クローズアップ現代

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No.35532014年9月18日(木)放送
iPS細胞が変える“薬の常識” ~最前線からの報告~

iPS細胞が変える“薬の常識” ~最前線からの報告~

“有効な治療薬を” 難病患者の願い

和歌山市に住む、小学2年生の浦田さくらさんです。
全身の骨を形づくる軟骨が出来ず、手足があまり成長しない難病、「軟骨無形成症」を患っています。

浦田さくらさん
「シュワシュワほしいな、アイス。
買ってきてほしかったなあ。」

母親のひろみさんは、さくらさんが生活しやすいよう工夫を凝らしています。
この病気は合併症を伴うことが多く、さくらさんも中耳炎や睡眠時無呼吸症候群を患っています。


この病気の患者には、これまで手足を伸ばすための外科手術が行われてきました。
骨をいったん切断し、再生力を利用して少しずつ伸ばすというこの治療。
患者には大きな負担がかかります。
ひろみさんは、痛みのない新たな治療薬の開発を待ち望んでいます。

母親 浦田ひろみさん
「薬があったらね、今の不便な生活がすごい改善されるので。」

難病に新薬を iPSで変わる“常識”

京都大学iPS細胞研究所です。
今年(2014年)初め、iPS細胞を使った治療薬の開発に向けた本格的な議論が始まっていました。
妻木範行教授です。
iPS細胞の生みの親、山中伸弥教授のもとで研究してきました。

京都大学iPS細胞研究所 妻木範行教授
「もし病態に効くのであれば、プロポーションが改善される。」





京都大学iPS細胞研究所所長 山中伸弥教授
「準備を進めたほうがいいんじゃないかな。」




妻木さんはまず、病気の状態を細胞レベルで再現することから始めました。
患者の皮膚から作ったiPS細胞をもとに軟骨を作ります。

「これが軟骨になる前の細胞の塊です。」

患者の皮膚からiPS細胞を作ると、病気を起こす遺伝子はそのまま引き継がれます。
そのiPS細胞を変化させると、病気の状態を体の外で再現できるのです。


ひと月半、培養して出来た軟骨の組織です。
正常な軟骨ならば試薬をかけると赤く染まりますが、この組織は染まりません。
病気の状態が再現できていました。
病気を再現する細胞が手に入ったことで、治療薬の開発が効率的にできるようになります。
これまで薬を開発する際は、マウスなどの実験動物で効果を確認してきました。
しかし、マウスで効果があってもヒトでは効かないということがしばしばありました。
そこでヒトから作ったiPS細胞を使い効果が確認されれば、マウスの実験を省略できると期待されます。

京都大学iPS細胞研究所 妻木範行教授
「これまでにない新たな手法が加わったということだと思います。」



病気を再現した細胞をたくさん作ることができるため、薬の候補を見つけやすくなると考えられています。
原因物質が特定されていなくても、さまざまな物質を入れて効果を確かめることができるのです。

妻木さんが繰り返し実験をしたところ、意外な物質で効果がありました。
血液中のコレステロールの値を下げる薬、スタチンです。
生活習慣病が引き金となる心臓病などの治療薬として広く使われていますが、骨粗しょう症の患者の骨の量を増やす効果があると聞いて試してみました。

病気を再現した軟骨の細胞にスタチンを入れておよそ2か月間培養。
試薬をかけると赤く染まり、正常な軟骨の組織に育っていることが確認されました。

京都大学iPS細胞研究所 妻木範行教授
「こんなにきれいに治すとは思わなかったですね。」

動物でも効くのか念のため確認したところ、ここでも効果が出ました。

「この子ですね。
この子とこの子が病気のマウスで。」




病気のマウスにスタチンを2週間投与。
麻酔をかけて骨の長さを測ります。

「9.266ミリです。」

「正常の範囲ではある?」

「範囲ではありますね。」

スタチンを投与した右側のマウスは左側の病気のマウスと比べ、体全体が成長しています。
足も正常なマウスと変わらない程度にまで伸びていました。

京都大学iPS細胞研究所 妻木範行教授
「骨が伸びましたので、その病気に対して効く可能性がある。
iPS細胞があるからこそそういうことが可能になった。」

山中伸弥教授に聞く iPS創薬の可能性

ゲスト山中伸弥さん(京都大学iPS細胞研究所教授)

●薬の開発に向けた今回の発表のインパクトは?

