クローズアップ現代

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No.36332015年4月1日(水)放送
介護職の働き方改革 ~人材確保の最前線~

介護職の働き方改革 ~人材確保の最前線~

責任重い介護の現場 “辞めない”職場づくり

東京・町田市にある、社会福祉法人が運営する介護施設です。

「飲み物から。」

およそ430人の介護職員が働くこの法人。
かつて正職員の離職率は20%を超え、大きな問題になっていました。


社会福祉法人 合掌苑 理事長 森一茂さん
「入ってすぐに辞めてしまうというケースが非常に多くて、15人採って1年経ってもう3分の2以上が辞めてしまったみたいな、そんな年があったんですね。」


夜勤担当
「失礼します、お疲れ様です。」




負担の重い介護の職場環境を改善しようと、2年ほど前から夜勤専門のシフトを設けることにしました。
それまでは1人の職員が日勤と掛け持ちする不規則なシフト。
しかも夜勤は、16時間の長丁場。
肉体的、精神的にも大きな負担となっていました。

そこで、夜勤だけを専門に週3日から4日担当させることにしました。




夜勤担当
「こんばんは、今、見回りで。
何かあったら呼んでくださいね。」

勤務を7時間短縮。
それでも月収は40万円を確保。
夜勤との掛け持ちをやめることで、日勤の負担を軽くすることができたのです。

日勤の職員
「日中だけ働くって決まっているので、本当に働きやすいです。
自分のやるべきことをやっているっていう感じで、やる気にもつながりますね。」


さらに負担軽減の取り組みとして、スタッフ間で一斉に会話ができる通信機を導入しました。




「2時の血圧測定に来ました。」

現場では、高齢者に対し職員が1人でケアする機会が増え、精神的な負担は増していました。



2年目の職員
「すみません、お手洗いに行きたいので、バッグを持ってどなたかお願いします。」



「お待たせしました。」

この通信機を使うことで、助けが必要なときには手の空いた職員がすぐに駆けつけられるようになりました。


2年目の職員
「すごい不安だったので、インカム(通信機)があるとすぐ誰かに聞こえていて、誰かがすぐ助けに来てくれるので安心して業務ができます。」


2年目の職員
「失礼いたします、お願いします。」

退職の最も大きな原因だった人間関係の悩みに対しては、上司が個人面談を行うことにしました。
グループ全体では、こうした面談を年に延べ6,000回行い、職員の悩みを聞いています。

上司
「(日常業務で)助けが必要になったりすることはあります?」

2年目の職員
「立場的に下っ端、下の方というのもありますし、目上の方に自分がやろうとしていた仕事をお願いしづらい。」

こうした取り組みで、離職率はおよそ10%にまで下がりました。
昨年(2014年)採用した新人職員の場合、1人も辞めていません。

社会福祉法人 合掌苑 理事長 森一茂さん
「長く勤めれば(利用者)ひとりひとりに対してよく理解していく。
長く勤めている人が多い施設というのは、私は介護がいい施設だと思います。」

介護職の給与UP やりがいUPでサービス向上

人手不足に直面する介護の現場。
平均月収は全産業よりも10万円ほど低い水準に置かれています。
責任の重さに比べ、働き続けても給与が思うように上がらず、それが退職の主な原因になっていました。

そうした中、介護職の待遇を改善する試みも始まっています。
職員のキャリアアップ制度を導入した社会福祉法人です。
ここでは職員全員が年1回、介護の技能や知識を問う独自の試験を受験。
合格すれば、給与が上がります。

ケアマイスターと呼ばれる制度で、技術力や指導力などの評価に応じ6段階のランクがあります。
例えばゴールドを取得した場合、基本給と手当に加え、月収が1万5,000円アップします。


経験者ですら合格が難しい最高ランクのマイスターでは、月収が3万円アップ。
基本給や手当を加えれば、年収が600万円に達する職員もいます。
職員にはランクごとに色の異なる職員証を配付し、着用させています。

この日行われたマイスターの実技試験。
700人中10人しか合格者のいない難関です。
課題は、利用者をみとったあと、ケアをどのような手順で行えばよいか後輩職員に実演指導を行うというものです。


受験者
「死後硬直とかありまして(体が)硬くなってしまいますので、手を前で組んで、しっかりと。
(亡くなった後)こういった形であごを固定する場合があるんですが、私はそういうのが好きじゃないんですね。」


試験官
「個人的な主観が多くて、(ケアの)手順が捉えきれていなかった。」



「失礼します。」

「声かけ、ひとつずつ。」

この社会福祉法人では、高いランクほど高度な技能と指導力が求められています。
こうした介護職の能力と月々の給与を結び付けています。

プラチナクラスの職員
「お金のためにやっているわけではないが、手当てという対価を支払ってもらえるということはすごくありがたい。」



マイスタークラスの職員
「今でしたら年収でいうと560万円ぐらいは頂けるようになってきたので、家計を成立させていくうえで主人と同じ年収を頂いているので、そこで辞めるという選択肢はないですよね。」


