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No.37602016年1月27日(水)放送
“副作用”がわからない? ~信頼できるワクチン行政とは~

“副作用”がわからない? ~信頼できるワクチン行政とは~

ワクチンの副作用? 拭えぬ懸念

大学1年生の酒井七海さんです。





高校生のときに子宮頸(けい)がんワクチンを接種。
その後、右足と右手が自由に動かせないなどの症状が出ています。




酒井七海さん
「右手だけで書くことはできない。
(右手の)中はビリビリ電気が流れているみたいな、しびれになったりとか。」



ワクチンが定期接種化されたのは3年前。
そのころから、手足の痛みやしびれなど、副作用ではないかと訴える人が相次ぎました。



母親
「(娘は)歩けない状況。
自宅で療養している。」



子宮頸がんワクチンは、がんの予防効果が期待できるとして導入されました。





毎年およそ1万人がかかり、2,700人が死亡する子宮頸がん。
このワクチンは、がんになる人を最大で半分に減らせるとされています。




しかし、副作用ではないかと訴える声を受け、国は定期接種にしてから2か月で積極的な接種の呼びかけを中止。
実態の把握を進めるとしました。




厚生労働省 結核感染症課 正林督章課長(当時)
「できるだけ早く、科学的なデータを集めて国民の皆さまに情報提供していきたい。」



接種の呼びかけを再開するかどうか、判断したいと行ったのが、追跡調査です。

国の制度では、副作用は医師を通じて報告されることになっています。
子宮頸がんワクチンについて報告されていたのは、2,584人。
この人たちが対象となりました。



調査結果が公表されたのは去年(2015年)9月。
症状が続いている人が186人いるとされました。

ワクチン・チェック体制 見えてきた課題

この調査結果に対し、不信感が広がっています。
今も、手足が自由に動かせないという酒井さん。
症状が続いている186人に入っていませんでした。



父親が、公表された国の資料を調べたところ、酒井さんはすでに回復していることになっていたのです。





父 秀郎さん
「びっくりした。
治療も続けていましたので、こういうことはあり得ないと思っていた。」



なぜ、酒井さんは「回復している」とされたのか。
酒井さんは、ワクチンを接種した翌日に突然、失神。
40度近い高熱に襲われ病院を受診します。

このとき、医師らが作成した国への報告書です。
症状は1日で治まり、「回復」と記されました。




その後、手足がしびれるなどの症状が現れるようになった酒井さん。
症状に応じて別の医療機関にかかりました。
しかし当時、どの医師も新たな報告をあげませんでした。



報告用紙には主な副作用が挙げられていますが、酒井さんの症状はいずれにも該当しなかったのが大きな理由だったといいます。




副作用を訴える人たちの団体は、酒井さんのように調査から漏れるケースは少なくないと考えています。





全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会 池田利恵事務局長
「これが先日行った、ワクチン接種後の状況に関するアンケート。」




会のメンバーにアンケートを行ったところ、「症状が続いている」と回答したのは219人。
国の調査結果を上回っていました。
国は、「対象者2,584人すべてを詳しく調べることができなかった」と認めています。


酒井さんのように、「7日以内に回復」と報告されていた人は追跡の必要はないと判断し、現状を確認しませんでした。
さらに、「病院を変わって連絡がつかない」などの理由で追跡できなかった人が845人。
結局、国が現状を確認できたのは442人。
全体のおよそ6分の1でした。

全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会 池田利恵事務局長
「どれほどの被害になっているかということ、ひとつをとっても、つまびらかにされていない状況。
現状をしっかりと把握していただいて対応していただきたい。」


ワクチン接種の呼びかけを中止してから2年半。
接種する人は激減しています。
このままでは、子宮頸がんを予防できなくなると懸念する声も上がっています。

日本産科婦人科学会は、症状に苦しんでいる人たちへの診療体制を整えたうえで、早期に積極的な呼びかけを再開すべきだとしています。




日本産科婦人科学会 藤井知行理事長
「注射をしなかった方が、将来、子宮頸がんになった時に、非常に悔しい思いをするのではないかと。
このワクチンが打たれないということは、将来に大きな禍根を残すことになると考えている。」

国の部会で、ワクチンの副作用を検討している岡部信彦さんです。
これまでの調査は、必ずしも十分ではなかったとし、今後さらに信頼を得られる調査を行っていきたいとしています。



厚生労働省 副反応検討部会 岡部信彦委員
「人(国民)が納得することを、きちんと時間をかけてでも説明していかないといけない。
まだ課題だとは思うけれども、そうやっていくべきだと思う。」


今も症状が続いている酒井さん。
早く納得のいく説明をしてほしいといいます。

酒井七海さん
「ワクチンが危険だって言いたいんじゃなくて、私たちの声全部を含めて、こういうことが起こるかもしれません、それでもやっぱり(ワクチンで)防ぐ方がいいのかどうかというのを、個人が判断できるだけの材料はまだまだ国は公表していないと思います。」

混乱続くワクチン 信頼は築けるか

ゲスト谷口清州さん(国立病院機構 三重病院 臨床研究部長)
ゲスト稲垣雄也記者(科学文化部)

●子宮頸がんワクチン接種を再開するかどうか、判断をするために行われた追跡調査 追跡できたのは副作用を訴えた人の6分の1にとどまったが、なぜこのような結果に?

