クローズアップ現代

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No.37342015年11月17日(火)放送
治る病気が治らない!? ~抗生物質クライシス~

治る病気が治らない!? ~抗生物質クライシス~

治る病気が治らない!? 抗生物質クライシス

子どもを中心に年間50万人がかかる中耳炎。
ここ数年、耐性菌によるものが目立つといいます。
1歳7か月の男の子です。
抗生物質を投与してもなかなか治らず、今年(2015年)1月以降、30回近く受診しています。

小倉弘之医師
「あれ、まただめですね。
(中耳炎が)ぶり返しちゃったんだね、残念ながら。
鼓膜が腫れて、うみがいっぱいたまっちゃってますよね。」


男の子は39度の高熱が出て夜、眠れない日が続いてきたといいます。
男の子の中耳炎を引き起こした細菌です。
検査したところ、抗生物質への強い耐性を示しました。



小倉弘之医師
「抗生物質の種類が書いてあって、Rは効かない。
半分ぐらいまで効かなくなっています。」

「いくつも薬が効かない?」

小倉弘之医師
「効かないです。」

中耳炎は、治らないと鼓膜を切開するなどの外科的な処置が必要になります。
悪化すれば難聴などにつながることもあり、少しでも効く抗生物質を選んで治療していくしかありません。
医師は、小さいころから、かぜなどで多くの抗生物質をのんできた子どもに耐性菌が特に多いと考えています。
それらの菌が、保育園など集団生活の場でほかの子どもにも広がっていると見ているのです。

小倉弘之医師
「薬が良く効いた時代は、抗生物質を出しておけばすぐ治るという。
使える武器が減っていくわけですから、非常に心細い面がありますね。」

治る病気が治らない!? 生後まもない赤ちゃんが…

耐性菌への危機感は新生児医療の現場でも高まっています。
早産で生まれた赤ちゃんたちが入院する、新生児集中治療室です。
免疫力が弱い赤ちゃんが感染症にかかると、命の危険にさらされます。
このため、外から耐性菌が持ち込まれないよう厳重な感染対策を日々行っています。
ところが今年、思わぬ事態が起きました。

生後1日目の赤ちゃんが細菌に感染し、髄膜炎を発症。
3種類の抗生物質が投与されましたが、容体は悪化。
半日もたたずに亡くなりました。
病院は赤ちゃんが死亡した背景に、一般の人たちの間での耐性菌の広がりがあると考えています。

群馬県立小児医療センター 新生児科 小泉亜矢医師
「これは実際に(亡くなった)患者さんから検出された大腸菌です。」



赤ちゃんから検出されたのは、抗生物質が効きにくい大腸菌。
母親の体からも同じ菌が検出されました。
この耐性菌を持つ人の割合はここ数年急増し、1割以上に上るとする報告もあります。
地域に広がっていたこの菌が母親に感染し、さらにおなかの赤ちゃんへと感染した可能性があるというのです。

群馬県立小児医療センター 新生児科 小泉亜矢医師
「やっぱり病院では防ぎようがない部分。
それによって命を落とされるお子さんが増えるのではないか、危惧はあります。」


妊娠中に、この耐性菌がおなかの赤ちゃんに感染した女性です。
子どもは脳内の出血や呼吸器の障害など、一時、深刻な状態になりました。
有効な抗生物質が見つかり奇跡的に回復しましたが、女性はいつ、どこで菌をもらったか分からず耐性菌の怖さを感じています。

耐性菌に感染した母親
「ほんとにどこでうつってきたのかも分からないし、(耐性)菌が普通にいろいろなところで発症することを考えると、すごく怖いのはあります。」

治る病気が治らない!? “最強”耐性菌の脅威

抗生物質が効きにくい耐性菌が身近にも広がる中、医療界が特に懸念している菌があります。
CRE・カルバペネム耐性腸内細菌科細菌。
耐性菌への最後の切り札といわれるカルバペネムを含め、ほとんどの抗生物質が効かない最強の耐性菌です。


