クローズアップ現代

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No.37572016年1月21日(木)放送
内部告発者 知られざる苦悩

内部告発者 知られざる苦悩

覚悟の内部告発 重すぎる代償

麻酔科医の志村福子(しむら・ふくこ)さんです。
勤務していた病院の問題について上司に通報したところ、パワハラを受け退職に追い込まれました。



「深くおわびを申し上げます。」

志村さんが勤務していた千葉県がんセンター
去年(2015年)、腹くう鏡手術による患者の死亡が相次いでいた事が問題になりました。
実は内部では何年も前から、医療体制のずさんさを指摘する声が上がっていました。
志村さんもその1人。
所属する麻酔科の体制に問題があると考えていました。

麻酔科医師 志村福子さん
「これは私が勤務していた当時の麻酔科のスタッフ表です。
歯科医師が4名、麻酔科のスタッフとして雇用されていて、実際に麻酔をかけていた状況ですね。」


がんセンターでは、歯科医師が研修を目的に、手術の際の全身麻酔を行っていました。
この場合、麻酔科医による指導が必要です。
しかし志村さんは、医師の適切な指導なく全身麻酔が行われている状況を目の当たりにしました。

麻酔科医師 志村福子さん
「このままでは患者の命が危ないという危機感。
どうにか改善しなきゃいけない。」

志村さんは当時のセンター長に、この状況を訴えました。
ところが、思いがけない事態が待っていました。

志村さんは月に12件から21件の手術を担当していましたが、その後、全く割り当てられなくなったのです。
患者のためを思って訴えたにもかかわらず、仕事を奪われ、志村さんは退職せざるをえませんでした。
なんとか現状を変えられないか。
志村さんは退職後も手だてを探し続けました。

公益通報者保護法では、内部告発を行う窓口として、所属する組織のほかに行政機関なども認めています。
それを知った志村さんは、がんセンターを告発するメールを厚生労働省に送りました。
ところが…。

麻酔科医師 志村福子さん
「『公益通報者は労働者であることが定められております。通報時点で退職されている場合は、この労働者に該当しません』。」

厚生労働省は、退職している志村さんを公益通報者保護法の対象外として、告発を受け付けませんでした。

麻酔科医師 志村福子さん
「最後の望みじゃないですけど、そこまで願いをかけて(メールを)送った。
もうあなたは保護法の対象じゃないから、私たちは何もしない。
本当にどうすればいい、これ以上どうしたらいいんだろうという気持ち。」

志村さんはやむなく、千葉県を相手に裁判を起こすことにしました。
自らが受けたパワハラの賠償を求める過程で、がんセンターの不備を世に知らしめようと考えたのです。
去年9月、判決が確定。
がんセンターの不備を含め、志村さんの主張が認められました。
裁判にかかった期間は3年。
志村さんは組織を相手に、1人で闘い続けなければなりませんでした。

麻酔科医師 志村福子さん
「勇気をもって告発しても、それが受け止められない。
だから、言うだけ損な法律という認識がありますよね。」

裏切られた期待 内部告発者の苦悩

さらに取材を進めると、告発が受理されても、適切な調査や対策につながらない問題も見えてきました。
会社の不正を内部告発したところ、行政のずさんな対応に苦しめられたというAさんです。
Aさんが勤めていたのは、宮城県にある食品加工会社です。

長年、タラバガニなどの海産物を老舗の旅館や高級ホテルに卸していました。
しかし、3年ほど前から業績が悪化。


経営者は、売れ残ったカニの賞味期限を偽装して販売するようになりました。

告発者 Aさん
「だましてることになりますよね。
いつ『食中毒発生しました』と言われても、正直おかしくない状態ではないのかな。
やっぱりそれをやめさせなきゃいけないと。」

偽装を告発する事を決意したAさんたちは、貼り替えられた賞味期限のラベルなど、不正を裏付ける証拠を集め始めました。
経営者に見つかれば、退職は免れない。
必死でした。

告発者 Aさん
「一番怖いのは逆恨み。
バレたら何されるかっていう恐怖は常に。」

そして去年5月、Aさんたちは地元の保健所に証拠を提出。
会社の不正を告発したのです。
告発から4か月後。
ようやく保健所が立ち入り調査に入りました。
しかしその結果は、Aさんたちの期待を大きく裏切る内容でした。

「調査をしたが、不正は認められなかった。今後、再調査を行う予定はない」と、担当者から告げられたのです。

告発者 Aさん
「怒りですよね、話と違う。
(会社内で)犯人捜しだけがあって、それで終わり。
(告発を)しなきゃよかった、言わなきゃよかった、そう思いました。」

なぜ不正は暴かれなかったのか。
この調査の様子を地元の新聞記者が目撃していました。

河北新報社 記者 斉藤隼人さん
「保健所の方が入っていったんですけども、本当に1分くらいで会社から出てきてしまったんですね。
あれ、何が起きたんだろうというような。
結局、通報者は泣き寝入りしなければならないし、不正が行われ続けていくことは、どうにかして止めなければいけない。」

