クローズアップ現代

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No.36942015年7月30日(木)放送
“いのち”を変える新技術 ~ゲノム編集 最前線~

“いのち”を変える新技術 ~ゲノム編集 最前線~

遺伝子を自在に ゲノム編集の衝撃

和歌山県・白浜町。
ここで、京都大学と近畿大学が共同でゲノム編集をした魚を育てています。




マダイです。
去年(2014年)春、受精卵の段階でゲノム編集を行いました。

「体幅4.6センチ、でかい。」



1年余りがたった今、同じ時期に生まれたタイの1.5倍の大きさになっています。





京都大学 農学研究科 助教 木下政人さん
「びっくりしています。
予想以上に早く効いているなという実感です。
夢としては倍、200パーセントぐらいにしたい。」


タイのゲノム編集を進める木下政人さん。
長年メダカの研究をしてきました。

そこで注目したのが、筋肉の成長を抑える遺伝子「ミオスタチン」です。
ミオスタチンが働かなくなると、細胞の一つ一つが成長し、通常より大きく育つのです。
この原理をタイにも応用しようと考えた木下さん。
しかし、膨大な遺伝子の中からミオスタチンを探し出し、働かなくするのは困難でした。

そんなとき出会ったのが、アメリカで開発されたゲノム編集という技術でした。
生き物の遺伝子は4種類の「塩基」と呼ばれる物質で出来ています。
それぞれの塩基は、特定のタンパク質などと結合することが分かっています。
その性質を応用したのがゲノム編集です。

目的の遺伝子と結び付くタンパク質などを並べます。
それを細胞の中に送り込むと、何万もの遺伝子の中から目的の遺伝子を探し出して結合します。




これに遺伝子を切る物質を乗せておくと目的の遺伝子を切断し働かなくすることができるのです。
こうして行ったゲノム編集。




京都大学 農学研究科 助教 木下政人さん
「中はいっていくの分かりますよね。
これで(ゲノム編集の)液が入りました。」



目的どおり、タイは大きく成長しています。
食品としての安全性が十分に確認できれば、3年後には市場に出したいとしています。

京都大学 農学研究科 助教 木下政人さん
「魚の品種を改良するのに偶然を待っていれば、100年とか200年かかります。
ところがこのゲノム編集だと数年でできる。」

国内ではほかにも、収穫量の多い米や腐らないトマト、養殖しやすいおとなしい性質を持つマグロなど、ゲノム編集を利用した品種改良のプロジェクトが始まっています。



ゲノム編集はヒトに近い動物でも行われるようになっています。

「こちらがマーモセットです。」

小型のサル、コモンマーモセット。
薬の効き目などを確認するために、研究用に飼われています。
ここで受精卵にゲノム編集を行い、免疫が働かない病気の状態を再現しました。
マウスよりもヒトに近い動物なので、薬の効果をより的確に確認できるといいます。
ほかにも糖尿病やがん、神経疾患など、さまざまな薬の開発につなげたいとしています。

実験動物中央研究所 佐々木えりかさん
「いろんな病気のモデルを作ることはできなかったんですが、ゲノム編集ができたことで一気にいろいろな可能性が広がったので、さまざまな研究が出来るようになったというところが非常に画期的だと思います。」

遺伝子を自在に ゲノム編集の衝撃

ゲスト山中伸弥さん(京都大学iPS細胞研究所所長)

●人間が生命の設計図を、いわば自由自在に編集できるようになった どれくらい画期的なこと?

今回のこのゲノム編集の技術というのは、私自身が基礎研究を始めてもう25年くらいになりますけれども、その中で出会った技術の中でも、恐らく一番画期的といいますか、一番すごい技術じゃないかなと思っています。

●今まで人間は農作物や魚などで品種改良をしてきたが、簡単にはいかなかった?

