クローズアップ現代

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No.36162015年2月16日(月)放送
自虐?反骨?川柳で今を笑う

自虐?反骨?川柳で今を笑う

女子会もアルバイトも 広がる川柳人気

若い女性の共感を集めているのは、女子会川柳です。

“片付かない デスクの上も 人生も”



女性
「デスクの上も汚いし、人生も片づかない。」

職場でのストレスや恋愛の悩みなど、働く女子の心をぎゅっとつかんでいます。

女性
「自分と同じことを思っている人がいることに対して、ほっとする。」

女性
「共感できますね。
思いつくところがいっぱいある、自分の仕事の中で。」

女性
「“あるある”ですね。」

老いを笑う 川柳の“自虐パワー”

今、川柳は社会の多様化に合わせるように広がっています。
働く女性に向けた「女子会川柳」に、パートなど非正規労働者の「アルバイト川柳」。
中でも急拡大しているのが、シルバー世代の川柳です。


福井市内で活動する高齢者の同好会では、月に一度、自作の川柳を披露する句会を開いています。

男性
「“会ってすぐ じゃあまた来るねと 帰る孫”。」

女性
「いいね、いいね。」

男性
「お金を渡さなきゃ(孫は帰らずに)、ずっといるんじゃないですか。」

男性
「“耳遠く トーク弾まず 妻遠く”。」

皆この1、2年の間に川柳を始めた初心者ですが、その魅力にどっぷりつかっています。

女性
「今で422(句)、そんなに長くやっていないですけど。
気持ちも明るくなった。
にこにこできるようになった。」

女性
「皆さんのをよむと『そうそう、そうだよ』って、この『そうそう』に魅力を感じるんですよ。」

還暦川柳コンテストには、過去最高5,000通もの応募が殺到しました。
入賞した川柳は、みずからの老いを、明るく自虐的に笑う作品が多いのが特徴です。
例えば、こんな感じ。

『老いの日々』

「もう十分長生きしたよな?
母さん。」

「そうですね。
もういつお迎えが来てもいいですね。」

「おい、時間だよ。」

「ああ。」

“長生きは したくないねと ジム通い”





『体の衰え』

“歯をなくし 蕎麦(そば)の食い方 粋になり”




『我が子へ』

「分かったよ。
じゃあ今週中に振り込むからね。」

「なんだ周平か?」

「ええ、なんだかまたお金が必要みたいで。」

「ええ?」

“返さない やっぱり息子 オレオレだ”





なぜ今、多くの高齢者がみずからの老いを川柳に詠んでいるのか。
コンテストに毎年応募しているという富田満さん、67歳です。
これまでに30句以上を投稿し、4年前、最優秀賞を受賞しました。


富田満さん(67)
「“おーいお茶 叫んで自分で いれにいく”という句ですね。」

かつて商社マンとして仕事に明け暮れていた富田さん。
定年後は暇を持て余すようになりました。
楽しみは孫に会うことぐらい。
そんなときに出会ったのが、川柳のコンテストでした。

富田満さん(67)
「“あれとそれ 代名詞の意味 分かる夜”。
あまりよくないか?」

毎回変わる川柳のお題に、自分を試す目標ができたといいます。
それでは自信作が生まれた情景を、みずから演じたドラマと共に一句。

富田満さん(67)
「あれ?どこにいったんだろうなぁ。
おーい、おーい。」

「どうしたの?」

富田満さん(67)
「ここに置いてあった書類、どこやった?」

「あなた、この間しまったじゃないですか。」

富田満さん(67)
「えー?そうだっけ?
どこにしまったっけな?」

“大事なら しまうな二度と 出てこない”





富田満さん(67)
「時間がありましたんでね、いろいろ作っていて。
心の中のオアシスというか、川柳を詠むことでほっとする。」



老いを自虐的に笑う川柳が広がる現象を、笑いのプロはどう見ているのでしょうか。
落語家・桂文珍さんは、みずからを笑う行為こそ、笑いの歴史の中でも奥深いものだと指摘します。



落語家 桂文珍さん
「縦の権力者が、権力のない者に向かって(上から目線で)嘲笑する時代があったんです。
自嘲っていう、自ら“自笑(じしょう)”するのは、自分自身を横に置いているんですね。
『俺っておかしいよな』と思いながら発信をすると、その仲間たちが『そうそう』『あるある』『面白い』って、あるあるネタで喜んでもらえるっていう、いわば“横の笑い”なんですけれど。
縦よりも横のほうが笑いのボリュームが大きいんですね。」

一方、シルバー川柳のもう1つの特徴は、作り手の多くが男性で、しかも妻のことを詠った句が多いことです。
福島県いわき市に暮らす豊口卓さん、72歳です。



妻 初子さん
「何、食べてるの?」

母親
「さつまいも。」

妻の初子さんと義理の母親の3人で暮らしています。
かつて豊口さんは、建設会社の現場監督として21年間も単身赴任。
子育てなど、家のことは初子さんに任せっきりでした。

