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No.35872014年12月1日(月)放送
長寿の鍵は“口”にあり~口腔ケア最前線~

長寿の鍵は“口”にあり~口腔ケア最前線~

入院患者に口腔ケア 治療や予防に効果大

千葉県旭市にある、ベッド数1,000床の総合病院です。
この病院では、10人の歯科医師たちが入院患者に対して重要な役割を果たしているといいます。
1人の歯科医師が向かったのは、なんと整形外科の病室。


歯科医師
「歯医者です。」

関節炎で入院している女性に一体何をするのかといえば、もちろん。

歯科医師
「口の中きれいにしにきたんで、ちょっと見せてくださいね。」

病気や手術で動く事ができない患者のために、口の清掃を行い、細菌による肺炎などを防ぐのです。

歯科・歯科口腔外科 部長 秋葉正一さん
「口くうケアすれば、誤嚥(ごえん)性肺炎とか少なくなる。
死亡率も少なくなるといわれているわけだから、やらなきゃならないって思いましたね。」


歯科医師も加わった治療によって、命を取りとめた男性もいます。
土屋光男さん、63歳です。
4か月前、原因不明の発熱で病院を受診した土屋さんは、検査の結果、重い心臓病と診断されました。


その原因は思いも寄らぬものでした。
なんと、口の中の細菌が関わっていたのです。



土屋光男さん
「歯ぐらいって安易な気持ちが、心臓まで悪くなるとは、ちょっとそこまで想像できませんでした。」



土屋さんは、「感染性心内膜炎」と呼ばれる心臓病でした。
口の中の細菌が血管に入り、血液にのって心臓へ移動。
心臓の弁に菌が付着し血液が逆流してしまう病気です。



緊急入院した土屋さんに、内科で抗生物質による治療が始まりました。
その上で、心臓の手術の前にまず行われたのが、細菌が増える原因となっている歯の治療でした。


心臓外科 部長 山本哲史さん
「う歯(虫歯)とか歯周病が残ってると、けっきょくまた、感染性心内膜炎を1回起こすともう1回起こすリスクが高い。
ハイリスクになります。」


歯の治療が完了したあと、土屋さんは10時間に及ぶ心臓の手術を受け、ようやく命を取り留めました。
仕事も徐々に再開し、以前と変わらない生活を取り戻しつつあります。

土屋光男さん
「口の中の手入れは怠らないようにしたいと思います。」

更に、日本人の多くが苦しんでいる糖尿病にも歯周病菌が関わっている事が明らかになりつつあります。
そこでこの病院では、今年(2014年)から糖尿病の治療にも本格的に歯科が参加する態勢をつくりました。



今年2月に発表された研究では、糖尿病の患者のうち、歯周病を患っている人は血糖値が明らかに高い事が分かりました。
その原因は、歯周病菌が体内に入ると免疫反応によってサイトカインという物質が生まれ、血糖値を下げるインスリンの働きを弱めるからだと考えられています。

糖尿病と歯周病の両方を患っている患者に対して歯周病の治療も行った結果、血糖値がより下がったという報告もされています。
この日、糖尿病の入院患者に対して、歯科衛生士による歯周病予防の講座が行われました。


歯科衛生士
「体の中にこうした炎症を起こした場所があると、インスリンの働きが悪くなる。
治療しても効果が上がらない人がいます。」


今後は、内科と歯科が緊密に連携して、歯科医師による治療も行う事にしています。

糖尿病代謝内科 医長 横尾英孝さん
「ゆくゆくはそれが糖尿病の治療、合併症の阻止とか、患者さんの元気で長生き、健康寿命をのばしていくことにもつながると。
積極的に歯科の先生に相談するような姿勢をチームとして築けたらと思います。」

この病院が、口腔ケアに取り組み始めたのは8年前。
当時は全国でも珍しい試みでした。
しかし、始めると明らかな効果が見られました。
それまで、高齢の患者に数多く見られた肺炎が劇的に減り、病院全体の取り組みへと広がっていきました。

歯科医師
「万全の態勢で手術にのぞむって形でやっていこうと思うから。」

今では、歯科医師10人、歯科衛生士9人にまで態勢が強化され、手術による合併症を防ぐための口腔ケアも行っています。

手術前の患者
「これで本当に口の中きれいにして、肺炎とか起こさないで、少しでも早く良くなってくれればいいなと。」



手術のあとには、言語聴覚士による飲み込みのリハビリも行われています。

言語聴覚士
「水が飲めるかどうか、少し評価をしましょう。」

点滴などの栄養摂取に頼っている間に、食べる機能が衰えないようにするためです。

こうした取り組みの結果、手術後の回復が早まり、結腸がんの場合、入院期間は以前の6割まで短縮されました。




副院長 外科医 野村幸博さん
「やはり病床利用率が高まりますので。
もちろん患者さんにとっても早期の退院が望ましいので、早く日常生活に戻っていただくのは非常に重要なことですので、口の中の衛生は非常に大事じゃないかと思っています。」

長寿の鍵は“口”にあり 口腔ケア最前線

ゲスト菊谷武さん(日本歯科大学教授)

●特に高齢・病気の人にとっては口腔ケアが大事?

