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No.35672014年10月20日(月)放送
公文書は誰のものか ~問われる1400万件の管理~

公文書は誰のものか
~問われる1400万件の管理~

問われる公文書管理 歴史資料をどう残すか

医療や福祉など、国民の健康に密接に関わる政策を担う厚生労働省。
省内の130万件の公文書管理を監督する、情報公開文書室の長良健二室長です。
3年前に公文書管理法が施行されたことを受け、今も省内の公文書の総点検を行っています。

厚生労働省 情報公開文書室 長良健二室長
「文書がどこに保存されてるかというのが、一目でわかるようになってます。」



文書管理に統一のルールを作り、歴史資料として重要な公文書については、すべて国立公文書館に移管することを定めた公文書管理法。
公文書の作成者が省内での保存期間が過ぎた文書を移管するのか、それとも廃棄するのか、あらかじめ設定しておくことが義務づけられました。
移管させなければならないと国が指定しているのは、法律の制定、条約の締結閣議の決定などの公文書。
こうした枠組みに入らない文書の価値をどう評価するのか、判断が難しいケースもあるといいます。
平成24年度に長良さんたちが移管したのは、年金積み立てに関する報告書や食品衛生に関する会議の議事録など324件。
まだおよそ3万件の公文書の価値を判断できていません。

厚生労働省 情報公開文書室 長良健二室長
「やっぱり文書量全体が多いので、それなりの分量があって。
なかなか組織として判断に迷うような書類も、特に昔の文書ではあるようです。」


歴史的価値のある公文書の保存を巡って始まった試行錯誤。
近現代史が専門の東京大学の加藤陽子教授は、日本はこれまで欧米諸国に比べ、公文書の管理に関する意識が低かったと指摘します。
沖縄返還の費用の負担を巡る、日本とアメリカの密約。
その外交文書は日本には保存されていません。
近年も防衛省で3万4,000件の秘密文書が、防衛省だけの判断で廃棄されていたことが分かりました。

東京大学 加藤陽子教授
「国民の信託を受けて、国がさまざまな活動をやっている。
その活動の記録がそもそも残されていなかったら、国民は生きた証しがなくなるわけです。
今までそれが出来なかったということで、国家的な損失は大きかったんじゃないか。」

公文書管理法では、重要な公文書が誤って廃棄されないための仕組みも設けられました。
各省庁が廃棄とした判断が正しいかどうか、内閣府の職員が審査。
それによって移管に変更することを可能とする仕組みです。
各省庁が廃棄とした公文書は、どのように審査されているのか。

内閣府の公文書管理課です。
年間230万件以上に上る多種多様な公文書を、4人で確認しています。
膨大な量を審査するため、文書の中身まで確認することはほとんどできないといいます。
判断の根拠としているのは省庁が作成した目録です。
ここには秘密文書扱いされていたかどうかなど、文書の詳細は記されていません。

内閣府 公文書管理課 小熊利彰さん
「(秘密文書だったか)特にわかりません。
それは歴史公文書かどうかというところに関して、特にそれを見て判断してないので全く載っておりません。」


平成24年度、歴史的資料として重要だとして国立公文書館に移管された公文書は1万件。
廃棄された文書は231万件に上りました。
各省庁が廃棄とした文書が、保存に変更されたケースはほとんどありませんでした。

どう残す歴史公文書 自治体の模索

一方、国に先駆けて独自に公文書の保存を進めてきた自治体もあります。
神奈川県は、県民の要望を受けて20年以上前から公文書の保存に取り組んできました。
県庁での保存期間が過ぎた公文書は、すべて県立公文書館がいったん引き取る仕組みを設けています。
その数は年間20万件。
その中からどの文書を歴史資料として公文書館で保存するか、13人の担当者がすべての文書に直接目を通して判断しています。
この日、保存することに決めたものの1つが、保健福祉局の文書でした。
神奈川県は、国の3倍以上の割合で公文書を保存しています。

神奈川県立公文書館 薄井達雄副主幹
「子育て支援という、現代的な非常に重要な課題についての新たな県の事業。
保存するということでいいんじゃないでしょうか。」

問われる公文書管理 歴史資料をどう残すか

国の公文書管理について、有識者会議のメンバーとして提言を行ってきた学習院大学の保坂裕興教授です。
国が重要な公文書の保存を徹底していくためには、さらなる体制の整備が必要だと考えています。

学習院大学 保坂裕興教授
「基本的な材料の公文書が失われてしまうことになって、過去に起こったことが検証できなくなるということが起こってしまう。
体制を増強していくということに取り組んでいかなければいけない段階だと思います。」

問われる公文書管理 歴史資料をどう残すか

ゲスト牧原出さん(東京大学教授)

●1,400万件の中から重要なものを選ぶのは大変な作業では?

