クローズアップ現代

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No.35832014年11月19日(水)放送
“最期のとき”を決められない ~延命をめぐる葛藤~

“最期のとき”を決められない ~延命をめぐる葛藤~

独居高齢者 急増 どう決める?“最期”

東京・荒川区。
入院患者の9割以上を高齢者が占める、地域の中核病院です。
ひとり暮らしで、頼れる家族のいない患者が増えています。
入院して2か月になる杉田誠二さん(仮名)です。
重い脳梗塞で意識はなく、回復の見込みはありません。
酸素を吸入し、鼻から栄養を入れる延命治療が続いています。

ガイドラインでは、死期が迫ったときに延命を中止することも、選択肢の1つになるケースです。
しかし、それに必要な本人の意思が確認できません。

木村病院 院長 木村厚医師
「長ければ数年もつかもしれない。
数か月かもしれない。」

この病院では、患者の意識がある場合は、延命治療を希望するのかどうかあらかじめ確認しています。
延命治療にはさまざまな種類や段階があるため、項目ごとに細かく同意を取っています。
人工呼吸器をつけてほしいのか、ほしくないのか。
心肺蘇生をしてほしいのか。
事前に意思を残してもらっています。

木村病院 院長 木村厚医師
「第一は患者さんの希望ですよね。
どんな死に方をするのか、患者さんが決めること。
どう最期をむかえさせてあげたらいいのかなと確認する。」


肺気腫が悪化し意識がない状態の、五十嵐敏子さんです。
入院当初、意識があるうちに自分の意思を記していました。
人工呼吸器や心配蘇生など一切の延命治療を拒否していました。
しかし、その決断を家族には伝えていませんでした。
新潟から上京した五十嵐さんは独身で、家政婦として40年余り働き続けました。
実家に迷惑をかけたくないと、70歳になってからもヘルパーの仕事をしてきました。
仕事をしていたときの友人です。
五十嵐さんは家族に頼らず1人で生きてきたといいます。

五十嵐さんの友人
「女姉妹4人なのよっていうのを、今回初めて病室で聞いたので、まだ話せるときに。
だから、ああ、女4人なの?って初めてそのとき知ったくらいなので。
本当に敏子さん自身からは、田舎の話もしない人でしたね。
でも、もともとはもしかしたら性格的に頑固なとこあったのかもしれないですね。
だから1人で生きていくっていう。」

五十嵐さんは病気になっても実家には知らせませんでした。
医療費のことで心配をかけたくないと思ったからです。

2年間、五十嵐さんの相談を受けてきた、病院のソーシャルワーカーです。
日々の会話の中で、延命治療を受けたくないという思いを感じ取っていました。

木村病院 医療ソーシャルワーカー 須永智恵さん
「十分ここで生きたとおっしゃっていました。
やりたいことは、好きなことはできたとおっしゃってました。
何か延命を希望することで自分のことを人に託すっていうのは、敏子さんはきっと希望されないと思うんですよね。」

それでも病院は、病状が悪化したため新潟の実家に伝えることにしました。
家族が延命を希望するかもしれない。
それも確かめたかったからです。
連絡を受けた82歳の妹が、新潟から駆けつけました。


「お邪魔します。
お姉ちゃん、来たよ。」

妹は本人の意思を尊重し、延命治療をしない選択に同意しました。


「もう頑張らなくていい。
もうずいぶん頑張ったから、ねぇ。
いいよ、姉ちゃん。
ねぇ、私のために頑張ってくれたんだもんね。
ありがとう、ありがとうね。
ありがとう。」

私が病院に着くまで頑張ってくれていた。
妹が繰り返し口にしたのは、感謝のことばでした。


「ありがとうね、姉ちゃん。
ありがとう。」

妹の到着を待つように、五十嵐さんは息を引き取りました。


「もう泣かないよ、ねぇ。
泣かない、泣かないよ。
ありがとうね。
泣かない。」

ずっと離れ離れで生きてきた姉妹。
30年ぶりの再会が、最期のときになりました。

本人の意思がわからない 決められない“最期”

今、病院には、すでに意識がない状態で運び込まれ、延命の意思を確認できない高齢の患者が増えています。
重い脳梗塞で意識がなく、回復の見込みがないと診断された杉田誠二さん(仮名)です。
8月下旬、路上で倒れ、別の大学病院に救急搬送されました。
そこで救命措置を受けた杉田さん。
この病院に来たときにはすでに酸素吸入器をつけられ、意識がありませんでした。
延命を続けるのかどうか、病院はガイドラインに沿って家族の意思を確かめることにしました。
杉田さんには都内に暮らす兄がいます。
木村医師は、兄から杉田さんがどのような考えを持っていたのか聞くことにしました。