そうですね。
今までの品種改良は、多くの部分は偶然に生じる遺伝子の変化、これに頼って長い年月をかけて少しずつ品種改良をしてきたんですが、今回のこのゲノム編集というのはもう狙い撃ちで、この遺伝子、この機能のこの遺伝子をこう変えて、そして自分たちの人類にとって役に立つ品質に変えようという、しかも短時間で。
今までちょっと考えられなかったような技術ですから、研究者としてもいまだに驚きの気持ちでいっぱいです。

●この技術はどんな種でも応用できる?

そうなんです。
ゲノムを編集するという技術は、例えば哺乳類の1つのネズミ、マウスというネズミでは、今から20年くらい前に開発されました。
私もその技術を学ぶためにアメリカに行ったんですが、この技術は、当時も今もそうですが、1つの遺伝子を編集するのに1年以上の時間がかかるんですね。
同時に1つしかできないですし、またネズミ、マウスしかできません。
ほかの、人間を含めてほかの種ではなかなかできなかったんですが、5年ぐらい前に突然出てきたこのゲノム編集という技術は、どんな種でもどんな人間であっても、ネズミであっても植物であっても、魚であっても使えますし、効率が非常に高いんですね。
(成功率が高い?)
数十%の成功率を誇りますし、それから一番大切なのは、技術として簡単です。
非常に単純な技術で、簡単な遺伝子工学の知識のある科学者だったらもう誰でもできる技術ですから、本当にこの3つが簡単で成功率が高くて、いろんな種に適用できる、いろんな生物に適用できるという、この3つがそろっている技術というのは、ちょっとほかに今までなかったんじゃないかなと思います。

●受精卵の段階で遺伝子を操作して、サルが生まれているが?

免疫不全のサル、例えば人間のいろんな細胞を移植しても拒絶が起こりにくい、そういうサルが今、日本で出来ています。
これまではネズミでは、そういう免疫不全ネズミというのがあって、ヒトの細胞の移植とか医学研究にたくさん使われてきたんですが、ネズミと哺乳類、だいぶ違いますから、今回この技術で、サルで免疫不全、人間の細胞が移植できるサルが出来つつあるというのは、医学研究にとって画期的なことです。
(受精卵の段階でそういった改編ができるということは、その次の世代にも?)
そうですね、まさに品種改良ですから、その世代だけではなくて、その子ども、その孫、ずっと伝わっていきます。
ですからもう新しい品種を作り出すということになります。

●ある意味では、人間の受精卵を使って遺伝子の改編までできるということ?

そうですね。
今日、ビデオの中でミオスタチンという、遺伝子の機能を抑えて筋肉の量を多くしたタイの話が出ていました。
これは画期的なことですが、私たち人間にも同じミオスタチンという遺伝子があります。
ほとんど同じ技術で、私たちのミオスタチンの働きを抑えて、筋肉が隆々の人間を作り出すということも理論的には可能ですから、これは使い方を誤ると大変なことになってしまいます。

(最近のニュースでは人間の受精卵で遺伝子の改編が行われたということも伝えられているが?)
そうですね。
今年(2015年)の初めくらいから、中国の研究者が人間の受精卵で実際にゲノム編集を行っているという、うわさが流れていました。
なかなかいろんな倫理的な問題から、そういう研究をしていいのかという高いハードルがありますから、うわさにしかすぎなかったんですが、実際に先日、論文が中国の科学雑誌で発表されました。
それ、私も読みましたけれども、かなりしっかりした研究で、実際、人間の受精卵、ただ受精卵といいましても人工授精の結果出来てしまった異常な受精卵で、その受精卵からは赤ちゃんが生まれることはないんですけれども、その受精卵を利用してゲノム編集を行って、効率であるとか、また目的と違うところがどれぐらい変化が起こってしまうか、そういう基礎的な研究ではありますが、初めて人間の受精卵を使った研究が報告されました。
(これに対して相当な違和感を覚える人も多いと思うが、今どういう議論が行われている?)
世界中の研究者が今、真っ二つに分かれています。
ほぼ全員の研究者が臨床応用はするべきでないと、ゲノム編集をした人間の受精卵から新しい生命、赤ちゃんを作るという臨床応用はするべきでない、これはバツだと、これはもうすべての研究者が一致していますが、今回の中国の論文の基礎研究はどうなんだと。
人間の受精卵でどれくらいの効率でゲノム編集が起こるか、そしてどれくらいの安全性があるか、そういった基礎研究はやってもいいんじゃないかという研究者もおりますし、いや、その基礎研究を含めて人間への応用は今はだめだと、もっと社会の議論が、研究者だけではなくて一般の方、またこういった技術で恩恵を被る可能性がある患者さん、そういった中での議論がちゃんと成熟するまでは、すべての研究をストップするべきだと、そういう研究者もいます。