確かに、公文書管理法が出来て、各省を通じて統一的なルールが出来たっていうことは、非常に大きな前進だと思います。
ただ、先ほどの神奈川の県立公文書館のように、一件一件を公文書館の職員が見るという話じゃないと。
となると、やはり歴史的に重要な公文書をきちんと拾い上げることができるのか、これはまだまだ課題は大きいと思います。

●何をもって重要とする?

これまで、やはり公文書として残ってきたものは、例えば閣議決定の最終文書であるとか、法律として最終的に残ってきたものだとか、あるいは途中の段階でも、法律の条文の案であるとか、そういうものが多いですね。
それに対して歴史的な検証に必要なのは、どうしてそういう案が出来たかっていう、そのプロセスを示す文書です。
ですから、ある種のメモみたいなものであるとか、打ち合わせのときの決定された資料であるとか、そういったものも大事なんですけれども、これが残っていかないと、なかなかやはり歴史的に検証するのは難しいと思います。
(経緯が大事?)
そうなんですよね。
どうしてそうなったかということを示すためには、先ほどあったように、これまでのカテゴリーに入らないような文書というものも、きちっと残していくという、やはりそういう仕組みを作っていただきたいと思います。

●公文書管理が徹底されていない背景には何がある?

やはり日本の場合には、沈黙は金であるとか、しゃべらないとか、残さないっていう組織文化があって、やはりそういう文書を残しにくいというのがあったと思います。
それからやはり、行政官というのは、自分が行ってきたことは全体の部分であって、それは部分であるから、それはあまり重要でないんだということで、やっぱり残そうとしないっていう、そういう傾向があったということもあります。
それから、これまでも過去の政策決定が重要な省庁で、やはり公文書を保存していたということもあるんですね。
ただ、それはあくまでも行政の執務のためであって、国民のためという意識がなかった。
それによってやはり資料が残りにくかったというのがあると思います。
(本来は一つ一つの決定が歴史を作っていて、その文書というのは行政官のものではなく市民のもの?)
そうですね。
やはり、それは民主主義の伝統というものであって、それをこれから作っていくということは課題なんだと思います。

●誤って重要なものが廃棄されないかという懸念もあるが?

そうですね。
確かに公文書管理法が先に制定されていたということで、その枠組みの中で、特定秘密を扱うのは大きいと思いますけれども、その特定秘密がきちんと保存されるかどうかということは、これからしっかりと監視していかなければいけないと思います。
(そのためには第三者的なまなざしが大事?)
やはり第三者機関をしっかり作ってですね、それを監視していくということですね。
さらには、マスメディア、国民がやはり監視していくということも、欠かせないと思います。

公文書は市民のもの フランスの理念

200年以上前から、公文書の保存と公開に力を入れてきたフランスです。
先月(9月)、歴史教育の一環として公文書館の見学会が行われていました。
週末に行われたこの見学会には、1万2,000人近くの市民が訪れました。

見学に訪れた人
「公文書は我が国の記憶そのものですね。
文書には国を築き上げた人々の歴史が詰まっています。
とても感銘を受けます。」


見学に訪れた人
「文書が捨てられたら過去の出来事が失われてしまう。
文書を大切に残していくことは、すばらしいことです。」

フランスは公文書の管理に日本の3倍、年間およそ60億円を費やしています。
去年(2013年)は、300億円以上かけて国内3か所目となる公文書館を建設しました。
こうしたフランスの公文書管理は、市民がそのコストを引き受けることで構築されてきました。

主権は国ではなく国民にあるとした、18世紀末の人権宣言。
以来、歴史的価値を持つ公文書は国だけのものでなく市民のものだという意識が形成されてきたのです。



国立古文書学院 ブノワ・デルマス名誉教授
「人権宣言によって、民主主義の基礎が築かれました。
市民が国家の文書にアクセス出来るようになり、民主主義的な権利を手に入れたのです。」


重要な公文書を適切に保存していくためにフランスが重視しているのは、文書管理の専門職・アーキビストの育成です。
アーキビストになるためには、法律や国家制度の歴史など、数年間、専門教育を受ける必要があります。

国立古文書学院 校長
「みなさんは将来、国の根幹を担っていくのです。」

あらゆる分野の公文書の価値を的確に評価できるようになるためです。


フランス 公文書管理局 エルヴェ・ルモワンヌ局長
「アーキビストはハイレベルな情報の科学者、情報の歴史家なのです。
将来どんな文書が必要になるかを判断するという、圧倒的な重い責任が彼らの肩にかかってくるのです。」