記者の斉藤さんは自ら、県の食品担当課に通報しました。
その結果、県の主導で再調査が行われ、ようやく不正の実態が明らかになったのです。
現在、会社は県の指示を受け、営業を自粛しています。
なぜ最初の調査が適切に行われなかったのか。
保健所を管轄する宮城県を取材しました。
すると、内部告発の対応に精通した人材がいない中、踏み込んだ調査が難しかった事がわかりました。

宮城県環境生活部 課長 金野由之さん
「『通報者の保護』と『公益の確保』。
双方を両立しなければならないのが、対応に苦慮するところ。」


告発者 Aさん
「やっぱり行政が最後まで守る。
通報されたら、しっかり調べてくれる。
安心感がないと、これから誰も声を上げることはできない。」

内部告発者 知られざる苦悩

ゲスト日野勝吾さん(淑徳大学助教 / 元消費者庁 公益通報制度を担当)

●勇気を出して不正を明らかにしようとしたが不利益を被る 非常に理不尽な事だが、どう見るか?

2人の方の最後の言葉がすごくしみるんですけども、やはりこれは、「言わなきゃよかったな」と、「通報しなければよかった」というところが大きいと思います。
公益通報者保護法という法律は名前のとおり、保護をするというふうに名前をうたっていますので、そういった意味では、この保護を信じて彼らは通報しようと思ったけれども、結局はそこは泣き寝入りになったり、嫌がらせを受けたりしているというところですね。
これは法律の不備っていうのが目につくと思います。

●通報は年間4,000件来ているわけだが、これは極めて珍しいケースなのか、それとも特殊なケースではないのか?

当然、難しいところありますけども、氷山の一角だと思っています。
この暗数としては非常に多く全国にあるわけでして、例えば職場の中でいじめを受けたりとか、そういうような場合もありますし、またその職場の中で仕事を与えられずに、通報した結果、そういう状態になっているという方々も多いと聞いています。

●法律によって守られるべき人が守られていない現状 この法はどこがどのように機能していないと見ているか?

こちら、問題点という点でありますが、1点目(「保護の条件が限定的」)ですね。
こちらの方は、対象者が労働者に絞られているという点が挙げられると思います。
今回の志村さんの件のように、退職をしてから通報する場合には法律の適応外になるという点で、非常に狭い運用のしかたになっているという点が挙げられます。
2つ目ですけれども、この「報復行為への罰則がない」ということでして、嫌がらせを受けたりしていますね。
あとパワハラだとか、そういうような場合に、事業者側の罰則がないというところで、結局は裁判で決着をつけざるをえなくなってくるというところが問題点であります。
(自ら証拠を収集したり調べたりしなければ、現実的に難しい状況というのは、そもそもおかしな話では?)
法律上の欠陥だと思っていますし、実際は民事ルールと言われていまして、やはり裁判で決着をつけざるをえないとなると証明しないといけない。
その場合に、実際の証拠を集めなければいけない。
そのハードルが高いというふうに言えると思います。
(3つ目「専門の行政機関がない」は?)
これも結局、実際通報する場合には、違法行為の法律について知っておかないといけないんでしょうけども、行政機関を探すのに一苦労するわけです。
そういった一元的な窓口がないために、通報者がいろんな所を探して、結局迷ってしまうという結果を招いているというふうに言えると思います。

●通報者側に優しくない法律になっていると感じるが、施行されて10年、こうした問題の見直しや改善がされず、今に至っているのはなぜか?

この10年で事例の蓄積というのが、なかなかなかったというところがあると思います。
要するに法律を改正する前提となるような事実っていうのが浮き彫りになってこなかったという点が挙げられると思います。
当然また日本の中での意識がまだまだ低いというところがあると思います。
そういった意味ではもう少し、一般の方々も知っていただくということが大事ではないかなと思っています。

●意識が低いとは、組織の中できっちり通報していかなければいけないという雰囲気も含めた環境が醸成されていないということ?

