クローズアップ現代

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No.37332015年11月16日(月)放送
緊急報告 パリ“同時テロ”の衝撃

緊急報告 パリ“同時テロ”の衝撃

パリ“同時テロ” 無差別襲撃の恐怖

パリから車で2時間。
容疑者の1人が暮らしていたという街です。
2年前まで住んでいたとみられる家。
今は別の住民が住み、扉は閉ざされていました。
男は、イスマイル・オマル・モステファイ容疑者。
フランス国籍の29歳。
モステファイ容疑者のことを知る住民に会うことができました。

近所の住民
「どちらかというと内向的でしたね。
自分の殻に閉じこもっていました。
とても控えめにしていました。」


周囲からの評判は「おとなしい住民」。
その一方で、5年ほど前からは過激な思想に染まり、一時当局の監視対象となっていました。
シリアに滞在した可能性もあるとみられています。

モステファイ容疑者らは、パリの中心部の8か所で僅か30分ほどの間に同時多発的に犯行を起こしました。
グループは3つに分かれていました。
まず動いたのがパリ郊外にいたAグループです。
オランド大統領が観戦する中で行われていた、サッカー・フランス代表とドイツ代表の親善試合。
午後9時20分。
入り口付近で最初の爆発。

「2回目の爆発だ、走れ、走れ!
逃げろ、逃げろ、テロだ!」

その10分後、2回目の自爆テロが起きました。

ほぼ同時刻、7キロ以上離れたパリ市内でBグループが襲撃を始めます。
まず、2つの飲食店を銃撃。
15人が死亡し、10人が負傷しました。
このグループは車で移動して別の飲食店を襲い、その後も次々と銃撃を繰り返しました。
そのとき、近くを走っていたタクシーからの映像です。

「撃ってる、撃ってる。
バックしよう。」

銃撃直後の現場。
ここでは、19人が死亡しました。
銃撃されたレストランのオーナー、グレゴリー・ライベンベルグさんです。
金曜日の夜、店内は大勢の客でにぎわっていたといいます。

銃撃された店 オーナー グレゴリー・ライベンベルグさん
「爆発音が響き、何が起きたかわからなかった。
顔を上げた時にカラシニコフ銃を持っている男を1人見た。
銃撃が終わった時、女の子の母親はまだ生きていたが、20分たってから心臓が止まった。
友達、知り合い、常連客をたくさん失った。」

15分で、およそ4キロを走り抜けたBグループ。
短い間に凄惨(せいさん)なテロを行っていきました。

街が混乱に陥る中、さらに追い打ちをかけたのがCグループの動きです。
150年の歴史を誇る伝統あるコンサートホール。
当時、アメリカのロックバンドがライブコンサートを開催していました。
2階建て構造の客席は1,500人余りの観客でほぼ満員。
容疑者グループはそこに侵入してきたのです。
観客に銃を乱射し続けながら、「神は偉大なり」とアラビア語で叫んでいたといいます。

生存者
「後ろを向いたらカラシニコフ銃を持っている数人の男が見えて、彼らは人々に向かって無差別に銃を撃ちだした。
床にいる人たちを銃撃していった男の姿を見た。」

人質を取って2階に立てこもり、警察との銃撃戦の末、1人が射殺され2人が自爆しました。
スペインから来ていたこの女性。
息子の安否が今も分からないままだといいます。

息子を探す母
「息子はホールにいたんですが、見つからないんです。
パリの病院には全部電話をしました。
でも、どの病院にもいなくて。」


事件の翌日には、隣国のベルギーで犯行に関与したと見られるフランス人の男ら3人が身柄を拘束されました。
専門家は、国境をまたいで周到に犯行を実行に移せる組織がフランスにできていると懸念しています。

テロ国際監視所 ロラン・ジャカールさん
「今回は他のテロとまったく違います。
まず高度な連携をとりながら3つのチームが動いていました。
しかも爆薬をフランス国内で作っていたようです。
その力があるほど大きな組織が、フランスにできているということです。」

銃撃されたレストランのオーナーです。
事件から2日後、初めて現場を訪ねました。

銃撃された店 オーナー グレゴリー・ライベンベルグさん
「どうやったら悲劇を乗り越えられるか、みんなで考えないといけない。」

パリ“同時テロ” 広がる衝撃

ゲスト池内恵さん(東京大学准教授)

●この事件の衝撃をどう受け止めている?

これまで、個々のテロのやり方という意味では、同じような事件は過去に何度もあったんですね。
今回はその延長線上にあるとは思うんですが、違いは、ある種、進歩した、進化した、何が進化したかというと、むしろ組織とか手法ではなくて、冷酷さが進化したといっていいと思います。
非常に手際がいい。
それから、複数の場所で連携して、コーディネートして、実行している。
そしてそれぞれが銃撃して、最大限銃を撃って相手を倒したあとで、みずから自爆して死んでるわけですね。
そういう意味で非常に、変な言い方ですが手際がよくなっている。
なぜかって、一貫するのは冷酷さが増しているということだと思います。
冷静であり、冷たいということですね。

●この組織的なネットワークの広がり、どう見る?

