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No.35932014年12月11日(木)放送
“社内発明”どう増やす? ~やる気引き出すルール作り~

“社内発明”どう増やす? ~やる気引き出すルール作り~

社内発明の対価は? 社員と会社の対立

自分が社内で生み出した発明の対価を巡って、かつて会社と争った男性です。
30年前、このラベルライターを発明した元会社員の酒井隆司さんです。
このラベルライターは大ヒット。
会社に巨額の利益をもたらしたと見られます。
一方、酒井さんに対する報奨金は13万円でした。
その後、酒井さんはその対価を不服として会社と裁判で争い、和解金として3,000万円を手にしました。
酒井さんにとって大事だったのは金額の問題だけでなく、発明を評価する会社の姿勢だったといいます。

元大手メーカー研究員 酒井隆司さん
「特許の中でも本当に基本的なものから周辺のもの(まで)、温度差がかなりあるんですね。
俺の発明がこれだけの商品を作った、あるいはライセンスを取ったというのに、こんな周辺の改良発明と同じということになったら、これはモチベーションは下がりますね。」

社内発明を巡る、企業と従業員のトラブル。
1990年代後半からは会社を辞めた従業員が発明の対価を求めて裁判を起こし、多額の報奨金を認める判決や和解で決着するケースが相次ぎました。



そうした結果を踏まえ、国は2004年に特許法を改正。
企業に対し、社内発明の対価の支払い方を定めるように規定しました。




発明した従業員に会社が対価を支払う仕組みです。
多くの場合、従業員が発明した際、会社はその発明を特許にする権利を譲り受け、従業員に譲渡対価を与えます。




その後、特許を取得した会社はその技術を使った商品の売り上げに応じて、従業員に利益の一部実績報奨を支払い続けることが慣例となっています。
現在の特許法では、この実績報奨をどう支払うか、会社があらかじめ定めることを求めているのです。

社内発明 難しい評価

2004年の特許法の改正以降、実績報奨を正しく算定する必要に迫られた企業。
訴訟の数は減ったものの、その算定を巡ってさまざまな課題が持ち上がっています。
この大手印刷メーカーでは専門のチームを設置。
毎年およそ70人が4か月を費やし、社員に支払う実績報奨を審査しています。

「今の判断項目ってすごくアバウトで、分かりづらいですよね。」

まず行うのは特許の審査です。
例えば、この会社が製造しているICカードの場合、含まれる特許はおよそ500件に及びます。
売り上げに貢献したのはどこの部品のどの特許か。
貢献度に応じて、利益の割合を定めなければなりません。
こうした特許の審査は年間1万4,000件にも及びます。

凸版印刷 法務本部本部長 萩原恒昭さん
「企業にとって、ものすごく負担です。
本来はそういう(査定の)時間を、特許を取得するとか、特許を生かしていくのに回したいわけですけれども、それができない。
万が一、訴訟が起こると非常に大変なことになりますので。」

さらに、発明の対価は支払い方によって、かえって社員に不公平感を抱かせることもあるといいます。
代表的な例が、製薬業界です。

新薬が製品化されるまでには、最初の基礎研究から動物実験などでの開発研究、さらに人での臨床試験など長い工程があります。
この過程に加わる社員は薬の種類によって数十人から数百人ともいわれています。
ところが、新薬の発明者として対価を受け取れるのは、最初の基礎研究に携わった数人の研究員に限られているのです。
弁理士として、さまざまな企業に知的財産の取り扱いをアドバイスしている澤井敬史さんです。
澤井さんは、誰の発明にするのか、貢献度をどうはかるのか、正確な評価の基準作りにはどこの企業も苦労しているといいます。

知的財産戦略研究所理事長 澤井敬史さん
「組織を構成する人は、いっぱいいるわけですよね。
その人たちの間での公平感とやる気がきちんと担保されないと、たぶん働く人は働きたくないと思うだろうから、そういう意味では、企業で働く人たちの公平感をどう工夫していくかはすごく大事。」

社内発明 どうする発明ルール

ゲスト渡部俊也さん(東京大学政策ビジョン研究センター教授)

●発明対価、従業員としては非常に公平な仕組み?

そうですね。
私もかつて会社に勤めていましたので、実は20年前の特許の報奨金を今でも頂いています。
1件1件、計算していただいて、それを見ると大変ありがたいと思う一方、なかなかやっぱり大変だという面はありますね。

●公平なシステムをなぜ今、改めて議論しようとしている?

