クローズアップ現代

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No.36102015年2月3日(火)放送
相次ぐ“バックカントリー”事故

相次ぐ“バックカントリー”事故

バックカントリー ブームの陰で事故多発

日本最大級のスキーリゾート、長野県・白馬です。
週末の日曜日、山頂のリフトを降りた人々が、ゲレンデに背を向けて次々と森の中に消えていきます。



森の入り口には、警告の文字と共に「スキー場管理区域外」と書かれた看板が。




彼らが目指すのは、バックカントリーと呼ばれる、スキー場の外側に広がる手付かずの自然のエリア。
圧雪されていない柔らかいパウダースノーを滑り、独特の浮遊感を味わうのがバックカントリーの魅力だといいます。

女性
「自然の地形を滑れるというところと、景色のよさ。
もう本当に格別なので。」

男性
「もうやめられない。」

過熱するバックカントリーブーム。
しかしそこは、ひとたび事故が起これば命の危険がある冬山です。
去年(2014年)、白馬・乗鞍岳のバックカントリーで雪崩に遭った男性がいます。
長年、バックカントリーを滑ってきた大南隆平さん、47歳です。

大南隆平さん
「事故が起きたのはこの斜面です。」




まっさらな斜面を、1人で滑り始めたときのことでした。
突然、斜面に亀裂が走ったと思ったとたん、たちまち大きく崩れ、大量の雪と共に数百メートルにわたって流されました。



もし体が埋まってしまえば、数トンもの雪の重さで身動きが取れなくなり、窒息する危険も高まります。
大南さんは雪崩に流されながら必死に横へと逃れ、九死に一生を得ました。


大南隆平さん
「本当に死を覚悟しました。
流されている時間がものすごく長かった。
雪の塊に押しつぶされて、途中、息もできないことも正直あって、今でもそういう斜面を滑ると後ろからくるんじゃないか、ちょっと怖いのが正直ありますね。」

バックカントリー “大衆化”の時代

危険と隣り合わせのバックカントリーが広がった背景には、何があるのか。
相次ぐ事故が中高年に集中していることから、スノーボーダーの高齢化が指摘されています。

90年代、若者のスポーツとして日本に入ってきたスノーボード。
当時の若者が中年になり、体力の衰えとともに、新たな楽しみとしてバックカントリーに向かったというのです。



スノーボード専門店 佐原貴彦さん
「35から45歳前後ぐらいにスノーボードバブルの人たちがいるわけで、いい道具で満足のいく1本を滑りたいというのが背景にある。」


スキーやスノーボード人口が最盛期の半分以下にまで減少する中、メーカーもこの新しい市場にこぞって参入しました。




スノーボード専門店 佐原貴彦さん
「この辺が全部バックカントリー用というか、パウダースノーや新雪を滑るための板です。」

さらに技術革新で、高い技能が必要だった新雪の滑走が容易になります。

スキーメーカー 小賀坂道邦社長
「長い、幅の広いスキー、これがいわゆるバックカントリー用のスキー。」

この老舗メーカーでは、新雪でも沈まないように従来の2倍の幅を持つバックカントリー専用の板を開発しました。

スキーメーカー 小賀坂道邦社長
「これはもう開発競争ですよね、まさに。
メーカーの努力があるから、今のようにある程度の広がりが出てきている。」

危険と隣り合わせ バックカントリー

かつて自然の山を滑る行為は山スキーと呼ばれ、登山に精通したエキスパートだけの楽しみでした。
冬山のプロがバックカントリーを滑るために最低限必要だという装備があります。


雪崩に巻き込まれた人を見つけるための発信器。





埋まった人を捜し当てる金属の棒。





そしてスコップの3つです。
しかし実際には、装備を持たず軽い気持ちでバックカントリーに入る人が後を絶ちません。

「ここなら大丈夫。」

「奥に行かなければいいかな。」

「(装備が)あると邪魔なのでとってきました。」

ブームの陰で、冬山のリスクを軽視する風潮が生まれていることを危惧する声も出ています。

白馬村山岳遭難防止対策協議会 松本正信隊長
「スキー場外の自然の雪の上を滑りたいと。
やっぱりその裏にはリスクがあるんですね。
その辺の考えが甘いんじゃないかと思います。」

バックカントリー 観光と安全 どう両立

一方、日本の雪は貴重な観光資源でもあります。
白馬村には、ひと冬に5万人以上の外国人観光客が訪れます。
お目当ては、上質なパウダースノーです。



外国人観光客
「ジャパンとパウダースノーでジャパウさ!」




外国人観光客の急増は、白馬の名前を世界に広めたある出来事がきっかけでした。
その舞台となったのもバックカントリー。
世界最高のスノーボーダーといわれるスターが映像を通して白馬の雪質を世界に発信したのです。

