クローズアップ現代

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No.36922015年7月28日(火)放送
夏山トラブルに注意! ネット時代の登山ブーム

夏山トラブルに注意! ネット時代の登山ブーム

広がる登山ブーム 夏山で何が?

年間130万人が訪れる上高地。
中高年や山ガールと呼ばれる女性たちなど、さまざまなグループでにぎわっています。
そんな中、最近目立つのがインターネットで出会ったという人たちです。


「どう知り合ったんですか?」

男性
「SNS(ソーシャルネットワークサービス)かな。
石川県、愛知県、愛知県。」

“ネットパーティー”と呼ばれる登山者たち。
いつでもどこからでも仲間を募ることができるとあって、急速に広がっています。

男性
「周りにそんなに(登る人が)いない。」

女性
「登山は現地集合でみんなで登るので、(ネットは)すごく便利。」

登山仲間に出会えるサイトは年々増え続けています。
行きたい山や日時を書き込むと全国から参加希望が寄せられます。
中には3万人を超えるユーザーを抱えるサイトもあります。

夏山トラブル! “にわかパーティー”に注意

その一方で、予想外のトラブルも起きています。
登山歴16年の今村量紀さん。
3年前、ネットパーティーによる登山で、危うく遭難する事態に陥りました。


今村さんが目指したのは奥秩父にある鶏冠山。
標高2,000メートルを超え、初心者には難しいといわれる山です。
ネットで参加者を募集したところ、全国から7人が集まりました。
登山当日、メンバーの1人に登山歴2年の女性がいました。
女性は事前のやり取りで「北アルプスに登ったことがある」と書き込んでいました。

今村量紀さん(登山歴16年)
「(メールの)文面上、(キャリアは)立派なものだった。
連れて行っても問題ない経験値だった。」



朝6時、リーダーの今村さんを先頭に8人が出発しました。
1時間後、一行は川に出ました。
前日からの雨で川は増水していました。

今村さんはメンバーに靴を脱いで渡るように指示。
靴がぬれると、その後の登山に支障をきたすと判断したのです。
登山ではリーダーの指示に従うのが鉄則です。
しかし女性は石伝いに渡れると考え、靴を脱ぎませんでした。
そして川を渡ろうとしたそのとき、足を滑らせ転倒。
ずぶぬれになってしまいました。

その後も単独行動を取ろうとした女性のため、一行のペースは乱れました。
しかし、今村さんは女性に強く注意をすることができませんでした。

今村量紀さん(登山歴16年)
「山に登り始めるときは楽しい気持ちばかり、期待ばかりなので、嫌なことは言えないじゃないですか。
実際強いことも言えないし。
相手も思っていることを言えないですよね。」

そのうち、女性の足取りはどんどん重くなっていきました。
辺りは暗くなり、気温も低下していきました。
あわや遭難という危機に追い込まれた一行。
山小屋にたどりついたのは予定から3時間半後のことでした。

登山に参加した女性です。
ネットでのやり取りだけでは、自分の経験や技術に見合う山なのか分からなかったといいます。

登山に参加した女性
「あまりにも知らなさ過ぎて。
初心者レベルだったのに、きちんと(リーダーの)話を聞くというルールが自分の中では意識がなかった。」

互いの認識のずれが招いた遭難の危機。
これを機に今村さんは、ネットで仲間を募ることをやめました。

今村量紀さん(登山歴16年)
「遭難寸前のことも経験しましたし、こういう集まりはやっぱり無謀だし危ないと気づいて。
人間関係の難しさ、それは経験になりましたね。」

ネットで記録争い? 過熱する登山者たち

登山ブームをけん引するインターネット。
その利便性とリスクは紙一重です。
16万人ものユーザーを抱えるこのサイトでは、会員たちが登頂までのコースや時間などを投稿。
こうした実践的な情報は登山者にとって極めて有用なものとなっています。

しかし一部では派手な成功体験が独り歩きしたり、記録を競い合う風潮を生むなど、思わぬリスクにつながっています。





登山歴6年の森浩介さん。
サイトに登山体験を投稿してきました。
短時間で難しいコースを制覇するたびに高まるネット上での評価。
森さんにとって、注目されることが目的となっていきました。

森浩介さん(登山歴6年)
「褒められたいと言ったら語弊があるかもしれないけれども、(ネット上で)いい反応を期待した山選びをしていたかもしれない。」

そんな森さんが3年前に挑んだのが、日本で2番目に高い山、北岳でした。
難所が多く、通常1泊2日は必要とされますが、日帰りで登ろうとしたのです。



森さんは往復9時間を切るタイムで登りきりました。
これならネット上でも注目されるはず。
ところが下山後、異変が起きました。



森浩介さん(登山歴6年)
「車を運転しながら、次第に手がしびれるような感覚も感じ始めて、もしかしたら脱水による脳梗塞とか起こしているんじゃないか、かなり怖かったですね。」

その後、体調は回復しました。
今、森さんは登山体験がネットで評価される状況に怖さを感じています。

森浩介さん(登山歴6年)
「登山をする人には(登山サイトは)居心地のいい、楽しい空間だと思います。
私はそれと上手につきあうことは難しかったし、それで自分を見失う人も時にはいるんじゃないかなとは思いますね。」

広がる登山ブーム 増える遭難トラブル

ゲスト山田淳さん(登山ガイド)

●“にわかパーティー”の危うさ、どう見る?