やはり今の制度というのは、特許1件1件を、対価を計算するという考え方ですから、今の特許の使い方、あるいは特許の生み出し方というのは、ものすごく組織的に、組織として何人もの方々が関わって、そして発明をする人だけじゃなくて、いろんな人が関わって特許を生み出していく。
そしてその使い方も、必ずその特許を取ったら事業になるというようなものではなくて、いろんな使い方をするようになりました。
(1つの製品にかかった特許の数、かつてはどれぐらいだった?)
これは、特許制度自身はもう500年前からある制度ですけども、それこそ数十年前までは、せいぜい1つの製品に対して1件、あるいは多くても5件ぐらいというようなことだったと思うんですね。
それが今では、先ほど500件というのがありましたけど、IT分野ですと、1つのシステムでも何万件という、そういうような特許が必要ということになってきてますので、そういうものを前提とした制度ということでは、なかなかなくなってきてるんじゃないかなというふうには思いますね。

●特許など、企業が持っている知的財産の使い方も変わってきた?

そうですね、大きく変わってきていまして、ここ10年、20年、特に欧米企業の使い方は、わざわざ特許を出しといてそれを無料で使ってもらうとかですね、そういうことをやって市場を広げて、でも一方では自分だけしか使わない部分を作ると。
これはオープン&クローズ戦略なんて言いますけど、そういうような複雑な使い方をするようになりました。
営業秘密も最近は重視されてますよね。
わざわざ発明になるものであっても、特許になるものであっても、それを秘匿しておくというような多様な使い方をするわけですから、そういうものが特許1件1件が、全然違う使われ方をするということが、前提になっているということでもないわけですね、今の制度というのはね。
(特許を取ってもらえない技術を開発した人には、その対価が払われなくなる?)
計算すると、損してますってことになっちゃうかもしれませんね。
だけど企業にとっては、やはりそれもやっぱり重要な、会社全体としては重要な貢献ですから、同じように表彰したい、報奨したいと考えるかもしれません。
そういう時に全体としていろんなやり方で、報奨ができるようにしておこうということであれば、やっぱり今の見直しの議論が始まるのは無理もないことかなと思いますね。

●見直しの議論の内容について

報奨というのが、これは辞書の表現でいうと、努力に報い、さらに励ますというのが報奨の意味だということになってます。
企業はまさしく、今、制度があるからじゃなくて、すばらしい研究開発をして、発明をしてくれる人の努力に報い励ましたいというのが、根本的に今、企業が考えるべきことだし企業が考えてることですから、それにならったような形の報奨ということが1つだと思いますが、ただ議論になってるのは、これ、切り下げにやっぱりなるんじゃないかと。
(経済的リターンの?)
そういうことが、やはり議論になりました。
結果的に、やっぱりそれは当然、経済的に利益を切り下げてしまうということですと、インセンティブを重視したという形にはなりませんので、そこはもう切り下げをしないことを前提として、それをガイドラインで規定して、それを法律でしっかり守ってもらうようにするという形で、現在は落ち着いたというふうに聞いてます。

●個人に権利がなくなっても、本当にその従業員が納得できる仕組みになる?

そこは今、お話したガイドライン、これをどういうふうに作っていくかっていうことが重要だと思います。
少し細かく考えないといけない部分がありますので、業種によってもだいぶ状況は違うと思いますし、いろんな会社の事情も考えて、かつ、かといってあまり細かくなりすぎてもやりにくくなってしまうと、これはちょっとガイドラインで工夫をしていく必要があるかと思います。

社内発明の評価 やる気高める工夫

富山県内にある大手ファスナーメーカーです。
この会社では独自の報奨制度を定め、従業員を公平に評価しようと試みています。

YKK商品開発部 山﨑誠さん
「これが今回技術表彰を受けた、自動車シート用のファスナーです。」




通常のファスナーと異なり、ラインが外から見えにくい新技術のファスナー。
2年前に開発されました。
紹介してくれた山﨑さんは、新しいファスナーの発明者ではありません。
しかし、営業も担当していた山﨑さんは、取り引き企業からの見えないファスナーを作ってほしいというニーズをつかんだことで、発明者と同じように社内での報奨を受けました。

この会社では、発明者への対価以外に、その製品を製造した技術部門や販売した営業部門にも報奨金を支払う制度を設けているのです。




YKK商品開発部 山﨑誠さん
「賞状ももらいました、うれしかったですね。
やっぱり自分たちのやってきたことが認められたという満足感がありました。」


さらにこの会社では、特許だけでなく、製品開発に関わるノウハウや公には出せない新技術なども公平に評価しています。
実は、この会社で生み出される発明のうち、特許を申請せずに秘匿しているものが2割から4割にも及びます。
会社ではこうした発明も社内認定特許としてその価値を認め、特許と同じように会社独自の基準で評価する仕組みを取り入れています。