CREはみずから増殖するだけでなく、抗生物質を分解する遺伝子を仲間の細菌に次々と渡しCREに変えていく特殊な力を持っています。
このため広がりやすく、欧米では5年ほど前から急増。
体力が低下した手術後の患者や、がんの患者などが多数死亡しています。

兵庫県立こども病院 小児感染症科 笠井正志医師
「ただでさえESBLやMRSAなど(既存の耐性菌)で苦しんでいるところに、重症例を診ている立場からすると、これ(CRE)が出てくるとなったら、かなりきつい。」


日本でも、去年(2014年)初めてCREの大規模な集団感染が報告されました。

「申し訳ございませんでした。」

大阪市にあるこの病院では114人の患者がCREに感染。
23人が死亡し、少なくとも2人がCREが原因で死亡した可能性があると発表しました。


中でも医師たちに衝撃を与えたのは、60代の女性が死亡したケースでした。
消化器系のがんだった女性は、手術が成功。
食事もとれ歩けるまでに回復していました。
ところが突然、高熱を出し容体が急変。
カルバペネムを含む6種類もの抗生物質が投与されましたが、亡くなったのです。

外部調査委員会委員長 大阪大学 朝野和典教授
「耐性(菌)でなければ治療で助かる人が、治療で助からなくなる不利益、それが起こりうるということ。
このアウトブレイク(感染拡大)に遭遇して、日本ももはや抗菌薬の効かない時代に突入したのではないか。」

院内感染に気付いた病院は、患者を隔離するなどの対策を実施。
しかし、いったん広がった感染を抑え込むまでには1年以上がかかりました。

治る病気が治らない!? 抗生物質クライシス

ゲスト大曲貴夫さん(国立国際医療研究センター・国際感染症センター長)

●助かるはずの人が助からない耐性菌がその背景にあったケースを目の当たりにしている?

そうですね。
残念な経験はやっぱりあります。
例えばがんのお話が出ましたけれども、手術を受けるにも、いわゆる、その傷がうまないように抗生物質って実は使うんですよね。
抗がん剤治療をすると、どうしても白血球が下がって感染症にかかりやすくなるんですけれども、その際にも抗生物質は使います。
それらがうまく効くことによって、がんの治療もうまくいってたんですよね、今までは。
ほかの多くの高度な医療もみんなそうです。
ただ、耐性菌が出てきてしまいますと、そのときに、いざというときに抗生物質が使えなくなってしまって、残念なことが起こってしまうということは、やっぱりあります。

●耐性菌の広がり 外来などを通して、どう実感している?

そうですね、病院の中での耐性菌の問題は以前からよくいわれていたんですが、今おっしゃった外来ですよね、つまり病院の外での耐性菌の問題というのを、われわれ5年10年、非常に強く感じるようになりました。
例えば、分かりやすい例でいいますと、よくかかる感染症でぼうこう炎というのがあります。
あるいは、それほどまでではないですが、同じ尿路の感染症、腎う腎炎という、腎臓の感染症があります。
そこで原因となる菌は、ほぼ80%から90%以上が大腸菌といわれる菌ですね。
人間の実は、おなかの中にもともといる菌なんですけれども、ただ実はこの大腸菌を調べますと、今、日本では15%前後が薬の効きにくい菌に変わってきてしまってるんですね。
ということは外来の感染症であっても、常にわれわれはそういった耐性菌の存在を意識しなければいけない、そういう状況になっています。

●妊娠している母親から子どもに感染が広がったケース 今、妊娠している人はどう考えればよい?

