クローズアップ現代

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No.35892014年12月4日(木)放送
犯罪を繰り返す高齢者 ~負の連鎖をどう断つか~

犯罪を繰り返す高齢者 ~負の連鎖をどう断つか~

急増する高齢者犯罪 なぜ繰り返すのか

全国で最も受刑者の数が多い府中刑務所です。
ここでは、65歳以上の受刑者が急増しています。
現在、高齢の受刑者は400人。
この10年でおよそ2倍になりました。
大半は、万引きなどを繰り返し刑務所を出たり入ったりしている人たちです。

府中刑務所 教育専門官
「高齢者になってから犯罪を犯して、刑務所にきて、またすごい再犯期間が短くて入ってくる。
高齢者の犯罪者が非常に増えています。」


なぜ高齢者は繰り返し罪を犯してしまうのか。
千葉県に住む70代の男性は、これまでに3回刑務所に服役しました。

最初は65歳のとき。
20年近く経営していた会社が倒産したことがきっかけでした。
生活苦から、くず鉄を盗み、懲役2年の実刑判決を受けました。

70代男性
「景気がよくなかったから。
警察に捕まって、警察のやっかいになってから、『えらい、恥ずかしいマネしちゃったな』と思って。」

出所後、心を入れ替え仕事を探そうとしましたが、前科があると分かるとアルバイトすら断られました。

70代男性
「家の中。」

離婚して家族を失い、親兄弟からは二度と顔を出すなと言われ、孤立を深めていきました。

70代男性
「それはさびしい。
刑務所に送られたこと知っている人がいると、『前科者だから』となってしまう。」

男性は生活保護を受けられるということも知りませんでした。
70歳と73歳のとき、神社のさい銭に手をつけ、さらに2回、服役。
比較的軽微な罪でも繰り返してしまうと刑が重くなっていく負の連鎖に陥ったのです。

急増する高齢者犯罪 苦慮する刑務所

刑務官
「番号。」

受刑者たち
「1、2、3…。
おはようございます。」

高齢の受刑者が急増する中、刑務所はこれまでにない対応を迫られています。
府中刑務所に設けられた養護工場と呼ばれる特別な作業場。
一般の受刑者と同じ作業を行えない、高齢者などのために作られました。
すでに高齢の受刑者でいっぱいです。
服役中に認知症になった受刑者は、こうした簡単な作業さえままならないと言います。

府中刑務所 看守長
「一番困っているのは認知症の方です。
トラブルになったり、そういった問題が増えてきている。」



さらに高齢の受刑者のために、刑務所が負担する医療費も増え続けています。
なんらかの病気で治療を受けている人は、およそ9割に上り、介護が必要な人も少なくありません。

「寒くない、大丈夫ね。」

刑務所の職員が体を拭き、オムツを交換。

そして、飲み込む力が衰えた受刑者のために特別な食事も用意しています。

「はい、どうぞ、ちゃんと手を使ってね。」

病状が悪化して、外部の病院に入院させる機会も増え、コストに加え、職員の負担も限界に近づいていると言います。

医務部 看守長
「入院になると、24時間、絶えず3名が張り付いている形になる。
2件、3件と重なってくることもよくある。
そうなると職員に負担が重くのしかかる。」

刑務所の一角にある霊安室です。
府中刑務所で亡くなった受刑者は、この5年間で78人。
引き取り手のない遺骨の供養も刑務所が行っています。

犯罪を繰り返す高齢者 負の連鎖の果てに

刑務所と社会を往復する負の連鎖から抜け出せない高齢者たち。
罪を繰り返すうちに、振り込め詐欺グループに取り込まれるケースまで出ています。
去年(2013年)、だまし取った現金を受け取ったとして逮捕されたのは71歳の男。
さらに5月には、被害者の家に現金を受け取りに来た高齢の男が公開手配されました。

