クローズアップ現代

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No.35732014年10月29日(水)放送
子どもって迷惑? ~急増する保育園と住民のトラブル~

子どもって迷惑? ~急増する保育園と住民のトラブル~

子どもって迷惑? 急増 保育園トラブル

今、全国各地で保育園の建設ラッシュが続いています。
東京都では今後4年で、4万人分の受け皿を用意する計画です。
中野区の住宅街の一角。
ここで、来年(2015年)の開園を目指して100人以上の子どもが入る認可保育園の建設が進められています。
しかし、一部の住民の間で不安の声が上がっています。
その1人、50年以上前からここで暮らしている女性です。
建設地は以前、公園でした。
地域のお年寄りが集う憩いの場だったといいます。

女性
「本当にここ緑がきれいで、秋になると木の葉が一面になって。
私たち、ここ桃源郷みたいねって言ってるくらい静かですよ。」

お年寄りが多い静かな地域。
そこに大勢の子どもが集まることになったのです。
建設地の近くに住む住民たちは計画を知り、実際にほかの保育園を見に行きました。
そこでたくさんの子どもたちが出す声を聞き、その大きさに驚いたと言います。

女性
「ここはとにかく老人地帯よ、残念なことに。」

女性
「普通の時はいいけど、(病気で)寝込むような時はたまらない、うるさくて。」

女性
「百何十人っていうけど、どういうことになるのかなと思ってね。
いちいち小さい子に『しー』なんて言ったってわからないからね。」

また、朝夕送迎の自転車が殺到し、事故が起きるのではないかと心配しています。

男性
「超スピードで走ってくるからね、あれで事故でも起こしたら大変。」

区の進め方も反発を強める要因になったといいます。
住民に計画が知らされたのは、すでに保育園を作ることが決まったあとでした。
その後、区による住民への説明会が4回にわたって行われました。
しかし、話し合いは平行線をたどりました。
住民側が録音した、説明会のやり取りです。

住民側
“保育園だってつくらなくちゃならない。
ただ、どうしてここなのか納得できない。”

中野区
“納得していないという話だが、一方で待機児童をやらなきゃならない。
私どもが考えているのは、もうつくらせてもらう。
まずは近日中に測量させていただきたい。”

住民側
“それではちっとも話し合いじゃない。
決めたことを順々に、一つも変えないじゃないですか。”

中野区では住民の声に耳を傾けた上で、正しい手続きのもと建設を進めているとしています。
すべての住民たちの理解は得られないまま、保育園は来年4月に開園する予定です。
相次ぐ保育園への苦情。
中には、保育のしかたを見直さざるをえない所も出てきました。
去年(2013年)、都内の住宅地に出来た保育園です。
開園以来、近隣の住民から苦情を受けてきました。

保育園 園長
「園庭です。
遊び時間を制限しています、時間帯で。」

子どもの声がうるさいと言われたため、園庭で遊ぶ時間を厳しく制限。
午後5時以降は子どもを出さず、苦情があれば日中でも利用させない日があります。
さらに、子どもの姿を見たくないという声を受け、日中でもカーテンを閉めています。
窓は目隠し用のシートで覆う念の入れようです。

保育園 園長
「たぶん向こうから(住民が)見てます、閉めます。
(住民が)もう見てます、いま見てました。」

いくら対策をしても、この保育園に対する苦情は収まっていません。

保育園 園長
「こういう環境の中で子どもたちを育てる以外ないのかなと、一つのあきらめもありますよね。
自然の空気が入り、お日様の光が入り、普通の人間として当たり前の生活なので、保育園の中で最大限与えたいですよね。」

住民と保育園のトラブルは、保育の在り方に影響を与えているという調査もあります。
専門家が横浜市内の保育施設を調べたところ、「大声を出さない」「楽器を使わない」など、音が漏れるのを気にしている所が7割以上に上ると分かりました。
こうした遊びを制限することは、子どもたちにとってストレスになりかねないと指摘しています。

横浜国立大学大学院 田中稲子准教授(建築環境工学)
「子どもにとっては遊びがイコール成長そのものだと思いますし、五感を発達させるそのものなので、子どもの育ちに影響が出てくるのではないか。」

トラブル急増の背景 地域から子どもが消えた

ゲスト木下勇さん(千葉大学大学院教授)

●なぜトラブルが起きてしまう?

