと、ちゃんと算定してみるということが必要だったかもしれませんね。

「必ず強みはある」 中小企業 引き継ぎへの挑戦

「事業引き継ぎ支援センターです。」

国が4年前から各都道府県に設置を始めた、事業の引き継ぎを専門に扱う組織です。
ここでは、後継ぎ問題に悩む経営者の相談に無料で応じています。

支援センターに悩みを抱えた経営者がやって来ました。
10年以上、地域でサービス業を営んできましたが、親の介護とライバル店の開業が重なり、会社を続ける自信がなくなっていると言います。

相談に来た経営者
「『激戦区だね』って言われて。
(ライバルの)新しいお店はスタッフが若い。
若い方のパワーってすごいと思います。」

経営者の話を聞きながらセンターの相談員は会社の強みとなる点を探っていました。

相談に来た経営者
「店を出したのは12年ですけど、(この仕事)してるのは21(歳)からなので、(もう)25、6年。」

センターの相談員
「そういう意味で、近隣のところとは経験値の差はぬきんでている。
であれば、新しい人を迎え入れて経験を伝えていかなければ。」

経営者が長い間に培った経験値。
センターの相談員は、そこに客が引き付けられている可能性があると伝えました。

相談に来た経営者
「改めて経験が武器になるんだと思いました。
自分たちの視点からだと、こういう感じで狭くなっていたのを、いろいろな知恵をいただいて。
(会社を)やめるのではなくて、ちゃんとした形でつなげたい思いが強くなった。」

ここでは、多いときには20回以上相談を重ね、結論に至るまで寄り添っていきます。
こうした支援を続けた結果、開設以来4年間で54件の事業の引き継ぎを成立させています。

一方、地域を支える金融機関でも中小企業存続のための支援を強めています。
兵庫県を拠点にするこの信用金庫では、7年前から財務諸表には表れない企業の価値を「見える化」しています。


「これは当庫が作成している『知的資産経営報告書』です。」

企業のブランド力や技術力そして、業務を進めるスピードや経営者の人脈まで記されています。


但陽信用金庫 理事長 桑田純一郎さん
「我々だって果たして10年後20年後に当金庫としても生き残っていけるのかと。
それなら我々は取引先である方々に、一緒に共に発展するために何をすればいいのかと。」

この信用金庫と共に会社を客観的に見つめたことで後継者が決まった企業があります。

こちらの社員27人の建設会社では、7年前まで後継者の不在が課題となっていました。
当時、後継ぎ候補だった専務の西田俊一さんです。
西田さんは、会社を背負っていくことに自信を持てず継ぐ気はありませんでした。
そんなとき行われたのが信用金庫と強みを探るミーティングでした。

これは、全社員で会社を振り返ったときに作った一覧表です。





それぞれの社員が、思い思いに会社の強みと弱みを挙げていきました。




そして、それを信用金庫の職員と共に整理することで社員から強みを伸ばそうという意識が芽生えたと言います。
例えば、迅速力を高めて工期を3分の1に短縮。
コストダウンに結び付け、成果を上げています。
さらに、後継ぎ候補の西田さんも心境が変化したと言います。
会社の強みが明確になったことで、引き継ぐ覚悟ができたのです。

姫路ハウスサービス 専務 西田俊一さん
「今まで見えなかったものが、こういったもので『見える化』になったんです。
そういったものも、やはり承継していかんと、ここで終わらせたらダメ。」

黒字経営を続ける会社なら必ずある独自の強み。
それを会社みずからが意識できること。
そして、会社に寄り添える支援が今、求められています。

ピンチこそチャンス 中小企業の可能性

●企業の強みが明らかになったことで事業を継承する人も出てきた このような取り組みをどう見るか?

会社のいいところ、強みを見える形にしよう、みんなで、そこを確認しようというのは、すごくいいやり方だと思いますね。
ついつい、どこが問題かって、すぐみんな、周りから突っついちゃうんですけど、それでは後を継ごうとする人は出てきませんからね、すごくいいんですけど、問題は、この強みを本当に生かすには何が必要なのか、どんな経営戦略が必要で、例えば、どういうふうにブランディングしていくかとか、あるいはどういう販路を探してきたらいいのか、その強みを生かす手法を、どこまでアドバイスできるかというのが、これから問われてくると思うんですよね。
そうするとやっぱり、それに合った専門家をどう養成するかということが、今度は問われてきて、金融機関を、お金を貸すことの専門家から、事業を育てる専門家をどうやって作っていくかと。
ここにもっと大きくシフトしていかないと、本当にいい役割を果たせないというふうに思いますね。

●この低成長時代に事業継承をどう捉えたらいいのか?

皆さん、お父さんの代って、わりと成長率の高いときに後を継いでますから、どんどん規模を拡大していけばいいんですけれども、今、大体年間0.8%から0.9%ぐらいしか成長してないんですよ、2000年代。
そんなときに引き継いで一体何をやれって俺に言ってんのというふうに引き継ぐ側から言えば、言いたくなっちゃいますよね。
私はそこの答えって、やっぱりね、事業承継というのは、会社を引き継ぐことじゃなくて、引き継いだ舞台の上にどんな新しいものを作っていくのか、自己変革、イノベーションの担い手になるというのが、実は事業承継なんだと思うんです。
事業承継者なんだと思うんですね。
例えば、体脂肪計っていうのがありますよね。
これ今、すごく広範囲に売られてますけど、これは実は、板橋の小さな金属加工屋さんが本当に中小企業です、潰れかけてたんです。
それを引き継いだ2代目さんが、いろんな事業を全部やめて、体脂肪計だけに絞ったんですけど、そうなると、人もだんだん減っていっちゃうし、どうしようか。
そのときに、体重計に人はなぜ乗るのかと自分で問うた。
そしたら、やっぱりみんな健康が気になって乗るから、体重計って健康を測る機械なんじゃないのって、考え方が変わったんですね。
そこで、一番いい体重ってどのくらいなんだろうということで、お医者さんに相談したら、お医者さんが体重だけじゃだめだよと、体重と脂肪との関係が大事だよということを教えてくれて、そこで体脂肪計というのを開発するんですね。
これで、この会社は飛躍的に伸びていくんですけど。
さらに、その3代目が今は、今度、健康をさらに広げていって、いろんなレシピとか、そういうものまでやりだしている。
皆さん、聞いたらよく知ってる会社なんですけど、これも実は本来は、その小さな金属加工業が会社を引き継ぐたびにイノベーションを繰り返していったことが大きな広がりになっていった。
そういう持ってる、まさに潜在能力を花開かせるっていう、そのおもしろさを引き継ぐ側が感じ取ってくれれば、僕はこれから、まだまだ引き継ごうという人も出てくるし、引き継がせる勇気も出てくると思うんですね。
だから事業を引き継ぐってどういうことなのかということを、やっぱりとことん話し合うということが重要なんじゃないかって、僕は思うんですね。

●廃業によって企業のノウハウやネットワークや雇用が失われていくと思うと、日本の事業継承は本当に大事なことだと思うが?

大事ですね。
国全体を挙げての課題だと思います。
そういう意味で、私の大学でもやってますけど、会社を引き継ぐというテーマを事業に掲げて、若者たちの意識改革を促そうと。
俺がやってやるよっていうようなそういう若者を作るっていう、そういう努力もわれわれの世代は担わなければいけないことだと思うんですね。

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