クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
No.36582015年5月27日(水)放送
ほかに行き場がなかった~川崎 簡易宿泊所火災の深層~

ほかに行き場がなかった~川崎 簡易宿泊所火災の深層~

急速に広がった火災 構造に問題が

火災が発生した簡易宿泊所「吉田屋」です。
消防が通報を受けた6分後には、火は建物全体に広がっていました。
映像には、建物から逃げ出す人たちの姿が映し出されていました。
私たちは、全焼した宿泊所から逃れた人たちの半数近くにあたる26人から話を聞くことができました。

3階部分に住んでいた男性
「火が一気にきちゃってね、一瞬で焼けちゃったから。
あと何十秒とか何分も遅れていたら、火に巻かれてそのまま終わりだったかもしれない。」

特に火の回りが早かったのは、火元と見られる1階ではなく、2階より上の部分だったといいます。

2階部分に住んでいた男性
「1階のあの辺りから火が噴いたっていうんだけど全然火が出てなかったもん、俺が逃げたときは。
2階3階から、ボンボンボンボン火の粉が。」

今回、消防や火災から逃れた人たちへの取材で、建物内部の詳しい状況が明らかになりました。
1階に住んでいた人は全員生存が確認されました。
亡くなった10人は2階部分と3階部分に集中していたと見られます。
部屋の扉はベニヤ板。
廊下はウレタン製で、警察は燃えやすい素材が使われていたと見ています。
さらに特徴的だったのが、2階部分と3階部分が吹き抜けでつながっている構造でした。
もともと2階建てだった建物を事実上の3階建てに改築し、部屋を増やした際にこうした構造になったのです。
同じ地区の、吹き抜けがある宿泊所です。
3階部分から2階部分が見渡せます。
川崎市によると、市内の簡易宿泊所49棟のうち23棟が同じような構造でした。
火災の専門家は、こうした建物の材質や構造が上の階の被害を急速に拡大させたと見ています。

東京理科大学 関澤愛教授
「空気は熱くなると浮力がついて上昇気流で上がりますので、火も煙も階段を経ることなしに3階までどんと上がって、各部屋に延焼していく。
“木造”プラス“開放的な空間”が延焼を速めたと言える。」

変貌する“労働者の宿” 集う人々の現実

京浜工業地帯に程近い川崎市日進町。
高度経済成長期、日雇い労働者が全国から集まりました。

“この川崎という所がそのような男たちを必要とする土地でもあるので…”

そうした人々の短期の滞在場所として、簡易宿泊所が次々と建てられたのです。
しかし今、簡易宿泊所で暮らす人は様変わりしています。
川崎市によると、その多くが生活保護を受けているといいます。
受給者1,300人余りのうち8割が60代以上です。
生活保護の相談に訪れた人が、市から宿泊所の存在を教えられ、やって来るケースもあります。
宿泊所は、こうした人たちの受け皿になっているのです。
5年前に簡易宿泊所に移り住んだという72歳の男性です。
港の施設で働いていましたが、病気のため仕事を続けられなくなりました。
男性は身寄りがなく、この宿泊所以外に行き場がないといいます。

5年前から暮らす男性(72)
「こんなとこで死にたくないな、だけど死ぬだろうな、俺。
本当に動けなくなったらな。
最後は(ここで)死ぬんじゃないの。」

取材を進めると、簡易宿泊所での暮らしから抜け出そうとする若い世代がいたことも分かってきました。
宿泊所の3階部分の奥の部屋に住んでいて亡くなった市川実さん、48歳でした。
かつて市川さんと共に宿泊所で暮らし、親交があったという同世代の男性です。
去年(2014年)の秋、市川さんからもらったというセーター。
市川さんは自分に余裕がなくても、収入があったときには困っている人に気遣いを見せていたといいます。

市川さんと親交があった男性
「冬、寒いじゃないですか。
それで(市川さんがセーターを)買ってきてくれた。」

宿泊所の向かいにあるこの公園で、よくサッカーボールを蹴っていた市川さん。
高校時代はサッカー部で活躍していたといいます。
その後、長距離トラックの運転手をしていましたが、腰を痛めて働けなくなり、1年ほど前から簡易宿泊所に移り住みました。
川崎市内の倉庫で派遣労働者として働きながら、なんとか自立へのきっかけをつかもうとしていたといいます。

市川さんと親交があった男性
「悔しいでしょうね。
やりたいことなんかもいっぱいあったでしょうね。
(簡易宿泊所を)出たい気持ちはあったと思います。」

簡易宿泊所に一度入ると、抜け出すことが難しい現実も浮かび上がってきました。
高橋利光さん、46歳です。
同じ地区の宿泊所に5年半住んでいます。
生活保護を受けながらようやく見つかったのが、野菜の箱詰めをする不定期の仕事でした。

