クローズアップ現代

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No.37442015年12月7日(月)放送
家族の名字 どう考えますか? ~“夫婦別姓”のゆくえ~

家族の名字 どう考えますか? ~“夫婦別姓”のゆくえ~

“夫婦は同じ名字” 女性の悩み

大阪府に住む乾紀子(いぬい・のりこ)さんです。
20歳のときに介護福祉士の資格を取得して以来、介護の最前線で働いてきました。
お年寄りからは「乾ちゃん」と名字で呼ばれ、頼りにされていました。
33歳で結婚し、夫の名字に変えた乾さん。
職場では、「乾」の名前でキャリアを積んできたことを大切にしたいと、経営者に旧姓の使用を申し出ました。
しかし…。

乾紀子さん
「名字を変えたくないのだったら、最初から結婚なんかするなよ。
女性であるものやっぱり結婚したら喜んで相手の名字を名乗るべしっていう考え。」


乾さんと同じような経験をしたという人の声が、NHKが行ったアンケートにも数多く寄せられました。

40代女性
“上司の考えで、強制的に戸籍姓に変えられた”

50代女性
“社内電話帳から旧姓が消えたことで辞めたと誤解され、対応が大変だった”

さらに乾さんは、名字が原因でプライバシーがさらされてしまう事態にも直面しました。
40歳で離婚し、旧姓の乾に戻ったときのこと。
仕事を辞めていたため、離婚後すぐに就職活動を始めました。

履歴書は「乾」、しかし資格の証明書は前の夫の名字のままでした。
変更手続きが間に合わなかったのです。
面接のたびに名字が違う理由を説明しなければなりませんでした。

乾紀子さん
「はからずも離婚ほやほやですということを、あちこちの施設に宣伝する事態となりました。
何も好きで離婚したわけではない。
やむを得ない事情でそうなった。
なんで私だけがあちこちに知らせたくもないのに知らせることになるんだろう。」

その後、乾さんは今の夫と出会いました。
これまでの乾さんの経験を聞いた夫は、別姓のままでいようと事実婚を提案しました。
ところが、共同で住宅ローンを組もうとしたとき、金融機関からある条件を示されました。


「(ローンの)本審査に入るまでには籍を入れてください。」

乾紀子さん
「ちゃんと名字をそろえた状態で住民票を持ってきてください。
そうでないと(本審査が)通りませんと。」

さらに、所得税の控除が受けられないなど、いくつもの支障があることが分かりました。
悩んだ末、婚姻届を出しました。
夫に自分と同じ思いをさせたくないと夫の名字に変えました。

乾紀子さん
「どうして片一方だけが今までの自分の名字とさよならせなあかんというのが、本当に素朴に悲しい。
素朴になんで一律にして、そんなルールやねんっていう。」

家名が継げない 少子化の中で

さらに、アンケートからは、少子化で名字を引き継ぐのが難しくなっている現実も見えてきました。

“娘が結婚することで家の名がなくなる。
先祖に申し訳ない”

アンケートを寄せた北海道釧路市に暮らす三藤真知子(みとう・まちこ)さんです。
江戸時代から代々続く「三藤」の名字を真知子さんは大切にしてきました。

三藤真知子さん
「姓を名乗るっていうことは、先祖を背負う気持ちになると思う。」

しかし、一人娘が結婚。
名字が変わり、「三藤」の名字を引き継ぐ人はいなくなりました。

実は真知子さん自身も三藤家の唯一の跡取りでした。
名字を守るため、夫の薫さんに名字を「三藤」に変えてもらいました。
男性が名字を変える夫婦は、ごく僅か。
周囲から、冷ややかな視線を感じることもしばしばでした。

三藤真知子さん
「人から見ると私がいばって夫をないがしろにして、そう思われてるだけでなくて、口に出して言われましたからね。
要は『夫として静かに暮らしているのか』みたいなことは言われたと思います。
かわいそうに。」

14年前、娘の由加さんが結婚する際、真知子さんは「三藤」にはこだわらなくていいと伝えました。

娘 由加さん
「ここで切れてしまったっていうのは、ちょっと責任は感じますけど、仕方ない。
今の日本はこうなんだから仕方ない。」

名字の違う娘に、仏壇や墓の維持を任せるのは申し訳ない。
真知子さんは、墓じまいを考えています。

三藤真知子さん
「昔みたく5人、10人って子どもを産む時代ではなくなって、結婚でどちらかの姓を選択をしなければいけないっていう日本ですから、女性の姓はなかなか続かない。
悲しいけど。」

どう考える?家族の名字 “夫婦別姓”のゆくえ

結婚後も夫婦が希望すれば別々の名字のままでいられる「選択的夫婦別姓」。
19年前、法務省の審議会は、夫婦別姓を選ぶことができるようにする民法の改正案を法務大臣に答申しました。
しかし、国会議員の中に“家族の絆が弱まる”などの反対意見があり、改正は実現しませんでした。

