クローズアップ現代

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No.37082015年9月29日(火)放送
国連70年②"誰も置き去りにしない"世界を目指して

国連70年②"誰も置き去りにしない"世界を目指して

“誰も置き去りにしない” 国連の危機感

“誰ひとりとして置き去りにしない”というこれまでにない高い理想が、なぜ掲げられたのか。
国連が最も支援に力を注いできた地域の1つ、アフリカ東部のケニアです。
国連は干ばつに苦しむ遊牧民のために水を引き、農業を一から指導。
収入の糧をもたらしました。

「ユニセフが支援している小学校です。
日本の資金を使っています。」




学校の建設も支援。
小学校へ入学できる子どもの割合を、15年前の68%から100%近くにまで改善しました。

子ども
「お医者さんになりたい。」

国連や各国の支援で社会基盤の整備が次々に進み、ケニアはこの15年で激変しました。
海外からの投資も増加。
2000年以降、GDPが2倍に伸びるほどの成長を遂げ、豊かになる人たちが増えました。

しかし、一方で顕在化したのが繁栄から取り残された人たちの怒りです。
2年前、首都ナイロビの高級ショッピングモールで悲劇が起きました。
イスラム過激派組織アッシャバーブが買い物客たちを襲撃。
60人以上が命を落としました。

アッシャバーブの勧誘の魔の手が向かうのは、格差に不満を持つ若者たちです。
失業率は実に60%。
大学を卒業しても、限られた人しか就職できません。
行き場のない怒りが若者たちに鬱積(うっせき)しています。
かつて、アッシャバーブに所属したことがある若者に取材をすることができました。

「安定した仕事が欲しいのです。
でもそんなものはありません。
とても苦しい状況でした。
子ども2人と年老いた母親の面倒を見ることは、とても出来ません。」

いくらあがいても、はい上がれない絶望感。
男性は2年前、見知らぬ女に声をかけられました。
金になる仕事がある。
行き着いた先はテロ組織でした。

「金持ちは景気の良さを実感していますが、私たち貧しい人間には関係ありません。
政府は貧しい人がたくさんいるのに見て見ぬふりです。
とても悲しい。
金のためなら何でもやってやろうと、あんな所(テロ組織)に入ってしまったのです。」

国を豊かにして国民全体の暮らしを底上げするはずが、むしろ格差という火種を生んでしまっている現実。
国連が今回打ち出したSDGsでは、格差の是正が重要な目標として掲げられました。
さらにSDGsには、ほかの目標と連携して解決するというねらいがあります。
例えば、格差是正を実現するにも、教育の分野では“教育格差をなくす”。
都市環境では“スラムの改善”。
司法制度の整備では“すべての人に法的な地位を与える”など、あらゆる角度からアプローチしていこうというのです。
新たな時代の支援をどう実現していくのか。
国連の真価が問われます。

強まる国連の危機感 野心的目標のねらいは

ゲストアミーナ・モハメッドさん(国連事務総長特別顧問)

●SDGsの目標は非常に野心的で理想主義的 一方で現実的ではないという人もいるが?

私たちは、世界が直面する問題を直視し、対策を取るのか、傷口にばんそうこうを貼るような一時的な対応をしていくのか問われているのです。
私たちは、経済発展と環境問題の解決をどのように両立させるのかという議論を繰り返してきました。
しかしこれらの問題は表裏一体であり、同時に考えていく必要があります。
目標が17もあるのは、私たちの住む世界が、いかに複雑かを表しています。
複雑な世界では、互いに絡み合う問題を総合的に解決していかなくてはならないのです。

●格差が拡大した国々では一部の人が社会から取り残された疎外感を募らせ、過激派に身を投じた この動きは従来型の開発がもたらした課題では?

格差は大きな課題だと思います。
多くの低所得国は経済成長し、中所得の国になりましたが、貧困層は置き去りにされました。
ですから、国内の格差、国と国との格差はともに解決すべき大きな課題です。
私の祖国、ナイジェリアでいえば、社会からの疎外が根本的な問題の1つです。
教育の問題だけではありません。
過激派組織に加わった若者の多くは、教育を受けていました。
彼らは将来に希望を持てません。
国や社会が発展しても役割を与えられず疎外感を感じています。
失うものは何もないと思い込んでいるのです。
そんな状況では何が起きてもおかしくありません。
私は、貧困が事態を悪化させていると思います。
大きな原因が、気候変動です。

気候変動と貧困 止まらぬ負の連鎖

人々が貧困に陥る背景には地球温暖化など、気候変動が大きく影響していると主張するモハメッドさん。
祖国・ナイジェリアでも、人々の生活を支えてきた大きな湖が干上がり、生活の糧を奪われた現実を目の当たりにしてきました。
地球環境の悪化から人々を救うためには、資源の浪費をやめるなど、先進国も含めた取り組みが必要だと指摘しています。

持続可能な世界へ 問われる先進国

ナイジェリアにはチャド湖というとても大きな湖があり、人々の暮らしを支えてきました。
それが、すっかり干上がってしまったのです。
周辺の地域は深刻な貧困状態に陥りました。
政府も対策を打てず教育や医療すらも行き届かなくなりました。
環境はさらに悪化し、今の悲惨な状況を生み出してしまったのです。

●国連が打ち出した目標は地球の持続可能性にも注目している 途上国だけでなく先進国にもこれまでの経済成長の在り方を見つめ直すことを求めているが、これは大きな変化では?