エイズ発症を防げ ゲノム編集 始まった活用

ゲノム編集の医療への応用が最も進むアメリカ。
実際に臨床試験が行われているのが、エイズウイルスを減らす取り組みです。

その臨床試験を受けた、マット・シャープさんです。
27年前、バレエダンサーだったときにエイズウイルスに感染しました。
以来、エイズの発症を防ぐために毎日複数の薬を飲んできました。


マット・シャープさん
「これが朝飲む薬で、これが夜飲む薬です。」

しかし、薬を飲み続けても免疫力を表す数値は少しずつ低下。
めまいや下痢などの副作用もありました。

マット・シャープさん
「これらの薬を飲むと、欝(うつ)っぽくなるんですよ。
君たちだって飲みたくないでしょう?」

主治医に勧められて参加した臨床試験。
その治療法は、まず血液を採取。
血液の中の細胞に対しゲノム編集を行います。
その上で体に戻すというものでした。


ゲノム編集を行った会社です。
この会社が注目したのは、エイズウイルスが取りついて増殖する血液の中のリンパ球でした。




リンパ球の表面には、エイズウイルスが結合しやすい突起があります。
それを足がかりにウイルスがリンパ球の中に侵入し増殖していくことが分かっていました。



そこで、この突起に関係した遺伝子をゲノム編集で切断すれば、突起がなくなり、エイズウイルスがリンパ球に侵入できなくなると考えたのです。




サンガモバイオサイエンシズ
エドワード・ランフィエCEO
「ゲノム編集という技術がなければ、この治療法は開発できませんでした。
ゲノム編集のおかげです。」


治療を受けたマットさん。
驚くべき効果が現れました。
免疫力を表す数値は、薬を飲むことが必要とされる低い数値から大幅に改善したのです。
マットさんに臨床試験を行った会社では、さらに対象者を増やし、実用化に向けた研究を進めています。

マット・シャープさん
「私だけでなく、医者も驚いていましたよ。
普通は起きないことですからね。
HIVはもはや治療可能な時代になろうとしています。
感染したときには思いもしませんでしたけどね。」

ゲノム編集で病気の原因に迫る

ゲノム編集の医療への応用を支援する研究機関もあります。
ボストン近郊にあるブロード研究所です。
100人以上の研究者がゲノム編集を行う物質を開発しています。



この液体の中にその物質は入っています。
それをヒトの細胞にかけると、狙った遺伝子を切ることができます。




「これだけよ、とても簡単。
1日たつと切れるんです。
あとは顕微鏡で確認するだけ。」



ヒトの遺伝子は2万余り。
この研究所では、それをすべて編集できるようにしようとしています。




こうして開発された物質は、病気の原因を調べることに使うことができます。
例えば、がんを引き起こしている遺伝子を調べたい場合、ゲノム編集の物質を次から次へとがん細胞にかけて遺伝子を切断します。
その結果がん細胞に影響があれば、その遺伝子が、がんとなんらかの関係があると推測できます。
ブロード研究所では、ゲノム編集を行う物質をほかの研究所の人たちにも安い価格で提供しています。

ブロード研究所 フェン・ザン助教授
「長期的には、こうした取り組みが新薬や新しい治療法、病気の診断法の開発につながります。
それが世界を変えるでしょう。」

ゲノム編集 始まった医療での活用

●ゲノム編集を用いたエイズ治療、すでに臨床応用の段階?