谷口さん: これはやはり、まずは報告体制が、医師に判断を委ねられているわけですね。
実際に被接種者が副反応だと思っても、それが報告されない。
ただ、非常に多彩な症状が出れば、医師が判断するのは非常に難しいことは明らかですよね。
しかもまた、ワクチンの接種者の履歴をきちっと管理できるようなシステムが日本にはございませんので、それによってやはり漏れも出てくるという状況になっているんだろうと思います。
(日本では、誰がどこでワクチンを受けたか、記録としてはある?)
市町村単位で、「予防接種台帳」というもので管理されていますが、ただそれが、国レベルでデータベースとして管理できていないということですね。
(市町村にデータベースがあるのであれば、ずっと追跡はできない?)
少なくとも市町村単位ではできると思うんですが、ただ、引っ越してしまえば、なかなか分からなくなったり、つながらなくなったりすることは起こりえますよね。

●酒井さんをはじめ、副作用を訴えた人たちは今、どんな思いで、何を訴えたいと思っている?

稲垣記者: 彼女たちが訴えているのは、ひと言で言えば、自分たちの実情をきちんと国に把握してほしいということに尽きると思います。
酒井さんも病院で症状を訴えたときに、気持ちの問題ではないかと言われて、ワクチンとの関連について十分話を聞いてもらえなかったということなんですけれども、この問題を話し合う国の部会でも、症状を訴える人たちの話を聞く機会というのはありませんので、自分たち抜きで議論が進んでいるということに強い不信感を持っているのではないかと思います。

●積極的な接種を求められなくなって2年半 国は何をしようとしている?

稲垣記者: 国は新しい調査をすることを決めていまして、今、副作用ではないかというふうにいわれているのは、全身の痛みや歩行障害、それから学習障害といった症状なんですけれども、これらについて、ワクチンを接種したグループと、していないグループの2つのグループを作って、それぞれどのくらい、そうした症状を訴える人たちがいるのかというのを調べようとしています。
この2つのグループの違いというのは、ワクチンを接種したかしていないかですので、それが、その2つのグループで発生頻度に違いが出てくれば、これはワクチンの接種が症状につながっているかどうかを考えるうえでは重要なデータになります。
国はこの調査結果を、早ければ秋ごろにまとめたいとしています。

(ワクチンの信頼を回復できるデータになると思われる?)

谷口さん: 少なくとも現時点では、やはりベースラインという、実際にワクチンを打ってない方で出る症状の頻度と、ワクチンを打った方の頻度、これを比較する以外には方法はありませんし、また、それが出てくれば実際のエビデンス(根拠・証拠)になってくると思いますけどね。

「副作用を見逃さない」 アメリカのワクチン行政

アメリカ国内で使われるワクチンの安全性を監視する国の研究機関、疾病対策センター(CDC)です。
新たなワクチンは未知の副作用を起こしうることを前提に、対処する仕組みを整えています。



ポイントは、副作用の迅速な察知。
そしてワクチンとの因果関係の科学的な分析です。




疾病対策センター 予防接種安全室 トム・シマブクロ次長
「ワクチンの副作用が疑われた場合、この用紙で報告します。」




副作用の報告は誰でも簡単にできます。
所定の用紙を使って、電子メールやファックスで報告します。




日本とは異なり、医師を通す必要はありません。





さらに、IDを付与して引っ越しなどしても追える仕組みになっています。





疾病対策センター 予防接種安全室 トム・シマブクロ次長
「副作用をより正確に把握するために、しっかりと追跡することがとても重要なのです。」




想定外の副作用が疑われる場合、ワクチンとの因果関係を迅速に分析する仕組みがあります。
鍵を握るのは大規模なデータベース。
9つの医療法人、940万人分の電子カルテからなります。

ロタシールド調査研究 共同主任(当時) エリック・フランス医師
「疾患や予防接種の記録が分かります。」

この膨大なデータを分析し、ワクチンを接種したグループとしていないグループで、副作用が疑われる症状の発症率を比べます。
つまり、いつでもすぐにワクチンと副作用の関係を調べる疫学調査ができるのです。
この仕組みを使って、直ちに使用中止の判断が下されたワクチンがあります。

