クローズアップ現代

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No.36752015年6月25日(木)放送
なぜ暴走は止められなかったのか ~検証・一家5人死傷事故~

なぜ暴走は止められなかったのか ~検証・一家5人死傷事故~

突然の悲劇 一家5人死傷事故

事故の5日後。
犠牲となった一家4人の葬儀が営まれました。
新聞配達員の永桶弘一さんと妻の文恵さん。
3人の子どもに恵まれ、その成長を見守ることを何よりの楽しみにしていました。

文恵さんの幼なじみ
「ずっと友達だった。
すごい残念。
言葉にならない。」

長女の恵さんは、高校3年生。
弟や妹の面倒をよく見て、将来は保育士になることを夢みていました。
長男の昇太さんは、高校1年生。
体の弱い祖母をいたわる優しい性格でした。

近所の住民
「みんな小さい時から知っている。
これからの人生なのにかわいそう。
悔しいの一言。」

事故が起きたのは、今月(6月)6日夜10時半すぎ。
妻、文恵さんの実家を訪れた帰り道のことでした。
青信号で交差点に入った永桶さん一家の軽ワゴン車。
そこへ、赤信号を無視した乗用車が時速100キロを超えるスピードで進入、衝突しました。


乗用車は炎上。
衝突で永桶さんの車は50メートル以上飛ばされ、長男の昇太さんは車の外に投げ出されました。
後続の車が、昇太さんをおよそ1.5キロにわたって引きずり、走り去りました。


一家の未来を一瞬にして奪った2台の車。
永桶さんの車に衝突し危険運転致死傷の疑いで逮捕された谷越隆司容疑者は、信号は青だったと供述。




後続車を運転しひき逃げの疑いで逮捕された古味竜一容疑者は、人をひいた認識はないとしていずれも容疑を否認しています。
事故の直前、この2台の危険な運転を目撃した人がいました。

事故直前の目撃者
「前の車がいたらギュッという感じ。
急発進、急ブレーキ、急車線変更、急ハンドルを切るような。」

見過ごされた危険運転 一家5人死傷事故

逮捕された2人の危険な運転は、この日だけではありませんでした。
古味容疑者の車は外観に特徴があり、複数の人が暴走する様子を覚えていました。
この男性もその1人。
事故の1か月ほど前、信号を無視して走り去るところを見ていました。


男性
「異常な運転だった。
後ろから対向車線をはみ出して、信号無視して左に曲がって行った。
怖かった。」


しかし、警察は2人の無謀運転を把握していませんでした。
現場周辺は見通しのよい直線道路。
本来なら交通事故の起こりにくい場所です。
速度違反を取り締まるための監視カメラは設置されていませんでした。
無謀運転を知らせる市民からの通報も1件もありませんでした。

市民
「(一般的に)スピード違反は現行犯だから。
通報しても、その車が分からない限りどうにもならない。
多分みんなそう。」

さらに今回の事故では、容疑者らが酒を飲んで運転をしていた疑いが出ています。
砂川市内の繁華街です。
2人が車で乗りつけ繰り出していく姿が頻繁に見られていました。



近所の住民
「いつもここに止まっていた。
(深夜)1時2時に帰ることが多かったので、どこ(の店)に行っていたのだろうと。」


事故当日も、この場所に車を止め、店で酒を飲んでいたと見られています。

なぜ、飲酒運転を止められなかったのか。
地元の飲食店組合の会長、前田秀紀さんです。
9年前、福岡で飲酒運転の車が、幼い子ども3人の命を奪った事故をきっかけに飲酒運転を防止する活動を始めました。



客の目に付くよう箸袋に標語を大きく印刷。
加盟するおよそ50店に配布しました。
しかし、客からは予想外の反発がありました。

砂川社交飲食協会 前田秀紀会長
「『うるさい、どこの店行ってもこれがある』『飲酒運転、飲酒運転ってしつこい』。
あまり口うるさく言うと、客が遠のいてしまうので。」

結局、活動を続ける店はほとんどなくなりました。

奪われた日常 一家5人死傷事故

永桶さん一家が暮らしていた市営住宅です。
事故の数日前、近所の人が、駐車場で仲よくバーベキューをする5人の姿を目にしていました。




近所の住民
「事故の3、4日くらい前にここでジンギスカンやってた、全員で。
子どもたちはここでバドミントンやってて、家族の唯一の楽しみだった。」

父親の弘一さんの仕事柄、遠出が難しく、ここで家族一緒に過ごす時間を何よりも大切にしていました。
その掛けがえのない時間はもう戻りません。

なぜ危険運転は見過ごされたのか

ゲスト小佐井良太さん(愛媛大学准教授)

●容疑者の無謀運転に気づくも防げなかった事故 背景をどう捉える?