木村病院 院長 木村厚医師
「ご本人が希望するんですけど、ご本人が希望できないのでお兄さんに決めていただくしかない。
ご本人の今までの人となりとか、何が彼にとって幸せか考えていただく。」


「過激な事を言うわけにはいかないし。
植物人間なわけでしょ、時間とともに逝くのが普通だと思うんだけど。
先生が一番いいような処置をして頂ければよろしいんじゃないでしょうか。」

兄は、延命治療を希望しないと木村医師に伝えました。
杉田さんと兄は何十年も会っていません。
関係は疎遠でした。
その兄の意思で、延命治療をやめてしまってよいのか。
最終的な判断は医療現場に委ねられます。

独身でほかに頼る身内もいない杉田さん。
持ち物は倒れたときに持っていた傘だけです。
杉田さんは、どういう人生を生きてきたのか。
病院では、その手がかりを知ろうとしました。
入院する前に暮らしていたアパートです。
もう帰れないと判断され、引き払われていました。
自動車工場などで非正規の仕事を転々としていた杉田さんには親しい友人もいませんでした。
元気だったころを知る大家が杉田さんの人柄を話してくれました。

アパートの大家
「質素だったね、すごく。
押し入れの中も、もうほとんど何もなかったね。
私が扇風機あげましょうかとか、テレビだとか、何もいらないって言うのね。
だから夏でも扇風機はいらない、エアコンも使わない。
そういうふうな真面目な人でしたよ。
とてもいい人でね、すごくいい人ですよ、穏やかで。
きれい好きだったし。」

それ以上、杉田さんのことは分かりませんでした。

木村病院 院長 木村厚医師
「おはようございます。」

結局、木村医師は延命治療を続けることにしました。
患者の意思が分からない中で、どう尊厳を守るのか。
難しい問いに向き合っています。

木村病院 院長 木村厚医師
「自分で自分の最期を決める権利というのはあるわけですから、医者が勝手に決めるわけにはいかないんです。
生き方も亡くなり方も、勝手にできない。
その人の持ってる権利を考えていかないといけない。」

杉田さんの延命治療はすでに2か月を超えました。
治療をどこまで続けるのか、まだ誰も決められずにいます。

どこまで延命するのか 揺れる医療現場

ゲスト鎌田實さん(諏訪中央病院名誉院長)

●医療現場に課せられた責任は、あまりにも重いのでは?

そうですね。
医療は、とにかくまず助けることっていう形で進歩をしてきて、ここ10年ぐらい、できたら最期のときは、その人がその人らしく、そしてその人がどう思っていたのか、その人に沿った応援をしてあげようっていうふうに変わり出していて、木村医師の苦渋は、この患者さんがどう思っていたのかを必死に探してますよね。
だけど今、なかなかひとり暮らしの方が多くなって、この方が何を考えてたのか、自分の人生の最期はどうあったほうがいいのかが分からない。
そうすると医療現場は本当に悩んで悩んで、木村先生のように優しい方は、ますますどうしてあげたらいいのか。
結果としては、延命医療を続けてる。
でも、本当に杉田さんにとってそれでよかったのかっていうと、どうかなとかって、また僕も悩むし、僕が主治医だったらどうしようかとか、あるいは僕が杉田さんだったら、どうしてほしいだろうかなとかって、悩ましいですよね。

●延命治療に対しての考えは様々だが?

すごい大事なことですよね。
厚生労働省の調査やなんかを見ると、7割ぐらいの方は、延命治療をしいてあげれば、それほどしてほしくないということを言われてるけど、絶対忘れちゃいけないのは、11%近くの方たちが、例えば人工呼吸器をつなげてもらってでも、どんなことがあっても、1回だけの人生だから生き続けたいと思ってる。
その人が、目の前にいる意識のない患者さんが、どっちだったのかって分かればいいんですけど、分からないときに、どうしてももしかしたらこの11%のほうに入っている方だったら、僕たちが勝手に決めてはいけないよなって、僕たちは苦渋するわけですよね。

●延命措置をあまり望んでいなくても、実際には受けている方が多い?

