クローズアップ現代

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No.37682016年2月10日(水)放送
“肩こり解消”で思わぬ被害!?~癒やしブームの陰で何が~

“肩こり解消”で思わぬ被害!?~癒やしブームの陰で何が~

こり・疲れ解消のはずが 施術でケガ続出

長年、肩こりに悩まされている、50代の女性です。

被害にあった女性
「肩こりがすごく、つらかったので、本当に軽い気持ちで。」



肩のこりをほぐす施術を受けたところ、全治1か月の重い症状に見舞われました。
近所に新しく出来た施術所で、なかなか肩のこりが取れないと訴えた女性。


すると男性スタッフは、2人がかりで施術を行いました。
1人が体を押さえ、もう1人が肩から腕にかけ、全身の体重をかけるように強く押し続けました。
すると…。


被害にあった女性
「激痛が走ったんです。
『痛い』って言いました。
『やめてください』って感じでした。」


翌朝、右腕は内出血を起こして、変色していました。
強く押されたせいで、毛細血管が破裂していたのです。
整形外科に通い、治るまでに1か月かかりました。

被害にあった女性
「『どこで何をしてきたんですか』って、ちょっと驚きでした、先生のほうも。
施術ではなく、暴力に近いと。
右腕を上げるのがつらかった、痛いという。
青くなっているのが、下にどんどん下がっていってから、色が黄色くなって消えていくんですけど、かなり(時間が)かかりましたね。」

中には、施術を受けたことで、仕事を辞めざるを得なくなった人もいます。
関西地方に住む、60代のこの男性は、脊髄を損傷する大けがをしました。

被害にあった男性
「だんだんひどくなってくる。」

男性は、全身の痛みとしびれに苦しめられています。
痛みを少しでも紛らわせようと、家の中を歩き続けています。



被害にあった男性
「座らないようにしてる、しんどいから。
しびれがきつくなる。
横になって寝ることができない。」


部品工場で、立ち仕事をしていた男性は長年、腰痛に悩まされ、3年前、近くの整骨院に通い始めました。
ある日、腰痛に加え、右腕にしびれを感じました。

それをスタッフに伝えると…。
首を治せば、楽になると言われ、首を左右に急回転されました。
しかし、帰宅後、全身の激しい痛みに襲われたといいます。


けい椎を急激に回転させる施術は危険な技として、以前から厚生労働省も禁止するよう、業界に通知していました。




男性は、整形外科で脊髄損傷と診断されました。
手術しましたが、回復は困難と見られています。




以来、全身の痛みとしびれが片ときも消えず、食事の時は、介助箸を必要としています。
細かな作業ができなくなり、工場の仕事は辞めざるを得ませんでした。

被害にあった男性
「会社は退職しました。
手が動かないから。
先は心配というか、どうなるかと思う。
何もできなくなったから、毎日がしんどいですね。」

男性が月に1度通っている、整形外科です。





整形外科医 松村文典さん
「しびれきつい。」

被害にあった男性
「だんだんきつくなってくる。」

医師の松村文典さんは、男性の症状が重くなった原因は、持病が見逃されたことも大きく関わっていると考えています。




男性は、首のじん帯が骨のように固まり、脊髄を圧迫する病を患っていました。
高齢者が発症しやすい病です。
右腕のしびれは、そのサインだったと見られています。
本来、病院に転送することも含め、慎重に見極めるべきでした。
しびれなどには、重篤な疾病が隠れている可能性があるからです。
しかし、スタッフは、その重大なサインを見逃してしまいました。
男性は、施術を行った整骨院に被害を言い出せないまま、この苦しみを一人抱えています。
主治医の松村さんは、高齢化で持病を抱える人が増える中、施術には、より慎重な判断が求められるとしています。

整形外科医 松村文典さん
「痛みとか、いろんなしびれとか、そういうものの原因は一体何かということを、まず念頭に置いて、いろんな施術をしていかないといけない。
(男性の)生活をある意味、奪った部分があるわけですので、そういったことはやっぱり許されない部分じゃないか。」

こうした危害の相談が、この5年間で、国民生活センターに1,000件以上寄せられています。




いわゆる、マッサージや接骨院のほかに、国家資格が必要とされない整体、カイロプラクティックなどでも起きています。
また、整形外科医による全国調査でも、筋断裂や圧迫骨折、脊髄損傷など重篤な事例が報告されています。

この問題に、いち早く取り組んできた、整形外科医の喜多保文さんです。
慎重であるべき人体への施術を、深い知識を持たないまま行っていることが、被害につながっていると考えています。