そうですね。
口の中は食べ物の入り口であると同時に、息をするための入り口でもあるんですね。
そんな場所は、実はある体温で守られてるし、唾液もあるし、三度三度、食事が入ってくるという事で、ばい菌にとってはもうまさに生きやすい場所。
ひとたび手入れを怠ると、その数を爆発的に増やしてしまいます。
歯こう1グラムあたり、1,000億個と言われているようなばい菌の数がありますから、ともすると気管の中に入れてしまって肺炎になったり、ばい菌が出す毒素が血液に回って、体中を回ってですね、そして新たに病気を引き起こすなんて事が起こってきます。
いわゆる「悪玉菌」と呼ばれるばい菌が増えて、本来の細菌の構成を変化させてしまうんですね。

●手術前の口腔ケア、日本の医療界全体で見ると?

知識としてはあって、やらなければいけないという事なんですが、病院の中に歯科があるのも僅か2~3割。
そして、その歯科があったとしても歯科医師の数、歯科衛生士の数は1人、2人というのが一般的で、通常の診療に追われていく中で病棟の患者さんの口腔ケアをするには、まだ手が回らないという病院が多いというふうに聞いてます。
(しかし口腔ケアを受けると入院日数が減るなど、特に抗がん剤の治療を受ける患者にとってはメリットがある?)
そうですね。
口腔ケアをしっかりする事によって、抗がん剤の副作用の1つであると言われている口内炎というのは劇的に少なくなるというのが知られていて、かねてからそのあたりはやられてたんですけども、最近では、いろんながんの手術や治療についても事前に口腔ケアをしっかりやる事によって、入院日数が短くなったり、食べられるまでの期間が短くなったりというような、さまざまな効果が分かってきています。

●歯科医師の数、システムとしては増えていく?

制度は、もうあるんですね。
あとは病院の中で組織として、どう取り組むかというような事であったり、あらゆる病院に歯科が設置され、そして歯科に対する増員がされる事によって、恐らく、いずれは全国どこにいても同じようなサービスが受けられる状態になってくるとは思います。

在宅にも口腔ケアを 寝たきりから回復も

岩手県奥州市です。
ここでは今、ケアマネージャーと歯科医師が地域を挙げて連携し、在宅での口腔ケアを徹底させようとしています。

歯科医師
「ちょっとお口を見せてくださいね。」

ケアマネージャーからの情報を基に、市内で開業する歯科医師が高齢者の自宅に派遣されます。

全国でも珍しいこの態勢は、5年前に始まりました。
きっかけは市内の総合病院での事でした。




歯科医師
「歯医者も来ました。」

この病院には歯科医師がいないため、5人の町の歯医者が持ち回りで入院患者の口腔ケアにあたっています。


その1人、朴澤(ほおざわ)弘康さんは、入院患者のある傾向に気が付きました。
それは、退院したはずの患者が度々、再入院していたのです。
口の中を見てみると、治療を行う前の状態に戻り、その多くが肺炎を引き起こしていました。

歯科医師 朴澤弘康さん
「(患者さんが)せっかく獲得した口くうケアの良好な状態を、維持できずに(病院に)戻ってこられる。」



継続的な口腔ケアが必要にもかかわらず、患者が退院すると歯科医師との関わりが断たれてしまいます。
歯科医師の側にはなすすべがありませんでした。
そこで朴澤さんは地元の歯科医師会を巻き込んで、在宅での口腔ケアを進める態勢づくりに乗り出しました。

まず協力を要請したのが、在宅介護の現場に最も近いケアマネージャーでした。

歯科医師 朴澤弘康さん
「誰が口くうの問題を発見するのか。
家族、医療、介護関係者が見つけるしか手はない。」

朴澤さんの声に、ケアマネージャーも動きました。

ケアマネージャー
「ごめんくださいや、聞き取りに来ました。」

毎月の訪問時、ケアマネージャーは口の状態の聞き取りを行います。

ケアマネージャー
「ファックス連携の用紙があるから、その用紙でチェックするのでね。」

そこで使われるのが、歯科医師会が作成した10項目のチェックシート。
歯科医療の知識がないケアマネージャーでも口の中の異常を見つけられるようにしました。

ケアマネージャー
「口の調子が悪いのが分かったから、ファックスを飛ばして(歯科医師に)来てもらうように段取りしますから。」

聞き取りのあと、ケアマネージャーはチェックシートを地元の歯科医師会にファックスで送ります。
歯科医師会は受け取った情報を基に近隣の歯科医師に連絡をし、自宅に派遣します。
ケアマネージャーと歯科医師が連携する、この仕組み。
しかし当初態勢づくりに大きな壁が立ちはだかりました。