乳幼児に感染性胃腸炎を引き起こすロタウイルスのワクチン、「ロタシールド」。
1998年に発売されました。




その直後から、副作用として腸重積症という重い腸の病気が疑われます。
報告は半年で10件でしたが、すぐに医師に対し接種を見送るよう通知されました。
そして、電子カルテのデータベースでワクチンとの関係を調査。


すると、このワクチンを接種した人は、発症率が13.6倍であることが分かったのです。





ロタシールドを打って腸重積症になる人は1万人に1人の割合。
命にかかわる事態に陥ります。
一方、ワクチンを打たない場合、ロタウイルスに感染して重症化するのは1万人に20人。
数は多いものの、主な症状は下痢による脱水で、水分補給をすれば命に関わることはほとんどありません。
結局、デメリットのほうが大きいと判断され、危険を察知してから僅か4か月後に使用中止となりました。

ロタシールド調査研究
共同主任(当時) エリック・フランス医師
「症例はごくわずかでしたが、この仕組みによって迅速に使用中止の判断ができて安心しました。」



副作用のデメリットと、ワクチンのメリット。
どちらが大きいのか明確でない場合もあります。
そんな場合、判断を行うのは、専門家や一般市民15人から成る予防接種専門委員会(ACIP)です。
副作用に悩む人や、ワクチンを打たずに亡くなってしまった人の家族からも話を聞き、判断の材料にします。

「親なら誰でも、ワクチンで防げる病気で子どもを死なせることは避けたいでしょう。
このワクチンの接種が認められることを強く望みます。」




そして最後に委員が多数決によって結論を出し、国に提言するのです。

疾病対策センター ワクチン計画
シンディ・ウェインバーム相談役
「ワクチンのメリットとデメリットは、数字で評価できない場合もあります。
だから一般の人の意見を尊重することが大事なのです。
こうした仕組みによって、私たちのワクチン行政は国民の信頼を得ていると思います。」

信頼は築けるか 日本のワクチン行政

●日本で今、一番必要な制度とは?

谷口さん: やはり、まず最初の「探知」の部分で、予想できないような健康事象があった際に、それを事象としてきちっと探知できる報告システムですよね。
そのあと、これが本当にリスクが高いのかどうか(調べる)。
アメリカのようなシステムが出来るといいんですけれども、アメリカがああいうことができるのは、国家的なワクチンのデータベースがあって、誰がいつどこで何を打ったかというのが、すべてあるわけですね。
実際にまた、電子カルテとこのワクチンのデータベースが標準化されているので、それがすぐにリンクができるわけです。
故に、そのデータベースを使って打った人と打たなかった人の率を比較できる、つまり非常に早い評価ができる。
またそれだけではなくて、それらのデータをきちっとまとめたうえで、専門家委員会で幅広く議論をする。
そういったことによって、最終的に国民の皆様の理解を得ることができる、こういった包括的なワクチン、新しいワクチンをどんどん入れるだけではなくて、その周りを固めていくようなことを作っていくことが大事だと思いますね。

●健康に関わる個人情報に関する議論も出るかもしれないが、そういった議論を助けるうえでのメリット、デメリットの情報が出てくる?

谷口さん: やっぱりアメリカも、最初はプライバシー法の部分で、そういった個人のワクチンの履歴とか、健康情報をそうやって国でリンクしていいのかっていう議論はあったみたいですけれども、ただ最終的に、いずれも個人の利益にもなる、国民全体の公衆衛生の利益にもなる。
そういったことで、納得がされたというふうに伺っています。

●事象ベースで報告をすることは、なぜ大事?

谷口さん: あらかじめ規定されたものだけを報告するのであれば、それ以外の新たなものは絶対に報告されないわけです。
どんなことであってもまず報告、みんなでその問題を共有しないと、解決にはつながらないわけですね。
そうしますと、やはりこれまで分からないことであっても、少しでも関連があると考えられれば、それをきちっと記述して、事象として報告していただくというのが、今、世界的にもこういった方向になっています。
(アメリカの場合は、医師だけではなく患者本人も報告できるシステムだったが?)
やはり、本当にいろんな症状が出れば、医師がそこですべて判断するっていうのは難しい場合もあります。
ただ、そういったときにいろんな方が報告をすることによって、間口を広く取ることによって感度が上がってきますので、それによって見逃しも落ちてくると思いますから、そういったことも必要だと思いますね。
(最初にワクチンを接種したときに得られる情報を、なるべく包括的に吸い上げて、判断材料を集める、そして分析をする。そこからスタートしていかなければいけない?)
それをすべて見据えたシステムを作っていくということだろうと思います。

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