これまでに3回逮捕されたことがある80代の男性です。
出所後、頼る当てもなく生活に困っていたとき簡単な仕事があると誘われたといいます。

80代男性
「(誘われるのは)やっぱり罪を犯して仕事ができない人たちです。」

男性は指示されるまま携帯電話を何台も入手。
引き換えに現金を受け取りました。
あとになって携帯電話が振り込め詐欺に利用されていたことを知った男性。
ほかにも、自分と同じような高齢者が使われていたと言います。

80代男性
「(刑務所から)出てつくづくわかりました。
犯罪を犯すと仕事場でも使ってもらえないし。
本当に生活でやむをえず、他の人にはその気持ちはわからないとは思うけど。」

犯罪を繰り返す高齢者 どう断つ負の連鎖

ゲスト浜井浩一さん(龍谷大学大学院教授)

●犯罪を繰り返す高齢者の実態 本当に深刻だが?

そうですね、日本ではいろんな犯罪が今、減っているんですね。
その中で唯一、増えているのが高齢者犯罪です。
高齢者犯罪の場合には、単に被害者となるだけではなくて、加害者となる人もいろいろ増えている。
例えば、今のVTRにもあったようなケースもそうですし、薬物の持ち込みですよね。
その背景にあるのは、やっぱり社会的な孤立、社会的な困難というものですよね。
被害者になる場合にも、加害者になる場合にも、誰か相談できる人、止めてくれる人がいれば、被害者にも加害者にもならないで済むんですけれども、そういう人たちがいない。
結局、犯罪に手を染めてしまうというケースが増えている、そのへんが大きな問題だと思います。

●犯罪を繰り返す負の連鎖 止めることはできないのか?

これはですね、やはり日本のいろんな制度が縦割りになってるってところが大きいですよね。
特に日本の刑事司法、刑罰のシステムっていうのは、やはり犯罪者に責任を取ってもらう、罰を与えて罪を償ってもらうというところに力点が置かれているので、どうしても罪を償ったあとに、どうして、どうやって彼らに社会に再び戻ってもらうのかというところの観点が薄いんですよね。
だから刑務所は刑務所で一生懸命仕事をしているし、刑事司法の中でも検察、裁判もそれぞれ一生懸命頑張っています。
ただ、その頑張っているんだけれども、それがなんのために頑張っているのか、最終的に再犯を防止して、更生させるとか、そういう共通の目標を持っていなかったりします。
それから実際に刑務所を出たあとに、福祉へつないでいくことが必要になってくるんですけれども、やはり司法が社会制度の中から孤立している。
結果として刑務所を出た人は、そのまま場合によってはホームレスになって福祉へつながらない。
だから必要なサービス、犯罪を犯すにはさまざまな背景事情があって、犯罪を犯すわけですけれども、その背景事情である社会的孤立とか、社会的な困難ですよね、生活上の困難、それを解決するための手段に、罪を償ったあと、つながっていかないという縦割りに大きな問題があると思います。

●犯罪を犯すに至る社会的な困難さ そこに目が向けられていない?

そうですよね。
日本の司法というのは罪を犯してしまうと、それも個人の問題として刑罰を受けてもらって、それで終わってしまうんですね。
私はこれを金さん司法といって、批判しているんです。
刑を科して一件落着。
罪を犯して、刑罰を受けた人は再び社会に戻っていきます。
その戻ってきたあとにどうするのか、そこを考えていかないと問題解決になりません。

●社会の中でどうするかという問題 そこが福祉の役割となる?

そうですね。
司法と福祉がきちっと連携していく、犯罪の背景にある問題を解決する。
つまり罪を償ったあとに、その罪を犯す原因となったものをきちっとケアする。
それによって、彼らは普通の市民として再び社会に戻っていける。
それが再犯を防止する最大の近道だということです。

高齢者犯罪 連鎖どう断つ 司法と福祉つなぐ挑戦

長崎市にある支援センターです。
刑務所から出所する身寄りのない高齢者や障害者の生活支援を行っています。
5年前、出所者の再犯を防ぐ国のモデル事業として設立され、地元のNPO法人が運営しています。