まず、機材の問題。
在宅で診療を行うには1台100万円以上という専用の機材が必要です。
歯科医師が自前で用意するには負担が大きすぎました。
そこで歯科医師会は、在宅用の専用機材を貸し出すなど態勢を整えました。

更に歯科医師が在宅での口腔ケアに参加しやすいように工夫もしました。
ケアマネージャーのチェックシートには、希望するかかりつけ医を記入する欄が作られています。
こうする事で、途絶えていた患者と、かかりつけ医の関係を再び結ぶようにしたのです。
こうした取り組みによって、今では64人の歯科医師が参加し、これまでに160人をケアするまでになっています。

歯科医師 朴澤弘康さん
「自分がかかりつけだと思う人(歯科医師)に頼むと、それが往診につながると。
ケアマネージャーが我々の目となってくれている。
そして現場に出かけて、今度はケアマネージャーさんの手となって我々が活動する。」

在宅での口腔ケアが広がった事で、全身の健康状態の改善につながるケースも生まれています。
2年前まで寝たきりの状態だった髙橋三夫さんです。



入れ歯を作り直し、かみ合わせがきちんとできるように定期的な口腔ケアを行ったところ、食事の量が大幅に増えたのです。
今では、散歩ができるまでに体力が回復しています。



髙橋三夫さん
「季節の変化が見られるので、やっぱり外のほうがいいです。」

在宅向け口腔ケア 取り組みどう広げる

●ずっと食べられるという事が体の状態を良くする?

そうですね。
要介護の予備軍と呼ばれている、最近では、「フレール」「虚弱」と呼ばれてるような状態があるんですけどこれの大きな原因に「低栄養」、栄養障害が言われてるんですね。
実は、歯の状態が悪い人といい人で比べると、歯の状態が悪い人はその「低栄養」になる割合が3倍にもなるという事が分かっていて、歯をしっかり治療してかめる状態にしておくという事は、要介護予防、介護予防にとっても重要だと言われています。

●再入院した人の口の中を見ると、悪い状態に戻っているケースがある?

結局ですね、入院しなければいけない状態になってる人というのは、歩いて診療所になかなか通いにくい状態になっている。
そして、残念な事ですけど口の中への関心がいまひとつ国民の中で低い部分もあって、そんな事をやってる間に食べられなくなって、栄養状態が悪化して、そして口の不潔度も増して、肺炎を繰り返すというような事が起こってるのが現状ですね。

●奥州市の取り組みをどう見る?

ある意味、理想型かなと思います。
おっしゃってましたけれども、気付きを与えてくれるケアマネージャーさんの仕事があり、お伝えした内容を、しっかり今度、受け取る側の歯科医もまさにかかりつけ歯科医の延長として機能しているという事で、非常にいい取り組みだろうと思ってますね。
(地域の中で、かかりつけ医の存在は大きい?)
大きいですね。
やはり今まで通っていて自分の事をよく分かってくれてる先生が、たとえ寝たきりになっても、たとえ歯科医院に行けなくなっても、ちゃんと継続して診て頂けるという事は患者さんにとっても安心だろうと思います。

●日本全体で見た場合は?

これに関してもまだまだ全国レベルではないと言わざるをえないですね。
各地域の事情というのもあり、都会は都会の事情もありますので。
全てが、この方式で当てはまる状況ではないんですけれども、歯科医側も、もっともっと在宅に向かって出ていかなければいけないし、口腔ケアの担い手としての歯科衛生士の活用ももっと進んでいかなければいけないというふうには思います。

●待ったなしの在宅診療、何が足りない?

1つは、不採算というのは否めないんですね。
一軒一軒、回りながら診療していくというのと、外来診療で患者さんを待ってる場合とは、明らかに在宅診療は不採算です。
そして、やはり病気を抱えている要介護の状態の患者さんを拝見できる歯科医のスキルというものに関しても、まだまだこれから教育も必要ですし、経験も必要という事になろうかと思います。
(在宅への人材が足りない中、眠っている資源はないのか?)
歯科衛生士ですね、1つは。
歯科衛生士、今、25万人いると言われていますが、実際に実働しているのは10万人程度というふうに言われてますので、もっともっと在宅に向かって出てってもらえればなと思います。
(しっかりとしたインセンティブのある制度づくりもやらなければいけない?)
そのとおりだと思います。

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