これは大転換です。
誰もが関わる問題だといえば自分のことを省みなければいけなくなります。
今、持っているスキルや知識を生かして、より持続可能なライフスタイルを作り上げるのです。
日本など、先進国型のライフスタイルを見つめ直すことが重要です。
世界の人口の6割以上を占める貧困にあえぐ国々が経済成長すれば、日本のようなスタイルを目指すでしょう。
それでは持続可能な世界は無理です。
ナイジェリアもこのまま先進国を目指せば、日本を上回る温室効果ガスの排出国になってしまいます。
そうなりたいとは思いません。

先進国は、責任ある発展を目指すべきなのです。
私たちの消費や生産は重大な結果をもたらします。
このままでは地球に大きなダメージを与え、やがて私たち自身が苦しむのです。
地球は私たち人間なしでも存続できますが、私たちは地球なしで存続できません。
先に消えるのは、私たちなのです。

“誰も置き去りにしない” 新たな支援のかたち

インドで最も貧しい地域の1つ、人口88万のマホバです。
男性優位の価値観が根強く残るこの地で、SDGs実現のヒントになる新しい取り組みが始まっています。
マホバの人々は毎年のように干ばつに悩まされ、水の確保は困難を極めてきました。

これまで、国連などから井戸を作る支援を受けてきました。
しかし、壊れても修理することができず、1万近い井戸のうちおよそ半分は使えないまま放置されてきました。
不衛生な水に頼らざるをえず、病気が広がって治療費がかさみ、さらに貧困が進むという悪循環に陥っていました。

6年前、あるNGOが手を差し伸べました。
単に井戸を作るという従来型の支援ではなく、女性や若者たちを修理工として育成することでさまざまな課題の解決につなげようという試みです。
ラムラティさん、48歳です。

ラムラティさん
「水くみポンプが壊れたと聞きました。」

「そうなんだ。」

貧しさで学校にも通えなかったラムラティさん。
修理の技術を身につけたことで、平均的な男性と同じくらいの収入を稼げるようになりました。
NGOの支援は3年前に終わりましたが、修理工を育てる取り組みはラムラティさんたちが引き継いでいます。

ラムラティさん
「修理の仕事は気をつけないと部品が壊れるから注意して。」

修理工は130人にまで増えました。

ラムラティさん
「まっすぐ上げるのよ。」

NGO担当者
「事業は彼女たちが稼いだお金で続いています。
私たちは助言するだけです。」



ラムラティさん
「以前は、村じゅうの人から『女に修理なんてできるのか』と言われました。
でもあきらめませんでした。
地域のためによいことをしたい、それが私の社会的責任だと思っています。」

SDGsの項目の1つでもある水の問題が改善されたことで、さまざまな好循環が生まれました。
下痢や感染症などにかかる人が大幅に減少し、医療費の負担が減りました。
さらに、女性や子どもたちは1日5時間近い水運びなどの労働から解放されました。
その結果、多くの女の子が学校に通えるようになりました。
社会に出て働きたいという女性も増加。
企業も、女性を雇用しようという動きが始まっています。
井戸の修理から始まった社会へのさまざまな好循環。
SDGsの1つのモデルになる可能性を秘めています。

NGO担当者
「地域社会や政府、NGOがこの取り組みに共感しインド全土に広がれば、いま以上によいサービスが提供でき、社会は持続可能なものになると思います。」

持続可能な社会へ 世界が今 すべきこと

●女性に活躍の場を与えることは、SDGsが目指す目標を達成するうえでどの程度重要?

まずは考え方を変えることが重要です。
慈善活動ではなく、人類の50%に当たる女性に対して投資をしているのです。
そうしないと、女性の力を生かすことはできません。
それは人類にとってもビジネスのうえでも損失です。
チャンスを逃してはなりません。
女性から得られるものはとても大きいのです。
女性が経済や教育に積極的に関われば大きな成果を上げられます。
家族、社会、平和などさまざまな面で、女性の役割が重要であることが、もっと理解されるべきだと思います。

●SDGsは国だけでなくNGOや市民たちがオープンに議論して作り上げたもの この議論のプロセスを作り出したのは、各国をSDGsが目指す方向に動かしたいという強い思いがあったから?

今、SDGsには企業も参加し始めています。
そうした企業にはビジネスモデルを環境重視に変え、市民と協力しながらすばらしいビジネスを生み出してほしいと思います。
道のりは長いですが、できることはたくさんあります。
今回のSDGsの合意は法的な拘束力はありませんが、強制的でないからこそ人々は目標に向かってより強く結束できるのです。
SDGsの理念を実現するためには、これまでのやり方を変えなくてはなりません。
縦割りではなく、全員参加です。
負担を分かち合う必要があるのです。

●世界に目を向けると人も国も自分のことや国益のことばかりを考えている一方で、今回の目標は世界が一丸となって取り組むべきものとなっている 正反対では?

みんな、誤った方向に進んでいます。
閉鎖的になるほど問題は大きくなります。
だから、みんなの力を結集することが必要なんです。
持続可能性を追求することは人類の責務だと思います。
われわれは、よりよい方向に人類を導く責任があるのです。
私たちは急がなくてはいけません。
差し迫った課題なのだと伝われば、人々は動き始めます。
SDGsの目標を設定したときも、緊急だといえば、どう実現すればよいのか、すぐに多国間で話し合いが始まりました。
動かす方法はあるのです。

国連は、平和や希望を育むプラットフォームです。
世界の現実と理想に目を向けその差を埋めていくために存在します。
SDGsもそのためにあるのです。
国連は今年(2015年)設立70年を迎えました。
私たちは今、試されています。
この危機をみんなで乗り切らなければならないのです。

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