クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
No.36242015年3月2日(月)放送
“埋没技術”を活用せよ ~市場創出への挑戦~

“埋没技術”を活用せよ ~市場創出への挑戦~

革新的技術だったのに “無念”の3Dプリンター

先月(2月)、名古屋市内で開かれた講演会です。
メインゲストは青色発光ダイオードの開発でノーベル物理学賞を受賞した天野浩さん。
その横で、ひときわ注目を集めた男性がいました。


3Dプリンター発明者 小玉秀男さん
「日本で生まれた技術でありながら、実はアメリカで成長した。」



小玉秀男さん、65歳。
語ったのは、35年前に3Dプリンターの技術を開発したものの、日の目を見なかった失敗談でした。

3Dプリンター発明者 小玉秀男さん
「日本の教育から生み出された技術、それが外国で使われて、日本に全くお返しが出来なかった。
今こういう問題に対して、また同じようなミスをしないように頑張っていただきたい。」

ノーベル物理学賞 受賞者 天野浩さん
「(小玉さんの技術は)ちょっと早すぎた。
今になったら、もっと世の中が変わっていた、私自身も思うこといっぱいありますし。
本当にもったいないですよ。」


小玉さんが3Dプリンターの技術を開発したのは30歳のとき。
当時は名古屋の工業研究所に勤める技術者でした。

3Dプリンター発明者 小玉秀男さん
「これが世界で初めて作った3Dプリンターの製品。」

小玉さんは、印刷技術と、光を当てると固まる技術を組み合わせた装置を発明し、家の立体模型を作成。
これが3Dプリンターの基礎技術の誕生でした。



そして1980年、特許を出願。
国内はもとより、海外でも論文を発表しました。
ところが、周囲の反応は冷ややかでした。
学会や展示会で技術の新しさを訴えても使いみちが見いだせないという声が多く、事業化に関心を示す大手企業や投資家は現れませんでした。

3Dプリンター発明者 小玉秀男さん
「当時は僕は孤立無援みたいな心理状態だったんですね。
みんな誰一人賛成してくれない、自分が間違っている。
どうも技術者としてセンスがないんだったら、技術者辞めて他の職業に就こうやと、そういう発想になってしまいました。」

失意の小玉さんは、3Dプリンターの事業化を断念。
正式な特許の取得も諦め、4年後に研究所を退職しました。

しかし、その後アメリカのメーカーがばく大な資金を投入し、小玉さんの技術を応用した3Dプリンターを実用化。
瞬く間に市場は広がり、世界を席けんしました。
その後、苦い経験を教訓に、企業の特許取得をサポートする弁理士になった小玉さん。
日本企業の多くは技術開発は重視するものの、どう事業化するかという戦略が乏しいため、せっかくの技術を埋没させるリスクがあると指摘します。

3Dプリンター発明者 小玉秀男さん
「やっぱり新しい技術に対する、理解する感性を持っている人。
そういう方に当たらないことには、なかなか技術が評価されない。」

なぜ“埋没”する? 企業の革新的技術

事業化を阻み技術を埋没させる日本企業の壁とはなんなのか。
川崎市にある大手電機メーカーの倉庫にも、埋没技術が眠っています。

富士通 ビジネス開発部部長 吾妻勝浩さん
「こちらが当社の埋没している技術の一部です。」

この会社が保有する特許の数は、およそ10万件。
権利を維持する費用は年間数十億円に上ります。
しかし、特許の半数近くが使われていないといいます。

富士通 ビジネス開発部部長 吾妻勝浩さん
「これは車のナビゲーション装置と接続して、クマ自体が指さしで方向を教えてくれたり。」



こちらのキーボードには、光を当てると雑菌やウイルスを分解するという世界初の新素材が使われています。




チタンアパタイトという光触媒で、15年前に開発されました。
しかし、事業化には新たな部門を立ち上げねばならず、当時はそれに見合うだけの具体的な市場や収益が見込めないという判断でした。