技能に応じた給与水準を維持するために、この法人では利用者の数を増やすなどして事業の拡大を行ってきました。

「尼崎だけでやっているところを西宮エリアまで拡大していって、営業をかけてやっていきたい。」

確保した職員のやる気を高め、利用者サービスの充実につなげています。


若手職員が取り組んでいるのは人生の最後に一番好きだった食べ物を口にしてもらう企画。

「果汁が含まれた、水分が多いようなものが好みかな。」

「介助していても、ミキサー食だとそれが何であるか分からない。」

利用者が満足できるサービスを提供することで、さらなる利用者を呼び込むという循環を作り出しています。

「今日は完食、バッチリです。」





利用者
「(病院に)入院していたんですけど、早くここに帰りたくて。
みんな(介護職員)がいいんですよ、雰囲気がね。」



社会福祉法人 あかね 経営統括本部長 松本真希子さん
「お客様にたくさん来てもらって、その分増えた利益を社員に還元をする、給与として還元する、こういう取り組みを全社でやろうと。
幹部、現場の中心となって働いてくれる人たちは、他の一般企業と比べても恥ずかしくない給料を取って欲しいというのが私たちの願いでもあります。」

どうなる介護サービス 深刻な人手不足

ゲスト結城康博さん(淑徳大学教授)

●勤務体系の見直しや工夫を凝らした取り組み、どう見た?

非常に高く評価していると、私は思いますね。
やっぱり勤務体系とか、例えば日勤なら日勤、夜勤なら夜勤とか、あと職場の人間関係でちゃんと管理職の方が話を聞いたりとかですね、そういう人間関係をちゃんと調整しているという評価。
それからもう一方で、ちゃんとキャリアアップに応じて賃金体系をきちっと決めていると。
やっぱり介護や福祉の仕事っていうのは、どうしても賃金体系について少し遠慮しがちなんですけれども、やはり賃金が上がっていくということは、それなりの技術が上がっていくというのは、やっぱり物差し的な意味合いもありますから、それに応じて賃金が上がっていくという方式をしないと、人材確保というのは難しいと思いますね。
(マネジメントと賃金は両方大事?)
そうですね。

●利用者・高齢者にはどんな影響を及ぼす?

職場の介護士さんたちの人間関係がよくなるということと、きちっと賃金が保障されて評価も高くなるということは、結果的には介護サービスがすごく質が向上していきます。
介護の職場の待遇がよくなるということは、やっぱり介護って人のサービスで決まってきますから、サービスの質が向上するのに非常に効果的だと思いますね。

●現場の現状は?

確かに全国的な介護現場を見ますと、介護っていうのは肉体的にも精神的にも非常に大変な仕事です。
かといって、賃金体系が必ずしも全産業と比べると高くないと。
そういう意味では、非常に今、介護人材不足が深刻化しています。
特に他産業でも人材をかなり欲しいと思われていますので、他産業との人材の奪い合いの観点で人材不足が深刻化して、例えば賃金があまり高くないので、男性が30歳ぐらいになってなかなか家庭を持つのに大変なので介護職を辞めてしまうというのは、実はこれ10年来ずっと続いていて、今も深刻な状況ですね。
(男性が寿退社をするという?)
そうですね。
これはもう、ずっと改善すべきだといわれていながら、なかなかされない。
今回、介護報酬がマイナス改定になりましたので…。
(今日からスタートだが?)
ですから、このマイナス改定というのは確かに月給ベースだけでは介護士さんに1万2,000円、少し上がる措置はなされていますが、介護事業所全体がそのマイナスで減収になるということは、体力がなかなかなくなりますから、VTRのような2つの一生懸命やっているところでも、今後水をさすような、マイナス改定が影響してくる心配をしているところですね。

変わる介護サービス “保険外”利用の拡大

東京・三鷹市。
NPOから派遣されたヘルパーが高齢者の自宅を訪ねました。
利用者は85歳の女性です。
生活面での援助が必要な、要支援2の介護認定を受けています。


85歳の女性
「私がやれないので、お願いします。」

この日ヘルパーが行ったのは部屋の片づけです。
長年の間に使わなくなったものがあふれ、転倒してけがをするおそれがありました。

この女性の場合、介護保険で受けられるサービスは月におよそ2,600円の自己負担で週2回だけ。
洗濯、身の回りの掃除などに限られていて、部屋の大掃除まではできません。
そこで活用したのが、介護保険外のサービスです。
1時間3,600円の全額自己負担ですが、保険ではできない時間のかかる大掃除をヘルパーに頼んだのです。

以前は散らかっていた部屋。
きれいに整頓されました。
しかも女性が自立して生活できるよう、ヘルパーの専門性を生かして動線を確保。
つかまり立ちできるように家具の高さまでそろえる、きめ細かな配慮がなされています。

ヘルパー
「(ふきん掛け)高い?」

保険外サービスはヘルパーにとってもメリットがあります。
指名を受けるとヘルパーの時給は2割増しになります。

ヘルパー
「この辺がいいかな?」

85歳の女性
「それでいいわね。」

利用者の側も、信頼できるヘルパーに毎回頼めることが安心感につながっています。

85歳の女性
「こういうところでも手に届きますし、これなんかも(種類を)そろえてくださったから、これで助かるんです。
(ヘルパーさんが)『ここは危ない』って考えながら、動きやすいように置いてくださるんです。
助かりました。」

