クローズアップ現代

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No.37462015年12月9日(水)放送
“移住1%戦略”は地方を救えるか

“移住1%戦略”は地方を救えるか

新たな潮流!? 若者の地方移住

地方移住を支援するNPOです。
数年前から、40代までの若い世代の相談が増え始め、今では半数以上を占めています。
相談で必ず伝えているのが、移住後の収入面です。

「収入が東京や都会圏よりも絶対に下がってしまう。」

移住者に行ったアンケートによると、60%以上の人が「移住後に収入が減った」と回答。
さらに、年収300万円以下で暮らしている人が半数以上いることが分かっています。
収入減などのリスクを承知で、地方での生活を始めようとする人が増えているのです。

2009年から14年までの6年間の累計で、移住者の数は全国で3万7,000人に達していることが分かりました。




その中で最も多かったのが人口57万人の鳥取県。
移住者の数は、6年間で4,000人を超えていました。

地方暮らしはおトク? 移住の実際を分析

鳥取が移住者の人気を呼んでいるのはなぜなのか。

石垣尚紀さん(30)
「白ねぎ。
これも珍しいな。」

今年4月、東京から鳥取市に移住してきた石垣さん夫妻です。

妻 美和さん(28)
「買い物楽しい。」

石垣尚紀さん(30)
「楽しいね。
新しい発見がいつもある。」

石垣さんはIT企業のシステムエンジニア、美和さんはアパレル。
共に正社員の立場を捨て、鳥取への移住を決断しました。

石垣尚紀さん(30)
「いい会社入って、昇進して、家持って、車買ってみたいな。
いわゆるスタンダードな生き方。」

妻 美和さん(28)
「エリートコースを目指してたんですよね、今まで。」

もちろん最大の心配は収入面でした。
実際、鳥取に移り住むと、収入は東京と比べ大幅に減りました。
しかし、日常生活に全く支障はないといいます。



石垣尚紀さん(30)
「ここが寝室ですね。」

家賃は東京の半分近くで済む一方で、間取りは2LDKの広さを確保できるようになりました。


直売所で安く新鮮な食材が手に入るため、食生活を楽しみながら食費も減りました。




石垣さんは地元IT企業に再就職し、美和さんも同じ会社でパートで働いています。
やりがいは東京と遜色ないといいます。

石垣尚紀さん(30)
「オフィスの中は東京と同じです。
オフィスの外に出ると、そこに田舎の風景があると。
ある意味“どこでもドア”みたいな。」

移住して8か月。
意外なことに、貯金が東京時代を上回る月も出ています。
先月(11月)は…。

妻 美和さん(28)
「(貯金は)14万。」

石垣尚紀さん(30)
「(貯金が増えて)びっくり。」


では、生涯で比べるとどうなるのか。
2人はファイナンシャルプランナーに試算をしてもらいました。



子どもは3人つくり、大学まで入れ、マイホームはローンを組んで40歳で購入することを考えている石垣さん。
最初は東京のほうが年収が高いため、貯蓄も鳥取を上回ります。
その後、貯蓄額は鳥取のほうが高くなっていきます。
これは住宅ローンの額が東京と比べ、低く抑えられているからです。
ローンを終える65歳。
貯蓄は鳥取が東京を上回り、それが生涯にわたり続きます。
鳥取県と東京都の平均で比べても同じ傾向になるとしています。

そもそも2人が移住に求めたのは、お金に換算できないもの、「暮らしやすさ」です。
しかし「暮らしやすさ」には、通勤時間、子育て環境、緑の豊かさなど、さまざまな指標があるため、一律には比較できません。
そこで国が移住を検討している人向けに開発したプログラムをもとに、異なる指標をお金に置き換え、評価してみることにしました。

例えば、通勤時間の場合です。
通勤時間が異なる複数の住宅を想定し、それにどれくらい支払う価値があるのか尋ねます。
これを1万人に行い、通勤時間の価値を金額に置き換えるのです。

石垣さんは、東京では1時間かけて電車通勤していましたが、今では車で15分です。
鳥取と東京の平均の通勤時間をお金に換算すると、鳥取のほうが月2万円以上価値が高くなりました。


自然環境も、鳥取のほうが2万円以上価値が高くなりました。




子育て環境も、待機児童率が低いため4,000円以上高い価値が出ました。




利便性については東京に劣るものの、総合評価で比べると鳥取のほうが3万円以上価値が高くなりました。
鳥取の暮らしやすさは全国でもトップクラスという結果がはじき出されています。


石垣尚紀さん(30)
「仕事だけじゃなくて生活も人生なので、両方充実させないといけない。」



妻 美和さん(28)
「総合的に考えると豊かになったなって。」

移住者が“移住者を呼ぶ” 新たな循環も

都会から移り住んだ移住者が、さらに移住者を呼び込む循環を作り出した町もあります。
6年間で370人余りが移り住んだ徳島県。
その3分の1を占めているのが神山町です。