国連の女子差別撤廃委員会からは是正を求められています。
別姓を認めない日本の制度を“差別的だ”と批判しています。
委員長を務める弁護士の林陽子さんは、日本は対応を急ぐべきだと指摘します。



国連女子差別撤廃委員会 委員長 林陽子さん
「97パーセントの婚姻中のカップルが夫の氏を選択しているということは、効果において女性に不利益であると。
法律が平等ではないからではないかと懸念を抱かれている。
結婚の形であるとか女性の生き方が、これだけ大きく戦後に変わってきていますので、それに法律の改正が追いついていないのが現状ではないかと思います。」

一方、たとえ選択的であっても、制度が変わるとさまざまな混乱が起こるという考えがあります。
憲法学者の高乗正臣(たかのり・まさおみ)さんです。



例えば、夫婦別姓が選べるようになると、子どもの名字をどちらにするかという問題が生じます。
親子の間で名字が異なることで家族の絆が弱まってしまうというのです。



さらに、すでに結婚している夫婦でも。


“あなた、わたし旧姓に戻りたいの”


“えー?”

法務省の審議会では、制度が変わって1年以内なら旧姓に戻せるという案が示されています。

平成国際大学 名誉教授 高乗正臣さん
「夫婦が同じ名前で子どもが同じ名前、名字を名乗って、ひとつの精神的な一体感を持って今まで来たわけですね。
(選択的夫婦別姓を認めると)社会の安定、社会秩序の維持とか、社会福祉の基盤というのが崩壊していく危険があるのではないか。」

家族の名字はどうあるべきか。
この問題を考える中で、家族とは何か見つめ直した夫婦もいます。
札幌市に住む上田さん夫妻です。
大学時代に法律を勉強していた夫の貴鋭(たかとし)さん。
夫婦別姓について学び、今の制度に疑問を感じていました。
結婚するとき、名字をどうするか、妻のゆかりさんに尋ねました。

上田貴鋭さん
「人それぞれ自分の名前に愛着を持っているかもしれない。
そういう気持ちは大事にしたいと思った。」

しかし、ゆかりさんは、夫の名字である「上田」になりたいと答えました。
両親の離婚を経験していたため、夫婦が同じ名字であることを強く望んでいたのです。

妻 ゆかりさん
「お父さんがいてお母さんがいて家族でという憧れが強かったので、やっぱり自分でもあたたかい家族がほしいなと思っていたので、同じ名字で同じひとつ屋根の下でという憧れがすごくありました。」

その後、名字について考えることはなかったという上田さん夫妻。
高校生と中学生、2人の子どもはどう考えているのか。
上田さんに聞いてもらいました。

息子
「名字が一緒だから夫婦ですとか、そういうふうに考えるのはおかしい。」

上田貴鋭さん
「名字が違っても仲がよかったら夫婦でしょっていうこと?」

息子
「それでいいんじゃない。」

妻 ゆかりさん
「なんでお前の家族はみんな名字が違うの?みたいに言われて育ったら、きっと心の中でもやもやとかあって育つのかなって。」

息子
「現に離婚していないという事実があればいいんじゃないの。
相手から言われても結婚しているからいいだろ、それでいいんじゃない。」


「自分たちは家族を見ているから、仲がいいから別に大丈夫だなと思うけど、客観的に見られてるって考えたら、あの家、複雑そうだねと思われそう。」

互いを大切に思いながらも、名字への考え方はそれぞれ異なっていました。

上田貴鋭さん
「苦労っていうか、問題を抱えている人以外はあまり名字を考えるきっかけってなかった。
家族ってなんなんだろうねという話まで考えるいい機会なんじゃないかなと。」

どう考える?家族の名字 “夫婦別姓”のゆくえ

ゲスト板本洋子さん(NPO法人全国地域結婚支援センター代表)
ゲスト中島俊樹記者(社会部)

●世論調査からも“夫婦別姓”問題についての意見は真っ二つ どう捉えているか?

板本さん:真っ二つに分かれるだろうなと。
結局、こっちがいいとか、こっちが悪いとかっていうふうにならないだろうと。
それは名字を変えるというだけじゃなくって、たぶん、その後ろには、家を継ぐ、あるいは地域を守る、あるいは墓場をどうするかという、そういった日本人独特の継ぐという問題、守るという問題が存在しているので、これはもう、年代によって、性別によって、地域によって、時代によって、それぞれの軸で、この問題の捉え方っていうのは違うんではないかっていうことを感じました。

●名字を巡る“継ぐ”“家を守る”という問題 どれほど深刻なのか?