このサービスを提供しているNPOの代表、柳本文貴さんです。





NPO法人 グレースケア機構 代表 柳本文貴さん
「介護保険、オッケーを探せゲーム。」

介護保険の原則に縛られると提供できるサービスの幅が狭くなるという問題意識から、7年前から保険外サービスを中心とした事業を展開しています。

NPO法人 グレースケア機構 代表 柳本文貴さん
「(一緒に)劇を見に行く、これはだめ。」




NPO法人 グレースケア機構 代表 柳本文貴さん
「利用される方も不自由な思いをされますし、ヘルパーの方も手足を縛られているような、断るのが仕事みたいな感じになったりするので、非常にやりがいを持ちにくいということが課題だったので。」


このNPOには多様なサービスを提供できる介護職が集まりました。
趣味の和装を生かし着付けの介護もできるヘルパーや、人生最後の旅行に付き添い、みとりまで介護するヘルパーまでいます。



利用者の多様なニーズに応えられ、頑張ればそれに見合う報酬も得られる。
この仕組みに魅力を感じた人たちが集まり、その数は50人にまで増えました。

ヘルパー
「介護保険だと、ぱっと行ってオムツを替えて排せつ介助をして終わり。
自費(保険外サービス)が絡んでくると長時間働ける、そこが魅力。」

ヘルパー
「自費(保険外サービス)の部分は楽しみごと、生きがいを見いだすためのサービス。
ヘルパーもやりがいがありますし、利用者さんも生きがいを見いだす。
お互いにいいのではないか。」

どうなる介護サービス “保険外”利用の拡大

●ニーズに合わせたサービスをする施設の取り組み、どう見た?

こういう、介護保険が使えるサービスと、介護保険が使えないサービスをミックスするサービスですね。
私は、これは一定程度評価ができます。
介護保険が使えるサービスっていうのは、介護保険っていう財源制約がありますから、なかなか賃金の財源確保が難しいんですけれども、介護保険が使えないサービスっていうのは、ある意味、完全市場経済でやりますから、利用者さんと提供者側が契約で、ある意味普通のお金でやっていけるわけですから、その分を賃金として補填するという点は非常にいい点ですし、もう1つは、介護保険で使えるサービスっていうのはある程度法律で規制があるんですけども、使えないサービスの場合、完全市場のサービスっていうのは、利用者の趣味とか、いろいろなことのバリエーション豊かに使えますので、ヘルパーさんもVTRで言っていたように、非常に楽しくやりながらできるという点ではいいですね。

●懸念される部分もある?

私はこのへん、3つの課題があると思います。
1つ目は、やっぱりこの経済格差という問題からすると、お金がある人は保険というか、保険内の要するに介護保険の使えるサービスしか使えないんですけれども、お金のない人は介護保険が使えないサービスっていうのは自己負担が高いので、なかなか難しいので、そこで格差が生じてしまうと。
それから地域格差の問題も指摘できて、こういう介護保険が使えるサービスと使えないサービスをセットでやる事業所っていうのは、なかなか都市部を中心にはできますけれども、地方ではなかなか生じないんではないか。
3つ目としては、やっぱりこの介護保険が使えないサービスをどんどん進めていきますと、過剰な供給をする営利企業が出てくるということですね。
今、認知症の高齢者も多いですから、そういう判断能力が少し難しい人にも、むだなサービスを提供してしまう事業所も出てくるということはちゃんと注意しないといけないと思いますね。
(現段階ではそういう点をチェックするシステムはない?)
なかなかその介護保険が使えないサービスのところっていうのは、自費のサービスですから、完全市場、提供側と使う側の民民契約なので、なかなか自治体や国が関与できないので、並行して使えるような、併給してやるサービスに関しては何らかの規制は必要かなと思います。
(これからしっかりチェックしないといけない?)
そうですね、でも2つをミックスしていくというのは、有効な手段だとは思いますね。

●10年後には30万人の介護職人材を獲得しないと立ち行かなくなる状況、どう考える?

今回も、先ほど申し上げたように(介護報酬の)マイナス改定っていうのは、一部、事業所が収益を上げているとか、内部留保とか基金を持っている方、いろいろありましたけども、やっぱり、私は一部の事業者はそうですけれども、大部分の事業者はなかなか厳しいと思います。
じゃあ、介護保険の財源が厳しい中で、現場でやりがいとか、創意工夫でやりなさいと言っても、それも限界があると思うので、やはり介護報酬を大幅アップするとか、公費負担をするとか、収益を上げている所は会計検査をするなりとか、公費とか保険料を上げて介護財政を豊かにしないと、最終的には介護人材を確保するのは難しいですから、現場の創意工夫に依存していくという体質、このへんだけではできないので、やっぱり財源と現場と両方組み合わせることが必要だと思いますね。
(現場だけの努力には任せずに考えていくべき?)
その辺で、国もぜひ方向性を示してほしいと思いますね。

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