「ここが食堂です。」





町に今年7月、新たな宿泊施設がオープンしました。
オーナーは東京からの移住者です。
調理人を募集したところ、県外から、飲食業に携わってきた2人の女性がシェフとして移り住んできました。


町では、新たな施設や店が誕生するたびに移住者を呼び込み、それがまた新たな需要を生んでいます。
以前は若い世代が利用できる飲食店がなかった商店街。
そこに、東京からの移住者がフランス料理店をオープンさせました。

神奈川から移住
「お酒飲むところが少ないので、こういう店があるといいんじゃないかなって。」



今ではすっかり地元のお年寄りも常連です。

町は多様ななりわいを持つ人たちであふれ、以前にはなかった活気が生まれています。




お店を訪れたお客さんが、ついでに隣の店をのぞき、欲しいものがあれば買い物をする。
そんな地域を巡る需要の輪が生まれつつあります。



(移住支援)NPOグリーンバレー 理事 大南信也さん
「今までなかったような機能が少しずつそこに集まってきて回り始めるということですよね、地域内でいろんな(ことが)。
ある面、経済が循環し始める、小さいながらも。」

“消滅危機”を救うか 増える地方移住

ゲスト小田切徳美さん(明治大学教授)

●移住者が移住者を呼ぶいい循環が生まれ、この地方移住のトレンドが見えてきた 一極集中が強まっていたのでは?

そうなんですね。
東京圏の一極集中は、確かに強まっているんですね。
具体的な数字を挙げますと、昨年の数字で、東京圏への流入超過は11万人。
先ほどのNHKと明治大学の調査では、1万人ということでした。
しかし、5年間で4倍になっている。
つまり、5年後には4万人になる可能性がある。
そうすると、この11万と4万という数字は、もちろん数は少ないんですが、しかしある程度評価することはできますね。

●どんな人たちが、どんな理由で地方に移住している?

少し前までの若者の移住というのは、実は単身の男性がほとんどでした。
ところが最近の傾向として、1つは家族単位で、先ほどの石垣さんのように夫婦であったり、あるいは子連れであったり、そういう特徴があります。
それからもう1つは、それに伴って女性の比率が増えているんですね。
それから移住者がなぜ移住するのかということなんですが、それは非常に多様です。
子育て環境がやはりいいからという、そういう理由もあります。
しかし一方では、農山村に対して地域貢献をしたいという、そんな理由もあります。
さらに、非正規雇用の中で東京で疲れてしまった、そういう方もいらっしゃいますね。

●移住者が仕事を探すのは難しいのでは?

そうですね。
こういった動き、私どもは「田園回帰」というふうに呼んでるんですが、この田園回帰には、3つのハードルがあるというふうに言われております。
1つ目は、濃密過ぎるコミュニティーの問題。
それから2つ目は、空き家がなかなか流動化しないという問題。
そして3つ目が、今おっしゃった仕事の問題があります。
ただこの仕事の問題も、ハードルが徐々に下がっているというのが実態ですね。
と申しますのは、先ほどのカップルのように2人で就業する、「就業」というパターンがあるんですが、それとは別に、業を起こす、「起業」ということもあります。
そしてごく最近では、それに加えて「継業」、業をつなぐ。
これは農山村の中では廃れてしまった仕事を、それをつないでいくという、そういうパターンが生まれてきまして。
(後継者がいないということ?)
そうなんですね。
需要はあるけど、後継者がいないことによって供給できないような、そういう産業や行事に関わりを持つということですね。
(それでもやはり収入が都会より減ることは覚悟しなければならない?)
そうですね。
収入はもちろん下がるんですが、しかし一方では、移住者の中には決して多くはない、恐らく3~4割だというふうに思うんですが、例えば60万円の仕事、これは月当たり5万円という意味なんですが、それを5つ集めて夫婦で暮らす。
そんな「なりわい」とか「多業化」という、そんなパターンも出てきてますね。
(具体的には?)
そうですね、農業であったり、役場の非常勤の勤務であったり、あるいは自分で作り上げようとしている自営業であったり、そういうものを寄せ集めて暮らすという考え方ですね。

“移住1%戦略” 地方を救う切り札?