人間関係を作るっていうところの危うさだと思うんですけど、そもそもリーダーっていうものが、旧来の山岳部だったり、社会人の山岳会だったりって、定義されてきたリーダーと違う形のリーダーになってしまっていて、スレッドを立てた人というのが、言いだしっぺがそのパーティーのリーダーになってしまっているという状況が多いと思うんですね。
その人はもうリーダーとしての資質があるかっていうのを、例えば組織から認定を受けてるわけでもないので、だから今までの形のリーダーとは全然違う形になってしまってると思うんですね。
ただ一方で、この人たちを止めることはできないですし、長い目で見たときには、この人たちに登山経験がどんどんついてくることによって安全性っていうのが保たれるわけなので、この人たち、こういうような形で登っている人たちっていうのを、どういうふうに、どういうふうな枠組みで受けていくかということを考えなければいけないタイミングにきているんだと思います。

●旧来型のリーダーというのはかなり絶対的な存在?

そうですね。
例えば私のいた山岳部でいうと、1年生が入って、3年生になってようやく「リーダー山行」っていう試験みたいなものを受けさせてもらって、そこに今までリーダーをやった人がついてきて、リーダーをやれるかどうかっていうことを認定するというような形になります。
そのリーダーは、それまでメンバーとコミュニケーションも取ってますし、どのぐらいこの人がスキルがあって、体力があってというところが分かってますので判断もしやすいですし、リーダーの判断については絶対だっていうところは共通認識としてあると思います。
(もし体力がないと思ったら、もうこれ以上進むなということも言えるような存在?)
そうですね、行く前にもちろん計画を立てて、このメンバーで行けるかどうかっていうところを判断しますし、行ったあとに関しても、リーダーの判断っていうのは絶対メンバーの中で守られますね。

●インターネット情報の量と質 判断材料としてどう使えばよい?

量と質というのは全然違う方向性のもので、量に関しては、ネットのアクセスが増えたことによって、多種多様な情報にアクセスができるようになって圧倒的に増えたと思います。
これはすごくポジティブなことだと思うんです。
ただ一方で、質の部分に関しては玉石混交になっているということ、それから発信者に関しては、読まれること、もしくは読まれてそれを前提に山に行くことを前提に考えて書いているわけではないので、書くときというのは自分の書いた記録を載せたいという思いで、先ほどの「称賛されたい」というのがまさにそうだと思うんですけれども、自分の書いた記録を残すため、もしくは人に記録を見てもらうために書くのであって、その記録を見て登る人のために書くわけではないので。
今までの、例えば雑誌だったりガイドブックだったりに載っている情報とは、全然書き手の思いというのが異なってくるっていうのはあると思いますね。
後はもう一つ、オフィシャルな情報ではないということですね。
例えば県だったり、山岳の雑誌だったりが出しているオフィシャルな情報ではなくて、あくまで個人の判断なので、その人と行こうとしている人というのは、実力が違えばもちろん感想も違いますし受け止め方も全然違うので、そのオフィシャルじゃない、客観性がないっていうところに関しては、情報を受ける側、調べる側が意識しなければならない問題だと思います。

登山ブーム 安全に楽しむには

インターネットで仲間を募っている登山サークルです。
メンバーの多くは登山経験の浅い20代から30代の若者たち。
この日は、白馬岳に登るイベントに14人が集まりました。

「どちらから来ましたか?」

男性
「東北です。」

女性
「大阪から来ました。」

女性
「(参加者とは)誰にも会ったことがない。」

「今回は全員はじめて?」

女性
「全員はじめまして。」

このサークルが最も重視しているのは安全対策です。
メンバーが費用を出し合い、経験豊かなガイドをつけます。
さらに、メンバーの中からリーダーを任命。
より細かく目配りできるようにしています。

