クローズアップ現代

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No.36822015年7月8日(水)放送
“迷走” 新国立競技場

“迷走” 新国立競技場

“迷走”新国立競技場 デザイン決定の舞台裏

3年前、オリンピック招致を目指し、新しい国立競技場のデザインを決めるために行われた国際コンペです。
当時、NHKのカメラが議論の様子を記録していました。




会場で審査にあたったのは、日本を代表する建築家やスポーツ関係者など8人。
安藤忠雄さんが委員長を務めました。
建設費は1,300億円。
サッカーや陸上の大会などに加え、コンサートも開ける多目的スタジアムが条件でした。

最終的に最も多くの票を集めたのが、流線型の斬新なデザインが特徴のイラク人女性建築家の作品。

審査委員長(当時) 安藤忠雄さん
「日本の技術力とチャレンジ精神から、17番(イラク人女性建築家の作品)がいい。」

このとき一部の委員から、デザインを実現できるのか、建設費が膨らむのではないか、懸念の声もありました。

審査委員(当時) 岸井隆幸さん
「本当にこのとおり軽やかに建設できるか危惧を持っている。」




審査委員(当時) 内藤廣さん
「(計画のままだと)相当大変で不可能に近い。
かなりのコストがかかるという懸念がある。」



こうした声が上がったものの、審査委員会はデザインのインパクトが招致の後押しになると、全会一致でこの案を選んだのです。

“迷走”新国立競技場 審査委員が語る真相

この決定について審査委員たちはどう考えていたのか。
今回、当事者たちが取材に応じました。

建築家の安岡正人さんです。
建物の音響に詳しく、スタジアムやホールの建設に数多く携わってきました。

審査委員を務めた建築家 安岡正人さん
「アピール力は強かった。」

審査の際、建設費用について掘り下げて議論されることはなかったといいます。

審査委員を務めた建築家 安岡正人さん
「(招致活動で)世界に訴えるものが欲しいというのは、みなさん共通に考えていた。
建設コストのことについては、それほど審査委員に情報が提供されなかったし、『なんとかなるだろう』というくらいの気持ちだった。」

審査で唯一、建設費用についての懸念を示していた建築家の内藤廣さんです。
そもそもコンペのスケジュールに無理があったと考えています。

審査委員を務めた建築家 内藤廣さん
「ものすごい急いでましたよね。
時間がない、時間がないと。」

東京がオリンピックの開催地として立候補したのは、東日本大震災があった2011年。
12月に国家プロジェクトとして新国立競技場の建設が進められることになりました。
デザインの募集が始まったのは2012年の7月。
よくとし1月までに、競技場のデザインを盛り込んだ立候補ファイルを提出しなければなりませんでした。
それに間に合わせるためデザインの募集開始から最終決定まではおよそ4か月。
しかし内藤さんは、これだけの施設のデザインを建設費用を含めて決めるには、最低でも倍以上の期間は必要だと指摘します。

審査委員を務めた建築家 内藤廣さん
「メインスタジアムの絵柄が必要だという中でコンペが動いてきたということは、確かなことだと思います。
このナショナルプロジェクトを決めるのは、もう少し時間が欲しかったというのが正直な感想。」


こうして選ばれたデザインを持って臨んだ招致活動。

安倍首相
「世界に類のないデザインの新たな国立競技場から財源の確保まで、2020年東京大会は確実に実行することを約束します。」

「トウキョウ。」

当初の劣勢をはね返しての開催決定でした。

審査委員を務めた建築家 内藤廣さん
「(審査委員の間では)東京に招致できるなんて誰も思ってなかった。
だから僕らからすると、あれよあれよという間の出来事だった。」

“迷走”新国立競技場 二転三転した建設費

その1か月後、懸念していた問題が現実のものとなります。

下村オリンピック・パラリンピック担当大臣(当時)
「(デザイン案を)そのまま忠実に実現する形での経費試算は、約3,000億円に達する。
あまりにも膨大な予算がかかりすぎる。」


事業主のJSC=日本スポーツ振興センターは対応を迫られました。
去年(2014年)5月、規模を縮小した新たな競技場のデザインを提示。
それでも、建設費用は最初の予定を上回る1,625億円と試算されました。
しかし今年(2015年)になって、施工にあたるゼネコンがこのデザインでも3,000億円を超えるという見通しを示し、迷走することになります。

“迷走”新国立競技場 責任はどこに

この間、国際コンペで審査委員を務めた建築家たちが自発的に集まり、軌道修正を図れないか、月に1度会合を重ねていました。

審査委員を務めた建築家 内藤廣さん
「大変な税金が投下されるので、審査に加わった以上、結果はどうあれ責任の一端を負っていると思っていた。」

今回の建設計画にはJSCのほか、所管する文部科学省や設計会社など多くの組織が関わっていました。
会合にはJSCや設計会社の担当者も参加。
建設費用をどうすれば抑えることができるかなど、具体的に話し合っていたといいます。
しかし、会合に参加していた安岡さんは、意見が出てもそれを計画に生かすことができるリーダーがいなかったと感じています。

