クローズアップ現代

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No.37232015年10月27日(火)放送
がん治療が変わる ~日本発の新・免疫療法~

がん治療が変わる ~日本発の新・免疫療法~

新・がん免疫療法 その効果とは?

夫婦で散歩する佐藤さん。
去年(2014年)の初め、がんと診断されました。




右足の太ももに出来た、2センチほどのほくろのようなもの。
皮膚がんの一種、メラノーマでした。




すでに筋肉の中などに転移し、手術だけでは取りきれない状態でした。

佐藤さん
「ここの右足の付け根のところがグリグリっとして、先生が『もっと早く来ればよかったのに、ちょっと手遅れだよ』という感じだった。」

佐藤さんはがんの専門病院を訪ねました。
手術のあと勧められたのが、免疫チェックポイント阻害剤による治療でした。
すると驚いたことに、転移も進んでいたがんが、みるみる小さくなりました。
今も数週間に一度の点滴を続けていますが、日常生活に支障ないほど回復しています。

佐藤さん
「従来どおりです。
(がんが)小さいままでも、このまま共に行こうという感じです。」


免疫チェックポイント阻害剤は、どのようにしてがんに効果を示すのでしょうか。
がん細胞を攻撃する免疫細胞。
しかし、がん細胞もやられる一方ではありません。
攻撃されたがん細胞は、ある方法で反撃を始めます。
実は免疫細胞には攻撃を止めるブレーキボタンがあります。
攻撃を受けたがん細胞は腕を伸ばし、このボタンを押すのです。
すると、免疫細胞は攻撃をやめてしまいます。
その結果、がん細胞は増え、がんが進行していきます。

これに対し免疫チェックポイント阻害剤は、ブレーキを押すがん細胞の腕を外し、ブレーキを守ります。
こうなると免疫細胞の攻撃力は復活。
これが、この薬の画期的な効果なのです。



国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科 山崎直也科長
「効いたらずっと長く効く点で、画期的な薬です。
今度は薬でがんを本当に治せる、克服できる時代が来た。」

新・がん免疫療法 広がる可能性

免疫チェックポイント阻害剤の治療の可能性は、メラノーマ以外にも広がりを見せています。
アメリカ・コネチカット州。
ボブ・カールソンさんは2年前、肺がんが全身に転移し、余命数か月と診断されました。
すぐに抗がん剤による治療を始めましたが、効果は現れませんでした。

そこで抗がん剤をやめて、新しく開発された免疫チェックポイント阻害剤の臨床試験に参加することにしたのです。
新しい薬を使い始めたときには2センチ以上あったボブさんの肺がん。
1年半後には画面では確認できないほど小さくなっていました。
副作用もほとんどなく、今では趣味のバードウォッチングに出かけられるまでになりました。

ボブ・カールソンさん
「今は大丈夫です。
自分が病気であることさえ忘れます。
毎日が最高です。」

新・がん免疫療法 きっかけは日本人研究者

メラノーマや肺がんに目覚ましい効果が見られた、免疫チェックポイント阻害剤。
今、あらゆる種類のがんを対象に世界中で研究が進められています。
がん治療を変えると注目されるこの薬。
1人の日本人研究者の発想から生まれました。
日本を代表する免疫学者・本庶佑さんです。

20年ほど前、免疫細胞が持つ「PD-1」という役割の不明なたんぱく質を見つけ、その働きを探ろうとしました。
遺伝子操作でPD-1がないマウスを作り、観察したのです。


すると、心臓に炎症が起きました。
PD-1がないマウスでは免疫細胞が暴走し、自分自身の正常な細胞を攻撃してしまったのです。
このことから、PD-1が免疫細胞を制御するブレーキであることが分かりました。
PD-1が免疫細胞のブレーキならば、その働きをコントロールすることでがん細胞と戦う力を取り戻せるかもしれない。
そう考えた本庶さんは、新しいタイプのがん治療薬の開発を目指し、製薬会社に共同開発の話を持ちかけました。
しかし…。

