クローズアップ現代

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No.36982015年9月1日(火)放送
えん罪は防げるか 司法取引で変わる捜査

えん罪は防げるか 司法取引で変わる捜査

司法取引導入へ 広がる不安

脱税や談合など、企業犯罪も対象となっている司法取引。
都内の法律事務所には今、企業の法務担当者からの問い合わせが相次いでいます。

「この問題どう対応するんだというので、企業さん心配する。」

従業員が無実の上司を罪に陥れる事態を防げるのか。
社内規則で司法取引に応じないようにすることはできるのか。
司法取引によって会社の上層部まで事件に巻き込まれるのではないかと懸念しているのです。

西村あさひ法律事務所 木目田裕弁護士
「それは当然、会社のチームワーク、団結に影響しますからね。
企業の対応とか、ものの考え方というのは大きく変わっていくのかなと思っております。」


かつて検事として捜査に当たってきた落合洋司さんです。
過去の経験から、司法取引は巧妙化する組織犯罪に対して有効だと感じています。



落合さんがかつて担当した暴力団による銃撃事件。
先に逮捕した2人の組員が、事件の首謀者である組長の関与を打ち明けました。
これが組長の逮捕につながったため、2人に対する求刑を軽くしたといいます。
落合さんは、司法取引が制度化されれば初めから刑を軽くすると持ちかけることができるため、より供述を得やすくなると考えています。

元東京地検検事 落合洋司弁護士
「信用性の高い供述というのを求めて解明していくと。
犯罪捜査には欠かせない。
司法取引というものを使うということはかなり大きな武器になり、効果が出るということは期待できる。」

司法取引 えん罪の懸念

一方、司法取引によってうその供述が増えることが懸念されています。
なぜ司法取引が、うその供述につながるのか。
詐欺事件で実刑判決を受けた男性が、匿名を条件にうその供述をする心理を語りました。

うその供述をした男性
「まあ、うその部分もありますよね、偽証して。」




男性は、パソコンの架空発注で会社から金をだまし取った詐欺の疑いで逮捕されました。
2か月以上続いた取り調べの中で、「詐欺の罪は重い」と警察から繰り返し告げられたといいます。
少しでも刑を軽くしたいと考えた男性は、「仕事仲間の指示でやった」と供述したのです。
男性の供述は判決でうそと判断され、仕事仲間は無罪となりました。

うその供述をした男性
「(取り調べで)何回も詐欺は(罪が)重いんだと脅されたようなこともある。
罪を軽くしようと思って(うそを)言った部分もあるかもしれない、今思えば。
早く出たいと、そういうことがあった。」

罪を軽くするためのうその供述。
かつて事件に巻き込まれた当事者が、新たなえん罪が生まれる危険性を語りました。
名古屋市の幹部職員だった村瀬勝美さんです。
部下から無実の罪を着せられました。

村瀬勝美さん
「普段から一緒に仕事しているなかで、仕事も真面目に部下と一緒に相談しながらやっているなかで、それはショックでした。」



12年前に発覚した、名古屋市の道路清掃事業を巡る談合事件。
予定価格を業者に漏らしたとして、市の職員らが逮捕されました。



村瀬勝美さん
「職員から逮捕者が出たことは誠に残念でございます。」

逮捕された職員の上司として記者会見で謝罪した村瀬さん。

村瀬勝美さん
「私も談合ということについては全然認識しておりませんでした。」

ところがこの2週間後、突然、逮捕されます。
部下が、村瀬さんも談合に関与していたと、うその供述をしたのです。
村瀬さんは取り調べで検察官が語ったことばを記録していました。

村瀬勝美さん
「予定価格を漏らしていたことは、当時の部長、私のことですが、『知っていたはず』と部下たちは言っていると。
何を言っとる、どうかしたのかという感じですよね。」


判決では、部下の供述は事実に反すると認定。
村瀬さんに無罪を言い渡しました。
うその供述で逮捕され、休職を余儀なくされた村瀬さん。
無罪が確定したのは逮捕から5年後。
定年を迎えたあとのことでした。

村瀬勝美さん
「ワイシャツ着てネクタイはめて通勤してる、そういう日常生活の中から、まるっきり違う世界に閉じ込められた。」

村瀬さんは、司法取引が導入されると無実の人が巻き込まれる被害が増えるのではないかと懸念しています。

村瀬勝美さん
「司法取引で(虚偽の供述が)完全な証拠として提出されたら関係ない人を罪に陥れるわけだから、よほど慎重にやらないと、またえん罪が増えることになると危惧しています。」

えん罪を防げるか 司法取引で変わる捜査

ゲスト青木孝之さん(一橋大学法科大学院教授)

●えん罪を生む可能性がある一方、捜査当局には強力な武器にもなる司法取引 どう見る?