最初の例のように、なんか住民が悪いように捉えるとまずいなと思って見たんですが、背景にはいろんな理由があって、あの場合には、プロセス、もちろん待機児童対策と、今いろんなところで自治体、建設ラッシュで、いきなりトップダウン的に、しかも桃源郷のような、みんながより所にしている広場に、いきなりそういうものを有無を言わさず建設っていうのは、それはなんでも反対するだろうというような同情も感じますね。
だから2番目の例も含めて、その背後にはいろんな理由があると思うんですが、まず1つには、そういう社会の変化において、そして待機児童対策と建設ラッシュ、プロセスに問題があると。
それから2番目には、2番目の例のように、その背後にはどういう理由があるか分かりませんが、そこの住民側が子どもたちを見たくないというような、また見られたくない、その関係が分断されているような、なんかね、そこに現代社会のいろんなかみ合わない問題を感じますね。
子どもが見えなくなっている。
それからそういうのがいきなり出てきて、異質なものが入るように、お年寄りと子ども、異質な関係なのかっていう、そういう現代の問題があると。
だけど子ども自身が悪いわけじゃない。
子どもに罪はなくて、子どもはちっちゃいときに大声出すのは、これは発達のためには重要なことです。
そういうのも、なんか問題に上がってくるっていうところに、現代のちょっと、変化の問題があるような気がします。

●東京・世田谷区の住宅地の年代ごとの遊び場の場所を示したマップ ここからわかる背景は?

正確にはこの前にも、1世代前も(調査を)やっているので4世代なんですが、ここでは1960年代からの変化を示しています。
遊んでいる場所を色で塗っております。
各世代20人ぐらいに聞いた結果です。


(60年代は?)
空き地、原っぱやなんかで結構遊んでますね。
こういう中で群れて遊んだり、地域の催しが行われたりしてる場です。


80年代、この時代も道路はありましたが、主に道路だけになっている。
原っぱは消えています。
これは60年代、オリンピックが開かれてきて、高度経済成長で立て込んできて…。
(宅地開発が行われて。)
そうですね、原っぱは消えて、自然が失われてきた。
だけど道路は子どもたちの遊び場であった。

2000年代になってきますと、ほとんど道路の遊びが消えています。
主に、小学校、それからこういう商業施設。
ほとんど一番多いのは家の中、次が学校。
で、週末なんかは家族で。
昔のように群れて町の中で遊ぶ、そういう姿が見られなくなりました。
これは、先ほど言いましたように、町から子どもが見えなくなった。

●これは大人の生活の変化も示している?

私たちは、社会の変化を子どもの遊びから見てみようとしました。
それでこの時代、どこでどんなふうに遊んでいたのか、その中に、昔ほど大人が登場してくる。
いろんな大人、おもしろい大人、地域の催し。
(空き地には大人もいた?)
見えない関係の網で、皆の生活の関係の網の中にいました。
子どもは社会化していた、この時代(80年代)もまあ、道路で遊ぶ。
道路で遊んでる所は近隣関係も出来ていて、中には異年齢の遊びも。
私たちはこの時代に子どもたちにヒアリングするのが、一番楽でした。
通りで声を頼りに遊んでいる所に行き、子どもらを見つけて、私たちが借りている小屋に連れてきて、1時間、2時間話を聞くと。
今、そんなことをしたら警察が飛んできます。
(2000年代になると子どもたちの姿が見えなくなると同時に、子どもたちの生活と大人の生活というのが完全に分かれてしまった?)
完全に分かれています。
そして、もちろん今、そんな通りで子どもたちをつかまえて話を聞いたりしたら、警察が飛んでくる。
もちろん、セキュリティーの面で、通りで遊んではいけない、道路交通安全の面でも遊んではいけない、また知らない人と口を聞いてはいけない。
子どもと大人の関係も分断されたと。