審査委員を務めた建築家 安岡正人さん
「提案を受けて、それを実地設計より、あるいは建物として実現していく段階でも、やはりきちんとしたまとめ役がいないと非常に難しい。
オリンピックの施設をつくるということで、集約されていく組織がなかったことが大きい。」

JSCの河野理事長です。
事業主として、リーダーシップを発揮することはできたのか聞きました。

JSC(日本スポーツ振興センター) 河野一郎理事長
「独立行政法人は国の指導や枠の中で動いていますから、このデザインを前提として国立競技場を作ることがミッションですので、ある意味できること、できないことが明確になってここまで至ってる。」

そして昨日(7日)、JSCが発表した新たな計画。
予定されていた開閉式の屋根などの設置は先送りされ、建設費用は最終的に2,520億円となりました。




当初の見込みから大幅に増えた要因として挙げたのが、建設資材や人件費の高騰。
そして新国立競技場の特殊性。
こだわっていた、斬新なデザインを実現するための経費でした。
迷走した建設計画。
責任者で、JSCを所管する下村文部科学大臣に問いました。

下村文部科学大臣
「もうJSCだけでは対応できませんと、なんとか応援してくれという話がきたのが今年の4月だった。
ですから必ずしもJSCだけの問題とはいえないが、そういうスキームの、そういう問題があって遅れてきてしまった。
それを半年前とか分かっていたら、もっと適切な対応ができた部分はあるかもしれないが、しかし今日にいたったということだから、余分な税金がかからないような工夫をすることが責任の取り方だと思います。」

“迷走” 新国立競技場

ゲスト野城智也さん(東京大学生産技術研究所教授)

●責任を押しつけ合うようなことば 納得がいかない人々も多いのでは?

これは本当に大規模で複雑なプロジェクトですので、やはりスポーツのチームに例えれば、プレーヤーの方々は本当に一生懸命やってらっしゃると思うんですけど、キャプテン、監督がいないことには立ち向かえないプロジェクトなんですね。
(キャプテンというのは、こうした巨大事業の場合…)
やはりこれは、それらの担当の人たちは計画内容を預かってる、お金を預かっている,時間を預かっているわけですけれども、それぞれが矛盾するわけです。
ですからやはり、ある人がその全体の目配りをしながら、多少矛盾があっても、それをまとめていくという当事者意識と、あと、その権限が与えられてまとめていかないことにはですね、全体がうまく走って行かないということになると思います。
(まとめ役の不在?)
そうですね。

●オリンピックスタジアムのコスト、なぜこれほど高くなった?

よく報道されているように、その「キール・アーチ」ということがありますけれども、それだけに原因を持っていくのはすごく無理がありまして、このプロジェクトの川上から見ると、初めからいくつかのボタンのかけ違いがあったように思います。
1つは、神宮の敷地というのは5万人のスタジアムがあったわけですけれども、8万5,000人のスタジアムを造りますと、周りに余地がなくなってしまうんですね。
ロンドンや北京は周りの敷地がたくさんありますので生産性を上げていくことができるんですけれども、敷地条件から、建設工事で建設生産性を上げるにはかなり不利な条件だったわけです。
(周りが広いといろいろな作業ができる?)
同時並行で作業できますので。
またロンドンや北京は、基本的には陸上競技場という単機能だったわけですけれども、ここはサッカーもラグビーもやる、さらにコンサートもやるという多面的な機能がございますので、たくさんの機能を盛り込んでいるという点の機能的な難しさということもございました。
あと今VTRにもございましたように、確かにずっと建設現場で働いてくださる技能を持った技術者の方がどんどん数が減っている中で、震災復興があり、こういった需要がありますので、その費用が上がったことも事実でございます。

●もっとシンプルな設計になど、多くの声が上がっていたが?

やはりもし、元に戻るべしという議論がよく出てきておりますけれども、やはりそれは3年前、2012年の時点でいろいろな選択肢の中から議論することが可能だったと思います。
ただ、今は私が思いますに、ザハさんたちが選ばれたコンクールの公募から今までもう3年たってますし、着工まで3か月です。
3年3か月という時間がたっている時間をもう一度繰り返すことができるかというと、縮めても2年ぐらい、縮めるのが精いっぱいだと思いますので、具体的にほかの選択肢が半年前に取り得たかというと私は疑問に思いまして、私どもに残されたのは、これはご覧になっている視聴者の方々は非常にご不満かと思いますけれども、今の計画を進めていく以外、オリンピックをホストする道はないんじゃないかと、私は思います。

●当初の試算から膨れ上がった段階で問題に向き合っていたら? 何が一番の問題だった?

