クローズアップ現代

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No.37702016年2月16日(火)放送
狙われた就学支援金 ~“教育特区”で何が~

狙われた就学支援金 ~“教育特区”で何が~

“勉強せずに高校卒業” 生徒が語る内実

「こんばんは、よろしくお願いします。」

関東地方で、母親と2人で暮らす、18歳の男性。
ウィッツ青山学園高校通信制の3年生です。

「学校側から教材とかは来ているのですか?」


18歳の男性
「いや全く来ていないですね。
全く(勉強を)やらなくて、卒業できるといわれた。」


定時制高校を中退した男性。
ウィッツ青山学園なら、全く勉強せずに卒業でき、学費も払わなくていいと聞き、入学を決めたといいます。

50歳になる母親。
実は、この母親も同じ高校の1年生です。




母親
「子どもにもウィッツの後輩ですから、よろしくー、みたいな。
この年で高校生というのは、常にちょっと、うれしい気持ち。」

狙われた就学支援金 疑惑の高校で何が…

ウィッツ青山学園高校は、平成17年に三重県伊賀市に設立されました。




本校で学ぶ、定員60人の全日制に加え、通信制の課程も設けられました。
校舎は、廃校になった小学校を利用しています。



設立当時のPRビデオです。
パソコンを利用した授業など、新たな教育の形をアピールし、生徒を募集しました。
運営しているのは、学校法人ではなく、株式会社です。


株式会社による学校経営は、小泉内閣が推し進めた規制緩和のひとつ、いわゆる教育特区で認められました。
教育は営利企業になじまないとして、反対の声も上がりましたが、特色ある教育が実現でき、地域の活性化も図れるとして、特区の導入が決まりました。
製造業などを手がける、東京の会社が親会社となり、ウィッツ青山学園が誕生したのです。
開校後、伊賀市内のイベントに多くの生徒が参加するなど、市民からも歓迎されました。

市民
「こちらは納涼祭りですね。
あと運動会にも参加してくれています。」

学校は、不登校になったり、高校を中退したりした若者の受け皿にもなっていました。

市民
「若い子たちがいてくれる雰囲気だけでも違います。」



しかし、地方の山あいにある本校に、全日制の生徒は集まらず、毎年定員割れ。
経営が赤字に陥る中で、増えていったのが、通信制の生徒でした。

学校は、通信制の生徒の相談に乗ったり、学習の場を提供する、サポート校と呼ばれる施設を全国45か所に設置。
ここが、生徒集めの拠点になっていきました。



通信制の生徒数は急増し、開校当時の13倍、1,200人に膨れ上がりました。
急激な生徒増加の背景に何があったのか。



平成26年、新たな法律で、高校の授業料を国が生徒に代わって学校に支払う、就学支援金制度が始まりました。
年収が、250万円未満の家庭の生徒が在学している場合、年間およそ30万円を高校が受け取れるようになり、なりふり構わない生徒の勧誘が始まったといいます。
学校運営の内情に詳しい人物が、匿名を条件に取材に応じました。

学校運営の内情を知る人物
「学校も来なくてもいいです。
100%卒業保証します。
ビジネスですよ。
ビジネス以外の何物でもない。
その中には教育、教えるということは介在しない。」

NHKが入手した、東京のサポート校の生徒勧誘マニュアルです。




ほかの通信高校と違って、必ず卒業できると言い切るよう指示しています。
上限いっぱいの支援金を得るため、勧誘する人の職業を列挙。
外国人も勧誘の対象でした。

学校運営の内情を知る人物
「年収が低い方、建設作業員とか、あと生活保護を受けている方とか。
外国人であったりするから、そもそも日本語を読めなかったりする。
教育の『きょ』の字もない。
国の税金、食い物にする形。」

受給資格がないにも関わらず、支援金が申請されていた生徒もいました。

元生徒(40代)
「私は1回(高校を)卒業しているので、入る理由はないんですけど、全く問題ないと。
大学に何度も入れるように、高校にも何度でも入れますということで。」

教育現場での不正受給疑惑。
親会社のトップ・福村康廣社長に責任を問いました。

東理ホールディングス 福村康廣社長
「会社としては全く関与していない。
高卒でもいいとかという営業は、我々も全く知らなかったというのが現状であると。」

一方、一部のサポート校での勧誘は不適切だったと認めました。

東理ホールディングス 福村康廣社長
「いちばん楽に卒業できるというのを売りにしたのではないかと。
教育現場としては、あるべき姿ではない。」

狙われた就学支援金 “教育特区”で何が

ゲスト山内拓磨記者(社会部)

●学校は十分な教育もしない 受給資格のない学生を集め、支援金を得ていた なぜこのようなことがまかり通る?