YKK法務・知的財産部 細川健人さん
「新しい開発のモチベーションを持ってもらう、一人ひとりが開発者になり、工夫改善するスタッフになってもらいたいというところを目的にしていますので、特許の報奨だけに限らず、広くいろんな形で成果を評価していけるような仕組みが大事。」


社員に不満を抱かせることなくモチベーションを高める秘けつ。
その基本となるのが、社員一人一人をしっかり見つめる経営者や管理職の視線です。
都内で顕微鏡や測定装置などの開発を行う精密機器メーカーです。
社員の数は70人。
その半数近くが特許出願の経験があり、会社は150を超える特許を持っています。

勤続8年の富田和江さんも、特許出願の経験がある1人です。
富田さんが発明をしたのは、アルバイトとして材料に穴を開ける作業をしていた時。
毎日使っている工作機械の使いにくさが気になったといいます。


三鷹光器開発部 富田和江さん
「このベルトの回転数を間違えて(穴を)抜いてしまうと、結局穴の形が変わってしまって使えなくなってしまうんですね。」



富田さんは、ベルトの位置が見えるように、中が見えづらいふたの部分を透明にするアイデアを提案。
会社はそれを特許として出願しましたが、直接売り上げには結び付きませんでした。
しかし、社長の中村さんは発明の報奨として富田さんをアルバイトから正社員にし、製造ラインから開発部署に異動させました。

三鷹光器開発部 富田和江さん
「うれしいです。
正社員になるってことは、また違うものに挑戦をさせてくれるっていうことで、自分の気持ちも高ぶるというか。」



この会社ではほかにも、自由に社内の設備を使える制度や海外研修など、独自の報奨を実施しています。
従業員の努力を見逃さず、それぞれに合った報奨をすることで、新たな発明へのモチベーションを高めています。



三鷹光器社長 中村勝重さん
「発明というのは一人ひとりが本当はみんな持っていることなので、それを出しやすくしてあげたい。
やはり会社は社員の能力の積み重ね、そこに尽きると思います。」

イノベーションを生むには 求められる戦略

●それぞれの会社の取り組み、どう見る?

やはりその会社の事情、研究開発の体制ですとか、何が貢献するのかとか、どういうふうに使っていくのかとか、こういうことに合わせて、やはり一社ごとに工夫していろいろやってるっていうことが分かりましたね。

●海外ではもっと多様なやり方がある?

私の聞いてる話は、もう本当にいろいろありまして、今、後ろのほうの会社の例で、好きな開発に従事させるというのがありましたけども、本当に好きなことに15%の時間を使っていいと、それは報告しなくていいとかですね、そういうことをやってモチベーションを高めると。
あるいはその報奨としても、例えばお金を直接出すんじゃなくて、そのすばらしい仕事をした人の名前で寄付をしてもらうと。
どこどこの財団に寄付をするのを会社がお金を出すとか、そんなような報奨のしかたもあると聞いています。
(必ずしも金銭的なリターンではない?)
そうですね、直接、金銭をその方に与えるということではないと思います。
これは実は、金銭的報酬というのが比較に結び付いてしまうと、1つ1つの仕事で比較をされてるということで、かえってやる気がなくなってしまうというようなことがあるんですね。
これはクラウドアウト効果っていって、金銭的報酬が、むしろやる気をなくす方向に働くことが時々あります。
ですから、企業はそれを分かってますので、できるだけ慎重に、お金を出す時は全体のバランスを考えて、出すというのが、普通やられていることだと思いますね。

●技術者にとって、やる気を引き出す一番のインセンティブは?

研究者は、技術者というのは技術開発するのが好きだというのがありますが、私の場合もそうでしたけれども、やっぱり事業化して本当に世の中の役に立ってということが、非常にやっぱりインセンティブに、動機づけにつながると思います。

●日本はこれからどうすればいい?

私は、日本のやっぱり技術開発ってかなり優れているものがあって、優れた技術がいろんなところにある。
だけどそれがうまく生かせてないということのほうが問題だと思ってます。
すなわち技術が埋没してて、なかなか競争力に結び付いていかないというようなことで、そういう中で、やっぱり一大戦略をうまくやっていくような体制にしていくべきではないかと。
そのために今回の(特許法等の)改正ということもあるし、でも同時に、技術者、科学者の、研究者のインセンティブを高めていかないといけないということだと思います。
(研究開発への投資も必要?)
そうですね、これもやっぱりちょっと減っているので、心配なところですね。
国の役割もあると思います。

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