クローズアップ現代

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No.36362015年4月7日(火)放送
“ポスト”に託された命 ~赤ちゃん100人のその後~

“ポスト”に託された命 ~赤ちゃん100人のその後~

託された命は今…

8年前、赤ちゃんポストに預けられた男の子です。
今は小学生になり、里親のもとで育っています。

「味はどう?」

赤ちゃんポストに預けられた男の子
「うん、おいしい。」

今回、里親の了解のもと、初めて取材に応じてくれました。
ポストに預けられた当時、男の子はすでに物心が付いていました。
そのときのことを今も覚えていると言います。
男の子は当時の光景を絵に残していました。
新幹線と、男性に手を引かれる自分の姿を描いていました。

赤ちゃんポストに預けられた男の子
「新幹線でゆりかご(赤ちゃんポスト)に行った。
『かくれんぼをするよ』と言って、入れて、そのあと帰ってこなかった。」

熊本市内の民間病院にある赤ちゃんポスト。
ポストの扉を開けると、中には親に宛てた手紙があり、それを取ると内扉の鍵が開きます。
誰にも知られることなく、いつでも匿名で子どもを預けることができます。

男の子は赤ちゃんポストで保護されたあと児童養護施設に移され、5か月たって今の里親に引き取られました。
本当の親は誰なのか。
男の子は、生みの親とつながるものをずっと大切に持っています。
ポストに一緒に置かれていた、靴や着替えです。

赤ちゃんポストに預けられた男の子
「お母さんが買ったのかな。
これがいちばん初めて残っているものだから、いちばんの思い出。」

預けられた当初、男の子は生みの親が迎えに来るのを待っていました。

赤ちゃんポストに預けられた男の子
「お母さんが来るんじゃないかと思って靴をいつも持っていて、『お母さん来てないよ』と言われると、ぐずって泣いていた。
小さいころはさびしかった。」

里親に引き取られた今、男の子は家族の一員として大切に育てられています。

男の子の里親
「これでもずいぶん大きくなったんですよ、昔は小さかったからね。
小さいときは僕が全部洗ってあげた。」

学校の人気者で、かけっこも一番。
里親にとっても自慢の息子です。

男の子の里親
「血のつながりはないけれど、親子になっているんですから。
よかったですね、あの子でよかった。」

新しい家族の愛情を受けながら、男の子は赤ちゃんポストに預けられた過去を乗り越えようとしています。

赤ちゃんポストに預けられた男の子
「こうのとりのゆりかごに入れてくれたから、今ここで生活している。
もし違うところに行っていたら、今のお父さんとお母さんにも会えなかった。
そういう意味では、ちゃんと入れてくれてよかった。」

しかし、里親と子どもの安定した暮らしが奪われる可能性があります。
実の親が現れ、引き取りたいと申し出た場合です。
その申し出に翻弄された里親が手紙で取材に応じました。
4年間育ててきた子どものことを考えると、納得できるものではありませんでした。

“実の親に引き取られることになったら、幼稚園の先生やお友達と離れる。
きっと気が狂ったように泣き叫ぶだろう。
引き裂かれる思いを想像すると涙があふれてきます。”

8年前に預けられ、今回取材を受けてくれた男の子です。
この男の子も、親族が現れ引き取りたいと強く主張されると、里親から引き離される可能性があります。

男の子の里親
「せっかく親代わりでうまくいきそうだったのに、引き裂くようなことをするのかと。
それは本人(子ども)にとっても傷を深くすることになる。」

“ポスト”に託された命 赤ちゃんたちのその後

ゲスト西澤哲さん(山梨県立大学教授)

●預けられた男の子の姿、どう見た?

そうですね、やはりとても胸を打たれるものがあったのは、こうのとりのゆりかごに、入れてくれてよかったっていうふうにあのお子さんが話したことなんですよね。
つまり今が恐らく、幸せに過ごせている生活が、しっかりちゃんと愛されて自分が暮らせているっていうのがあるので、こうのとりのゆりかごに入れられるっていうのはとんでもない体験なわけですけれども、それをよかったと意味づけできているんですよね。
本当にそのことばがずーんと胸にきました。

●親や親族が引き取りたいと言ってきた場合、離れなくてはならない可能性も?