島根県の山あいにある、人口1万1,000人の邑南町(おおなんちょう)です。
町は定住促進策を進め、人口減少を食い止めようとしています。

そうした地区の1つ、人口900人の出羽地区です。
住民は効果的な打開策を模索しています。



自治会長 大田文夫さん
「今頑張っておかないと集落の消滅につながるんじゃないか、すごい危機感がございます。
まずいですね。」


そこで相談を持ちかけたのが、過疎対策についての研究を行う藤山さんです。

島根県中山間地域研究センター 藤山浩さん
「人口の1%、頑張って多く取り戻せば、安定することが分かってきました。」


提唱しているのが「移住1%戦略」。
地区の人口の1%ほどの移住者を呼び込めば、企業誘致や特産品の開発に頼る必要はないというのです。
藤山さんが注目しているのは、若い世代を中心にした僅かな移住者たちです。

3年前に、農業を営むために夫婦が移住してきました。
今年、女の子も生まれました。




中には20代の若者も移住しています。
この土地で結婚し、家族を持つのが夢です。

2013年に移住 片山証さん(26)
「子どもが2人おって、伸び伸びと育って欲しいです。」


出羽地区に2010年からの5年間で移住してきたのは11人。
年に2人のペースです。
しかし、このペースでは30年後の人口は大きく減ってしまいます。
地区を維持するために必要な移住者はあと何人いればよいのか。
藤山さんは、出生率や高齢化率などをもとに、必要な数の移住者をシミュレーションしました。

すると、あと必要なのは人口の0.78%。
人数にすると7人でした。
毎年7人が定住し、その中の若い世代が子どもを産めば、将来、人口減少を食い止められることが分かりました。

島根県中山間地域研究センター 藤山浩さん
「代打逆転満塁サヨナラホームランみたいなのを狙わなくても、1%ずつでいいわけです。」



住民は、地区の維持に必要な移住者の具体的な数を、この日初めて知ることができました。

自治会 副会長
「私たちが不安に感じていたことが、7人という数値を与えてもらったことで、頑張る努力目標が見えた。」



地区では人口の1%を呼び込むという明確な目標が掲げられ、対策が講じられています。
就農を希望する移住者には、後継者がいない農地を提供することにしました。
来年(2016年)就農が決まっている2人の20代の移住者には、地区の人たちが支援を続けます。

移住者のための住まいの確保についても、毎年2軒のペースで住居が必要になると見積もりました。
空き家を活用できないか検討しています。

「申し分ない。」

「そのまんますぐ生活できる。」

地区を出た20代から30代に、地元へ帰る意思がないか尋ねています。

「40代の間にはこっちに帰ってきてくれたらうれしいな。」

自治会員
「この出羽地区のことを忘れないでどこか片隅にでも置いといてくれたら、何かの折に、そういった帰ろうかなという気持ちにもつながると。」

“移住1%戦略” 地方を救う切り札?

●1%で本当に大丈夫?

この藤山さんによる「田園回帰1%戦略」というのは、地域の大きな光ですね。
1つはやはり、具体的な目標が提示されているということ。
こういうレベルになると、実は人口ではなく、固有名詞で勝負できますよね。
それから2番目には、実は1%ずつ積み上げていくと、現実のシミュレーションの結果、10年後には高齢化率はピークアウトして下がっていくと、その結果が出てますね。
(具体的にはファミリーの方々を毎年呼び寄せることで、人口が増える層を増やしていくということ?)
そういうことですね。
高齢化によって、高齢者がかなり地域の中にいらっしゃいます。
そういう方は、だんだんだんだん亡くなっていくわけなんですが、問題は若い人をどのように再生産していくのか。
しかし、一挙に再生産してしまうと、また「移住バブル」が起こってしまいます。
それを1%ずつ地道に積み上げる、そんなことを藤山理論は教えてくれてますね。

●地方移住者を多く集めている自治体と、そうでない自治体の差 成功している自治体ではどんな特徴がある?

実は、この点について、私たちは、「地域みがき」が移住者を呼ぶということを言っております。
この地域みがきというのは、先ほどの邑南町の出羽地区のように、小さなコミュニティーで小さな自分たちの困り事を解決していくという、あるいは新しい産業を興してお金の循環を作っていく、これが地域みがきなんですが、実は移住者はそういったところに入っていくんですね。
(具体的に困り事とは?)
例えば、農山村では今、商店がなくなるという傾向があります。
あるいはさらに言えば、生活交通が大変不便になってきてますね。
この困り事について、例えばコミュニティーが生活交通を運営するとか、中にはコミュニティーが商店を運営している、そんな所も出てますね。

●移住者は、何が移住の決め手になったと語っている?

実は、移住者の方々が異口同音に、「人」だというふうに言うんですね。
この「人」っていう意味は多様です。
例えばお世話をしてくれた地域コーディネーターの方とか、あるいは移住者の先輩だったり、あるいは見守ってくれた集落のご老人だったり、いずれにしても、ああいう人がいるからこの地域に行くんだということで引き寄せられていく、そういうパターンがあるようですね。

●自治体は何を大事にして総合戦略を作るべき?

総合戦略は現在、市町村単位で作られています。
しかし、もっと重要なのは、コミュニティー単位でのビジョン作りです。
このコミュニティー単位でのビジョンを作って地域をみがいていく、そのことによって、そこに移住者が入って、そして移住者と共に地域を作り上げることが可能になると思いますね。
(地元の人たちも意識は変わっていく?)
そうだと思いますね。

(資料)2014年度 全国の移住者数

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