生徒の受給資格や教育内容を十分チェックして、支給する仕組みにはなっていなかったということなんです。
広域通信制の高校でも、文部科学省が定める学習指導要領に沿って、本来であれば、年に数回、本校に通ってレポートの添削ですとか、面接指導などを受ける必要があります。
しかし、卒業に必要な授業時間などの細かい決まりはなく、どのような教育を行うかというのは、事実上、学校に任されていたということが実情になります。

●一体いくらの支援金が不正に支払われたのか、どこまで明らかになっている?

ウィッツ青山学園に昨年度支払われた就学支援金は、1億5、000万円余りです。
今回、取材した生徒の中には、やむを得ない理由で高校を中退して、通信制でやり直そうと、この高校に入って、真面目に勉強に取り組んでいるというような人もいました。
しかし、一部のサポート校では、例えば生徒を紹介すると1人につき、5万円の謝礼を支払うなど、教育とはおよそかけ離れた生徒集めというのも横行していたんです。
特捜部は、不正受給がどの程度広がっていたのか、さらに会社の組織的な関与はなかったのかどうか、捜査を進めています。
また、文部科学省ですが、今回の事件を受けて、全国の広域通信制の高校を対象に、就学支援金の支払い状況について緊急の調査をしたんですけれども、これまでのところ、ウィッツ青山学園のような問題は見つかっていないということです。
まともな教育が行われないまま、就学支援金が不正に支払われるという事態はあってはならないことですので、徹底した調査が求められると思います。

“教育特区”で起きた不正 なぜ見抜けなかったのか

ウィッツ青山学園高校がある、三重県伊賀市。
平成16年、教育特区を国に申請しました。
子どもの減少で、市内の小学校の廃校が相次ぐ中、高校を新設するという話は魅力的だったといいます。


伊賀市教育委員会 教育総務課 宮﨑寿課長
「新しい教育といいますか。
地域にも希望を与えるようなものが、できるのではないかという思いはありました。」


その後、通信制の生徒を急激に増やしていった高校。
実は、異変に気付くチャンスがあったことが分かりました。

4年前、伊賀市の教育委員会に、不適切な勧誘が行われていると告発があったのです。




教育特区の高校を指導・監督する立場にある、伊賀市。
しかし、担当する職員は2人。
全国で行われる勧誘の実態や、生徒1,200人の教育内容をチェックするのは困難でした。
公立学校ではなく、株式会社が運営する学校だということも指導を難しくしていたといいます。

伊賀市教育委員会 教育総務課 宮﨑寿課長
「市のほうは株式会社ですので、あまり経営に口をはさむことはなかった。
特に通信制っていう部分がなかなか難しい。
そういう指導ができるスタッフ・職員がいなかった、また配置してこなかった。
そこを反省しまして。」

“教育特区”をわが町に 期待をかけた自治体

地方の人口減少が進む中、教育特区に期待をかけた自治体があります。

埼玉県小鹿野町です。
去年(2015年)、ウィッツ青山学園高校の関係者が、町役場を訪れました。
通信制高校の生徒を、さらに増やそうと新たな特区の申請を持ちかけたのです。

小鹿野町教育委員会 学校教育課 髙橋俊行課長
「これが最初にお見えいただいた時の提案書。」




会社側は、通信制であっても、少なくとも年に2回は、およそ600人の生徒が町に滞在すると説明。
町が全国に知られるきっかけにもなり、経済的なメリットが大きいと強調しました。


小鹿野町教育委員会 学校教育課 髙橋俊行課長
「宿泊を伴うと宿泊費だったり、あと飲食が伴いますので、そういった面での経済効果がそれなりに期待できる。」



小鹿野町の人口は、この10年で2割減りました。
およそ3人に1人が高齢者です。

この春には、町内の3つの中学校が廃校となるため、その1つを利用してもらおうと考えました。

小鹿野町教育委員会 学校教育課 髙橋俊行課長
「ここを使って通信制高校がつくれればということだった。」

町は、地元で学校職員を雇えば、雇用にもつながると考え、教育特区申請への準備を進めました。
しかし…。

NHK ニュース7
「悪用された疑いがあるのは、就学支援金という…」

去年12月、就学支援金が不正受給された疑いが浮上。
町は、計画の白紙撤回に追い込まれました。
担当者は、町への経済効果などに目を奪われ、十分見極められなかったと感じています。

