クローズアップ現代

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No.35462014年9月4日(木)放送
道は険しい? “減塩社会”への挑戦

道は険しい? “減塩社会”への挑戦

減塩しているはずなのに 家庭の苦難

辻めぐみさん
「こんにちは。」

埼玉県に住む辻めぐみさんです。
夫の幸雄さん。

健康そうですが、6月の健康診断で高血圧と判定されました。
それ以来、食塩やしょうゆなどの調味料は以前の半分近くにまで減らす工夫を続けています。

辻めぐみさん
「ちょっと気にして(塩分を)減らす。」

そこで、この日の夕食にどれくらいの塩分が入っているか、管理栄養士に調べてもらうことにしました。

「いただきます。」

献立はみそ汁、パスタサラダ、ソーセージとかぼちゃの煮物。
おいしそう。

辻めぐみさん
「(塩加減)どう?」

夫 幸雄さん
「うん。」

辻めぐみさん
「にんじん、ゆでるときに塩入れなかったし、パスタもゆでるとき(塩を)入れなかった。」

では、幸雄さんの食べた料理に何グラムの塩分が含まれていたでしょうか。

夫 幸雄さん
「4グラムくらいとっているんじゃないですかね。」

結果は予想を上回る5.8グラム。
高血圧患者の摂取目標とされる1日6グラム未満の上限に、夕食だけでほぼ達してしまいました。

夫 幸雄さん
「もう1日分ですね。
気をつけて(塩分を)少なめにとっているかなと思っていたので。」

調理の際、塩の量を気をつけているはずなのに、なぜ減らないのか。
その理由は、食材にありました。
料理で使った食塩は僅か0.7グラムでした。
それに対し、しょうゆやマヨネーズなどの調味料に含まれる塩分が合わせて2.4グラム。
さらにソーセージやハムなど加工食品に2.7グラム含まれていました。

実は日本人は、塩分の7割を食塩そのものではなく、調味料を含めた加工食品などからとっていることが分かっています。
チーズにレトルトカレー、そして即席麺。



加工食品には、味付けだけでなく保存のためにも塩分が使われています。
加工食品を使う以上、調理の工夫だけで、十分な減塩をするのは難しいのです。

辻めぐみさん
「子どもも好きなので、よくウインナーとか(加工食品を使います)。
頑張れば(加工食品を使わずに)できなくはないですけど手間がかかってしまう。」

家庭での減塩がなかなか進まない中、国は来年(2015年)4月から塩分の摂取目標量を厳しくする方針を打ち出しています。

男性の場合、これまで9グラム未満だった目標を8グラム未満に引き下げます。
国は減塩を社会に浸透させるため、家庭にとどまらず食品業界への働きかけが重要だとしていますが、本格的な減塩対策はこれから検討するとしています。

厚生労働省 健康局 がん対策・健康増進課 河野美穂さん
「出回っている食品の質を変えていくことができれば、結果として健康や食事に関心のある方もない方も、実際、食塩の摂取量が減るという結果につながっていく。
(減塩の取り組みは)継続して行っていく必要がある。」

どう減らす 加工食品の塩分

一方、食品メーカーの中には率先して減塩商品の開発に取り組む企業が現れています。
この大手調味料メーカーでは5年前から、塩分を半分に減らしただしつゆなど、減塩を前面に出した商品を販売してきました。
開発にあたり、塩分を減らしても味わいを保つために、さまざまな試行錯誤を繰り返してきました。
減塩で失われる塩気は塩化カリウムで補います。
そのままでは独特のえぐみが出てしまうため、ポリグルタミン酸という食品添加物を加えます。

使う材料の種類は2倍に増えました。
香りや風味を引き出すためのコストが影響し、従来品と比べて、販売価格が1.5倍に上昇しています。



ヤマキ 商品開発部 辻大樹さん
「(食塩の)減らした分を補わないといけないので、補うものは食塩より高いものになってしまう。
どうしてもおいしいもので減塩となると高くなる。」


価格のアップは商品の売れ行きにも影響します。
このスーパーで売れた減塩のだしつゆは先月(8月)、18本でした。
減塩ではない他社のだしつゆの4分の1程度。
減塩のアピールは消費者にはいま一歩です。


「(減塩を)気にしてはいるけど、味がおいしいか分からないし。」


「ふだんの生活はそこまで(減塩は)気にしない。」

「カロリーオフとかは買います?」


「買います、そこは気にして買います。」

減塩の市場規模はカロリーを減らした商品と比較すると8分の1にとどまっています。
ほかの健康食品と比べても消費者の支持を、十分に得られていないのが実情です。
どうすれば減塩商品を一層普及させることができるのか。
このメーカーでは来年から厳しくなる食塩の摂取目標をビジネスチャンスと捉え、他社にも呼びかけて食品業界全体での減塩市場開拓に取り組んでいこうと考えています。