京都大学大学院医学研究科 本庶佑客員教授
「治療に応用しようということを、一生懸命、企業に話をもちかけましたが、全く冷たいというか、乗り気になる企業は全くなかったというのが実情ですね。」


実は、免疫細胞の攻撃力を利用して、がん細胞と戦う免疫療法は、以前から研究されていました。
しかし、期待されたような効果はほとんど上げられずにいたのです。

従来型の免疫療法のほとんどは、免疫細胞に働きかけ攻撃力を高めるというもの。
いわば、アクセルに作用するものでした。
本庶さんの提案するブレーキに作用する方法とは大きく異なりますが、同じ免疫療法というだけで製薬会社は懐疑的になったのです。

京都大学大学院医学研究科 本庶佑客員教授
「がんの専門家はほとんど、がんの免疫療法は眉唾物だろうと考えていたと思いますね。
僕はがんの専門家じゃなかったので、従来のものとは全く違う方法だということなんで、やってみる価値がある、ぜひやりたいと思った。」

その後、本庶さんの研究に注目したアメリカの研究者とベンチャー企業が協力してPD-1を抑える薬を開発し、高い効果を証明しました。
こうして、免疫チェックポイント阻害剤が誕生したのです。

がん治療が変わる 日本初の新・免疫療法

ゲスト玉田耕治さん(山口大学医学部教授)

●日本の研究者が薬の研究を持ちかけても受け取る製薬会社がいなかった 開発できなかったのは残念だが?

そうですね。
やはり薬の開発には非常に多くのお金と時間がかかりますので、なかなか成功例がなかったがん免疫療法の開発というのが、非常に難しかったということがいえます。
(専門家として、この薬はどれほど劇的に効くと?)
そうですね、これはこれまで通常の抗がん剤や手術、そういうものが効かなかった患者さんに、2割から4割ぐらいの患者さんで効果があるということで、非常に劇的に効きます。

●免疫細胞にはアクセルとブレーキがあるが、この薬にはブレーキを外し、守る効果がある?

そういうことですね。
これまでの従来のがんに対する免疫療法の開発というのは、このアクセルを踏むことばかりを考えて、どのように免疫細胞を活性化しようかということを考えてました。
ところが、免疫細胞をどんなに活性化しても、やはりがんの局所でこのブレーキを押されて、免疫細胞がブレーキをかけられてしまうと、これはがんを攻撃できないということで、非常に画期的な、新しい治療法が開発されたということになります。
(今まではアクセルを強める研究ばかりだったが、実はあまり効果がなかった?)
そうですね、これは先ほどの繰り返しになりますけど、ブレーキを踏むというメカニズムが分かってきたということで、ここをやはりなんとかしないといけないという研究が進んできたということになります。

●そもそも、免疫細胞にはなぜブレーキがある?

免疫細胞というのは、もともと自分と自分以外のものを識別して、自分以外のものを排除するというような働きを持っています。
ですから、このブレーキというのは、免疫細胞が逆に暴走しないように、自分自身を攻撃しないようにするために非常に必要な分子なんですね。
ところが、がん細胞は、その部分を上手に利用して、がん細胞自身が攻撃されないように、このブレーキを押す腕を出してるということが分かってきたということになります。

●この新薬に副作用はある?

これは、通常の抗がん剤と全く異なる副作用がございます。
抗がん剤というのは、がん細胞自身を攻撃するようなお薬ですが、このチェックポイント阻害剤は、免疫反応を高めることによって、がんを攻撃をすると。
先ほど申しましたように、このチェックポイント分子というものは、免疫細胞が暴走しないように働いている分子ですから、そのブレーキを外すと、免疫細胞が暴走することによる副作用というものが起こってきます。
例えば肺の炎症であったり、大腸の炎症であったり、中には重症筋無力症という、特殊な病気が起こる方もいらっしゃいます。
現在行われているメラノーマの治療では、約10人に1人ぐらいの患者さんが、重篤な副作用が出るというふうにいわれています。

●どういったがんに、どの程度効く?