今のような事例って、やっぱり大変ですし、悲しいですし、本当にお母さん、お父さん、ご心配になられると思います。
問題自体は本当に最近、気付かれ始めたところなんですね。
ただ医療者は、現場の医師や、ナースは確実にその問題に気付き始めています。
ということで、こういう感染症になるのは、例えば生まれたときに体が小さかったりして、そういう方々は感染症のリスクが高いんですけれども、そういった方々が入院して来られたときに、ドクターであるとか、ナースが、ひょっとしたら薬の効きにくい菌の感染症もあるかもしれないということを認識し始めてますので、われわれ医療者はそこをしっかり注意して、見極めて、治療を速やかに始めていくということが、今、大事じゃないかと思います。
(健康に生まれた場合は、心配しなくてもよい?)
と、思っています。

●耐性菌がこれほど広がった原因、どう見る?

1つはやはり抗生物質なんですけれども、結果的に使い過ぎてしまったんではないかということがあります。
抗生物質の特徴は、ほかの薬と違うのは、使い過ぎてしまうと、その対象であるところの微生物が効かなくなるということなんですね。
中でも使わなくていいところで使ってきてしまった。
例えばいい例は、かぜです。
かぜは実は、菌ではなくてウイルスが原因なんですね。
インフルエンザもウイルスです、同じようなものです。
抗生物質、全然効かないんでね。
でも治るんですよ、自然治癒力で治る。
ただ、そういった熱で病院に行ったっていう場合に、抗生物質を出されることは今までは多くて、のむ側の患者さん側からすると、それでよくなってきたような印象をやっぱり持つものですから、どうしても熱が出たときに抗生物質を求めてしまう。
例えば、自分が熱が出たときに手元にお薬があったらのんでしまうかもしれないし、友達からもらうかもしれない、家族に出されたものをのむかもしれない。
あるいは先生に出してくれって言うかもしれない。
そうやってのみ過ぎてしまった面はあるでしょうし、医療者ももっと反省すべきで、本当は抗生物質がいらないような、そのかぜのような状況でも、出しておいて損はないだろうと、害はないだろうということで、心配だから出してきてしまってた。
患者さんの目もあるしということで、結果的には使い過ぎだったと。
だから耐性菌が増えたということはあると思います。
2点目は、耐性菌がやはり人から人に広がっていったということはあると思います。
例えば、今は医療は病院の中だけではなくて病院の外に広がっていますけれども、それは要は、医療を受けた方が病院の外にたくさんおられてということを意味しまして、そういう方々は、どうしても耐性菌を持っているということはありえます。
その方々がほかの方と接したりとか、家族の方とかですね、ということで耐性菌が広がっているという面もあると思います。

抗生物質クライシス 不必要な投与を減らせ

耐性菌が原因で年間推計2万3,000人が死亡しているアメリカ。
今年3月、オバマ大統領は国を挙げた対策を宣言。
不必要な抗生物質の処方の削減などに乗り出しました。

オバマ大統領
「耐性菌の拡大するスピードを遅らせる。
これが実現できなければ医療の根幹が崩れかねない問題となる。」


一方、日本では医師たちによる地道な取り組みが始まっています。
開業医の前田稔彦さん。
耐性菌を生み出さないため、抗生物質を極力使わないようにしています。


導入しているのが、「グラム染色」と呼ばれる検査方法です。
かぜや中耳炎などの症状を訴える患者には、まず原因が細菌であるかを確認。
抗生物質を処方するのは、細菌の種類などを特定できた場合に限っています。
この結果、抗生物質の処方は従来の5分の1に減り、治療期間も短縮したといいます。

まえだ耳鼻咽喉科クリニック 前田稔彦医師
「医師の一人として、できるだけ抗生物質の処方を減らして、耐性菌の出現を減らしていく。
小さなクリニックですけれど、そういう一つ一つから始めないと。」

抗生物質クライシス “耐性菌”拡大を防げ

地域での耐性菌の広がりを防ごうという取り組みも始まっています。
およそ50万人の医療を担う沖縄県立中部病院です。
力を入れているのが、3年前に始めた訪問診療での感染対策です。