今の法制度で、里親家庭での養育だとそれはありえるわけです。
もちろん、家庭裁判所がそうではない決定をする可能性もありますけれども、一方では、実の親のもとに戻したほうがいいというような判断をする可能性も否定できないですから、不安定さはずっと残りますね。
(いきなり環境が変わったときの子どもの気持ちを想像すると、難しいのでは?)
恐らく心の傷に傷を重ねることになるので、場合によっては取り返しがつかないぐらいのダメージを及ぼす可能性がありますよね。
だから、やはりいろんな事情があるんでしょうけれども、もっと積極的に特別養子縁組という、新たな親子関係を結ぶっていう形で安定した親子関係を作っていくっていうことを、周囲がサポートしてやっていかないといけないでしょうね。
(これは誰が主導してそういう方向に向けていく?)
基本的には、こうのとりに入ったお子さんたちに対しては、やはり児童相談所っていうことになります。
だから児童福祉の範囲の中で、そういった子どもにとってよりよい環境を提供していく、それにはどうすればいいのか。
おのずと、施設よりは里親家庭、里親よりは養子縁組っていうような選択肢が出てくるんだろうと思います。

●子どもの養育状況で、実の親などに引き取られたケースが18件あるが?

私は基本的に多すぎるというふうに思います。
やはり、こうのとりに子どもを託するということは、ある意味、子どもを手放すわけですから、例えば虐待とかネグレクトと比べても重篤な事例だと思うんですよね。
それがわりと安直に、軽々に名乗り出てきたから帰すみたいな、そういうふうな甘い判断があってではないかなという気がしますけれども。

●その後の子どもたちの状況、どこまで追跡されている?

それはされてないんでしょうかね。
実の親がいいというのもたぶん幻想なんじゃないかというふうに、私は思いますけれども。

“母子心中” 親元に帰したけれど…

3年前、この人けのない山中で、母と幼い娘の遺体が発見されました。
車の中で練炭を使った無理心中でした。
亡くなったのは、いったんポストに預けられていた子どもでした。
一度は救われた命が奪われることになったこのケース。
30代の母親は未婚のまま出産。
子どもは、母親が知らない間に相手の男性によってポストに預けられていました。
その後、乳児院に移された子どもを、母親はすぐに引き取りたいと申し出ました。
児童相談所は、数日後には子どもを親元に帰していました。

赤ちゃんポストを検証してきた、専門家の委員会の報告書です。
親の引き取りには慎重な対応が求められると指摘しています。

“引き取りたい”とは言うけれど…

どこまで慎重な対応をすればよいのか。
赤ちゃんポストの場合は、その見極めが難しいのが現状です。

4年間、施設で暮らし続けている男の子です。
母親は引き取りを申し出ていますが、児童相談所は認めていません。
学生だった4年前、母親は下宿先のトイレで1人で子どもを産んだあと、赤ちゃんポストを利用しました。
その後、周囲に説得され引き取りを申し出ました。
しかし、まだ子どもを引き取る環境が整っていません。
今は定期的に面会を続けています。

赤ちゃんポストを利用した母親
「できるだけ早く引き取るのがいいとは思うんですけど、正直自分はまだ母親にはなれていないかなと思います。」



子どもの生活の安定を考えれば、里親に託すという選択肢もあります。
しかし赤ちゃんポストの場合、親が引き取る意思を示している以上、その意思を尊重せざるをえないのが実情です。
男の子は結果的に、施設に保護されたままの生活が続いています。

“赤ちゃんポスト” 戸惑う現場

さらに、赤ちゃんポストの場合、いつまで支援を続けるのか明確な基準はありません。
この児童相談所が対応したのは、生まれたばかりの子どもを衝動的にポストに預けたあと、引き取りを申し出た母親の事例でした。

「これが赤ちゃんポスト利用した赤ちゃんのケースファイルです。」

担当者は、引き取りを希望した母親に対して、子どもを帰したあとも家庭訪問をして経過を見守り続けました。
しかし、赤ちゃんポストの場合は、虐待のように継続的に地域が連携して見守る仕組みがありません。
結局、担当者は小学校入学を機に母子への見守りを打ち切りました。