司法取引に限らず、共犯者の供述は、例えて言えばハイリスク・ハイリターンの供述で、うまく本当のことを引き出すことができれば共犯者という限られた範囲でしか知られていない真実を引き出すことができますし、逆にあいまいな、あるいは不自然な供述、まがいものの供述が紛れ込んでしまうこともあるわけです。
人間には自己保存本能みたいなものがあって、どうしても自分の関与は小さく、人の関与は大きくという傾向がありますから。
極端な場合には、先ほどVTRにもありましたとおり、全く上司が関与していないのに、部下が自分の罪を小さくしたい一心で、振り返ってみればそう言わざるをえないんですけれども、上司が関わっていますという、そういう供述をしてしまう危険性がある。
司法取引は見ようによってはそういうことを制度的に誘発をしかねない、そういうリスクを持っている。
ただ、正しく運用すれば的確に犯罪を解明して検挙、処罰していけると。
先ほど、元検事の落合弁護士のことばにもありましたとおりですね。
そういう性質を持っている証拠であり、そういう証拠を引き出す制度であると、そう言っていいと思います。

●ビジネスの世界への影響も?

先ほどのVTRの内容は、私個人にとっても非常に印象的でした。
つまり、ビジネスの世界で経済活動をしておられる方々、ふだん、例えば殺人であるとか薬物犯罪であるとか、そういったものとは無縁だと、恐らくご自身も思って生活しておられる方々が、経済活動の行き過ぎという面において誰かが自分の関与をしゃべったならば、自分もある日突然、例えば逮捕されてしまうかもしれない、その訴追する国家機関側のターゲットにされてしまうかもしれない。
そういう面を持っているということだろうと思います。
(全く違う談合事件の取り調べ中に、もしかしたら自分の名前がどこかで出てるかもしれないというようなおそれも?)
そういうことですね。
名古屋市の事案は、公務員の方の事案だったわけですけれども、まさしくVTRでおっしゃってたとおり、ネクタイ締めてスーツ着て毎日通勤している、普通の勤め人の生活が、そういった司法取引という制度が介在することで、いわば巻き込まれてしまう可能性があると、そういうことが言えるんだと思います。

●法務省が取ろうとしている3つの対策、これでえん罪は防げる?

<法務省の対策>
1.うその供述には罰則を設けること
2.司法取引の協議の場には必ず弁護士が立ち会うこと
3.供述について客観的な裏付けを行い、司法取引によって得られた供述であることを裁判で明らかにすること

この3つの項目はですね、それぞれ一般論としては間違ってはいないんですね。
ただ、どのような対策、防止策についても、どこまできちんと厳格にできるか、公明正大にできるかによって限界があるのも事実でして、もちろん、警察や検察はプロの捜査機関ですから、例えば怪しげな供述がなされた場合に、それをうのみにするということは通常なくて、当然、裏付けを試みます。
しかし、密室劇で共犯者にしか分からない事実関係が多い、非常に難しい事件があることも事実で、そういった事件では、どこまで客観的な証拠で裏付けできるかという限界があるのも事実です。
あと弁護士の立ち会いも、じゃあ取り引きに入りましょうということで、協議が始まった場面には、立ち会うことができる内容の法案になっているんですが、その前段階の、この方が取り調べを受けている、自分自身の罪について追及を受けている場では、どこまでそこの部分の、いわゆる録音・録画による記録化というのがされているのか、まだ制度的にも運用としても不透明な状況にある。
だから、弁護士の立ち会いがどこまで抑止力として働くのかは、まだ運用を始めてみないと分からない面もあります。
あと最後になりましたが、罰則の適用については確かに虚偽供述をして、人のことをかたって、人を犯罪に巻き込む人が処罰を受けるのは、それはある意味当然のことなんですが、逆にこの罰則の適用を恐れて、いったんうその供述を始めてしまったら、いわば引っ込みがつかなくなって、最後までうそをつきとおして事案の解明が一層困難になるのではないかという指摘なども弁護士会の一部などではされております。
だからそれぞれ一般論としては間違っていませんけれども、制度として、運用としてどこまで有効に機能するかはまだ未知数の面があると、そういう状況だと思います。

司法取引の不正防止 カギは「記録」

アメリカで最も犯罪の発生件数が多いカリフォルニア州。
司法取引が盛んに行われています。
今年(2015年)3月、ある事件の裁判をきっかけに司法取引を巡る不正が明らかになりました。
不正は殺人の罪で起訴された被告の捜査で行われました。

捜査当局は、同じ拘置所に収容されていた男を協力者にして取り引きを行いました。
被告から事件に関する証言を聞き出し捜査当局に提供すれば、見返りに協力者の罪を軽くすると持ちかけたのです。
捜査に使うことを隠したまま協力者を接触させるのは、違法な手段でした。
このやり取りを記録した音声が残されていました。