実際はこの内部通報の、例えばその窓口ですね。
窓口は非常に設置はされてはいるんですけれども、実際、機能がなかなかまだ、うまく進んでいないというところがあります。
形骸化しているなとは思っています。

声をあげる内部告発者たち

去年7月、公益通報者保護法の見直しを求める全国団体が設立されました。
中心になったのは、組織の不正を通報した結果、長年にわたって報復行為を受けてきた当事者たちです。


全国団体 幹事 濱田正晴さん
「たとえ公益通報であっても保護されないと。
当事者の身になって、皆様どんどんこの運動を盛り上げていただきたいと思います。」


団体では、国に対し通報を専門に受け付ける行政機関の設置や、通報者を不当に扱った企業への罰則などを強く求めています。
こうした声に応え、国は今、法律の改正を見据えた議論を行っています。

消費者庁 消費者制度課 課長 加納克利さん
「通報者が違法な行為を目の当たりにして萎縮してしまうというのは、社会の利益に反する。
制度の見直しも、必要に応じてしっかりと検討していく。」

内部告発者を守れ 韓国の取り組み

こうした見直しの議論の中で、参考の1つとされているのが、韓国の取り組みです。
韓国では以前から企業による不正行為が問題化していました。
その対策として、内部告発の活性化を求める声が高まりました。

そこで5年前、公益通報者の保護制度を新たに作ったのです。
最大のポイントは大統領直属の機関、国民権益委員会の中に公益通報の専門部署を設置した事です。


日本の場合、告発者自身が担当する行政機関を探して、通報を行わなければなりません。



それに対し韓国では、国民権益委員会に告発すれば、しかるべき行政機関に調査を要請してくれます。
行政機関は、調査と結果の報告が義務づけられています。
もう1つ、国民権益委員会の大きな役割が不利益を受けた告発者の保護です。

4年前に大手通信会社の不正を告発したイ・ヘグァンさんは、その恩恵を受けた1人。
会社ぐるみで行われた利用者への通話料の不正請求を告発したところ、会社はそれを認めず、イさんは懲戒解雇の処分を受けました。

イ・ヘグァンさん
「自分の仕事を愛していたからこそ、不正を許せませんでした。
このような仕打ちを受けるとは思ってもいませんでした。」

解雇など不利益を受けた場合、日本では、告発者自身が企業などを訴える必要があります。



一方、韓国では国民権益委員会に保護を申請して、事実が認められれば、企業に処分が下ります。
イさんは、この制度を利用しました。
解雇無効の処分を受けた会社は、それを不服として国を訴えました。

韓国のニュース
「イ・ヘグァンさんの解雇を無効とする判断が下りました。」

去年9月、解雇を無効とする判決が下されたこの裁判。
2年に及びましたが、その間、イさんの経済的負担はなかったと言います。

イ・ヘグァンさん
「私の代わりに国が裁判をしてくれたので、費用を負担することはありませんでした。
それは本当に助かりました。」


国民権益委員会 副委員長 グァク・ジンヨンさん
「告発をするのは、とても勇気がいることです。
だからこそ、安心して通報できるような保護制度が必要なのです。
どうすれば通報者を守れるのか。
今後もより良い制度を求めていきます。」

内部告発者 知られざる苦悩

●韓国では取り組みの結果、5年前と比べて通報件数が30倍に増え、およそ4割で不正が見つかった 日本と比べてこの取り組みについてどう見るか?

本当に魅力的な制度だなと思いますけれども、そのまま日本にそれを移入していくというのは難しいかなとは思っています。
(難しいというのは?)
まず、人の関係ですね。
人材が育っていないのではないかと思っています。
当然、通報する処理のフローもそうですが、なかなかプライバシーを守るだとか、そういう意識というのは、長い期間で研修だとか、そういうようなものをかませていかないといけないと思っています。

●消費者や通報者の盾になって難しい問題をクリアしてくれるような組織があったほうがいいと思うが、そのような組織が日本でできないのはなぜか?

消費者庁ができる段階で、法案の付帯決議で、公益通報の窓口の一元化ということで、消費者庁が一元的に窓口をしていくということになっていたんですけれども、なかなかそこが、やはり権限が難しいところでありまして、各違法の法律の所管はそれぞれ別の官庁だったりしますので、そこに対して調査の権限を出すのは難しいということで、なかなか法制度上、難しいのではないかなと思っています。

●今まさに困っている人がいる、ということにどう対処していけばいいのか?

まずは、やはり、そういった方々に対する支援というところで、例えば労働組合とか、消費者団体などがバックアップをするような、そういったような団体が必要になってきますし、イギリスの場合、そういったNPO団体がありまして、そこで支援をしていってたりしておりますので、そういったようなモデルを参考にしていく事が1つかなと思っています。

●この問題の趣旨は、通報者だけでなく広く社会の利益のために不正をただしていくことだが、どうすれば達成できるのか?

まずは意識を変えていくというところだと思います。
通報者というのは非常に身近にいるんだというところが、まず1つ挙げられると思いますし、我々もだめなことはだめだと言える社会をつくっていかないといけないと思っております。

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