折り合いはどこに 対話続けた住民と保育園

戦前から住宅地として長い歴史を刻む、東京・世田谷区の太子堂地区。
この住宅が密集する地域に3年前、新しく保育園が作られました。

子ども
「おはようございます!」

地域の人たちから親しまれている元気な園児たち。
しかし実はこの保育園でも、5年前に建設を計画した時、地域住民の反対の声に直面しました。
当時、激しく反対していた1人、吉田昌史さんです。

吉田昌史さん
「トップダウンでくるのはいかがなものかと思った。
直近(近所)の人からすれば、騒音の問題にうるさくなっていたり、自転車の往来を心配しなきゃいけない。
お年寄りが多い地域なのでね。」

議論がこう着する中、区と住民に対して、粘り強く話し合いを続けることを呼びかけた人がいます。
長年、地域のまちづくりの中心メンバーだった梅津政之輔さんです。

まちづくり協議会 梅津政之輔さん
「これが保育園です。」

梅津さんは住民の気持ちを理解する一方で、地域のために保育園を受け入れる必要性も感じていました。

まちづくり協議会 梅津政之輔さん
「これは3世代(遊び場)マップ。」

かつて梅津さんは、千葉大学の木下教授が行った遊び場の調査に協力。
子どもが地域から疎外阻害されることは、将来の町の担い手が育たないことにつながると思い立ったと言います。

まちづくり協議会 梅津政之輔さん
「子どもの声のしない町には未来がないというのが僕の心情です。
子どもは声を出すことで成長していくんじゃないですか。
声がうるさいのは、自分たちの将来にも関係している。」

地域のためにも、保育園の建設問題を議論するべきだと考えていた梅津さん。
話し合いに際して、区には計画の詳しい説明や住民たちの要望をできるかぎり聞いてほしいと求めました。
一方、住民たちには不安や不信感を素直にぶつけることを提案しました。
話し合いを続けること1年。
回数を重ねるうちに合意点が見い出されていきます。

子どもたちの声がうるさいという意見に対しては、当初、道路に面していた園庭の位置を変え、声が外に直接響かないように変更しました。



日当たりが悪くなると訴える住民のためには、敷地を掘り下げ建物の高さを抑えることで、日当たりの確保にも努めました。
こうした変更点は、実に7か所にも及びました。
住民たちは、自分たちの意見に耳を傾ける姿勢に好感を持ち始めたといいます。
さらに住民たちの心を動かしたのは、話し合いの場に建設予定の保育園の園長や保育士が率先して参加していたことでした。
園長の栗田怜子さんです。
栗田さんは保育園を建てたいという思いだけでなく、建てたあとに地域の仲間として迎え入れてほしいと訴えるため、参加を希望したといいます。

園長(当時) 栗田怜子さん
「いっぱい子どもを遊ばせたいし、お散歩に出て行ったら近隣の人に『今日も元気だね』とか『どこまで行くの』とか、そういう声をかけてもらって、地域の中でともに生きる子どもたち。
絶対いい保育園にしたいので、近隣のあたたかい応援も欲しいのですってお願いして。」

子どもたちは地域の中でこそ育まれると訴え続けた栗田さん。
その真剣さに、吉田さんたち住民も個人的な反対意見を言うのではなく、地域の将来像について話し合うようになっていったといいます。

吉田昌史さん
「地域的には(保育園を)持ってこられちゃ困るっていう意見は当然あるけど、もっと広域的には(保育園が)なきゃいけないという考え方が当然あるので、感情論だけで最初から最後まで(反対)っていうようなことを通しても、その意見は聞き入れないよね、普通。」