妻 初子さん
「ふだんは面と向かって会話することない。」

しかし定年後、川柳を始めたのをきっかけに、遠かった夫婦の距離がちょっと変わりだしたようで…。

“女房に 介護はさせぬと 筋トレす”



「奥さんの句が多いですね。」

豊口卓さん(72)
「言われてみると、初めて気が付いた。
12のうち9つもあった。」


気が付くと、面と向かっては言えないことばも川柳でなら表現できるようになっていました。
この日、豊口さんは初めて、初子さんに川柳を披露しました。



豊口卓さん(72)
「“ボケたふり してでも妻を そばに置く”。」

川柳をてこにして、やっと気持ちを伝えられた豊口さん。

豊口卓さん(72)
「俺は(妻が)大変だと思ってるよ。
思ってた。」

妻 初子さん
「ごめん。
お父さん、そんなこと言ったことないからさ。
思ってても言わないじゃん。」

豊口卓さん(72)
「言わない言わない。」

共感なぜ広がる? 現代川柳ブーム

ゲスト山藤章二さん(イラストレーター)

●豊口さん、気が付けば妻のことをいくつも詠んでいたが?

今の映像をずっと見てると、私の家をのぞかれているような、ということは平均的な老夫婦の過ごし方の日常の場面がたくさん出てきますね。
その中で、一番最後の傑出しているなと思ったのは、“ボケたふり してでも妻を そばに置く”ということによって、奥さんに対する愛情、感謝、やっぱり旧世代の日本男児は口下手ですから、まともに言えないことを、川柳という形を借りてさりげなく言ったんで、これ、普通の笑い飛ばす川柳とちょっとニュアンスが違いますね。
初めてですね、こういう川柳で。
つまり長年の感謝の気持ちを、この形を借りると照れずに言えるということは、僕、ここで今映像で拝見しててね、ああそうか、これもありだなと思って。
今まで川柳っていうと、おおむね力のある人、上に立つ人に対する反抗というか、レジスタンスというかね、逆らう行為でやや攻撃的な感じだったんですけど、これはもっとしみじみしていましたでしょ。
だから、ああ、川柳も様変わりしたり、あるいは個人差によってね、からかう、なんか、そういうだけの機能じゃなくなって、おもしろい方向に広がってるなという感じがしますよね。

●以前と今の川柳の違いは?

15~20年ぐらい、かなり長い間、サラリーマンという大枠でくくった句が何万と集まる。
それの選者をやってましたので、当時はわりと、例えば旦那さんが奥さんを呼ぶ、お前、お尻上げてなかなかソファから動かないとかね、それから必ず、寝る前に小言を言われるだとかね、妻という立場がパターン化してたんですよ、わりと。
奥さんの悪口を言うことによって、みんなの共感を得やすいんですよね。
ですから、出迎えてくれるのはポチしかいないとかね、状況が大体ワンパターンだから、数だけはたくさん見ましたけどね、さほど突出して自分のユニークな世界を切り開くというのは少なかったんですけど、むしろここへきて、いろんな階層、空間を持った人たち、非正規社員だとか、ネット族だとか、あるいは女子会とかね、限定された共通認識を持った空間で川柳を競ってるでしょ。
そのほうが句のエッジが効いてるといいますかね、切っ先がとがってますね。

●優れた川柳とは?

みんなに分からせる、会場の8割方が、わーっていうような広める役目もあるし、それから、100人のうちの3人ぐらいしか、くすっと笑ってくれないんだけど、そいつは分かるやつで、ツーカーで通じる、あいつを笑わせてやろうというような狙い撃ちする場合もあるんですね。
だからわりとね、とんがらせながら、鉛筆でいうと6Hぐらいをうんととがらせる書き方もあるし、4Bぐらいのを丸くして柔らかな筆致を出す描写もあるんですよね。
今、ここにきての変化はね、それこそ同じ仲間、狭い仲間の中で、通じ合うようなエッジの効いた、とんがった方向がこれから来つつあるんじゃないですか。
(分かる人には分かるが、分からない人には分からない?)
そう。
川柳のおもしろさの1つの意地悪な面だけども、1つの魅力はね、周りに分からず屋さんがいてくれる、ことですね。
例えばちょっとした寄り合いで10人ぐらい集まると、そのうち2人か3人、お互いに同じような周波数を持ってて、ユーモアセンスを持ってると、くすっと反応してくれるのはその2、3人でいいんですよ。
あとは、わりと分からないで、なんのこと言ってるの?とか、俺しらねえぞとかいうような人が周りにいたほうが、選ばれた2、3人どうしで笑えるという優越感が醸し出されるんですね。
だからそれを昔の人は「粋」と称したんですけどね、知る人ぞ知るの美意識、それが粋なんですよね。