その段階でしたらば、ザハさんたちもこの条件が非常にあいまいだということは大変気にしていらっしゃったようですから、その段階であれば、どの機能を優先的に入れていくのか、あるいは敷地としても、こういった建築を生かすにはこの場所が適切なのか、他の場所がありうるのかといったことが、3年前だったらできたと思います。
(結果として、なんの施設なのかがはっきりしない?)
今は、先ほど申し上げた4つの機能というものが、ほぼ同じ需要性を持って設計されているように思いますね。
(そしてデザインだけは、ほぼ残った?)
ですから、やはりオリジナルなものの形は選ばれたんですけれども、なんのための、どういう機能のための形だったかということの関係性は、必ずしも明確でなかったということだと思いますね。

新国立競技場 課題山積の“五輪後”

一昨日(6日)、新国立競技場の建設について、市民団体が主催する勉強会が開かれました。
議論になったのはオリンピック後の運営の問題です。

「40年50年にわたって安定的に持続させる施設にならなきゃいけない。」

巨大な施設を維持していくことができるのか。
参加者からは不安の声が相次ぎました。

「もっと未来を見据えてこの競技場を作っていかないと。」

「子どもたちに迷惑になるものを残したいとは思わない。」

昨日、JSCはオリンピック後の競技場の年間収支計画を公表しました。
それによると、イベントの開催などで収入は40億8,100万円。
一方、修繕費などの支出は40億4,300万円を見込んでいて、3,800万円の黒字が出るとしています。
この収支計画に懸念を抱いている専門家もいます。
東京理科大学名誉教授の沖塩荘一郎さん。
大型建築物の維持管理とそのコストについて研究を続けてきました。

沖塩さんが注目しているのが、大会後に設置される開閉式の屋根。
JSCは、イベントなどを開催し予定どおりの収入を得るためには欠かせないものだとしています。
しかし沖塩さんは、開閉式の屋根の維持管理には想定以上の費用がかかることもあるといいます。


東京理科大学名誉教授 沖塩荘一郎さん
「固定式に比べれば、可動ということで開けたり閉めたりということにメンテナンスは非常にお金がかかってくるわけです。」



大分銀行ドームでは屋根の開閉システムで故障が相次いだため、一昨年(2013年)、入れ替えに急きょ4億5,000万円を費やしました。




さらに、費用の問題から屋根を開けたままにする選択をしたスタジアムもあります。
14年前に建設された豊田スタジアムです。
7年前に機械が故障。
保守点検のための技術者を増員しました。
さらに施設の老朽化に伴い、部品の交換も相次ぐようになりました。
その結果、今後5年間でこれまでの4倍を超える16億円が必要となることが分かったのです。

豊田市教育委員会スポーツ課 太田信人さん
「われわれが維持管理でねん出する費用というのは税金なものですから、多額を投じる意味がどこまであるのかということをわれわれも考えた中で、止めるということを判断したということです。」

沖塩さんは、国立競技場の屋根は開閉方法や形状も異なるため単純に比較できないとしながらも、長期的な収支について十分検討が必要だと考えています。

東京理科大学名誉教授 沖塩荘一郎さん
「30年後40年後以降は、はるかに支出が大きくなる。
もうかるのは最初の10年20年と考えています。
負の遺産にならないようにということを、まず重点的に考えていただきたいと思います。」

新国立競技場 課題山積の“五輪後”

●現在は屋根をつけるという前提で収支3,800万円の黒字試算 本当にこれで済む?

今までの、先ほど申し上げましたようにさまざまな選択肢があったわけで、それには一長一短があるわけですね。
確実性、不確実性もあります。
やはりこれから、このプロジェクトが皆さんに愛していただけるようにしていくためには、丁寧に、どういう選択肢があって、それぞれ一長一短があるんだけど、だからこれを選んだという説明をしていかなければならないと思います。

ですから将来のこの維持管理計画についても、屋根をつけて運営していくということも当然選択肢の1つなんですけれども、ほかにどういう選択肢があるのかということを示して、それを広く参加を求めながら案を練っていくことが必要だと思います。
(どこまで税金をかけていくかということも問われるのでは?)
当然そうですね。
実際これを運営していく費用というのは、受益者が誰で、誰がお金を出すかということについても、広くいろいろな選択肢から考えていくべきだと思いますね。

●プロジェクトについて外の声に十分耳を傾けたのか、プロセスに対する納得感がないが?

反省することは、たくさんあります。
ただ申し上げましたように、もしこれが将来の世代の人たちに愛して使ってもらうとすれば、これから過去の反省にたって、できるだけ参加を求め、参加をしていただきながら、納得していただくようなプロセスを踏んでいくことが必要だと私は思いますね。
(情報の開示も、まだまだ足らないのでは?)
1つの決め打ちではなくて、この5つぐらいある案の中で、われわれはこういう理由でこれを選んだというようなそういう説明が、丁寧な説明が必要になるんじゃないでしょうか。

●まとめ役がいない中で進んできたプロジェクト 事業をこれから進める中できちんとしたものになっていく?

これからやはり誰がキャプテンであるか、監督があるかということは明確にしていかないと、また迷走してしまうと思いますね。
これは、これからキャプテンを指名していく必要があると私は思います。
(誰がなるべき?)
JSCの方のどなたかがやるべきだと私は思います。

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