クローズアップ現代

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No.36842015年7月13日(月)放送
なぜ広がる “ブラックバイト”被害

なぜ広がる “ブラックバイト”被害

“ブラックバイト” 過酷な現場に密着

京都市内の大学に通う雄太さん(仮名)、19歳。
今、学業とアルバイトの両立に苦しんでいます。
雄太さんのアルバイトは塾の講師。
大学の講義が終わったあと、週に5日働いています。
勤務時間は夜8時から10時半まで。
この日は高校2年生に国語を教えます。
ところが、授業が終わり深夜0時を回っても、雄太さんは塾から出てきません。
結局、仕事を終えて帰宅の途に就いたのは翌朝の5時過ぎでした。

雄太さん(19・仮名)
「テスト対策の問題の打ち込みなんですけど。
ひたすら打ち込む作業です。
疲れました。」

これは、授業を終えたあとの雄太さんの様子を同僚が撮影した映像です。
実は明け方まで、期末テストの問題集作りに追われていたのです。
テスト期間が迫るたびに徹夜作業になるという雄太さん。
自宅に着くと、倒れ込むように眠り始めました。

「ちゃんと勉強とアルバイト、両立できていますか?」

雄太さん(19・仮名)
「いや、正直自信はないというか、できてないですね。
(自分の)試験勉強とか全然できてないです。
だいぶ厳しいかなと。」


雄太さんが塾講師のアルバイトを始めたのは1年前。
教師になるのが夢で、教える経験が就職にも役立つと考えたからでした。
ところが仕事は、想像以上に過酷なものでした。
授業だけではなく、生徒の進路相談など責任の重い仕事を任されたうえ、補習があると休日や深夜に呼び出されることもあります。
実はこの塾では、経営者以外の講師は皆パートや学生アルバイト。
講師の代理がいないため休むこともできません。

大学との両立が難しくなった雄太さんはある日、講師を辞めたいと塾長に申し出ました。
すると返ってきたのは、「代わりの講師を見つけてこい」という返事でした。
無理だと訴えると「辞められると経営が成り立たない」と責められたといいます。
そのとき雄太さんの心に重くのしかかったのは、自分が受け持っている子どもたちへの責任感でした。

雄太さん(19・仮名)
「ぼくが最後まで責任を持ってというのですかね、やっぱり途中で放り投げるというのも何かあまりよくないというか、ぼくの気持ちが許さないので。」

辞めるに辞められない雄太さんをさらに悩ませているのが賃金の未払いです。
今月、振り込まれた給与は50時間分。
しかし、自分がつけている勤務記録では61時間のはずでした。
朝まで働いた残業分などは支払われていませんでした。

雄太さん(19・仮名)
「全然納得いかない。
正直どうしようかと考えあぐねている。」

実は今、塾講師に関する労働相談が急増しています。
背景にあるのは塾業界のしれつな競争。
少人数制の個別指導を売りにした塾が増える中、低賃金の学生アルバイトを確保しなければ経営が成り立たないといわれています。



長時間労働や賃金の未払いなど、塾や家庭教師に関する相談は全体の4割に上ります。
こうしたブラックバイトの被害に国も危機感を持ち始めています。
今回、厚生労働省は塾の業界団体に対し、学生アルバイトの労働環境を改善するよう異例の要請を出しました。


厚生労働省労働基準局監察課 恩田基弘監察係長
「違法な状態というのは是正していかないといけないと考えておりますので、これまで監督指導とかも含めて対応してきているところでございます。」

“ブラックバイト” 広がる背景に何が

さらに取材を進めると、違法な待遇と知りながらも辞めることができない学生側の事情が浮かび上がってきました。

次郎さん(22・仮名)
「ここですね。
大きな看板のあるお店ですね。」

札幌市内の大学に通う次郎さんです。
入学直後から、居酒屋でアルバイトを始めました。




勤務時間は、夕方5時から夜11時まで。
皿洗いとドリンク作りで手を止める暇もないほどの忙しさでした。
時給は900円。
労働基準法では夜10時以降に働いた場合割増賃金の支払いが定められています。
しかし、この居酒屋では割増賃金はないと言われました。
違法だと知りながらも働き始めたのは、一刻も早く稼ぎたい理由があったからです。
実は次郎さんは、教材費や生活費をすべてアルバイト代で賄っています。
奨学金も借りているため、将来の返済も考え月5万円以上稼がなければならないのです。

次郎さん(22・仮名)
「どうしてもお金が必要だった。
とにかく自分にかかるお金は自分でやろうと。」



しかしその後、追い打ちをかける出来事が起きました。
突然、時給が800円に下がったのです。




このままでは生活が苦しくなる。
悩んだ次郎さんが相談したのは、大学で労働法を教える准教授の淺野さんでした。
淺野さんは、泣き寝入りせず労働基準監督署へ訴えるよう勧めました。
ブラックバイトの背景には、次郎さんのような若年層の貧困があると淺野さんは見ています。