ガイド
「リーダーが安田さん。
サブリーダーで2名、男性の方で鏡さんと大井さん。」

白馬岳の最難関、3.5キロ続く大雪渓です。





ガイド
「アイゼンは雪渓の面に対して全ての刃(爪)が雪面上に接着するように足を置いていきます。」

ガイドは初心者のために雪上の歩き方を丁寧に指導します。


いよいよスタート。
しかし、あいにくの悪天候。




サブリーダー
「まだまだ行けそうですね、みんな。」




ガイドはリーダー役のメンバーと共に、一行の体調をこまめにチェックします。

ガイド
「体調の悪い方はいらっしゃいませんか。」

サブリーダー
「大丈夫です、OKです。」

「着いたー。」





リーダー
「みんながケガなく登れたのが一番よかったです。」




サークル結成から3年。
これまで30回以上の登山を無事成功させています。




ほかにも、このサークルでは登山用具の講習会なども開催。
きめ細かな安全対策が受け、現在メンバーは800人に達しています。




登山サークル 代表 野村篤司さん
「どんどん若い世代が、安全に登山を楽しめる機会がもっと増えればいいと思っている。」




一方、個人の登山記録を公開してきたサイトでも新たな取り組みを始めています。
サイトを運営する的場一峰さんです。



無謀な登山をあおるような情報を削除。
登山日数のランキングの掲載をやめました。
その一方で遭難などトラブルの体験を載せたコーナーを新設。
リスクに関する情報を積極的に発信しています。

登山サイト 代表 的場一峰さん
「(サイトの情報を)きちんと受け取っていただければ、安全登山につながる一つになると思っている。」

的場さんは今、サイトを活用した安全対策の輪を広げようとしています。
この日は、山岳救助に関わる警察や消防関係者の会合に出向きました。
その場で、サイトを使ったあるサービスをアピールしました。


登山サイト 代表 的場一峰さん
「実際に計画書を簡単に作れますよ。」




登山者は警察に対して事前に登山ルートや緊急連絡先などを記した計画書を出すことが求められています。
しかし実際はあまり提出されておらず、捜索や救助活動の遅れにつながっていました。



そこで的場さんは、サイト上で簡単に計画書を作成でき、直接警察に送れるシステムを開発。
現在12の県警に送信が可能となっています。
遭難対策の有効な手だてとして、今後、全国への普及を目指しています。


登山サイト 代表 的場一峰さん
「まず安全が第一にあって、その上で楽しむというのがあるので、その両方をうちのサービスの中でもやっていけるようにしたい。」

登山ブーム 安全に楽しむには

●ガイドをみんなで雇い、リーダー・サブリーダーを決めて登る このやり方をどう見る?

すばらしいと思いますね。
本当にこのやり方が広がっていけば、旧来型の意味でのリーダーをやれる人というのは広がってくると思いますし、ガイドからのスキルのトランスファーですよね、ガイドのスキルを一般の人に広めるって意味でもすごくいい取り組みだと思います。
ただ、一方で考えなきゃいけないのは、全体で800万人いる中の今で800人、1万分の1の動きなんですね。
だから、この形が本当に多く広がってきて、マクロで見たときにも動きとして見えてくればすごくいい動きだと思うんですけど、まだ今の段階では、ちっちゃい動きとして捉えないと、全体の中から見ると見失うかなという気がします。
(実際にリーダーを務めた人へのプロの山岳ガイドからのフィードバックも必要?)
そうですね、リーダーというものになるときに、われわれが旧来型の組織の中で受けてきたものの、先輩リーダーの役割をガイドが果たすわけなので、フィードバックというところで、自分のリーダーのスキル・クオリティーというのを高めていくという動きは必要だと思います。

●登山者は計画書を警察署に出している?

現状では、たぶん全員出しているという状況ではないと思います。
ネット上で出しやすくしたっていうのは、すごく大きないい動きだと思うんですけれども、じゃあこれで今まで出さなかった人が出すようになるかというと、ちょっと遠いかなという気はしますね。
(どうすればもっと出すようになる?)
計画書を出すことに対してのインセンティブというのをつけていかなければならないのかなと。
一つのアイデアですけど、例えば保険と連動させて、計画書を出してなければ保険が出ないとか。
(登山保険に入れないなど?)
もしくは登山口で、計画書を出してない人は入山できないとかっていうような形での、計画書の必要性をもっと提示していくってことが必要なのかなと思います。

●新たな登山の実態を踏まえ、安全性を高めていくうえでどんな取り組み・制度が必要?

インフラ作りということを非常に重要だと思っていて、これまでずっと登ってきた人たちというのは日本人ばっかりだったのが、今までと全然違う形の人たちというのが増えてきてるわけですよね。
で、この一つのネットから流入してきている人たちっていうのも、一つ今までになかった動きだと思うんですけれども、一方でインバウンド、外国人登山者という問題も抱えていて。
(増えている?)
だから登っている人たちが変わってきているので、新たな制度、新たな仕組みということで対処していかないと、今までの考え方、今までの仕組みではもう対処できない動きになってしまっているということだと思います。

(客観的・オフィシャルな、この山は自分に合っているかどうかという点も知りたいが?)
そうですね、自分自身のスキルを客観的に判断しなきゃいけないですし、その上で、次の山に行けるのかどうかというところを判断しなきゃいけない、この2つのスキルの物差しが必要だと思います。
(長野県ではグレーディングを出しているが、自分は次にどこに登れるかというはっきりとした物差しが必要?)
そうですね。
その物差しがあることによって、自分自身が次登れる所というのが分かるかと思います。

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