富士通 ビジネス開発部部長 吾妻勝浩さん
「(当社は)100億円以上の売り上げを目指しますので、1つの事業で。
難しい。
事業規模に合わないというのと、当社がやっていく方向性とは違うんですね。」

埋没した技術をよみがえらせるにはどうしたらよいのか。
メーカーは最近、埋没技術を社外に公開することでさまざまな市場の可能性を探り始めました。

富士通 ビジネス開発部部長 吾妻勝浩さん
「出口戦略の説明ですね。」

すると、予想以上の反応が返ってきました。
新素材・チタンアパタイトを使いたいという依頼が舞い込むようになったのです。

この日、訪ねた会社では、8年前から銀行のATMなどのタッチパネルシートを製造しています。
抗菌市場の需要の高まりに合わせ、このシートにチタンアパタイトの技術を導入したいと持ちかけられました。


そこでメーカーでは、自社の技術を中小企業に提供。





その代わりに、製品から得られた収益の一部をライセンス料として受け取ることになりました。
ようやく日の目を見ることになった革新的な技術。
埋没していた技術をよみがえらせる模索が続いています。

富士通 ビジネス開発部部長 吾妻勝浩さん
「社内にかかわらず外でもいいので、生かすということが技術にとっていちばん重要な部分だと思うんです。
ですから(技術を)広める価値というのはいっぱいあるんじゃないかと思います。」

同じ企業の中でも、技術の抱え込みが壁になることもあります。
大阪の大手電機メーカーでは、今、需要が急速に伸びる介護市場に最先端技術を集中して投入し始めています。

高齢者の動きをセンサーが感知し、その人の筋力に応じて動作を繊細にアシストする自立支援型の介護ロボット。
実はこの中には、社内の別の部門に埋没していた最先端の技術が生かされています。


それは、大型プラズマテレビの工場で働く人の作業の負担を軽減するために開発された、ロボットアームの技術です。
2000年代、このメーカーはプラズマディスプレイの大型化を進めたものの、海外メーカーに押され2年前に撤退。
プラズマ部門の撤退と同時に、ロボットアームの技術も使われなくなってしまったのです。

この技術をよみがえらせたのは、去年(2014年)立ち上がったプロジェクトです。
その使命は、社内の垣根をなくし、新しい事業を生み出すことです。


通常、各部門ごとに技術を開発し事業化を進めるため、それぞれの技術はほとんど共有されてきませんでした。
そのため、事業が撤退すると技術も埋没してしまう傾向がありました。


そこでこのプロジェクトでは、部門を横断して連携。
技術と情報を共有し戦略を立てることで新たな市場を作るのがねらいです。

「こういう会議がないと気付かないですよね、こんな技術があるんだっていうのが。
会社の中にいっぱいいろんな技術があるみたいです。」

その結果、眠っていたロボットアームの技術を生かした介護ロボットが完成。
この分野の市場は、5年後には500億円に広がると見られています。

パナソニック エコソリューションズ社
新規事業推進グループ 志方宣之さん
「社内にはさまざまな技術がありますし、埋没しそうになる技術もありますが、そういうものをもっとよく見て新たな事業を創出していきたい。」

もったいない! 企業に眠る“埋没技術”

ゲスト渡部俊也さん(東京大学政策ビジョン研究センター教授)

●3Dプリンターを最初に開発したのは日本人、しかし事業化には誰も関心を持たなかった?

もったいないと思いますね。
私も技術者でしたから分かりますけど、これ、おもしろい作り方ができたと思って使いみちを探したと思うんですけど、当時日本は、ものをともかく安く作る、高品質のものを同じように作るっていう、それにはちょっと合わないですよね、この3Dプリンターっていうのは。
だけど一方でアメリカでこれが注目されるようになったのは、これは結局ものづくりのメーカーがものを作るんじゃなくて、ユーザーも作り、自分たちが作れるっていうんで、ものづくりの構造、産業構造を変える技術だというふうに見て、社会が変わるんだということを、彼らは見いだした。
そういう見いだしたことに対して、いろんな人たちが着目をして、お金が集まってっていう、そういう流れが、この当時はそういう発想はなかったっていうことだと思うんですね。

●埋没している技術の中でポテンシャルがある例、ほかにも?