ヤマキ 家庭用事業部長 小澤真さん
「我々のいちメーカーの力というのは調味料で一部でしかないことを認識してますので、我々はメーカーを束ねてそういう人たちと一緒に国民の健康に貢献していくことを考えなければいけない。」

世界的に高水準 日本人の塩分摂取

ゲスト佐々木敏さん(東京大学大学院教授)

●国際標準の塩分摂取量調査 男性14グラム・女性11.8グラムという結果について

やっぱりね、驚きましたよね。
今までの調査方法ですと、どうしても少し少なめに出るということは、我々は知っていました。
けれども、それがどれぐらいなのか、はっきり分からなかった。
それで今回初めて、食べた食塩が尿から捨てられると。
汗に一部分出ていきますけれども、そこを利用して、尿をすべてためるという方法を全国的に用いて、そして正確に量りました。
しかも、汗に出ていくので、一部はですね、汗の最も少ない、最も寒い2月に全国的に、全部調査をするという、徹底的な方法を用いて、この値が出たと。
やはり、ああ、こんなに深刻だったなというふうに、我々も改めて思いましたね。

●これほど摂取量が多いのはなぜか?

食塩、そして関係するのは高血圧が中心ですね。
緊急性がない。
まあ、明日やろうみたいな感じがあるかもしれません。
そしてそれ以外に、いろいろな健康に関係するものが、どんどんどんどん増えてくる。
そのために、食塩のほうにターゲットというか、意識が集中してこなかったのかなというふうに思いますね。
それともう1つ大きな問題があると思うんです。
それは、高血圧になって、血圧が上がったから、減塩をというふうに考える人が多いんじゃないかなと。
(そうではない?)
いや、違います。
あのね、血圧というものは、大人になると、もうそのあと、ほぼ直線的に上がっていくんですね。
(20歳ぐらいから?)
そうです。
(上がっていく?)
そうなんです。
ところが、多くの方は50歳、60歳ぐらいになってから、こう、上がっていくんじゃないかなというふうに考えられがちなんですが、それは違います。
20、30、40、直線的に上がってきて、ある日、高血圧と診断されるだけなんですね。
その意味では、できるだけ早くから減塩をして、その血圧の上昇が緩やかになるように持ってゆくという必要がある。
なかなかこれが伝わってこなかったんだろうなというふうに思います。

●人間が必要とする塩分はどれくらいか?

多く見積もっても、3グラム、1日当たり3グラムまでですね。
そして、5グラムまでにとどめれば、高血圧にはほとんどかからないのではないかというふうに考えられています。

●減塩が大事と思っても、しょうゆをかけてしまうこともあるが?

いや、それはもう、そのとおりで、お塩はおいしい。
(おいしい?)
おいしいものです。
必要なミネラルですね。
ですから人間はお塩をおいしく感じるように、舌が出来ています。
お塩だけですね、すべてのミネラルの中で、おいしいと感じるのは。
あとのカルシウム、カリウム、マグネシウムを含めて、すべてのミネラルは苦みを感じます。
ナトリウムだけが、おいしく感じる。
しかも食べたナトリウムは、体の中にすべて吸収、ほぼすべて吸収されて、そして尿から捨てられるんですけど、それまでに何回も体の中で丁寧に使って、それから捨てるというほど、貴重なミネラルであったというわけですね。
だから、やはりおいしいんです。

●容易な塩分入手 家庭でのコントロールができない?

そのとおりですね。
もともとはおうちでお漬物漬けたり、おみそ汁作ったり、その主導権を主婦が持っていた。
ところが、今は出来たものを買ってくる。
そうなると、お塩を調整する主導権は、家庭から、食品企業に移ってしまったというのが現状であるというふうに思います。

国ぐるみで減塩 イギリスの試み

ロンドン市内にあるごく普通のスーパーマーケットです。
店には塩分を減らして作られたさまざまな加工食品が並んでいます。

例えば、この食パンに含まれる塩分は1グラム。
日本の標準的なパンに比べると0.3グラムほど減塩されています。



こちらのトマトケチャップの塩分は1.8グラム。
日本の製品と比べると半分近くも減塩。
こうした塩分を減らした商品が普及することでイギリス人の食塩摂取量は8年間で1.4グラム減少しました。

男性
「味が変わったなんて全然わからなかったよ。」

女性
「気が付かなかったよね。」

男性
「塩味のこと?」

女性
「ええ。」

男性
「全然。」

国民が気付かないうちに進んだ加工食品の減塩。
そこにはイギリス政府が主導した減塩政策が深く関わっています。
政府は食品メーカーに対し商品ごとに減塩する数値を定め、その達成を求めました。

こうした目標値を85種類にわたって設定。
あらゆる食品業界を巻き込むことで減塩を進めました。
社会を挙げての減塩で国民の健康と財政を圧迫する医療費の削減、一石二鳥を狙ったのです。
しかし当初、食品業界は薄味による消費者離れを懸念していました。
そこで、業界が受け入れやすい減塩方法を、科学者グループが政府に提案します。
その方法とは塩分を時間をかけて段階的に減らすという作戦でした。