そうですね。
今の使い方は、患者さんご自身の細胞を取り出してゲノム編集を行って、もう一度戻すという使い方ですから、これは患者さんのためだけの治療なんですね。
前半にございましたように、次の世代、子どもさんやお孫さんに伝わらない方法ですから、これは倫理的に全く違う方法になります。
こういった使い方は、また2つ目の実験室での使い方、こういった医療応用というのは、もう急速に今、進んでいます。

●がんを発生させている原因の遺伝子が切れれば、根本治療になっていく可能性がある?

がんの研究、急速に進んでいるんですが、まだまだ分からないことがいっぱいあります。
今回のこのゲノム編集によって、2万以上ある遺伝子の一つ一つの機能を調べて、どの遺伝子ががんに、それぞれのがんに大切かということが、今、急速に分かっていますから、今まではがん、もう多くのがんに同じ薬を使っていたんですが、今後はそれぞれの患者さんのがん、場所が違うがんごとに違う薬が開発されていくんじゃないかなと、そんなふうに期待しています。

●iPS細胞を使ってゲノム編集の技術も応用した治療の研究をされているが、具体的には?

私たちのiPS細胞研究所でも、複数の研究者がこのゲノム編集の技術を取り入れています。
例えば先天性の疾患、遺伝子の異常で、全身の筋肉の力がどんどん弱ってしまう、そういう患者さんがおられます。
そういう患者さんからiPS細胞を作ります。
iPS細胞の中でも、筋肉を作る遺伝子に異常があります。
その遺伝子を、ゲノム編集の方法でiPS細胞の段階で治すことに成功しています。
iPS細胞、ゲノム編集で遺伝子異常を修復したiPS細胞を大量に増やすことができます。
そして、そのiPS細胞から筋肉の元の細胞を作り出すことにも成功していますので、今後、この遺伝子修復を行った筋肉の細胞を患者さんに戻すと、そういったゲノム編集とiPS細胞を使った細胞移植療法ですね、これを組み合わせた治療の実現に今、一生懸命頑張っています。
(ゲノム編集をしてiPS細胞で増やした編集後の筋肉は良質のもの?病気になっていない?)
修復する前は、iPS細胞から筋肉を作るとやっぱり異常な筋肉になりますが、ゲノム編集で修復しますと、正常の方と同じような、きれいな筋肉が出来るということも確認しています。

●同じ方法で、今まで根本的な治療法のなかったほかの病気を治す可能性も見えてきた?

はい。
筋肉以外に例えば血液疾患ですね。
やはり1つの遺伝子の異常で正常な血液細胞が出来ないと、そういう患者さんもたくさんおられます。
そういう方からiPS細胞を作って、そして異常な遺伝子をゲノム編集で修復して、修復したiPS細胞から血液細胞を大量に作って患者さんに戻すと、こういう研究も急ピッチで進んでいます。

●生命科学者の目から見て、この技術は本当に人間が手に入れてもよかったのかという思いはない?

この技術は、本当に私たちのiPS細胞に比べても、もうiPS細胞なんて足元にも及ばないような、ものすごく可能性のある技術なんですね。
ただどんな科学技術でも、いい面と、それからよくない側面があります。
もろ刃の剣といいますか。
ですから、このゲノム編集というすばらしい技術、このいい面だけを伸ばしたら、人類は後悔することはないと思います。
人類はますます幸福にすることができると思いますが、悪い面を伸ばしてしまったら、これは後悔することになると思いますから。
(本当に恐ろしいSFの世界が実現するのではないかと?)
そうなんです。
ちょっと前まで、5年前までSFだと思っていた、人間の設計図を書き換えることが可能になりました。
これ、どうするか、科学者だけの議論だけではだめです。
科学者に加えて、いろんな生命倫理者、私たちの研究所にも2人の生命倫理の者が研究していますが、市民の方も含めた議論が必要です。

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