支援センターは刑務所から社会に戻っても居場所のない高齢者などに受け入れ先の福祉施設を紹介したり、生活保護の申請に付き添ったりして生活が安定するよう支えています。



この日、センターの代表が長崎刑務所を訪ねました。
出所が近づいている受刑者に面会するためです。

70代男性
「失礼します。」

無銭飲食を繰り返し、18回目の服役となる70代の男性。
出所後、どんな支援を望んでいるか尋ねました。

長崎県地域生活定着支援センター 伊豆丸剛史所長
「今度ここを出たとき、どこに帰りたいです?」

70代男性
「長崎の方。」

長崎県地域生活定着支援センター 伊豆丸剛史所長
「ふるさとじゃなくて?」

70代男性
「環境が変わったら気持ちも変わるし。」

前科のことを知られている、ふるさと以外の場所で再出発したいという要望を受け準備を始めることになりました。

長崎県地域生活定着支援センター 伊豆丸剛史所長
「帰る場所を探したり、帰ったあとの福祉のケア、医療ケアを整えたり。
刑務所から社会への円滑な橋渡しを、福祉でサポートをするのが私たちの仕事です。」

センターの支援で再び罪を犯さず、立ち直った高齢者も少なくありません。

長崎県地域生活定着支援センター 伊豆丸剛史所長
「すみませんね。
待ってくれてたんですか。」

老人ホームで暮らしている78歳の男性です。
これまで15回、刑務所に服役。
出所後、頼る人もなく生活苦から盗みを繰り返してきました。

長崎県地域生活定着支援センター 伊豆丸剛史所長
「お邪魔します。」

しかし、4年前、センターの尽力で受け入れ先が見つかったことで、ようやく生活も落ち着きました。

男性(78歳)
「どうもありがとうございます。
気をつけて。」

男性は、お世話になった人たちに感謝の気持ちを示したいと、毎朝3時半に起きて新聞を配っています。

「新聞、ありがとうございました。」

男性(78歳)
「『頑張ってるね』と声かけてくれる。
嬉しいです。
生きてる間はもう二度とああいうところには行かないよう、頑張ります。」

刑務所でも、出所する高齢者に再犯をさせないための新たな取り組みが始まっています。

「礼。
こんにちは。」

集められたのは出所を間近に控えた高齢者たち。
出所後、社会の中で孤立しないためにはどうすればいいのか実践方式で指導します。

府中刑務所 教育専門官
「誰かと話をする、相談できる、それがすごく大切なんです。」

この日は、また罪を犯しそうになったときに、知り合いに電話する練習を行いました。

受刑者
「時々、昔のこと思い出して、ろくでもないことを考えちゃうんですけれど。」

受刑者(知人役)
「それじゃどこかで1回、会わなきゃいけないね。」

1人で抱え込まず、周囲に頼ることの大切さを理解させます。
さらに生活保護や年金など、福祉の支援を受けるために必要な知識も教えています。

府中刑務所 教育専門官
「彼らが社会復帰した後に、二度と刑務所に帰ってこないようにしてほしいと。
刑務所が試されることにもなると思います。」


罪を犯した高齢者を、さらに早い段階から福祉につなごうという取り組みも始まっています。
東京地方検察庁では去年、全国に先駆けて社会福祉士を職員として採用。
専門の部署も設置しました。

罪を犯した高齢者を刑務所に服役させる前の段階で福祉につなぎ、更生させる道がないのか検討するためです。
社会福祉士は、どのような福祉の支援ができるのか検察官にアドバイスをします。


東京地方検察庁 社会福祉士 松友了さん
「もともと我々、福祉の分野が対応すべきだった人がたくさんいる。
こちらに相談、ケースとしてあがってくれば、全力をあげて対応する。」

この日、検察官が相談したのは、60代後半のホームレスが起こした置き引き事件。
身寄りもなく、被害の弁償もできないため、通常なら起訴も考えられる事件です。

検察官
「高齢のホームレスの男性が、店に他のお客さんが置き忘れた財布を持ち去ってしまったと。
再犯防止のために、何かいい福祉支援はないかということで。」

社会福祉士は、支援をすれば社会の中で立ち直らせる方法もあるとアドバイスしました。

東京地方検察庁 社会福祉士 松友了さん
「この方の場合は、生活保護を受けながら、そこで生活を立てて、そして場合によっては仕事を探していくということですね。」

結局、容疑者は起訴猶予となり、福祉事務所から紹介された宿泊所で生活することになりました。
東京地検では、これまでにおよそ500人を刑務所ではなく福祉施設などにつないでいます。