私自身は依然として、われわれが通常考えるような大きな組織があるとはあまり考えてないんですね。
むしろ、あくまでも自発的に、極めて小さな、きょうだいとか親戚とか、非常に仲のいい友達といった小集団がいくつか集まって、しかし非常に冷酷に、冷静に計画をして、連携して事を運んだというふうに考えています。
そして、これまで行われてきたさまざまなジハードを掲げるテロの手法を、ほぼ全部使っているといっていいわけですね。
自爆する、あるいは無差別に銃撃する、あるいは襲撃をして立てこもる、そのすべてを1回の並行した一連の事件で行って、すべて成功させ、そして証拠を残さないようにそれぞれが死んでしまっているという、そういう意味では極めて計画性が高く、準備がよくできていて、そして実行力を見せつけた。
ただし、これはそんなに大きな組織じゃなくても、やはりできるんですね。
武器自体は、別にイスラム国が独自のルートを開拓したわけではないかもしれない。
むしろフランスやベルギーなどに通常存在している密輸・密売のネットワークから買ってくれば済むわけですね。
今、お金など、武器を買うために渡した人はいるかもしれない。
しかしそれほどたいした額ではないと思われます。
そして、何よりも通常、組織的に物事を行う時っていうのは、そもそも実行犯が生きて逃げて帰ってくるところまでをすべて支えようとすると、ものすごく組織的になるわけですが、この場合はもう、とにかく犯人たちがねらいどおり自爆して死んでしまってますから、その先を考える必要がないわけですね。
そうしますと、依然として組織は小さくていいわけですね。
武器を渡して、やれるだけやって、そこまで支援すればいいというだけですからね。

●過激派グループのねらい、そしてISは今どういう状況にある?

ISを含むグローバルなジハードを掲げる勢力というのは、私の見方では2つのメカニズムで広がっています。
それは、キーワードは「拡大」、そして「拡散」だと思いますね。
拡大というのは、地理的、面的な拡大です。
例えばイラクやシリアのように、中央政府が弱くなっている、ある地方が中央政府が統治できなくなっている、そういった所に入ってくるんですね。
そこでそういう所では、面的な領地支配をして、そこに大規模な組織を作って、武装して、公然と活動する。
しかし、そのような活動ができないエリアが世界に多くあります。
例えばフランスのような先進国、あるいは中東でもエジプトとかチュニジアのような比較的治安がいい国では、面的に支配するエリアはほとんどありません。
辺境地域ぐらいに、ちょっとしかない。
そうしますと、そういう所ではイデオロギーですね、組織を作って、大規模に活動、武装することはできませんから、拠点をむしろ作らずに、小規模な組織が勝手に社会の中から出てくることを刺激する。
それによって、具体的にはテロを自発的に行わせる、そういう意味では「拡散」なんですね。
今回は、拡散の方向に一気に振れた、そういう事例だと思います。

“同時テロ”の衝撃 緊張続くパリ

テロから2日がたった15日夜。
事件現場近くの広場です。
取材班がインタビューを行っていたさなか…。

「逃げろ、逃げろ。」

「地下鉄の中で何かあったようです。
警察が今、入っていこうとしています。」

新たなテロが起きたという声に現場は一時、騒然となりました。
その後、テロではないことが分かりましたが、パリでは今も緊張が続いています。

IS vs 国際社会 繰り返されるテロ

今回のテロ事件は、国際社会がISへの攻勢を強める中で起きました。
去年(2014年)8月以降、アメリカを中心とした有志連合が行っているISに対する掃討作戦。
今年(2015年)8月、トルコが加わり、9月にはロシアも空爆を始めました。
これに応戦するかのように無差別テロが繰り返されています。
先月(10月)、トルコでは爆弾テロで100人以上が死亡。
その後、ロシアの旅客機が墜落し、IS関連の武装組織が犯行声明を出しました。
フランスは今年9月から、シリアにあるISの拠点への空爆に参加。
さらに今月(11月)、新たに空母の派遣を決めました。

テロ対策の専門家は、こうした強硬姿勢を取るフランスをISが標的にしたと分析しています。

戦略研究所 特別顧問 フランソワ・エイスブルグさん
「ISは(有志連合の中での)フランスの影響力を懸念し、疎ましく思っているのです。」

パリ“同時テロ” 揺れる難民政策

さらに今回のテロをきっかけに、ヨーロッパ社会が変質するのではないかという懸念も生じています。
実行犯の1人が、難民に紛れてヨーロッパに入ってきた疑いが指摘され、不安が広がっているのです。

ヨーロッパには今年、大勢の難民や移民が押し寄せ、すでに80万人を超えました。
今回の事件によって、寛容の精神で難民を受け入れてきた各国の政策にも影響が出かねないと指摘されています。