私は妻木教授から、今回の成果といいますかデータを最初に見せてもらった時は、自分自身がiPS細胞を作ったのと同じくらいの衝撃というか。
これまで製薬業界といいますか、薬の開発にばく大なお金が費やされ、ばく大な年月が費やされてきた中で出来てきた、なんといいますか既成観念、概念といいますか、マインドセットですね、それを変えないとですね。
その中で今回の妻木さんの成果というのは、マインドセットを変えることができる大きな具体例といいますか、成功例になる可能性がありますので、それが僕は本当にうれしかった。

●製薬メーカーの従来のマインドセットが壁になっていた?

これまでは、分子を見つけて、その分子に作用する薬を見つけるというマインドセットだったのが、今回は分子じゃないと。
病態、症状を再現する、そしてその症状を抑える薬がないかという探索をおこなう。
全然違う。
前は分子が元だったのが、今回はiPS細胞を使って症状を再現すると。
その症状の背景にある細かい分子機序は分からないことが多いんですが、そういうことはとりあえず置いておいて。
ともかく症状が抑えられたら患者さんにも効く可能性が極めて高いんですから。
そういうかなりのマインドセットですね。
もう1つ今回の妻木さんは、マウスから、動物からではなくて、人間の患者さんの細胞から入ったというのがこれも大きなマインドセットです。
彼は人間の細胞で効くということを見つけてから、一応ネズミでも効くということを証明しました。
しかし本当を言うと、もうネズミのデータはなしでもいいんじゃないかなと。

山中伸弥教授に聞く iPS創薬の課題

ただ、治療薬の開発にはまだ高いハードルがあります。
スタチンは大人に投与することを前提としているため、子どもの安全性に関するデータがほとんどなく、重い副作用が起きるおそれがあります。
妻木さんたちは、子どもに投与する場合の量や方法を慎重に調べたうえで2年以内に臨床試験を始めることにしています。

ゲスト山中伸弥さん(京都大学iPS細胞研究所教授)

 

今、世に出回っているスタチンというのは、あくまでも大人のコレステロールを下げるという目的で最適化された薬ですから、これを軟骨無形成症の子どもさんたちが内服で服用してしまうといろんな副作用が起こって、さらに効果はほとんど期待できないと思いますので臨床研究で投与法を含めて最適化していく必要がまずあります。

●再現された病態は患者の病態とどこまで同じ?

これは非常に大切ですが非常に難しい問題で、軟骨の場合は比較的説得力があるといいますか、軟骨細胞という極めて均一な細胞の病気です。
比較的、体外で再現させやすいというふうに考えています。
しかし一方、やはりより複雑な神経系の脳の中の出来事であるとか、そういったものになってくると、本当にiPS細胞で体外で再現したものと実際の患者さんで中で起こっているものがどれぐらいリンクするかというと、これは今後もデータを積み重ねていく必要があります。

●どういう病気に適応が可能?

患者さん由来のiPS細胞を使って症状を再現できるという病気というのが条件になります。
ですから、単一の遺伝子疾患といいますか、1つもしくは非常に少ない数の遺伝子異常で起こる病気はいわゆる難病希少疾患といわれるものは多くが対象になると思いますし、それから、より一般的なアルツハイマー病であるとか、そううつ病、そういった病気でもiPS細胞を使うと症状の一部が再現できるということが分かってきていますので、やはりiPS細胞を使った創薬の対象になると考えています。

アルツハイマー病 iPSで進む新薬開発

iPS細胞によって病気の仕組みの解明が進められている、アルツハイマー病です。




脳の神経細胞の研究に取り組む、井上治久教授。
患者の皮膚からiPS細胞を作り、アルツハイマー病になった神経細胞を再現することに成功しました。



明るい黄色に見えるのは、たんぱく質、アミロイドβ(ベータ)。
これがたまることで、脳の神経細胞が死滅すると考えられてきました。



ところが、複数の患者のiPS細胞から神経細胞を作り詳しく分析したところ、人によって状態が異なることが分かってきました。
アミロイドβのたまり方に、少なくとも3つのタイプがあったのです。


京都大学iPS細胞研究所 井上治久教授
「アミロイドβが中に蓄積しているのではないかという仮説を持っていた、それは違っていたと。
もしかするともっと細分化できるかもしれません。」