こちらのフリップを見ていただきたいんですけれども、現在、日本ではこのメラノーマというがんに対して、このお薬は承認を受けております。
(皮膚がんの一種?)
そうですね。
それから欧米では、この肺がんに対して承認を受けております。
それから腎臓がんや、ホジキンリンパ腫というがんでは、このお薬が非常に効きやすいというような報告も出ております。
逆に、このすい臓がんや前立腺がん、大腸がんというものは、なかなか効きにくいと、それから頭けい部がん、卵巣がん、胃がん、乳がんというのは効く可能性があるということで、現在、多くの臨床研究がされているという状況です。
(効きやすいタイプのがん、具体的にこれまでの臨床試験でどれぐらいの効果が上がっている?)
例えばこのホジキンリンパ腫というのは非常に効きやすいといわれておりまして、報告では9割の患者さんで効果があったというような報告もございます。
それからメラノーマ、肺がん、腎臓がんというのは、約2割から4割ぐらいの患者さんで効果があると。
ただし、これはほかの治療法が全く効果がない患者さんに対して2割から4割ですから、非常に劇的だということができます。
手術や抗がん剤、放射線の治療が効かない患者さんに対しては、そのような進行がんの患者さんに対して、2割から4割の患者さんで効果が出るということでございます。

新・がん免疫療法 なぜ効果に差?

先月、アメリカで開かれた国際がん免疫療法合同会議。
免疫チェックポイント阻害剤への注目を受けて今までになく大勢の研究者が世界中から集まりました。
課題として挙げられたのが、がんの種類によって効果がまちまちなことです。


「ぜひチャレンジしていただきたいのです。
できるだけ多くの種類のがんで、患者さんがより長く生きられるように。」




ここ数年間で明らかにされた臨床試験の結果です。
メラノーマや肺がんには効きやすい一方で、前立腺がんや大腸がんには効きにくいなど、がんの種類によって効果に差があることが分かってきたのです。
薬が効きにくいがんに対して、どうアプローチするのか。
効く、効かないを分けるポイントを見つけ出す取り組みが始まっています。

そのヒントの1つが、ある患者たちを通して見えてきました。
ステファニー・ジョホさん。
22歳の若さでステージ4の進行がんと診断されました。
この薬が効きにくいとされる大腸がんです。


2度の手術と抗がん剤治療を行いましたが回復は見られず、一時は危篤状態に陥ったといいます。
わらにもすがる思いで参加したのが、開発中の免疫チェックポイント阻害剤の臨床試験でした。
それから1年、今では1人で外出できるまでに回復しています。

ステファニー・ジョホさん
「信じられないことに、がんが60%も小さくなっていたの。」



4人姉妹の三女として生まれたステファニーさん。
母親も、大腸がんと子宮がんを発病しました。
2人の姉も、がんのリスクが高いと診断されています。
実は彼女たちは「リンチ症候群」という、がんになりやすい遺伝性の病気でした。
しかし、意外にもこのことが、大腸がんにもかかわらず薬が効いた理由だと考えられているのです。

一般的に大腸がんの細胞は、遺伝子の変異が少ないということが分かっています。
免疫細胞にとっては正常な細胞と見分けがつきにくく攻撃しづらいと考えられています。



これに対しステファニーさんの病気の場合、同じ大腸がんであっても遺伝子の変異が多いことが明らかになりました。
免疫細胞にとっては見つけやすいといいます。
この状態なら、がん細胞がブレーキを押しても、薬を使って外しさえすれば、著しい効果につながると考えられるのです。