刑事
“何食わぬ顔をして被告から話を聞き出してくれ”

協力者
“わかった、やってみるよ。
俺は終身刑になりそうなんだ、それを避けられるなら”

刑事
“わかった。
これは決して表に出ることはない。
誰にもばれないさ”

捜査当局の不正は、この音声記録が被告側に開示されたことで初めて明らかになったのです。
カリフォルニア州では司法取引による不正やえん罪が相次いできました。
検察は取り引きの過程を記録して透明化するとともに、捜査に不利な証拠でも全面的に開示する取り組みを進めています。

ロサンゼルス郡検察 セルジオ・ゴンザレス氏
「情報開示はいまや私たちの義務になっています。
司法取引の会話が記録されている影響は大きいのです。」



専門家は、司法取引に関するすべての過程を記録しておくことが不可欠だと指摘します。

ロヨラ法科大学院 アレクサンドラ・ナタポフ教授
「司法取引の過程をすべて記録していれば、裁判になったとき信頼できるものかどうか検証することができます。
こうした記録に基づいた厳しい検証を怠ってしまうと、当局が信ぴょう性の低いあいまいな情報をそのまま捜査に利用することを許してしまうことになるのです。」

記録をどう残す?

●自分の罪を軽くしようと情報提供がされたことで、ターゲットになった人にとっては取り引きの過程が記録されていることが、なぜ大事?

後の裁判で、事後的に検証可能にするためですね。
それに尽きます。
例えばAさんの供述で私が何か犯罪に問われているときに、裁判の場では、じゃあAさんがどういう経緯で、どういう取り引きに応じて、私が何か犯罪に関係しているとか、犯罪の主犯格であるとかという供述をしたかを、私としては争うことになるんだと思うんですよね。
そのときに、全部密室劇の中で、とにかく取り引きに応じて、Aさんは本当のことをしゃべりだしましたということだけで、私は有罪にされることについて納得ができないわけです。
どういういきさつで、どういう話の流れで、どういうニュアンスでそういうことばのやり取りがされたのか、どこまで確からしい話なのかということを確認することはもう決定的に重要で、それを可能にするために、リアルタイムで記録を残していくと、それを制度的に、極力広い範囲で義務づけなければならないと、そういうことだと思います。
(例えば、脅されて青木さんの名前を出したという場合や、自分から持ち出したり働きかけた場合などいろいろあるが、それによって信ぴょう性は変わってくる?)
そうですね。
そういう場合もありえるかと思います。
捜査当局がある程度の情報を持っていて、お前はこの事件について何か知らないかと持ちかけ出す場合もあるでしょうし、逆に被疑者や被告人のほうから、実はこんな話を持ってるんだけれどもということで、自分の罪を軽くしたいという意図でですね、持ち出す場合もあろうかと思います。
それはケースバイケースで、どちらが持ち出した話か、どういういきさつで持ち出した話かというのも、その話の信用性をチェックする1つの重要なポイントにはなるだろうと思います。

●今、法案の付帯決議では協議の概要について記録を作成することとなっているが、これで十分?

結論から言うと、これは本当に最低限の要請が付帯決議で付されたというだけで、十分とは言えないと思っています。
まず前提として、付帯決議には法律的な拘束力はないということが1つですね。
それから、この1の「記録を作成」というものですが、これは先ほど私が強調した、リアルタイムで例えば録音・録画という形で、後の言った言わないという水掛け論を防ぐために残すような性質のものではなくて、いわば協議が終わったらそのつど、ある種の業務報告書のような形でペーパーにまとめておきましょうということがどうもイメージされているようです。
それで十分といえるのかということが1つ。
あと、ターゲットになった人の「裁判が終了するまでは保管する」というのは、まず最低限の当然の要請でして、例えばそのあともまだなお、例えば再審という形でですね、えん罪であることを争うようなこともあるわけですから、保管期間についても、まだまだ長く保管したほうがいいのではないかと、いろいろな検討の余地はあるだろうと思っています。
(再審請求があったときに記録がなかったということになれば…)
再審の道が閉ざされるわけですよね。
裁判が確定してしまったので、この記録はもう廃棄してしまいましたということになれば、そこの部分の解明は闇に葬られることになってしまうわけですから。

●えん罪をどう防ぐ?

まず話の出発点として、確認しておかなければならないのは、検察庁の不祥事などに端を発して、取り調べという場面、取り調べという手法に比重がかかりすぎているのではないかというのが話の出発点だったはずなんですね、今回の件は。
取り調べに比重がかかりすぎているっていうんだったら、別の手法でということで、こういう話が出てきたわけです。
この話自体にも危険は残っていますけど、あとはどれだけ高い意識を持って、捜査機関がきちっと厳格に運用するかっていう、そういう問題であろうと思います。

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