この結果は、アルツハイマー病の新薬開発を目指す企業にも大きな影響を及ぼしています。

「これがT-817MAになります。」

この企業が、新薬の候補として開発を進める、T-817MA。
動物の神経細胞を使った実験です。





アミロイドベータを加えると、通常、神経細胞は死滅してしまいますが、T-817MAを投与すると、死なずに活動を続けることが確認されました。
iPS細胞の技術は、創薬に関わるさまざまなプロセスに変化をもたらすと期待されています。


薬として承認されるには、通常、健康な人に投与し、安全性を確かめます。
iPS細胞を使えば、リスクを伴うヒトへの投与は、将来的に不要になる可能性があると考えられています。
さらにこの企業では、iPS細胞を使って効果が期待できる患者を絞り込むことができるとしています。

患者に投与して効果を確かめる臨床試験。
一部の患者に効果が出ても、あまり効果のない人が多ければ治療薬としては認められません。
そこでこの企業では、患者のiPS細胞を作成し、病気の状態を再現。
効果があった人にどんな特徴があるのかを特定します。
そして、その特徴を持つ人を対象とした治療薬として、承認を受けようとしています。
計画では、7年後の販売を目指しています。

富士フイルム 戸田雄三常務執行役員
「アルツハイマー病というひとつの大きなくくりではなくて、患者さんの分類ができるというのが大きな目標。
薬の作り方を根底から変えていく。
新しい革命的な手法になっていく。」

iPS細胞は“薬の常識”を変えるか

●アルツハイマー病の薬の開発に大きな影響を与える?

非常に大きいです。
iPS細胞を使うと、その10人全員からiPS細胞を作って、症状を再現しておくことができるんですね。
そうすると、この10人のうち誰にこの薬が効く、誰に副作用が出る、そういった予想があらかじめできるんじゃないかと。
こういった個々の患者さんごとに薬を変えるっていうのは、よくテーラーメード医療とかですね、テーラーメード創薬、これもまた、マインドセットの変更が必要で、多くの人は、そういったテーラーメード医療っていうのは理想であって、実際にはコストの面とか、まだまだ夢の話だというふうに、そんなマインドセットがあると思うんですが、テーラーメード、一人一人とまではいかないかもしれませんが、グループ分けをしたイージーオーダーだったらできると。
もうiPSで十分できると、そんなふうに期待しています。

●途中で開発が頓挫してしまうケースがかなりあったのでは?

過去に…これからもですが、今のやり方だったら、途中で開発が止まってしまう薬剤が、最後までちゃんと承認されるまでいけるような薬も出てくるんじゃないか、そんなふうに期待しています。

●毒性(副作用)の評価について

本当は毒性がないのに毒性ありと評価される例、逆に本当は毒性があるのに、ないと見過ごされてしまう例、そういうものを減らせるんじゃないかと。
臨床研究っていうのはせいぜい1,000人。
そうすると1,000人では出なかったことが、1万人飲むと、1人、2人に非常に重篤な不整脈が出てしまう。
でもその薬は、従来の規制の考えだと、もうだめなんですね。
iPS細胞を作って、心臓の細胞を作って、その後、同じ薬を見たら原因が解明できる可能性、十分あると思うんですね。
そしたら副作用が出る人をあらかじめ除外して、こういう人には投与したらだめですよ、大部分の人には非常にいい薬ですが、この、ある一部の方は絶対だめです。
そういったことも僕は十分ありえると思っています。

●製薬業界の姿勢を大きく変えるための鍵は?

iPS細胞、やっぱり特殊な細胞です。
ほかの細胞の培養経験がある方でも、iPS細胞っていうのは、いきなり細胞を渡されてもほぼ確実に失敗します。
その、まず普及に非常に時間がかかります。
だから非常に地味な、ある意味地味な使い方で、決してiPS1個あると、まあ駅伝でいうと、よく山で1人で10人抜きぐらいする選手いますが、ああいう活躍を僕はiPS細胞、創薬に関しては期待していません。
各ステップでじわじわ効いて、全部合わせると今まで勝率が1割だったのが2割に上がると。
そういうトータルでの効果を期待しています。
大切なのは着実に前に進むことになると思いますから、その前に進む原動力として、このiPS細胞研究所はなっていきたいと思いますし、短期間で諦めたり、短期間で成果が出ないから、だめだというふうに決めつけないで、これからも頑張っていきたいと思います。

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