すごくね、やっぱりそういうのがあって、私も自分が関わったもので、なんかやっぱりうまくいかないなっていうのもありますし、それからこれは研究者と一緒に、埋没してる例っていうのをいろんな企業に行って調べたことがあるんですけど、いっぱい出てくるんですよね。
うちもこういうのあります、ああいうのありますと。
簡単な例でいうと、今、羽根なし扇風機っていうのが外国のメーカーでありますけど、あれもどうも、日本の一番最初に特許があったとかですね、それからぜんそくの吸入剤の技術、これもどうも日本の企業が最初にその技術をやった、そういうのは本当に枚挙にいとまがないっていうか、いろんな例が出てきますね。

●日本の大企業にとって技術の事業化は事業規模が確保できるかどうか その構造が技術埋没の理由になっている?

例えば仮に100億の市場があって、必ずそれがもうかりますっていったら、これは当然もう、やってる事業ですから、新しい技術を事業化するっていうのは、リスクがありますから、最初はいきなり100億にならないかもしれない。
それをどうやって育てていくかっていう、そこがやっぱり重要なわけですよね。
今、例に出てきていた抗菌のケースというのは、その技術はまだよく分からないけど、これもいろんな人に見てもらうと、中小企業が、このケースは中小企業だったですけれども、そうするとこう新しい視点があって、こういうのにも使えるんだとか、こういう事業に使えるんだというのが分かってくるとか、あるいは介護のケース、同じ会社でもですね、別の部署で見ると、これはこっちに使えたという例が後半でありましたけど、組織の中でもそういう例があると。
やっぱりこれは組織の一部門で例えば10人しかいない部門で考えてたら、10人の会社とおんなじですから、大きな会社っていうのは、その組織を生かしていかないといけないわけだから、当然その横の連携っていうのはやっていただかないと、うまく技術が生かせないっていうことになると思いますね。

●どこになんの技術があるか、大企業ほど共有されていない?

共有されていないんです。
だけど、それは言うほど簡単ではなくて、やっぱりやり方のポイントですとか、グループでディスカッション、いろんな人を集めてっていうこともやってましたけども、これもやっぱりやり方があって、うまくやることをまず勉強して、そこに取り組んでいくっていうことが、重要だと思いますね。

●アメリカなどでは大企業の技術をどう育てている?

アメリカのケースですと、やっぱりリスクがあると、自分でまずこれを最初からやるっていうのは難しいと考えると、よくスピンアウト、ベンチャーでやってもらうと。
ライセンスするか、自分の従業員が外へ行ってベンチャーを作るか、あるいはそこにも資本を入れて。
うまくいくと、今度は買い戻したりしますね。
これ、実はですね、その元の会社の企業風土と違うところで技術が育ったりするので、元の会社が自分たちができないことができるというようなことを実践している会社、これは結構、欧米なんかには多いですね。

技術の埋没を防げ 資金支援の取り組み

千葉市内にある銀行です。
この銀行では、今年度から新たな融資制度を始めました。
不動産などの担保がないために融資を受けられない中小企業が多い中、技術力の証しである知的財産に注目した制度です。


今、営業の山田崇さんが融資先として考えている会社があります。
山田さんが足しげく通っているのが、社員17人のリサイクル工場です。



三立機械工業会長 中根昭さん
「今いちばん評価されているものですね。」




この会社では、家庭やオフィスなどから廃棄されたケーブルを回収。
これらを細かく粉砕し、銅だけを分別する画期的な技術を独自に開発し、特許を取得しています。


千葉銀行 中央支店 山田崇さん
「すばらしい、すごいですね、やっぱり。
単純にこのゴミの山が。」

三立機械工業会長 中根昭さん
「ゴミじゃないよ、金属資源だからね。」

千葉銀行 中央支店 山田崇さん
「廃電線が、また資源としてよみがえる。」

経営者の中根昭さんは今、自分が開発した技術を使ってアジア各国で新たな市場を作りたいと考えています。
ところが国ごとの特許を取るだけでも1,000万円近くの資金がかかることが分かり、その調達が壁となっていました。