臨床試験を行った ジョンズホプキンス大学 ダン・レ博士
「彼女たちの場合、免疫細胞はすでにスタンバイ状態です。
ブレーキを外せば、すぐに効果が現れるのです。」



ステファニー・ジョホさん
「皮肉なことに、私のがんの原因になったものが、治療では私を助けてくれているのです。」

ステファニーさんたちリンチ症候群の人々を対象にした研究は、免疫チェックポイント阻害剤の効果について新たな知見をもたらしました。
そのほかのがんでも、遺伝子の変異が多いタイプほど効果が高いのではないかと考えられるようになったのです。
今、薬の効果を最大限に引き出すため、遺伝子の研究が進められています。

新たながん免疫療法 効きやすさに差

●効きやすいがんと効きにくいがん、1つの目安は遺伝子の変異にあることがわかってきた?

そうですね、先ほどご説明しましたけれども、効きやすいがん、効きにくいがんというものをよく調べてみると、効きやすいがんというものは、この遺伝子変異が多いがんということが分かってきました。
免疫システムというのは、このような変異のあるたんぱくを認識をして、これを攻撃をする能力がありますので、やはりそのようながんというものは、この免疫チェックポイント阻害剤というものが効きやすいということができます。

(遺伝子変異が多い、少ないというのは、何倍くらい変異の差がある?)
さまざまな報告がありますけれども、効きにくいがんに比べて、効きやすいがんでは、やっぱり数十倍程度、変異の数が多いというような報告もございます。
(それを見つけられる免疫細胞の力も大きい?)
そうですね。
免疫システムというものは、自分自身は攻撃をしない、けれども自分以外のものは攻撃をできるという能力を持っております。
これは外来から入ってくる病原体でもそうなんですけれども、体の中に存在する、こんな変異のあるがん細胞は自分自身以外のものを持っているということで、攻撃をしてくれるということになります。

●抗がん剤を使っているとだんだん効かなくなるということがよくあるが、この薬の場合は?

一般的に抗がん剤は、やはり耐性というものができまして、長く使っていると効かなくなる患者さんというのがどうしても出てきます。
ですから、複数の抗がん剤を併用するというようなことをするんですけれども、このお薬の場合は、直接がんを攻撃するわけではなくて、免疫細胞を活性化することによってがんを攻撃しますので、免疫細胞というのは、さまざまな変異を認識することができますから、がん細胞はなかなか逃れることができないということになります。

●効くがんと効かないがんがある中、本当に効く人をどう選び、副作用が出ないように投与していくか、課題は多い?

そこでまさしく、今後われわれがやっていかないといけない研究で、効く患者さんというのはやはり遺伝子変異が多い患者さんだろう、これを遺伝子解析という方法で見つける。
あるいは、このPD-1という分子にブレーキをかけている、その腕である「PD-L1」という分子がたくさん出ているものほどブレーキが強くかかっているので、そのような患者さんにやはり効きやすいんじゃないかと、このような研究を介して、どのような患者さんに効くかということに研究が進んでいる。
また10人に1人程度、非常に重篤な副作用が起こりますので、やはりそのような患者さんを同定するための研究というものがされております。
またこのお薬は、非常にお値段が高価なお薬ですので、やはり効く患者さんをきちんと同定をして、副作用が少ない患者さんに効率的に投与するということも重要だろうというふうに考えられています。

●免疫細胞とがん細胞、その関係の研究でどんな正体が見えてきた?

やはりがん細胞というものは、免疫細胞からの攻撃を上手にすり抜けて、免疫細胞に攻撃されないものとして大きくなってきたものが、現実、われわれが目にしているがん細胞というものです。
ですから、免疫療法というものは、非常に画期的なんですけれども、やはりがんが免疫をすり抜けてきた、このメカニズムをはっきり分かることで、よりよい治療法が出来るだろうというふうに考えています。
(どんなブレーキがまだ存在するのか、どうやってブレーキを押しながらアクセルを強められるのか、こういった研究も?)
今後は、ブレーキを外しながらアクセルを踏むという研究が重要になるだろうというふうに考えています。

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