奥深い川柳 庶民の暮らしと“反骨”

川柳が誕生したのは今からおよそ250年前、江戸時代の浅草です。
与えられた課題に対して五七五の句を考える文芸が大流行。
風景などを詠む俳句に対して、川柳は暮らしの中の人情を表現する、身近なものとして人気を集めました。

選者だったのが柄井川柳。
後に川柳と呼ばれる由来となった人物です。




川柳学会 専務理事 尾藤一泉さん
「狭い江戸という大都市の中で人間を見つめて作った、そういう詩だったからこそ、人生の機微、そういったものが描かれてきたんだろう。」


川柳が別の力を見せたのが、日本が戦争へと向かった時代です。
戦争賛美一色の風潮の中、権力を笑いにくるんで皮肉る「反戦川柳」が数多く作られました。



“タマ除(よ)けを 産めよ殖やせよ 勲章をやろう”





文芸評論家の楜沢健さんは、反権力の性格を帯びたことで川柳は一層、大衆の支持を集めたと見ています。




文芸評論家 楜沢健さん
「批判や不満を、正直に言ってはならないことを言ってしまうというのは許されない。
許されないからこそ、川柳というのは草の根的にものすごい広がりと大衆性を持っていた。」


戦後は競争社会の激化とともに自虐的な川柳が生まれてきます。
80年代後半、脚光を浴びたのが「サラリーマン川柳」です。

“このオレに あたたかいのは 便座だけ”

その10年後に出現したのが「OL川柳」です。
女性の社会進出が広がり、職場の不満や将来の不安を川柳に託すようになります。

“『付(つ)き合って』 残業以外で 言われたい”

派遣切りということばが生まれた2000年代後半には、「ワーキングプア川柳」が。

“すべり台 急降下して 寝る路上”

さらに「婚活川柳」「ブラック企業川柳」など、ますます細分化が進んでいます。
日本人の働き方や価値観が多様化したことで、1つのジャンルの川柳だけでは多くの不満を受け止められなくなったのです。

文芸評論家 楜沢健さん
「結局、受け入れたくないことがたくさん出てきて、吐き出したくてしょうがないことがたくさん社会の中に充満した。」

しかし、スマホやネットを使えば誰とでもつながれる時代。
なぜ、川柳を通して同じ思いを共有したいと考える人が多いのでしょうか。
長年笑いのメカニズムを研究してきた関西大学の森下教授は、川柳の笑いこそが人をつなぐ大きな力になっていると指摘します。

関西大学教授 森下伸也さん
「笑いを共有する喜びはとても強いと思います。
笑いそのものがすごい喜びなので。
共有する喜び×笑いの喜びで、喜びの2乗みたいなね。
川柳という形にすると、みんながそれを共有できる。
日々のつらさやそれが抱えている滑稽さ、愉快さを共有できる。
共感が広がりつつ、ハッピーな状態を共有できる。」

共感なぜ広がる? 現代川柳ブーム

●川柳は笑いを共有しながら、人間臭さがにじみ出るものだと感じるが?

独特の制度のクオリティーの高さっていうのは、江戸時代に鎖国時代がありましたでしょ、外国から情報も娯楽も何も入らないときに、手近にある遊び道具っていうのは「ことば」なんですよね。
あの時代によって、ずいぶん、狂歌、落首、川柳、俳句、すべて、そういうことばに対するこだわり方、情熱の込め方によって、非常に優れたもの、二流も三流も含めて庶民が大変な数の参加をしましたね。
これは世界の大衆参加、言語文化を見てね、ないと思います。
たった十七の音の中に万感を込めるわけでしょ、それでみんなに受ける、これ、受けなきゃどうしようもないですからね。
俳句のほうは、受けなくても言い放しでいいところもあるわけですが、川柳に関しては受けなきゃなんないという高度なテクニックが必要ですね。
とんちとテクニックがね。

●非常に高度だが、たかが川柳と思われているところもある?

思われてます、そこが大事なところでね、高度で怖い武器だぞと言いながらね、文化的地位は決して高くならないんですよ。
喜怒哀楽という感情の4つのまとめ方ありますけど、笑いって入らないんですよね。
笑いというものはちょっと、らち外という、上の見方はそうなんですよね。
そうするとね、俺たち仲間に、4つの仲間に入れないじゃないかというのが逆にエネルギーとなって、それじゃもうひとひねりしてやろうという、笑いに奉仕するのが好きな人はちょっとメンタルがちょっとひねくれておりましてね。
それがパワーなんです。
(参加する人が増えてくると、今後おもしろくなるのでは?)
そうですね。
わりと自分の性格やら、生い立ちをわざとさらしちゃう文化でもありますからね。

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