三立機械工業会長 中根昭さん
「国際的な、目指した国の特許申請であったり、マーケットの調査費用であったりとか、そういうのも入れると結構膨らむんですね。」


このままではせっかくの技術が埋没してしまうかもしれない。
相談を受けた山田さんは、新たな融資制度を持ちかけました。

千葉銀行 中央支店 山田崇さん
「今度、うちの銀行で新しく制度をつくりまして。」




今回の制度では、調査会社に依頼し、企業の技術力の証しである特許などの知的財産を客観的に評価。
企業の財務諸表には表れない知財や技術力を可視化して、それを判断材料に融資します。
評価の結果、中根さんの会社は高い技術力が証明され、無担保での融資が決まりました。
海外市場を切り開く第一歩です。

三立機械工業会長 中根昭さん
「金融機関にいろんな意味で資金的なバックアップしてくれるっていう、技術会社の一員としては本当にうれしいですよね。」

千葉銀行 中央支店 山田崇さん
「やっぱりこういう技術力のある会社がもっともっと伸びていただく。
そのために何かお手伝いしたいと常に思ってます。」

新市場 創出のカギは“埋没技術”にあり

●技術力のある中小企業が世界に羽ばたく仕組みについて

本当に今の例にありましたけれども、やっぱり日本の中小企業って技術力はあるんだと思うんですね。
今まで下請けでずっとやってきましたから、それが外に見えることがなかった。
もしかすると自分たちも強みを把握してなかったみたいなところもあって、だけどそこに注目すると、実はこういうところにも使えて、輸出もできるみたいなことが、だんだん分かってくるっていう事例が少しずつ出始めていると思いますし、一方で金融機関も、今までは金融の支援っていうのは、バランスシート、キャッシュフローを見て、このままだと売り上げが下がっていくよということで、預金通帳だけの支援だったわけですけども、でもやっぱり、これ下請けではやっていけなくなりましたから、会社の数が少なくなってますから、これをなんとかしないといけないということを考えたときに、その技術に着目する。
これはいろんなことがまだ可能性があるし、それこそ第二の創業みたいなことにもつなげられる可能性があるということで、少しいろんな試みが出てきたということではないかなと思いますね。

●大きくなる技術が中小企業の中で生まれると、日本の活力にもつながる?

技術があって、これがこういう事業になるというようなことが分かったときに、やっぱりお金が必要ですよね。
これ、大企業も同じなんですけど、お金があって、それを投資して、製造設備を作ったりということが必要です。
もともと発明と金融って、昔は一体だったと思うんですね。
この技術があるからお金を貸してくれたと。
それはやっぱり金融機関が、実はそれを高度経済成長とかのときにあまり見なくなってた。
それが原点に戻って、技術や知財を評価して、そこにお金を回すということが大切だと思いますね。

●埋没技術、どんな視点を大切にして生かす?

それはやっぱり、今まで技術を生かす、生かすって、技術だけ見てるとですね、やっぱりだめなんですよね。
それはやっぱり、どういう事業を作るか、事業の視点で見る。
あるいは3Dプリンターがアメリカでやったのは、どういう社会を作るっていう、社会の変革の視点で見ていくと。
やっぱりそういう視点の転換を大企業も中小企業も、自分たちの持っている経営資源だけじゃなくて、いろんな人たちの力を借りてやっていくというのがポイントだと思いますね。
(技術だけではだめ、事業のビジョン・戦略が重要?)
技術で勝って事業で負けるっていうのが、もう繰り返してはならないということだと思います。

あわせて読みたい

PVランキング

注目のトピックス