板本さん:これはもうすでにね、1960年代に、子どもが2人というふうになってきたときから、ずっと続いている問題で、それが最近は少子化で、さらに一人っ子、二人っ子が増えるという中では、もっと深刻になってきてるんですね。
ですから結婚相談所では、必ずその人が長男であるか、あるいは次男であるか、娘さんだけのきょうだいなのか、こういうことはもう、みんな意識はしていますね。
別に農村に限らず。
ですから、その深刻度っていうのは、お嫁さんをもらったほうは結婚式でにぎやかにやったけど、手放したほうは、なんかちょっとショックが大きいとかね、そういうのが目に見えるなんていう現場もありますし、親が必死になって、本人は恋愛しているんだけれども、止めざるをえないということで、そこらへんで、もやもやしたものが、いつまでも続くことによって、結婚先送りっていう現状もありますので、これは簡単な問題ではないし、ずっと時代の中で続いてきてる問題だって見ています。

●女性は名前を変えてもいい、あるいは男性は女性の姓になってもいいと思っているが、周りがそれを許さない?

板本さん:そうですね、まず親が許さない。
でも、親も比較的、若い年代はそうでもないんですけど、祖父母が許さないっていうか、祖父母がとても守りに入ってますから、とても気にする。
そういう意味で、家族、一族、親族、それをものすごく気にして、それが地方圏に入ると、周囲までそれがうわさとして、世間体として及ぶということがあります。
結局、家が崩壊すると、地域が崩壊するだろうという、ものすごい不安感の中から出てるんだと思います。

●選択的夫婦別姓に関する世論調査結果 「夫婦は同じ名字を名乗るべき」という声が多いのが70代、少ないのが50代 年代によってもさまざまだが?

板本さん:70代は守りに入るし、老後、先が見えてるので、いろんな万端準備したいという思いもあるから、守りの中で言ってると思います。
50代は、もう子育ても終わって、結婚生活20年、30年やってきた経験上、これをラフに考えようとすることもあるんじゃないかと思います。

●国際的に見て96%が女性側が姓を変えるというのは女性に不利益、差別ではないかという視点も 国際的にはどういう動きになっているか?

中島記者:国によって制度や慣習が違うので、一概には言えないと思うんですけれども、ただ、欧米を中心に、海外の多くの国では、同じ姓を名乗ってもいいし、または別々の姓にする。
またはくっつけて複合姓にしてもいいと、そういったものを選べる国が多いと思います。
日本の政府も、夫婦で同じ名字にするように法律で義務づけている国は、日本以外は把握できていないとしています。
例えばドイツなんですが、夫婦のどちらかの名字を選ぶ。
ただ、決まらない場合は、夫の姓にするというルールがあったんですけれども、やはり女性差別だということで、1990年代に見直されました。
またアジアでも、例えばタイは、妻が夫の名字にするということを義務づけていたんですけれども、これも2005年に法律改正によって見直されているんですね。
こうした背景があるからこそ、国連の女子差別撤廃委員会が日本に再三、対応を求めているということがあると思います。
ただ、その一方で、国内では日本の戸籍制度、この戸籍制度は非常に独特の、世界から見ても独特のものですので、海外の事情と単純に比較すべきではないと、そういう意見があることも事実です。

●国会での議論が決着を見ない中、来週の最高裁判所の判断が注目されているが?

中島記者:今回の裁判、裁判官15人全員で参加して、大法廷で審理しているんですが、これはやはり憲法判断が必要なときなど、重要な案件に限られるんですね。
仮に今の制度が憲法違反だという判決が出た場合は、これはもう、政府や国会では、民法を改正しなければならない状態になると、そういった方向で議論が進められると思います。
では一方、合憲、憲法に違反しないと判断された場合は、これは憲法上の問題はないという判断だと思います。
ただ、判決とともに、判決理由というものが示されますので、この判決理由の中で、裁判所が国会などに何らかの対応を求めるのかどうか、そういった点を注目しないと、今後の展開は分からないと思います。

●いまや4組に1組が再婚という時代 名字と結婚を考えるうえで、ずっと結婚支援をしてきて今、どのように捉えているか?

板本さん:とにかく今、未婚化、晩婚化がすごく大きな問題になっているわけです。
これを阻んでいる壁は何かということを、私たちは考えなきゃいけない。
その1つの中に、社会的に見たときに、名字とか継ぐという問題があれば、それは簡単ではないけど、どういうふうにクリアしていくかということだと思います。
つまり、結婚を1つの王道で捉えない、捉えられない時代が来たっていうふうに、私は踏んでます。
(王道とは?)
女性が96%、名前を変えて、男は嫌だから変えないで、子ども2人産んで、1つの家族っていうだけではなくて、事実婚も含めて働き方も変わってきてるので、多様な新しいね、私たちは結婚のオリジナルのそれぞれ、型紙を作るべきではないかというふうに思います。
(それぞれがオリジナルの型紙?)
1つでは、はまらないということだと考えます。

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