戦略研究所 特別顧問 フランソワ・エイスブルグさん
「ヨーロッパは難民危機に直面しています。
本当に難民にテロリストが紛れ込んでいないのか、今後、非常にデリケートな問題になってきます。」

“同時テロ”の衝撃 緊張続くパリ

事件後、追悼のために現場を訪れた市民の間で、あつれきが見られました。

「(イスラム教は)女性を石打ちの刑にするような宗教なんだろ。」

「違う、あなたは間違っている。」

「あなたの解釈は間違っている。」

「もううんざりよ、テロで亡くなったのは白人だけじゃないのよ。
わたしたちイスラム教徒だって、テロで大切な人を失ったのよ。」

「静かにして、亡くなった人たちのために静かにして。」

文化や宗教などの多様性に重きを置いてきたフランスは、今、試練に直面しています。

パリ“同時テロ” 揺れるフランス社会

ゲスト長尾香里(記者)

●今回の事件をきっかけとした社会の分断の懸念、人々はどのように感じている?

長尾記者: 事件が起きた直後だけに、多くの市民は連帯や平静を守る決意を口にしています。
社会が分断すれば、それこそテロのねらいに屈したことになるからです。
フランスはこれまで、植民地時代の歴史的な経緯から、北アフリカなどから移民を受け入れてきたヨーロッパ最大の移民社会です。
多様な文化や価値観の共存を国是としてきました。
理想は高いんですが、現実には宗教的な対立や、経済格差を巡って、社会の中に不満や不信感が高まり、大規模な暴動に発展したこともあります。
そこにISが、フランス社会に直接攻撃を加え、宗教対立をあおる声明を出したことで、イスラム系の人々への対立感情が高まるおそれがありまして、不安は大きいんです。

●フランスはISの拠点に空爆を行っている こうした力を使うことに対しての迷いはフランスの人々の間にはない?

長尾記者: フランス軍は15日、シリア北部のISの拠点に対して、空爆を行いました。
メディアはこれまでで最大規模だと伝えています。
しかしこうした姿勢は、過激派思想を支持する国内の分子をさらにあおることにつながらないかと、国民の中には慎重論も根強いんですね。
一方でフランスは今、押し寄せる難民をどう受け入れるかといった問題に直面しています。
多くはシリアからの難民です。
今回の事件をきっかけに、ヨーロッパの一部の国と同じように、難民をリスクと捉える動きが国内で高まってもおかしくはありません。
自由や寛容を国の理念として掲げてきたフランスが、社会の中で互いに監視する目や、不信感を抱えざるをえなくなるのか。
国全体が大きな試練に直面しています。

●空爆に対して国内には慎重論も出ている 対応はどうあるべき?

池内さん: イラクやシリア、あるいは中東のほかの国で無秩序な状態があるということが、結果的にその地域でのISの拡大にもつながってますし、それを拠点として、そこを訓練の場所として、あるいはお金や武器の発信源として結果的にフランスを脅かしている、そういうことは確かなんですね。
だから、その根本を絶つのは、要するに軍事攻撃だという議論が、今後ある程度強くなるとは思います。
ただ、私の見方からいうと、少なくとも一時的には、イラクやあるいはシリアの拠点を攻撃することはテロの拡散を促進すると。
むしろ地理的に拡大できなくなる、拠点が脅かされると、世界に散っていくと、そういう可能性が私は高くなると思いますね。
そういう意味で、短期的にはむしろテロの危険を増す政策だとは思います。
ただ根本的にはもしかすると、そうしないと解決しない問題なのかもしれません。

●500万人ともいわれているイスラム教徒を抱えるフランス 同化政策を取ってきたが、今の悩み・ジレンマは?

池内さん: フランスは、異なるバックグラウンド、宗教とか民族が異なる人でも、個人としてフランスの共和国の理念に賛同し、同化すれば受け入れるという、そういうやり方でやってきて、非常に成功例は多いんですね。
同時に、特に郊外などで、うまく経済的・社会的に同化できない人たちがたくさんいる。
その中に過激な思想を持つ人たちも出てきている。
その中に、さらに昨年~今年ぐらいから急激に新たな難民が増えているんですね。
この事件は、直接的には恐らく、これまで受け入れ能力を超えて行ってきた難民・移民の受け入れ政策を変えるきっかけにはなると思います。
ただ、難民は別にテロリストというわけではありませんから、紛れ込んでくる危険性を避けるというそのために恐らく政策転換が正当化されるという、そういう方向は考えられますね。
(フランスの世界観、あるいは人権を重視する姿勢とイスラム教徒が相いれるのか、そういったところも?)
すべてのイスラム教徒がフランスの社会に対して敵対的ということは全くないわけですが、同時にイスラム教の根本的な教義の中には、フランスの、人間が中心であり、個人主義の人道主義とは相いれない部分があるんですね。
これまでそれは、やがて同化されると思っていたんですが、それができなくなったということを思い知らされた、それでショックを受けているというのが現実だと思います。

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