整形外科医 喜多保文さん
「人間の体に力をかける、もむ、押す。
こういう行為をしていい人もいれば、すれば危険な人もいます。
施術をしている人間が医学を知らない。
人間の体、人体構造を知らない。
安易な気持ちで施術をかけている例が、とても多いです。」

なぜ、こうした被害が後を絶たないのか。
背景にあるのは、1兆円に迫る市場の拡大です。
消費者のニーズを受け、街には施術所や店舗が競い合うように出来ています。

業界団体のひとつ、JB日本接骨師会でも、柔道整復師の急激な増加が要因の一つだと考えています。




90年代に3万人ほどだった柔道整復師の数は、養成学校の設立条件が規制緩和されたのをきっかけに急増。
現在は、6万3,000人。
施術所は、4万5,000か所に倍増しました。
国家資格を得て、人体に関する知識を身につけても、適切な判断をするだけの経験を積んでいない施術者が増えたためだとしています。

JB日本接骨師会 早津泰治会長代行
「非常に遺憾に思っています。
(以前は)割と修業の場が与えられたんですけど、なかなか人数、卒業生が多いことによって、修業をあまりしない形で、開業される方もなかにはいらっしゃると思います。
技術の未熟さから来る被害、知識不足というものがあるんじゃないかと思います。」

“肩こり解消”で思わぬ被害 癒やしブームの陰で何が?

ゲスト矢野忠さん(明治国際医療大学特任教授)

●気持ち良くなりたい・リラックスしたいと思って、受けた施術によって、さまざまな深刻な被害も出ている 持病を持っている方は気をつけないといけない?

本当にそうですね。
肩こりというふうに、身近な症状なんですが、その背景には、いろんな器質的な病気も隠れていますので、それをしっかりと見極めて、適切な施術をしていかないと、やはり被害が起こってしまうということになります。
ですから、施術者の人は、まず、やろうとする施術が果たして、この人に適しているのかどうか、そういう判断力を身につけておくべきだろうし、適さないとすれば、やはりお医者さんに紹介する。
もし適するという形で判断するとすれば、その人の肩こりを、どういう手技でやったらよく取れるのか、あるいは、その強さはどうしたらいいのか、施術時間をどの程度にしたらいいのか、また、年齢あるいは男女、そういうことを総合的に判断して、その人に合った施術を提供すれば、そういった被害は起こることがなくなるんではないかと。
その辺りのところの施術者の能力、技術、そういったところが問題ではないかというふうに思っております。

●丁寧な問診、あるいは触診など、本来ならしなければいけない?

そうですね。
肩こり、そこに施術をする。
安全ではないかというふうに思われがちなんですけれども、施術そのものが、かなり安全性が高いといっても、それをどう用いるか、用い方によっては害が起こってしまう。
本来は、重篤な疾患というものがあるにも関わらず、それを見逃してやれば、やはり被害が起こりますので、その適・不適の判断、そして、その人に合った施術をどう提供できるか、この辺りが基本的なところで、その基本が十分なってないところに、さまざまな被害が起こってる、そのように考えています。

●国家資格が必要なものとそうでないものとがあり、被害はそのどちらでも起きている この産業が急拡大する中で、深い知識を持たない人が増えているということ?

そうですね。
両方とも被害が起こっているということは、事実です。
国家資格を持っている人たちが、やる分野においても、被害が起こっていますので、それに対しては、さらに資質向上を図っていこうということで、今、進んでいるかと思います。
むしろ、国家資格のないところでは、これはもともと危険性がないという形で許されているわけですが、実際、こういった被害が起こっている実態から見ると、やはり人体になんらかの働きかけをするっていうことは、本来は危険性を持っている、その危険性をいかに排除し、安心・安全の施術を提供できるか。
そこのところが、やはり教育、それから、もうひとつは、やはりリスクマネージメントですね。
この教育を徹底していかないと、なかなか被害は少なくならない。
その点、国家資格の方は一応、業団、そういったところで、さまざまな被害というものを集積して、安全ガイドラインというものを作成して、資質向上に努めているというところで、やっております。

●国家資格取得者の施術所では効能表示してはいけないが、国家資格を持っていなくても出来る施術所では肩もみに効くなどの表示ができる この分かりにくいところも業界全体で捉えてほしいが?