5年半暮らす 高橋利光さん(46)
「どうにかしないとなと思って、ちょっとなんですけど仕事を始めた。」

宿泊所から出て自立するために、正社員の仕事を探し続けてきた高橋さん。
これまで50社以上に応募しましたが、簡易宿泊所に住んでいることを告げると断られたこともあったといいます。

5年半暮らす 高橋利光さん(46)
「(正規雇用の)仕事探しをやってたんですけど、受けても受けても不採用ばかりで。
早く社員の仕事を見つけてアパートを借りたい。」

ほかに行き場がなかった 簡易宿泊所火災の深層

ゲスト藤田孝典さん(NPO法人代表理事 聖学院大学客員准教授)

●川崎市の簡易宿泊所で生活する人の9割が生活保護受給で多くが高齢者 どう受け止める?

大変痛ましい事件だったと思いますし、さらに、こんなに低所得の高齢者がこの簡易宿泊所を利用しているのかということを、改めて新鮮な驚きを持って見たというところですね。
実態としては、旅館ではなくてもう高齢者施設化しているんじゃないかということを感じますし、そういった高齢者が、こんな危険で、ましてや狭い住宅しか得られていない、それも行政がそこに紹介しているというケースもあって、かなり問題は複雑化しているんじゃないかということを感じますね。

●背景には、どんな社会的・構造的問題がある?

まずは、1人暮らしの高齢者が非常に膨大な数で増え続けているということですね。
それに対して、家族がいないし、さらに低所得であるということもセットになると、これはもう、安心して借りられるような住居とか物件が非常に広がっていないので、公営住宅も足りないし、そういった高齢者が入れるような福祉施設も足りないっていう状況がありますので、フランスであれば20%ほどが公営住宅、社会住宅なんですが、日本の場合には3%程度しか公営住宅もありませんので、なので安くて安心して住めるような公営住宅が足りないし、住居ももう根本的に足りないということがいえますよね。

●出たくてもなかなか出られないという現実もあったが?

そうですね。
なので一時的に、とりあえずは住まいがないっていう形を受け入れる、受け皿としては機能してもいいと思うんですが、問題は一時的な範囲をどれくらいの期間にするのかという話なんですが、中には、今回の簡易宿泊所も10年、30年って暮らしている人もいますので、長くそこに入れば入っているほど自立が難しくなるということが言えますから、なるべく早くそこから転居をして、就労支援なり、次の住まいでの生活支援に結び付けていくというような、そういったサポートを積極的にやる必要があると思うんですけどね。

●行政が考える一時的滞在と現場で支援する立場から見た一時的滞在、ギャップは感じる?

そうですね。
私たちは一時的な住まいとして、狭小なシェルター的なものが必要だと思っているんですが、じゃあどれぐらいの期間そこにいて、次の転居支援をしていくのかという話なんですけれども、私たちからすると最低限、半年程度はそこにいてもらって、そのあとはもうなるべく早めに移していくっていうことですね。
最大でも、6か月を超えてはそこにいないっていうような、そういったシェルターの在り方なり簡易宿泊所の在り方があるべきなんですが、そこに3年、5年、10年といる方がいますので、長期化すればするほど出づらくなる、支援もしにくくなるということが言えるかなと思いますね。

安心できる“住まい”を 始まった模索

簡易宿泊所の火災があった川崎市です。
生活保護を受ける人に、一時的な居場所として簡易宿泊所の存在を伝えてきました。
しかし滞在が長期化してきたことから、2年前、アパートへの転居を促す取り組みを始めました。
市は、転居をサポートする専門の支援員を配置。
希望する人に不動産業者を紹介し、契約の手続きなどを支援します。

支援員
「こんにちは、よろしくお願いします。」

この日、支援員が付き添ったのは、簡易宿泊所に15年暮らしている73歳の男性です。
男性は保証人がいないことなどから、アパートに移るのは難しいと考えていました。

支援員
「これからのことを考えると、1階かもしくはエレベーター付きのマンションで…。」

支援員は物件の下見にも付き添います。
生活保護費の範囲で、できるだけ希望に沿った物件を探します。

不動産業者
「バリアフリー、段差なし。
住みやすいと思います。」


保証人の代わりとなる会社も紹介。
行政が仲立ちすることで契約しやすくなるのです。

宿泊所で暮らす男性(73)
「保証人がちゃんとした人がいればいいんだけど、なかなか自分で探したっていないよ。
やっぱり役所の人にお世話になるしかね。」

去年1年間で、200人余りが簡易宿泊所からアパートに移り住みました。
その一方で、長年住み慣れた宿泊所を離れたくないという人も数多くいるのが現状です。

川崎福祉事務所 戸澤裕幸課長
「無理やり転居させられないし、その人に対して今の生活がいいんだっていうんだったらそれも尊重しなければならない。
可能な人に対しては極力、より環境のいいところに住んでもらいたい。」