90年代以降、親世帯の平均所得は減り続けています。
一方、大学の授業料は3割近く上昇。
学費や生活費を稼がざるをえない学生が増え、被害に遭いやすくなっていると指摘しています。



淺野高宏准教授
「正社員がやはり過重な労働、あるいは過大なノルマがあったり、それの一部を誰かに肩代わりしてほしいと。
人数の少ない中で、学生アルバイトにその部分を任せざるを得ない。
それがドンドン弱い方といいますか、そちらに負担が降りてきてしまっている構図はあるんだと思います。」

次郎さん(22・仮名)
「あきらめようというか、もう忘れようと思っていたんですが、先生に相談した時にそれで決心がつきました。」

その後、労働基準監督署に訴えたところ、次郎さんのもとに会社から手紙が届きました。
未払いだった割増賃金およそ5万円を支払うという内容でした。
NHKが会社側に見解を求めたところ、「何も答えることはない」との回答でした。

広がる“ブラックバイト” 働く現場で今何が

ゲスト大内裕和さん(中京大学教授)

●事業主や経営者に対して弱い立場の学生 どんな状況?

過酷な働き方をしている学生は少なくありません。
私の周囲でも、試験前に試験勉強ができないと悲鳴を上げている学生が増加しています。
そこには、やはり1つは学生の経済状況が悪化したということがあります。
1990年代後半以降、親の所得が低下する中で、例えば1995年には月の仕送り10万円以上が60%以上であったのが、今は3割を切っています。
それに対して仕送り5万円未満が1桁台だったのが、現在2割を超えているんですね。
ということは学生アルバイトは、かつては趣味やサークルなど自分で自由に使えるお金を稼ぐために働いていた人が多かったんですけれども、今は学費や生活費など、それをしなければ大学生活を続けられないお金になっている。
ですからブラックバイトの話をすると、なぜそれを辞めないんだという話がよく出るんですけれども、辞めてしまったら学生生活が続けられない学生が増えているということ、それが現状なんです。

●雇っている側にとって学生の位置づけとは?

それがまた重要なポイントですね。
学生は経済的に状況が悪化しているだけじゃなくて、やはり職場の状況が大きく変わりました。
これはもうすでに現在、全体の労働者の4割弱が非正規雇用労働になっています。
ということは非正規雇用労働が増えて、正規雇用が減っているということなんです。
となると、これはかつて正規が行っていた責任の重い仕事を、賃金の安い非正規の人たちが担わざるをえない。

前は、非正規労働は正規労働の補助労働だったんですけど、今や基幹労働、例えば「バイトリーダー」とか「パート店長」といったことばがありますように、非正規がその場の責任を担うような、そういう仕事場に変わっているということがとても重要なポイントだと思います。
(それは翻ってみると、学生にとっては『やりがいのある仕事』ともいえる?)
そうですね。
ですから、そのへんが変わってきたんでしょうね。
かつては補助労働ですから、それは責任の軽い仕事だったわけですけど、非正規労働を基幹化するという中で、職場のほうも例えばアルバイトにやりがいを持たせるとか、責任感を持たせるとか、使命感を持たせるといった、低賃金なのにその職場に責任を感じてしまう。
もう一方でこれは、辞めようとすると、例えば損害賠償を請求されるようなとても厳しい過酷な条件があったりなどして、その両面からいって辞めにくく責任を負ってしまうような構造が出来上がってきたと思います。
(辞めたいのに辞めたら損害賠償するというのは、法律で認められていること?)
それはもう、違法です。
違法なんですけど、学生に法律の知識がなければ、契約書などにそれが書かれていると、そんなことになったら大変だというふうに心配してしまう学生が多いんですね。
ですから、知識のない学生がとても被害に遭いやすい状況になっていると思います。

●事業主のやるべき仕事まで背負わされているのに、なぜ我慢する?

これはいろんな理由があると思うんですけど、1つは、とても就職が厳しくなってきていて、アルバイトが就職のための準備期間になっている。
ですから、学生の話を聞くと「辞められない」と。
なぜかというと、4年間そのアルバイトを続けたってことを面接で話すことが就活に役立つんじゃないか、逆に辞めてしまったら就活に不利になるんじゃないかと、そういう意見を言う学生もいるんですね。
そういうふうにアルバイトが就活の準備になっている、あるいは学校のキャリア教育が職場への適応というものをとても重視している。
つまり、会社に気に入られる人間になりなさいっていうことを伝えているものが多いんですね。
そうすると、やはりかなりひどいことがあっても、それを我慢しなければ卒業後やっていけないんじゃないかという、そういう恐怖感を抱いている学生は少なくないと思います。

STOP!“ブラックバイト” 立ち上がる若者たち

先月(6月)、東京都内で開かれた記者会見。
大学生たちが労働組合ユニオンを立ち上げ、みずから労働環境を改善していくことを表明しました。

個別指導塾ユニオン 渡辺寛人代表
「学生アルバイトを中心とした労働相談を受けていき、それを通じてちゃんとした労働環境を作っていくことで、会社・業界を健全化していくということを目指していきます。」