白馬は一気に世界ブランドになり、外国人観光客は40%増加しました。

外国人観光客
「またここに食べにきたわ。」

海外からもバックカントリー目当ての客が押し寄せる中、スキー場の外の安全は悩ましい課題になっています。

スキー場パトロール隊 丸山直樹総隊長
「安全啓発ぐらいしかできませんので、こういう装備を持ってくださいとか、しっかり準備して天候を見て(判断して)くださいという啓発しかできないのが実情。」

バックカントリー ブームの陰で事故多発

ゲスト三浦豪太さん(プロスキーヤー)

●バックカントリーの楽しさとは?

特に日本は世界有数の、本当に雪国ですね。
バックカントリーの魅力っていうのは僕の父親も言っていたんですけれども、雪って水の固まりだと思うんですけど、あれ、90%から95%空気なんですよね。
父親が言ったのは、あれは雲が積もって下にあるんだと。
だから雪で遊ぶということは雲で遊ぶのと同じなんだと。
なのでパウダーをすべるということはまさに雲と戯れているようなそんな浮遊感を楽しめるスポーツじゃないかなと思います。

●リスクを十分に考えず入っていく人たちの気持ちはどう分析する?

よく分かりますね。
ただ、雪山っていうのは、もちろんスキー場の中も自然の中の環境なんですけれども、そこ以外のところっていうのは本当に大自然。
動物園と、それからサファリパークの違いぐらいあるんじゃないかなと思っていいと思います。
なので、管理されたところと管理外に行くときは最低限の知識と技術、そして道具が必要ですね。

●新雪の怖さ どういうことが起きる?

僕もジャンプを飛んで頭から刺さったことがあるんですよね。
ちょうど1メートルぐらいの新雪だったんですけど、本当に頭から50センチくらい埋まって。
ただ、50センチ埋まっただけでも、全く息ができない真っ暗闇、声を出しても誰も聞こえない。
こんなに怖いものなのかと思って。
そのときは練習だったので、周りに人がいて掘り起こしてもらったんですけれども。
(身動きができない?)
全然動かないですね。
50センチといったら、たかがこれぐらいなんですけれども、この中に体が両腕ごと入ったら腕も動かない。
先ほど95%空気って言ったんですけど、ここから呼吸をしようとしても全く無理なんですよね。
吐く息で周りがとけてしまって、ちょうどそれが薄い膜になって、それ以上息ができない。
なので最初は鉄則としてはエアポケットを作るっていうんですけれども、それすらも難しい状況でしたね。

●装備の大切さについて

先ほどのVTRでもあったとおり、こちらがビーコンと呼ばれているものですね。
電波を発信して自分の位置が分かる。
あるいは受信モードにもなって、埋まった人の電波を拾うことができるんですね。
もし例えば、仮に僕が埋まったとして、これを体に身につけてます。
で、電波を発しています。

誰かが見つけるんですけれども、そのときにはピンポイントでは分からないので、こういったプローブ(折り畳み式の棒)と呼ばれているものですね。
鉄の棒で、ピンポイントで自分がどこにいるか。


見つかったら今度はこれを刺したままにしておいて、シャベルですね。
シャベルで掘り起こしてということを行いますね。
(時間との競争?)
通常、脳に5分間酸素がいかなかったら深刻な脳へのダメージがあるといわれているので、一応、日本の中では15分間がリミットとされていますね。

●ご自身はバックカントリーに行くとき、どういうことをする?

今ご覧になって分かるとおり、これはすべて対処方法なんですよね。
なので、本来だったら滑っている人をちゃんと安全の確認をしたあとに、もう1人が滑っていくということを徹底しなきゃいけないんですけれども、1人で行く、あるいは同時に滑るっていうことはこれは論外で、これら(装備)も役に立たない。
あるいは、これを持ってるから山に行けるパスポートと思ったら大間違いですね。
なので僕は、地元のガイド、あるいはスキーパトロールといった方によく地形と、そしてその近くの天気、パターン、積雪量をよく把握している人と一緒に行く、あるいはそういった情報を得たうえで滑るように気をつけています。

バックカントリー 事故はなくせるか

北海道南部、国内有数のスキーリゾート、ニセコアンヌプリ山です。
その魅力はパウダースノーをも超える軽さの「シャンパンスノー」。

オーストラリア女性
「ニセコは日本で一番有名なスキー場です。」

毎朝10時。
リフトのさらに上を目指す、スキーヤーの大行列が現れます。
新雪を求め、1日2,000人がバックカントリーへ出て行くのです。
しかしこの15年間、リフトを利用したスキーヤーによる雪崩死亡事故は起きていません。
なぜ事故を防ぐことができているのか。
それはニセコルールと呼ばれる取り組みにあります。