実際、この国家資格を持ってる人の施術所では、これに効きますよと、適応症であるとか、どういうふうな施術をするのかとか、また料金であるとか、そういったことは、一切広告できないという状況にあります。
一方は、取締りがございませんので、やはり誇大な、そういうことをやる。
(広告ができるということ?)
その中でやはり、ここに行けばいいんじゃないかと、思ってしまうというところで、さまざまな被害が起こる。
このあたりもやはり、今後、検討していかないといけないんじゃないかなと考えています。

“肩こり解消”で思わぬケガ 業界が防止の取り組み

対策に乗り出した業界のひとつ、リラクゼーション。
ストレス解消や、癒やしの提供を目的にしています。
国家資格が存在しないため、人体の専門知識を持たなくても施術をすることができます。


業界大手のこの会社では、去年(2015年)1年間で10件余りの被害が起こりました。




ボディワーク 清水秀文代表取締役
「絶対、本当はあってはいけないことですので、重く受け止めております。
自分の技術に慢心していて、もう少し効果を出そうと考えて、やってしまうケースも結構あるのではないか。」

被害を防ぐために、新人スタッフを中心に、人材育成に乗り出しています。
人体の基礎知識の講習を受けなければ、店に立てない仕組みを作りました。


講師
「(首は)非常にナーバスな所ですから、こんな所、ワンワンやっちゃダメだよ。
お客様が『もっともっと』と言われたとしても、がんばり過ぎない。」

さらに被害が起きた際には、マニュアルの改訂に着手しています。

去年起きた、ろっ骨骨折の被害を受け、肩甲骨内側の下、4分の1は圧迫禁止。




骨が弱くなる60歳以上の女性は、2分の1に広げる予防策を打ち出しました。

講師
「肩甲骨の下にろっ骨しかないので、すごい危険。
ここのろっ骨を真上から押すと、ボキっといきやすい。」

こうした基礎知識の積み重ねが、被害の防止につながるとしています。

一方、国家資格を持つ、柔道整復師の業界団体も対策に乗り出しています。
取り組んでいるのは、けがや持病の見逃しをなくすことです。


そのために進めているのが、エコーによる観察です。
この団体に所属する、3割の接骨院が、すでに導入しています。



骨の状態やじん帯損傷など、外部からは見極めづらい異常も把握することができると見られています。




柔道整復師 長田達矢さん
「やっぱり、あると違います。
異常があるような所見が触診とかで出て、疑わしければ撮って(異常が)画像で出れば、その後の治療の参考になるので。」

一方、厚生労働省は、診断はあくまでも医師が行うものであり、エコーの使用を判断の参考にとどめるよう呼びかけています。

この団体では、技術習得のための研究会を定期的に開催。
エコーを正しく使い、見逃しを防ごうとしています。
体に異常が見つかった場合、速やかな対応を徹底するとしています。


JB日本接骨師会 伊集院克副会長
「問診、徒手検査、超音波検査とかして、これは接骨院が今後は抱えちゃいけないという人を、すぐに専門医のところに送ることを徹底していけば、事故が減っていくと考えております。」

“肩こり解消”で思わぬケガ 被害は防げるか

●やはり教育が鍵 今のような取り組みで十分?

いや、現在の教育課程は、これは特に臨床実習が不十分であるというふうなことも含めて、被害が起こっている現状から言えば、さらに資質向上ということで、現在、その教育カリキュラムの検討も進められております。
(国家資格を持つ業界の方ですね?)
そうですね。
それから利用される方は、この方が、有資格者なのかどうかということは判断がつかない。
そこのところを、免許保有者であるということを示すということで、利用される方が、より安全度の高い、そういったものが選択できるように今、講じられているということです。
もう一方(国家資格を必要としない業界)は、やはり、そういう教育がありませんので、ここは、被害を起こさないようにリスクマネージメントの徹底化、また起こった被害を集積して、ガイドラインを作っていくという業界全体の取り組み、これはぜひやっていただくということが、必要ではないかというふうに考えています。

●大手では新人教育を中心に強化しようとしていたが、小さい施術所ではどこまで教育ができているのか? 被害があれば指導ということだが、予防という観点はどうなる?

この予防ということについては、小さな零細であっても、人に関わるということで、施術者のやっぱり倫理観は、それから業界全体が、そういったところも指導していくということで、やはり質の高い安全ガイドラインということが、やはり、利用される方の被害を守る、防止するということに尽きるかというふうに思っております。

●どこで、どんな事故・被害が起きているのか、その被害がなぜ起きたのか、それによってどんな対策が必要なのか 包括して、見える化というのは出来ている?

いや、今も、なかなかできてないところですが、国家資格を持っている団体の方では、それはかなり努力してやっております。
そして、その中で、安全性ガイドラインというものも、作っておりますけれども、全体的には、そこは、まだ行き届いていないということで、今後の検討課題じゃないかというふうに思っております。
(壁を乗り越え、しっかりとした体系作りをする時期に来た?)
そうですね。

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