沖縄県立中部病院 髙山義浩医師
「この赤い点が、これまで訪問した患者の所在地。」

これまでに診療した患者180人のうち、およそ2割から耐性菌が見つかっています。


訪問診療を担当する、内科医の髙山義浩さんです。

沖縄県立中部病院 髙山義浩医師
「おととい、熱出してました?」

耐性菌を持つ患者を診療するときには必ずエプロンや手袋を着用します。

沖縄県立中部病院 髙山義浩医師
「聴診器をカバーしている。
接触感染対策。」



患者専用の血圧計や体温計を家族に用意してもらい、ほかの患者との共用を避けています。
訪問診療を行う医師を通して耐性菌がほかの患者にうつったり、患者の入院によって病院内に持ち込まれたりすることが考えられるからです。


髙山さんは、耐性菌を持つ患者の情報を、地域の介護スタッフや訪問看護を行う看護師と共有する体制も取っています。




沖縄県立中部病院 髙山義浩医師
「これから耐性菌は地域でも広がっていくというのを認めたうえで、うつしてはいけない人たちをどう守るのか考えていく段階だと思っています。」


大阪では、介護施設での感染対策に乗り出しています。
施設の高齢者は医療機関への入退院を繰り返すことが多いため、病院から専門の看護師が出向き、感染対策を促しています。

感染管理認定看護師
「共有で使う物、汚染していると次の人に(耐性菌を)持っていってしまうリスクがあるので。」

地元の保健所が中心となり、病院と介護施設が連携して、地域全体で耐性菌に備えようとしているのです。

感染管理認定看護師
「今の医療は病院だけでは完結しないので、情報共有をしながら対策を考えていくのは重要なことだと思います。」

治る病気が治らない!? 抗生物質クライシス

●患者と接する家族、介護施設にいる関係者、入所者どうしなどは、どんな考え方でこれを捉えるべき?

この課題は、実は世界的にも大きな課題です。
解決策をこれから一緒に考えるところなんですが、ただいえるのは、在宅であるからこそ、あるいは長期療養型の施設だからこそ、感染症のリスクの高い方はおられるので、絶対的に対策はいるだろうと。
ただ、一方で、生活の場としてのそういった場のありようを崩しちゃいけないと思うんですね。
なぜならば、生活の場であるからこそ健康が保たれ、あるいは回復すると。
でも一方で、対策は足りないというところはありますので、そこはやっぱり専門家の目が必要じゃないかと思います。
これまで専門家はなかなか入れませんでした。
ということで、生活の場としてのありようをうまく生かしながら、専門的な目を入れて、うまく対策ができる、そういった取り組みを始めていくということが大事ですし、現場の家族の方、職員の方がまずできることは、やっぱり手をきれいにすることじゃないかと思います。
手指衛生です。
水とせっけんで手をきれいにする。
そこから始めていくのが、僕はいいやり方ではないかと思います。

●切り札といわれるカルバペネムという抗生物質 それに対する耐性を持ったCREは今、どの程度広がっている?

統計をお出しします。
WHOの統計ですけれども、CREの中でも肺炎や敗血症を起こす肺炎かん菌というものの中で、CREがどれぐらいあったかというものを見たものなんですけれども、ギリシャは68.2%、すごく高い、大問題です。
日本は今のところは0.2%と非常に低いんですけれども、これから上がらないともかぎりませんので、これをなんとか抑えていくということが重要だと思います。
(それを抑えていくには、今、何が必要?)
まずこういった耐性菌の問題自体が、日本ではなかなか意識されてなかったと思います。
ほかの国では、例えばアメリカやイギリスでは国ぐるみでも対策を立てています。
社会保障上の危機であるということで、日本でもそういった議論を始めることがやはり一つ、大きな課題だと思いますし、もう一つ大事なのは、新薬の開発ということを期待したいところなんですけれども、ただそれではこれまでと変わらないですね。
というのも、新しいお薬が出ても、またそれを使いつぶしてしまったら次はなくなるんです。
そうならないように、われわれはこれから薬を使いつぶさないようなつきあい方を患者と医療者で考えていく必要があると思います。
(本当に必要なときだけ使う?)
そうですね。

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