先ほどのVTRを拝見していて、この事件をどうして防ぐことができなかったのか、本当にさまざまな課題が凝縮している事件だというふうに思います。
VTRの中でもありましたように、地元の警察署が、何度も目撃されていた暴走行為を把握していなかった。
あるいは、監視カメラも設置されていなかった。
あるいは、市民の方のお話にもありましたように、通報も寄せられていない。
その理由としては、現行犯とならなければ意味がないんじゃないか、あるいは特定できなければ意味がないんじゃないのか、そういう形で諦めというかですね、どうにもならないという思いが共有されていた。
そういう意味では、飲酒運転、あるいは危険運転について、この状況や環境ということが生み出した事件だというふうな印象を強く持ちました。

●厳罰化を進めてもなくならない事故 周囲の環境や状況が事故を防げない理由は?

そうですね。
これまでに、いくつもの事件を裁判の傍聴等を続けておりますけれど、その中で感じるのは、まさにそうした、今おっしゃったような問題なんです。
大きな事件が起きると、その加害者、個人本人に対しては刑事責任が科される。
しかし、その周囲にいる人たち、例えば、飲食店の人たち、あるいはその一緒に飲んでいた人たち、あるいは地域の人たちは、皆、その行為をうすうす感じている、あるいはもっと明確に理解している。
だけれども、そこから何らかの取り組みをするということができていなかった。
そういう意味では、個人に対する刑事責任に焦点を合わせることによって、むしろその周囲の人たちの責任が不問になるという構造があったというふうに感じています。

●店では飲酒運転防止活動が下火になったり、客が飲酒運転するのではないかと気付いても一歩を踏み出せない どんな状況からそういうものが積み重なっていくのか?

市民の方にとって、例えば通報が難しいことであると同様に、お店の人にとっても、お客さんに対して飲酒運転をしないでほしいと働きかけることに、やっぱり相当な勇気がいる。
それはお客さんを失うかもしれないというおそれが当然あるわけですね。
先ほどのVTRにありましたように、せっかくいい取り組みをされてるのに、それが続いていかない。
これはやはり、お客さんの側に、そうした優れた取り組みを理解し支えていく、それを当然のこととして受け止めていく環境を作っていくことが大事だというふうに思います。

●長い直線でスピードが出やすい事故現場 インフラ面で事故防止の対策は取れなかったのか?

私も同じような印象を持ちました。
もっとさまざまに道路環境であるとか、インフラを整備することで、対処できたのではないかということですね。
具体的に申しますと、私は昨年、オーストラリアのシドニーにおりましたけれども、現地では、横断歩道の所に必ず段差を設けて、車がスピードを出せないようにしています。
あるいは、都市と都市とを結ぶ郊外道路の制限速度は、比較的高めに設定してありますけれども、市街地やスクールゾーンの近くに来ると、そこに速度規制のカメラが設置されていて、カーナビがそれを知らせてくれる。
運転者は、きちんとここでスピードを落とさないといけないということを理解して、速度をコントロールするわけですね。
そうした仕組みを取る余地があったのではないかというふうに感じました。

“飲酒運転を許さない” 飲食店の取り組み

9年前、飲酒運転で幼いきょうだい3人が犠牲になった福岡県。
悲劇を繰り返さないために、さまざまな取り組みが続いています。




郊外を中心に展開している居酒屋チェーン。
6年前から、酒を注文した客全員に飲酒運転をしないという誓約書を書いてもらっています。
酒を飲んだあと、どうやって帰宅するのか。
毎回、必ず店員が確認します。

店員
「車ですか?」


「はい。」

店員
「ハンドルキーパー(代わりに運転する人)がいらっしゃるということですね。」

署名に応じない場合は一切、酒を提供しません。
当初は、署名に応じずに帰る客も多くいましたが、今では抵抗を示す人はほとんどいません。

常連客
「全然いいと思います。
(誓約書を)書いた方が自覚もできますし。」

居酒屋チェーン 店長
「これが当たり前になって、世の中から飲酒運転がなくなってくれればいいなと思います。」

“飲酒運転を許さない” 独自の条例

行政も独自の対策を進めています。
3年前、福岡県は飲酒運転撲滅条例を制定。
全国で唯一、ドライバーに酒を提供した店に独自に罰則を設けました。



客が飲酒運転をした場合、法律では店側が飲酒運転につながると明確に認識していなければ罰することができません。





一方、条例では直ちに警察による指導、助言の対象となります。
悪質な場合は、店名の公表や5万円以下の違反金が科されます。
施行から3年。
警察の指導、助言を受けた店は240軒を超えますが、多くが改善を図り、違反金を払った店は1軒もありませんでした。