東京地方検察庁 森本和明総務部長
「支援を必要とする人たちが、福祉の分野に適切につながってこなかったという面があることも確かです。
福祉の分野における、さまざまな施策に適切につなぐことによって、社会復帰をうながし、再犯を防止するよう努めていきたい。」

高齢者犯罪 連鎖どう断つ 司法と福祉つなぐ挑戦

●地域生活定着支援センターや検察の取り組み これらの意義をどう考える?

先ほど来、申しているように、やはり縦割りの中で司法と福祉がつながっていかない、だから本来、彼らが抱えている本当の困難の問題性ですよね、そこに対してケアがいかないので、再犯が繰り返されていくという問題がある中で、地域定着支援センターは、そういった刑務所を出て帰る場所のない人に社会的な居場所を提供する。
要するに司法と福祉をつなげていくということをしているということで画期的なことですし、検察庁の取り組みというのは、やっぱり刑事司法の中の縦割りの中でそれぞれの部門は一生懸命仕事をしている。
きちっと悪いことをした人を処分をする、刑罰を受けてもらう、それで終わってたんですね。
そこから先は自分の仕事じゃないからです。
それに対して罪を犯した人たちに処分をする、そのあと彼らはどうしていくんだろう?ということに配慮して、社会福祉士さんをつないで、ある意味では先ほど私が批判したような、金さん司法から脱却して、みんなでどうやって再犯を防止したらいいのかということを考える取り組みという意味で、非常に大きな意義があると思います。
(刑務所に入れる実刑ではない選択をすることもありうる?)
そうですね。

●VTRの老人ホームで暮らす男性の笑顔が印象的だったが?

そうですね。
やはり、ああいう姿を多くの人に見てもらうっていうのは大事だと思いますね。
私も刑務所に勤務していたときに、それこそ何百、何千という受刑者の人と会って、面接を繰り返してきました。
そのときにやっぱり私の中に生まれた疑問というのは、この人と私の違いは一体なんだろうということなんですね。
それを繰り返し考えていく中で、私も仕事を失って、もし家族を失うようなことがあれば、もしかしたら同じ立場になってしまうかもしれないというふうに思うようになりました。
多くの人に、罪を犯した人たちっていうのは、いろんな社会的な背景で困難を抱えていて罪を犯している。
もともとは私たちと同じ、普通の人間なんだということを理解してもらいたい。
だから罪を犯したということで、全部同じような、自分たちとは違う人間って考えるのではなくて、自分たちだったらどうなんだろうというところ、何をしたんだろう、どうしてそんなことをしたんだろうっていうところに思いをはせてほしいというふうに思いますね。

●罪を繰り返す高齢者に対する意識を私たち自体が変える?

そうですね、それを自分の問題として考えてもらう。
いつか、私たちも同じような状況になったら、同じことをしてしまうかもしれない。
それは私たちの問題で、罪を犯した人たちは刑務所にたとえ入ったとしてもいずれ社会に戻ってきます。
戻ってきたときに、どんな隣人として戻ってきてほしいのか、どうなってほしいのか、そこも一緒にみんなで考えていこうというふうに思ってもらいたいというふうに思います。

●負の連鎖に陥る高齢者の問題は社会が取り組むべき課題?

そうですよね。
やっぱりこれまで受刑者を見ていて、刑務所に入る前に幸せだった人は1人もいません。
いろんな形でいろんな困難を抱えて、結果として刑務所の中に足を踏み入れてしまったという人たちです。
そういう人たちに、どう対応していくべきなのかですね。
そういう人たちの再犯を防ぐために何ができるのか。
それを自分の問題として、みんなで一緒に考えていくということが必要なんだろうというふうに思います。

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