簡易宿泊所に多くの人がとどまる中で、安全を確保しようという模索も始まっています。
およそ160の宿泊所が集まる東京の山谷地区。
およそ2,500人が生活保護を受けながら暮らしています。
ここで今、宿泊所の建て替え工事が進められていました。
去年までは築60年の木造の宿泊所が建っていました。
地元の台東区は、安全で新しい宿泊所になれば観光客も呼び込めるとして、建て替えを促しています。
最大1,400万円の助成金が活用できます。

簡易宿泊所の経営者
「燃えない建材、これが大前提。
全てにおいて燃えない耐火基準を満たしている。」

しかし、助成金を使っても建て替えには数千万円の資金が必要で、これまでに工事が完了したのは3棟にとどまっています。
建て替えが進まない中、簡易宿泊所の安全をどう確保していくのか。
宿泊所の組合長、上野雅宏さんです。
各宿泊所から集めた資金で、今年(2015年)消火用の機材を購入しました。
「スタンドパイプ」という、この機材。
消防が到着する前に自分たちで消火活動を始めることができます。
さらに、地域の住民とも合同で訓練を重ね、町全体で防火意識を高めたいと考えています。

城北旅館組合 上野雅宏組合長
「今回の火災を受けて、いろいろな対応を考えなきゃいけない。
今この状況でできる範囲を少しずつ、そういったことを積み上げていくしかないと考えています。」

安心できる“住まい” どう確保するのか

●川崎市ではこの1年間で219人が簡易宿泊所からアパートへ転居 この取り組みをどう評価する?

これはすばらしい取り組みだと思っていますし、これは、さらには質と量を上げていかないといけないということだと思うんですね。
川崎市にとどまらず、まだこういった簡易宿泊所、無料低額宿泊所等に入っている方たちはたくさんいますので、そういった人たちにより厚い支援というんですかね、そういったものが求められていくんだと思いますね。
(具体的に、質の部分での支援の強化とは?)
そうですね、例えば消極的にここで居座らざるをえない、もうこれ以外の選択肢がないと思っている方たちが多いので、それ以外の選択肢があるということで、選択肢を提示するということだとか、あとは自由な暮らしがあるんだよということで、そういったものに向けた転居へのインセンティブとか、あとは動機付けを高めていくというような、そういった面接の中で、転居はすばらしいことなんだというようなことで勧めていくということが重要かなと思いますね。

●自立したいと強く思っている若い人もいるが?

そうですね。
だからそういった方たちについては、海外であれば「ハウジングファースト」と呼ばれるんですが、もうあそこに一度、簡易宿泊所に入ってから就労支援をするとか、就職活動をするということは限界がありますので、なのでもう一時的にそこを利用して、なるべく早めにアパートなり、ちゃんとした安定居住を確保してから就労支援していく、あるいは就職活動をしていくということが、より好ましい施策だとは思いますね。
だからハウジングファーストを進めていくということは重要ですね。

●長年同じ仲間と暮らしてきて、そこに居続けたいという人もいるのでは?

まさにおっしゃるとおりで、なので、危険で狭い住宅で居続けていいのかという問題なんですね。
だからそこについては、簡易宿泊所はちゃんと安全で、さらにいえば、ついの住みかとなってもいいような、例えば有料老人ホーム化するということであるとか、高齢者施設化していくっていうことに転換していったりとか。
(改築して?)
改築していくとか、そういったところに補助金をつけていくだとか、なので実態としては高齢者施設化しているというのは明らかですので、この部分にどのような政策が後押しをしていくかということですね。

●今回の火災を通し、現場で支援を続けてきた立場からの教訓は?

そうですね。
こんなひどい事件が起こると特別な事態なんじゃないかと思われるんですが、実は低所得の高齢者ってものすごい膨大に増えてきていますし、これから周辺にも起こってくる問題ですので、あすはわが身という視点で、この事件を見ていただきたいんですね。
例えば、厚生年金でも年収400万円で40年間払ったとしても、月額16万円程度しかもらえない。
老後で例えば普通の暮らしをするとなると、この金額からアパートを借りたりだとか、住宅を確保するというのは非常に難しくなりますので、多くの人たちが抱える問題なんだということに目を向けていただきたいと思いますね。
(安い住宅が高齢者にとって足りないという現実を直視しなければならない?)
そうですね、これからますますこの問題が広がっていくでしょうし、重大な課題として私たちに突きつけられてきていると思いますね。

あわせて読みたい

PVランキング

注目のトピックス