子ども
「わっしょい、わっしょい!」

保育園は住民の合意を得て3年前に開園。
今では地元の祭りに参加するなど、地域の重要なメンバーになっています。

住民
「かわいいね。」

地域住民と保育園との話し合いの道筋をつけた梅津さん。
保育園の建設問題は、あらゆる年代が共存する町への一歩だったと考えています。

まちづくり協議会 梅津政之輔さん
「ひとつひとつ地域の人との話し合いの中から生まれてくる、新しい公共意識じゃないかと思います。
子どもの声がうるさいというふうに思う人もいるけれども、子どもたちが元気に地元で遊ぶ姿を見るというのは、大人にとってもうれしいことなんじゃないですか。」

トラブル解決のカギは? 対話続けた保育園と住民

●今の例から参考になるポイントは?

そうですね、VTRに表れてましたように、話し合いの場をしっかりと、反対の理由を1つずつ吟味しながらも、当事者がずっと話し合って、変更を加えてきたということ。
その真摯な対応に、反対の人たちも、だんだん好感を持てるとありました。
その中で吉田さんのように、吉田さんは大きな声で反対と声を上げるって、反対っていうのは、私は日本ではなんかネガティブに捉える、そういう空気があることをちょっと懸念しているんですが、それは問題をみんなで共有するきっかけであると思うんです。
で、吉田さんの語るように、待機児童ですとか、少子化っていうのは大事なことだけど、自分のところは静かな環境にある。
だけど話し合い、それから園長さんの話の「地域の中に入っていきたい」、そういう思いが、異なる立場で話し合いをしているうちに、だんだん人って分かり合う。
そして最後にはおみこしのように担いでいく。
そういう中で、地域の将来図も見えてきている。
吉田さんもああいう中で、だんだん反対して悪い人、そうじゃなくて、そういう地域の今度は次のそういう、いろんなまちづくりの担い手になっていくっていうこともあるんですね、反対運動の中から。

●地域を担っていく人の存在は大事?

そうです。
そういうきっかけはこの反対運動から起こってくるかもしれない。
その反対の理由を一つ一つにはいろんな理由、私は先ほどの3世代、遊び場マップの変化で、生活が見えなくなっている。
みんな孤立化して、みんな悩んでいる、生活を。
反対は子どもの声が騒音って言うけど、それをきっかけにして、背後にはいろんな高齢化の問題とか、住環境の問題、住まい作りの問題、そういういろんなものが絡んでいる。
そういうものを、わたくしたちはこれから関係が分断されている中で、もう一度つむぎ合わせていくか、編んでいくか、そういうことが今、日本の現代社会の中では問われている。
子どものことの問題だけではなくて、高齢化の問題も絡んでいる。
そういう問題解決を、地域の中でも行なっていくということが非常に重要になってくる。
そういうきっかけに、反対の声が上がったところから始めていく、そういうことにできるかと思います。

●この問題を解決する一番のヒントは?

一番のヒントは、やはりさっきから何度も言いますが、話し合いをすること。
当事者が話し合いながら、その生活のことやなんかを含めて、地域の将来、高齢化、このままいったらどうなる、少子化、子どもたちが地域で育つっていうのはどういうことだ。
その話し合いの中で、個々の生活も含めて、具体的なリアリティーを持って語られてきた時に、なんらかのビジョンが。
そういうみんなが話し合ってる中で、だんだん1つの舟に乗っている感覚が出来てくる。
そうすると、方向性なり、なんらかが見えてくる。
いきなり大きなことはできない、いろんな問題も積み残しているかもしれないけど、しかし、方向、かじ取りができて、みんなでろをこいでいく。
そういう担い手は梅津さんでもあれ、吉田さんでもあれ、園長さんでもあれ、いろんな人がなりうると思います。

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