養成されたアーキビストのうち800人が、政府の公文書管理局から省庁などに派遣されます。
各省庁に所属しているアーキビストとチームを組み、第三者の視点で文書管理の徹底を図ります。
各省庁で誤った廃棄が行われていないか、厳格に判断するのです。

アーキビストのマリーエロディ・ブノワさんです。
ブノワさんは、厚生労働省の職員に文書管理について指導しています。
どのような公文書が歴史的に意味を持つのか、アーキビストには前例にとらわれない柔軟な発想で判断を下すことが求められます。
この日ブノワさんが注目したのは、職員がいったん廃棄とした公務員試験に関する文書でした。

アーキビスト マリーエロディ・ブノワさん
「この文書は公務員の学力レベルの研究に役立つ貴重な資料になるでしょう。」

合格者の点数が記されたこの文書は、国家公務員の学力の変化を測る統計資料として大きな価値を持つと判断したのです。

指導を受けた職員
「アーキビストの指導がなければ、重要な文書を廃棄してしまうところでした。」

アーキビスト マリーエロディ・ブノワさん
「現場で職員にしっかり説明して指導することによって、重要な文書が廃棄される可能性はほとんどなくなります。」



さらに別のアーキビストが、ブノワさんの判断を異なる視点でチェックします。
フランスで歴史的な価値を持つとして各省庁から公文書館に移管されるのは、公文書全体の20%にも上ります。

フランス 公文書管理局 エルヴェ・ルモワンヌ局長
「国民が情報を知りたいと思えば、入手出来るようにする。
これは我々の民主主義が機能する上で非常に大切なことです。
そのためには公文書管理をめぐるコントロール体制を築き、必要な予算やコストを負担することも重要となるのです。」

公文書管理 何が問われているのか

●公文書を巡る日本とフランスの意識の違い

まずフランスは、日本と同じで単一主権国家であって、連邦制の国家じゃない。
アメリカやカナダやオーストラリアは連邦制ですけど、日本やフランスは違います。
その場合には、やはり中央政府に非常に大きな大量の公文書がやはり集まるんですね。
これを処理するためにはそのための仕組みが必要で、それが今、フランスであったように、専門家=アーキビストが各省庁に入って、そこで文書をチェックする、何を残すか決めていくという仕組みなんです。
ただフランスでも、やはり第2次世界大戦でドイツに占領されたりとか、いろいろなう余曲折がある中でこの仕組みを作っていって、それが今機能しているという意味では、長い時間をかけて、この仕組みを作っています。
日本も、やはりこのフランスから長い時間をかけて、そういう仕組みを作るということを学ぶべきなのが1つと、それからやはり長い時間、例えば200年かけて、公文書の仕組みを作るということの背後にあるのが、やはり民主主義の伝統なんですよね。
これも日本はフランスから学ぶべきところが多いと思います。
(はっきりと民主主義を機能させるためには、公文書がきちっと保存・管理されなければいけないという意識が徹底している?)
そうですね。
国民があれだけ関心を持っているわけですからね、それは日本の国民もそういうところを学んで、ぜひ公文書管理に関心を持っていってほしいと思いますね。

●アーキビストのような専門家が省庁にいることが当たり前になるべき?

やはりきちんとした移管をするためには、その早い段階から、文書の選別が必要です。
そこには、やはり専門家が入らざるをえないんですよね。
ただ、どういう専門家が必要かとなったときに、まだ日本は体制がぜい弱です。
専門家の数が少ない。
それだけじゃなくて、やはり彼ら、彼女たちは、各省と交渉するための交渉力がなきゃいけないし、そのために専門家として尊敬される人たちじゃなきゃいけない。
その人たちをこれから時間をかけて育成していくということが、大事だと思います。

●日本にとり、公文書の管理が適切に行われる意味とは?

やはり低成長時代になって、政策決定が難しいような問題がすごく増えていると思うんですよね。
もう年金とか、財政だけじゃなくて、環境問題、それから災害とか、安全保障。
こうした領域に日本がぶつかるというのは、これはもう日本は世界のフロントランナーであるわけで、その日本がどうして決めたかということは、世界にとっても意味があるし、そしてなんといっても次世代に対する責任、説明責任ではないかなと思います。

●次世代の人たちが検証できるようにしなければいけない?

そのためにいろいろ検証したうえで、新しい問題に次世代の人が取り組んでいく。
それを残す責務が、私たちにはあるんじゃないかと思います。

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