そうですね、実際には、本当にその方がどう思ってたか、なかなかはっきりした証拠がないと、きっと望んでなかったんじゃないかなと思いながらも、はっきりした証拠がないと、ついつい医療現場は決定をできなくて、多くの7割の方たちが、書面でちゃんと書いたほうがいいって言いながら、実際に書面で書いてくださっている方たちは3%しかいない。
だからこれ、書いておいていただけたらなとか、ご家族がいる方は、ごはん食べながらご家族に、俺はこう思うんだって言っておいていただければ、何度も何度も言っておいていただければ、父はよく、ごはん食べながらこう言ってましたって言っていただけると、僕たちもそれでずいぶん、その方向で治療していこうっていう指針にはなるんですね。
でもひとり暮らしのこの杉田さんのような方だと、皆目分からない。
だから、木村先生の苦渋は大変重いと思います。

●延命装置をつけて医療現場に運ばれてこられる方も多いが?

そうなんですよね。
それを外すとなると、大変ですよ。
救急車で運ばれて来たときは、どんな事情かは分からないから、もうとにかく1秒を争いながら、救命をして、その結果として人工呼吸器につながる。
だけどそのあと、この人はどうも、そういうことを望んでないんじゃないかって分かったときに、もう、一度つながった人工呼吸器の電源を切る、あるいは挿管した管を抜くってことは、医師にとって、とってもつらいことです。
ですから今、医療界はこれから2020年に向けて多死時代と言われて、たくさんの方たちの死を医療現場で見ていかないといけないわけですけれども、どうしていいのか、本当に皆目、苦しんでいるっていうのが、医療現場の状況だと思います。

●書面で意思表示があったとしても、苦渋と葛藤の深さは計り知れないのでは?

いつも、自分だったら目の前の患者さんのこの人の身になって、できるだけ治療に当たりたいなと思ってるんだけれども、この人の身になっても、身になっても、なかなかこの人、本当は何を望んでたんだろうかって分からないことがありますよね。
つい自分だったらば、こうなったときは人工呼吸器は置かないでほしいって、僕は書いたり、あるいは胃ろうはできるだけ行わないようにって書いたり、そういうことを僕はしているんだけども、それぞれ人によって違う、その違う人の身にはなっても、なかなか想像がつかないっていうのが現状ですよね。
だからやっぱりその人が、やっぱり言ったり書いたり、できるだけするようにしていくことが、日本のこれからにとっては、すごく大事なんじゃないかって気がしますよね。

●超党派で尊厳死法案の提出が予定・計画されているが、これには賛成されている?

医師にとってはとてもありがたい、大切な尊厳死法案だと思いますけども、僕はあまり積極的には賛成はしていません、悩んでいます。
なんか法律で決めることじゃないんじゃないかなって。
もっと時間をかけながら、できるだけ、命の主人公はその方なもんで、いつかは家族よりも、その人の命だっていうふうに、みんなが、日本全体が広がっていくことが大事で、時間をかけて、3%しか自己決定を書面に書いていないんだけど、もっともっとたくさんの人たちが、少しずつ時間をかけて、自分の命は、最期はこう終わりたいとか、こう生きて、こう終わるんだってことを決めれるような日本になっていくことが大事だから、なんか法律を決めていただくと、一気に進むとは思うんだけど、なんか僕はもうちょっと悩みながら、医療する側と、医療を受ける側とがキャッチボールをしながら、日本流のいい命のしまい方っていうことを考えていくことのほうが大切かなと思っています。

●医療現場にとってあまりにも責任が重い延命治療への考え方、何が求められている?

ガイドラインなんかでは、病院の中のいろんな職種の人たちにも集まってもらって、外部からも法律家だとか、宗教家なんかにも参加してもらって、その地域の中で、そういう命の在り方をみんなで議論をして、その事例に関して、どうもこの方に関しては、積極的な治療をしないほうがいいんじゃないかって思ったときに、人工呼吸器から離れても、もしかして、しばらく何日か生きるとすれば、家族はいないんだけど、家族の代わりになるようにみんなで交代で手を握ってあげたりとか、話しかけてあげたりすることによって、もっと違う、これから新しい、命をみんなで支える在り方っていうのも、一つ、選択肢としてはあるんじゃないか。
でも大事なことは、どんなことをしてでも生きたいっていう人がちゃんと生きれる日本がまずあって、なおかつ、無理はしたくないっていう人には、無理をしないでも済むような守り方、サポートのしかたが、多様にできる日本になっていったらいいかなと思いますよね。

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