自分たちの問題は自分たちで解決していく。
学生たちが運営するユニオンは全国で8か所にまで広がっています。
京都にあるブラックバイトユニオンでは、飲食店やコンビニ、アパレルなどさまざまな業種で働く大学生が加入しています。


ユニオンは学生の相談に乗るだけではなく、必要に応じて会社との団体交渉を行い、労働条件の改善につなげていきます。
この日、ある大学生から塾講師のアルバイトについて相談が寄せられました。

守さん(21・仮名)
「残業代の未払いについてはしっかり言っていきたい。
全て無給なんで。」

相談をした大学生、守さん(仮名)は教師を目指していました。
しかし、過酷なアルバイトの影響で、必要な単位が取れず諦めざるをえなかったといいます。
ユニオンに参加したのは後輩たちへの思いからです。

守さん(21・仮名)
「後輩の講師とか、もっと働くとしてもいい環境で働いてほしいし、今のは結構ひどいと思うので、まずそれを改善したい。」

今月3日、守さんはユニオンのメンバーと共に、塾の経営者へ団体交渉を申し入れることにしました。

ブラックバイトユニオン 坂倉昇平事務局長
「じゃ、覚悟を決めたら行きましょうか。」

守さん(21・仮名)
「行きましょう。」

自分が働いている職場に乗り込みます。
守さんは勇気を振り絞り、経営者に直接訴えました。

守さん(21・仮名)
「賃金未払いということで。」

塾長(経営者)
「未払い?」

守さん(21・仮名)
「タイムカードがないので、残業とかしても(残業代が)発生しないという仕組みをどうにかしてほしい。」

ブラックバイトユニオン 坂倉昇平事務局長
「団体交渉の申し入れについて不誠実な対応をされますと、労働組合法に違反。」

驚いた経営者は、後日交渉の席に着くことを約束しました。

ブラックバイトユニオン 坂倉昇平事務局長
「どうだった。」

守さん(21・仮名)
「緊張でガクガクでした。」

守さん(21・仮名)
「ぼくも残って、塾をより良い環境にして働きやすくしたいと思いました。
今日の返答とかみていると。」



NHKの取材に対し経営者は、「違法だとは思っていなかったが、もし違法であれば学生たちと話し合い改めていきたい」と答えています。




ブラックバイトの被害をどう食い止めるのか。
教育現場でも取り組みが始まっています。




この日、ユニオンのリーダー・坂倉昇平さんが訪ねたのは、水戸市内の高校です。
この学校では授業の一環として、これからアルバイトの経験が増える3年生を対象に自分で身を守る対処法を教えています。

ブラックバイトユニオン 坂倉昇平事務局長
「今日は朝何時に出勤して夜何時に退勤しましたということを、メモでいいので毎日つけておくことが非常に重要になります。
おかしい、つらいと感じたらすぐ専門家に相談する。」

学校では、一人一人が具体的なスキルを身につけ行動することが、被害を食い止めることにつながると考えています。

高校生
「すぐに自分が悪いんだとか諦めないで、専門家の方とかに相談すれば解決できることもあるということがわかった。」

高校生
「あとで証拠を出してといわれた時に、証拠を出せるようにしていきたい。」

どう食い止める? “ブラックバイト”被害

●学生たちが立ち上げた組合 交渉を行い、高校生に身の守り方も教えていたが?

とても大事な試みだと思いますね。
今、先ほどのVTRのような働き方が、もう当たり前になってしまっているんですね。
その当たり前が当たり前じゃなくて、実は不当な目に遭っているんだということを人々が知るためにも、先ほどのような運動や試みは大切だと思います。

(具体的な対策として、どんなことが求められている?)
先ほどのVTRにあったような労働法教育は、自分の置かれている状況が不当であるっていうことを認識するためにはとても重要だと思います。
それに加えて、やはり私は、給付型奨学金の導入が大事だと思います。
多くの先進国では、奨学金は給付が原則です。
しかし、日本の奨学金の約8割を占めている日本学生支援機構の奨学金は貸与型しかありません。
ここに給付型を入れて、学生が安心して学べる環境を作ることが大切だと思います。

●非正規に頼る職場に学生が組み込まれていく 社会はどうなっていく?

今日は学生のテーマが中心でしたけれども、これは学生の問題に限らないと思います。
非正規の基幹化というのは、食べられない人たちばかりの職場になっていくというね、そういう安かろう、悪かろう、そういう職場を作っていって、この社会が立ち行くのかっていう、そういう問題を示しています。
それからやはり大学生を考えたときに、大学での学びや、社会に出ていく前のさまざまな経験が学生の未来を作っていくので、そのためにも学生に学べる環境を作っていくことが重要だと思います。

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