かつてニセコではバックカントリーに出て行くことは全面的に禁止されていました。
しかし境界を越えて出て行く人は後を絶たず、雪崩事故が頻発。
1985年から99年までに8人が亡くなっています。


そこで2001年。
町とスキー場は、特に危険な斜面を除き、バックカントリーでの滑走を自己責任のもと認めることにしました。
ただしゲレンデとの境界には10か所のゲートを設けました。
出て行くときには必ずゲートを通る決まりとしたのです。

そして悪天候や雪崩の危険が高いときにはゲートを閉め、事故を未然に防いできました。

女性
「自分たちだけだったら、うっかり(危険な所に)行ってしまうかもしれない。
(ゲート開閉で)助けてもらっている。」

ニセコルールの制定に中心となって関わった登山家の新谷暁生さんです。
豊富な経験を生かして、ゲートの管理をスキー場のスタッフと共に行っています。
毎朝5時。
新谷さんは、雪上車で標高800メートルの山頂付近をくまなく見回ります。

登山家 新谷暁生さん
「雪がバリバリ割れるじゃない、これが面発生雪崩(の原因)なんです。
ものすごく危ないコンディション。」

「ちょっと当てただけで亀裂が入ってる。」

この日、山頂では風速20メートルを超える強い風が吹き荒れ、雪も不安定で雪崩が起きやすい状況でした。

スキー場から戻ると、天気図も確認。
悩んだ末、雪崩の危険が高い標高800メートル以上のゲートは閉めることにしました。
一方で、雪が安定していた標高の低いゲートは開放。
日々変わる雪の状況を的確に把握することで、事故を減らす努力を最大限続けているのです。

登山家 新谷暁生さん
「100%の安全って山にはないので、かろうじて事故を起きないようにしている、それの毎日の繰り返しなんです。」

新谷さんはスキー場のスタッフと共に、時間が許すかぎりゲートを出て行くスキーヤーに声をかけています。

登山家 新谷暁生さん
「気をつけて。」

「今日は雪がベタつくので注意を。」

「ひとつの斜面で同時に滑らないように気をつけてください。」

スキーヤーの安全装備をチェックし、注意を促すことが事故を防ぐために大切だと考えているのです。

登山家 新谷暁生さん
「知識も経験もない人たちにすべてコース外の事故を自己責任で済ますというのは、個人的にはそれは誤っていると思っている。
命の責任までは当然負えないけれども、少なくとも事故を起こさないように注意を呼びかけることはやってもいい。」

バックカントリー 事故はなくせるか

●コンディションを見てゲートの開閉を決めるシステム、どう見た?

本当に、新谷さんがこの取り組みをやって十数年たつと思うんですけれども、1人も事故を起こしていない。
その背景には、やはり新谷さんのような知識があって、そして何よりも素晴らしいのは1人1人声をかけているということなんですよね。
(ゲートから出て行く人に?)
やはり、すべてロープで閉まっているってなると、どのロープが一体これは危険なのかっていうことは、なかなか把握しにくい。
でも、新谷さんみたいな人がちゃんとチェックをして、このゲートは安全だよ、その上で直接、声をかける。
一番大事なのは何かって聞いたら、ユーモアだって言ってましたね。
相手の心を開くためには全部だめだではなく、スキーヤー、スノーボーダーの立場になって、ちゃんと話をできているかっていうことが重要だっていうような話をしていたことがあります。
(声をかけながら、さりげなく注意を促す?)
あっちだったら危険、ここの斜面だったら大丈夫。
やはりですね、それぞれの責任的な立場っていうような話があったと思うんですけれども、もちろん、スキーヤーは命を大切にする。
それは自分個人の責任かもしれない。
だからといってスキー場に責任がないかっていったら、リフトでアクセスするときには、ちゃんとそこには、優しさ、そこへ行くためのアクセスした責任っていうものもある程度あると思うんですよね。
それは道具メーカーにも同じく言えることじゃないかなと思います。

●道具も進化している中、講習なども徹底して行う必要がある?

もちろん講習、そしてその使い方っていうこともとても大事です。
取り組みとしては、しっかりやらなきゃいけないと思いますね。
(新谷さんが白馬でも同じことができるかというと?)
いや、新谷さんはニセコだから生きるのであって、白馬は白馬の有識者がちゃんとやるべきじゃないかなと思います。

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