赤ちゃんポストの事例に対応した児童相談所の職員
「正直、戸惑いはどの児童相談所にもあると思う。
こういった対応が望ましいというマニュアルが示されていないなかで、どう支援していくべきなのか不安感は常に持っている。」

“赤ちゃんポスト” 母子を支えるドイツ

赤ちゃんポストを日本に導入するにあたって、モデルと位置づけられたのがドイツです。
15年前から、福祉団体やNGOが国内100か所余りにポストを設置。
これまでおよそ300人が預けられました。

ドイツが日本と大きく違うのは、赤ちゃんポストだけでなく、望まない妊娠をした女性を支える多様な仕組みがあることです。
身元を明かさず病院で安全に出産できる制度。
行き場がない妊婦に対して、出産後まで生活を支援する母子シェルターなどです。

赤ちゃんポストの運用にあたっては、利用した親が8週間以内に引き取りを申し出なかった場合、親権を放棄したと見なされます。
子どもを養子として速やかに新たな家庭に送り出すためです。
さらに、預けられたすべての子どもの生活環境が良好か継続的に調査するなど、成人するまで支援をしています。

赤ちゃんポストを運用する団体 担当者
「最優先すべきは子どもの利益です。
そのためにも女性たちの不安を受け止め、安心して産める環境を整えなければなりません。
それが子どもが安全に産まれてくる権利を守ることになるのです。」

“赤ちゃんポスト” 託された命 どう守る

●日本の場合、国にどんな対策が求められている?

基本的には、私は福祉の中の新しいオプションが増えたんだと思うんですね、選択肢が。
そういった、こういうこうのとりのゆりかごっていうのが、1か所ではあっても、新しい仕組みが出来たわけですから、それに対応するような仕組みを整えていかなければいけない。
今のままだと、入り口は増えたけれども、入っちゃったらあとは旧来の仕組みで対応するというような、そんな非常に粗末な扱いになっていると思いますよ。
そこは国の責任がやっぱり問われるだろうなと思います。

●この新しい仕組みを通して見えてきた、いちばん大きな課題とは?

基本的には、私、さっきのVTR見てても思ったんですけれども、やはりこれ、マニュアルがないと何もできないみたいな、これは専門家としてはいかがなものかなと思うんですよね。
ですから、例えば産んだ子どもを直後にこうのとりのゆりかごに預ける親の心理、気持ち、どんなものなんだろうか、あるいはその預けられた子ども、それをどう受け止めるんだろうか、これ、かなりシビアな、深刻な事態ですよね。
それを共感性を持って関係者が受け止めていかないと、こういったずさんな対応になってしまうのかなと思います。

●預けるということ、社会としてどう認識すべき?

そうですね、今、データがないので、本来はもっと分析していかないといけないんですけれども、例えば外形的なデータだけでも、例えば自宅分娩が多いとか、赤ちゃんの年齢であるとか、そういった状況を見ると、これは虐待死亡事例の親の特徴なんかと、あるいは死んじゃった子どもの特徴と結構一致するんですよね。
そうすると、これは単なる虐待よりも深刻なのかもしれない、そういうふうな見方をして、子どもの最善の利益を考えていくっていうような視線が必要だと思いますけれども。

●ドイツでは思いがけない妊娠をした女性たちからのSOSを発しやすくしているが?

日本はそこは抜けてますよね。
だからこの、こうのとりのゆりかごだけが際立ってしまったんですが、実はいろんな援助メニューの、支援のメニューの1つであって、その基本的な考え方っていうのは、やはり妊娠で困ってる女性たちを助けて、そこから生まれてくる子どもたちを大事にするっていうシステムですよね。
これが次の世代を作っていくわけですから、そういった視点をやはり持つべきだろうというふうに思います。
(どういう親たちが預けているのか、その状況を知ることも?)
そういった調査をしっかりしていって、そのための支援の方策を、あるいは制度を整えていくということをやらないとだめだろうなというふうに思います。

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