福岡県 生活安全課課長補佐 德野史倫さん
「飲酒運転を許さない、させないという雰囲気は醸成されつつあると思っています。」

市民の情報を生かせ 密着!特命チーム

京都では、市民と警察が連携し、無謀運転を根絶しようと取り組んでいます。
3年前、京都府警に設けられた特命取締係です。

専従捜査員
「飲酒運転で帰るという情報があがってきました。」

「場所は分かってるんだな。」

6人の専従捜査員が、市民から寄せられた通報をもとに違反者の検挙を行っています。

特命取締係が発足したきっかけは、京都で相次いで起きた悲惨な事故。
市民に積極的な情報提供を呼びかけることで、危険の芽をいち早く摘み取ろうと考えたのです。
以来、寄せられた通報は、およそ300件。
この日も飲酒運転をしているという情報が届きました。
車種や目撃場所、ナンバーの一部など、複数の市民から寄せられる一つ一つの情報を組み合わせることで、悪質なドライバーを特定していきます。

京都府警察本部 交通指導課 吉川孝司警視
「漠然と『どこどこで飲酒運転が行われてるよ』とか、そういった断片的な情報をつなぎ合わせることによって1つの情報になっていきますから。」


これは、ある日の特命取締係による摘発の映像です。
飲食店から男が出てきて、車に乗り込みました。
捜査員が飛び出します。

専従捜査員
「止まって、ストップ。」

専従捜査員
「止まれ、止まれ。」

専従捜査員
「止まれ、警察や。」

運転していたのは、70代の男。

専従捜査員
「大将、お酒飲んだの?」

男性
「飲んだ、飲んだ。」

専従捜査員
「測らせてもらう。」

基準を上回るアルコールが検出され、その場で逮捕。
男は飲酒運転を繰り返し、さらに50年の間無免許運転だったことも明らかになりました。
これまで、通報をもとに検挙した悪質な運転は、およそ100件。
こうした取り組みもあり、以前は年間100人近くに上った交通事故の死者は3割以上減りました。

京都府警察本部 交通指導課 吉川孝司警視
「みなさんの情報が命です。
警察の行き届かないところも府民のみなさまの目で見ていただいて、悪質交通違反、危険運転者をどんどんなくす。
限りなくゼロ、ゼロですね。
間違いなくゼロにしてやろう。」

“危険運転を防げ” 始まった取り組み

●市民からの情報を組み合わせ悪質ドライバー検挙も 京都の取り組みをどう見るか?

最後にVTRの中で担当者の方がおっしゃっておられた、危険運転者をゼロにするという、この言葉に非常に新鮮な感銘を受けました。
これまで、ともするとやはり、警察の担当者の方であっても、日々、努力されている中で、しかしどうしてもこの状況は、自分1人の努力では変えられないのではないか、そういう思いを、あるいは持たれていたのかもしれません。
それが、ゼロにするんだということが言えるところまで認識が変わってきた。
そのことの意味は非常に大きいと思います。
やはり、市民にとって通報というのは、非常にハードルが高いということですよね。
難しい、やっぱり、相手に報復をされるのではないか、あるいは密告をしているような後ろめたさを感じてしまう。
そうした思いを、何とか勇気を振り絞って通報している人たちの、それが断片的な情報であっても、こうやってつなげていくことに、やっぱり貴重な意味があるんだというふうに思います。
(専従チームをつくれないというところもあるかもしれないが、実績がかなり上がっている?)
亀岡市では、こうした取り組みが功を奏して、600日以上死亡事件が起きていないというふうに伺っています。
実際に効果を上げているということですね。

●福岡県が作った条例の取り組み 条例で目指したポイントは?

ひと言でいうと、処罰ではなくて、支援という考え方ですね。
どうしても福岡の条例というのは、全国初の罰則付きの条例ということが注目されますけれども、その基本的なコンセプトは、処罰だけではこうした飲酒運転、危険運転をなくしていくことができないという考え方だと思います。
先ほどのVTRで紹介されていたような飲食店の取り組み、こうした優れた取り組みを評価して、例えば表彰する。
そうしたことが、積極的な取り組みを持続させていく力になる、勇気づけを与えていくっていうことですね。
それが支援だということになるということだと思います。

●評価、支援していく中で周囲の人の理解も広がっていくと考えている?

飲酒運転、危険運転をしない、させない環境を作っていくために、こうした取り組みが周囲の人たちの、お客さんたちの認識を変えていく、そのことがむしろ当たり前になっていく、そうしたことを支援していくために、この条例というのは作られている、まさにそうした取り組みだというふうに見ています。

●砂川市での事故で周囲の人はその芽を摘むことはできなかったのかとあったが、何が一番大切か?

一人一人が今、半歩を踏み出すこと。
それぞれの立場で何ができるかを改めて考えること。
これまでの車優先の社会ではなくて、むしろ人が中心となる社会、そのために車をどう使っていくのか、そのことが今、改めて問われていると思います。

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