塩と健康 国民運動(CASH) クレア・フェランドさん
「人間はたった6週間で薄味にも慣れてしまうという研究があります。
少しずつ減塩すれば誰も気付かず、消費者離れは起きないと考えたんです。」

段階的に塩分量を減らすという提案に多くの業界が賛同しました。
その1つ、大手パンメーカーで作る業界団体です。
イギリスで流通するパンの8割を製造しています。
この団体では、塩を3年間で10%減らす計画を立てました。
この計画に従い各メーカーが取り組んだ結果、目標どおり塩の量を1グラムまで減らすことができたのです。

ベーカーズ連盟 会長 ゴードン・ポルソンさん
「この方法なら達成できると思いましたよ。
『時間をかけて少しずつ』というアイデアが政府に協力するカギになったんです。」


ほかの食品業界でも同様のやり方で減塩を進め、次々と目標を達成していきました。
国を挙げての減塩政策を進めたことで心臓病などの患者が減り、医療費が毎年およそ2,600億円削減できたとしています。

塩と健康 国民運動(CASH) クレア・フェランドさん
「作っている加工食品の塩を少し減らすだけで、こんなに医療費を削減できるんですから、費用対効果はすばらしいですよね。
食品業界には彼らが作った食べ物で国民が健康的に暮らせるようにする、企業としての社会的責任があると思います。」

子どものうちから減塩 学校給食で一斉に

日本でも、減塩を社会で取り組む動きが始まっています。

「いただきます。」

その現場は、学校の給食です。
広島県呉市では、多くの小学校で給食に含まれる塩分を一斉に下げています。
取り組みを始める前、1食当たりの塩分量は平均3.1グラムでした。
それを国の基準を参考に2.3グラムまで下げるという目標を立てました。

阿賀小学校 校長 山下伸一さん
「子どものうちから(減塩を)やっていくと大人になってもそういう生活ができるのではないかと思っています。」



目標達成のため加工食品に対してさまざまな工夫を行っています。
例えば、小分けのマヨネーズ。
容量が少ない製品に替えることで全部食べても0.1グラムの減塩になりました。
さらにドレッシングやふりかけは加工食品をやめて手作りすることで塩分を減らしました。

こうして毎年0.2グラムずつ塩分を下げることで、子どもたちが給食に違和感を持つことなく目標に近づけることができました。

「家のごはんとどちらの味つけが好き?」

子ども
「給食のほうが好き。」

「なんで?」

子ども
「味がおいしい。」

阿賀小学校 栄養教諭 山本奈緒美さん
「給食でもそんなに塩辛くないよということで(家庭でも)言ってほしいなと思っています。
そうしたら家の味も薄くなるんじゃないかと思います。
親もおじいちゃんもおばあちゃんも皆さんが薄味に慣れるということですね。」

実現できるか“減塩社会”

●イギリスの成功は食品産業を巻き込み、じわじわとやったため?

そうですね。
命を支えるのが食品産業であるという、その意識がとても大切だと思いますね。
どうしても僕たち、これまで消費者のほうも、命を支えるとか、健康を支えるというと、お薬と医療の産業ではないかというふうに考えますが、それは病気になってからのお話です。
それまでが大切。
それに対して、食べ物は毎日、一生食べ続ける。
しかも全員が食べ続ける。
ここが重要ですね。
だから、食品産業さんというのは、命を支える、非常に大切な産業であるということだと思います。
そして、そのカギはやっぱり、段階的に、そしてゆっくりと、いつのまにかということができるのも、食品産業さんの、食品産業の強みじゃないですかね。
(気が付かないよう自然にやらないと長続きしない?)
そのとおりです。
そしてそれが、減塩の健康効果のカギだと思います。

●減塩商品はコストが高く売れない これは変えられるか?

これは卵とニワトリでしょうね。
消費者が支持しなければ売れない。
売れないと高い。
けれども、買い始めたら、それはマーケットとして、安くなるんじゃないですか。
やはり消費者が支持をすることだと思いますね。
そして、塩辛いものがおいしいというのは、思い込みにすぎないのではないかと。
もちろん少しのうまみ、それは大切ですけれども、それが必要じゃないかなと。
そうするとやっぱり、食べ物というのは、おいしく、楽しく、そして正しくですよね。
この正しくの部分が減塩で、それに強調され過ぎではないかと。
けれども、薄くすることによって、食べ物の味をもっと細やかに感じることができます。
したがって、少しのお塩をうまく使うことで、このおいしく、楽しく、正しくが、すべて成立する、そうなって、そういう社会が出来てくれたらいいなというふうに私は思いますね。

●来年4月から変わる目標摂取量 減塩社会を実現しなくてはいけない?

はい、そのとおりですね。
日本も徐々に下げてきました。
いけると思いますよ。
みんなで、やっていきましょうということですね。
(政府・産業・消費者、3者の連携が大事?)
そのとおりだと思います。

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