小鹿野町教育委員会 学校教育課 髙橋俊行課長
「よくその教育に対する理念というものを、しっかり聞いた上でやらないとまずかった。
今は反省しているところです。」

“教育特区”で起きた不正 文科省は…

教育特区を巡っては、一部で不適切な教育が行われていると、これまでも指摘されてきました。
文部科学省は、事態をどう受け止めているのか。

文部科学省 教育制度改革室 今井裕一室長
「今回の事件が起きるまでに具体的な策が打てなかったという指摘につきましては、我々としても重く受け止めなければいけないと思っています。
ウィッツ青山学園高校の例をきっかけとして、この遅れを取り戻すべく、検討を進めていきたいと考えています。」

狙われた就学支援金 “教育特区”で何が

ゲスト金子元久さん(筑波大学特命教授)

●支援金を巡る疑惑、教育特区制度を利用した営利追求が優先されたというふうに見えてならない もともと教育と営利は相いれるのかという議論もあったが、今回のケースどのように見ている?

結果として、こういう問題が出てきたのは、非常に残念ですけれども、ただ、私は原理的に、企業が教育をやってはいけないという理由は、必ずしもないのではないかと思います。
問題は、教育サービスの質を保証するというメカニズムが同時に作られていなかった。
たぶんそこにあるのではないかと思います。

●ウィッツ青山学園高等学校のケースでは、非常に教育体制がぜい弱だったと言われているが、質を担保する制度がなかった?

教職員1人当たりの生徒数が100人近いというようなことも聞いています。
こういう学校に行く生徒さんの中には、いろいろと問題を持っておられる方もいると思うんですけれども、こういう体制で十分な教育ができるかというのは、これは、もう明らかにできないだろうと思います。

●この自治体側から見ると、自分たちが目指した特色のある教育を株式会社に行ってもらい、多くの生徒たちを呼び寄せる 実態はそうならなかった?

そういう意味では、自治体のもくろみは外れてしまったというのは、その通りだと思います。
(こういう株式会社が運営する学校というのは、容易に拡大することができる?)
通信制というのを採ったというところが、みそと言えば、みそだろうと思います。
それから、先ほどのように、かなり教員1人当たりの生徒数が多いと、利益はある程度あるんだろうと思いますね。
そういった意味で、かなり拡大してきたという事情もあると思います。

●本来の教育目的が達成されていない中で弊害が見えてきた時、罰則はある?

特区制度というのは、ある意味では、非常に不思議な制度でして、何か新しいことを自治体がやりたいといえば、大体認めて、弊害がなければ全国化するという制度なんですけれども、今回のこの場合は、全国化することが認められる前に、実態として全国化してしまった。
しかし内容を見てみると、非常に問題があるということなんですよね。
ただ、特区制度は、ある意味では変化をもたらすこと、起爆剤みたいなことを要求されていたので、潰すということは、実はそこに入ってないんですね。
もはやもう、これは特区制度自体の問題ではないと、私は思います。
(むしろ、質の問題だと?)
そうだと思います。
もう一方で見てみれば、こういった学校に行きたいという生徒もいるわけですね。
高校途中で辞められたとか、いろんな意味で、学び直しの機会を求めている人はいるわけで、今、高校進学率がかなり高いですけれども、本当に卒業している人の率を計算しますと、1割近くはもう卒業してないんです。
そういう人たちに対して、教育の機会を与えるというのは、私は非常に重要だと思います。

●ますます質が問われるべきだと思うが、ここからどういう体制を作らなければならない?

先ほどのお話がありましたように、市町村で、この体制を作るのは非常に難しいと思います。
まず1つ、非常に重要なのが、外形的な基準ですね。
教員1人当たりにどれくらい生徒がいるとか、こういったものは情報公開する仕組みは必ずやはり作らなければいけない、生徒にも、それがちゃんと見えるようにするということは非常に重要だと思います。
さらにその上で、やっぱりどのくらいの質を、努力をしているのかということを見極めるような組織が、たぶん必要だろうと思います。
文科省が直接やるか、都道府県教育委員会がやるか、あるいは別な団体、第三者団体を作るかということは、議論があると思いますけれども、なんらかの形で評価したりする機関が必要だろうと思います。
やはり一定の、若者として獲得すべき、読み書きの能力であるとか、数字の能力であるとか、そういったものを確保するということは今、現代社会では重要になっていると思うんです。
そのための支援金だったと思いますし、前向きにそういったものを使っていくことは重要だろうと思います。

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