クローズアップ現代

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No.35402014年8月26日(火)放送
突然バスが暴走 ~見過ごされる運転手のリスク~

突然バスが暴走 ~見過ごされる運転手のリスク~

突然、バスが暴走 運転手を襲う異変

今年(2014年)3月、午前5時過ぎ。
北陸自動車道でバスが大型トラックに衝突した事故。
乗客の男性と運転手が死亡、26人が重軽傷を負いました。
事故の原因は運転手の意識消失。
取材を進めると、こうした事故が全国で相次いでいることが分かってきました。

名古屋市で起きた事故の一部始終を捉えた、車載カメラの映像です。
乗客11人を乗せて住宅街を走る路線バス。
突然、運転手の体が窓側に傾き、意識を失いました。


バスはセンターラインを越えていきます。

乗客
「えっ、どうしたの?
どうしたの?」

乗客の声にも運転手は反応しません。

乗客
「どうした?」

乗客
「意識がない。」

暴走を続けるバス。
4台を巻き込み、3人が負傷しました。
48歳の運転手。
意識を失った原因は、胃の腫瘍からの出血でした。

なぜ、こうした事故が相次ぐのか。
私たちはバス会社が国に提出した事故の報告書を入手。
運輸業界の健康管理に詳しい複数の医師などと分析しました。
すると、運転手の多くが事故につながりかねない、ある健康リスクを抱えながら乗務を続けていたことが分かってきました。

北里大学医学部 川島正敏医師
「血圧の高い方が多いですね。」




高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満。
放置すると血液の流れに障害をもたらし、脳や心臓の疾患につながる、死の四重奏といわれる症状です。
不規則な生活や運動不足の人に起こりやすいとされています。


北里大学医学部 川島正敏医師
「放置すれば、事故につながる病気を引き起こすリスクは高くなる。
人命を預かる仕事においては、注意しておくべきこと。」

急増 バス事故 見過ごされたリスク

なぜ健康リスクを抱える運転手が乗務を続けていたのか。
私たちは、あるケースに注目しました。
去年(2013年)9月、運転手が走行中にくも膜下出血を起こしたケースです。
乗客43人を乗せ高速道路を走行中、突然、運転手が意識を失い、バスが蛇行を始めました。
添乗員がとっさの判断でブレーキをかけ、衝突は避けられたものの、大惨事につながりかねない事態でした。

乗客
「みんな命の危険を感じて、バスが傾きだしていますから。
まさか自分が乗っているバスでこういう状態が起こるとは、とても信じられなかった。」

49歳の運転手は死亡。
実は健康診断で、重症に近い高血圧を指摘されていました。
この運転手の健康管理は、どのように行われていたのか。
近畿地方のバス会社が取材に応じました。
運転手の健康診断は法律で決められたとおり、定期的に行っていました。
その結果です。
血圧の下の値が基準を大きく超え、重症に近い値でした。
医師からは精密検査・再検査が必要だと指摘されていました。
会社は病院に行くよう運転手に伝えましたが、検査は行われていませんでした。

バス会社 社長
「病院に行くよう指導はしていたが、本人の『大丈夫や』という言葉を信じた。」

法律では精密検査・再検査が必要な場合、会社は検査を受けさせること、さらに医師の意見を踏まえて、乗務を続けさせるかどうかを判断することが義務づけられています。



しかしこの会社は当時、本人の話を聞いただけで、医師の意見を聞くことなく乗務を可能だと判断していました。
結局、病院には行かせないまま1年にわたって運転を続けさせていたのです。


バス会社 社長
「なんでもっと病院に引きずってでも、病院に一緒に行く、強制的に病院に行かせる方法をとらなかったのかと。
義務を果たせなかった運行管理者としての私の失敗ですね。」

同じように異常が見過ごされていたケースは次々と見つかりました。
事故210件のうち、健康診断で「異常あり」と指摘されていたのは143件。
そのうち、事故の原因になった病気と関連性があるケースは57件。
40%に上ります。

北里大学医学部 川島正敏医師
「健康診断が行われているのは間違いないが、(診断結果が)有効に活用されていない。
早い段階で治療を行うことで、事故を減らすことができた可能性はある。」

放置される健康リスク。
取材を進めると構造的な問題が見えてきました。
首都圏にあるバス会社です。
運転手の数は13人。
健康診断で異常がなかったのは1人だけです。

バス会社 社長
「この乗務員が血圧が高め。
こちらの乗務員が血糖値が高め。
こちらの乗務員が血圧値が高い値。」

この会社では健康リスクを抱える運転手の割合が、年々、高くなっているといいます。

背景にあるのはバス業界で進む高齢化です。
運転手の平均年齢は48.3歳。
ほかの産業との差は開き続け、今や5.5歳まで広がっています。



理由は、いびつな年齢構成にあります。
20代は僅か3%、30代を含めても4分の1。
若い世代がほとんど入ってこないのです。
その結果、路線バスの運転手はピーク時のおよそ11万人から、2万5,000人減少。
深刻な人手不足に陥っています。
この会社でも常に運転手が足りないため、健康リスクがあると分かっていても再検査には行かせていないといいます。

バス会社 社長
「乗務員にすすんで『再検査行ってこいよ』という状況ではない。
今、本当に人手不足で、一名いなくなるとローテーションがガタガタ。
本当にギリギリいっぱい。」

運転手側も積極的に病院に行こうとはしません。
この会社の基本給は15万円。
バスに乗れなくなると距離や時間に応じた、平均18万円の手当がもらえなくなるとしています。

運転手(高血圧・肥満の異常)
「(再検査に)行って何か引っかかって、乗れなくなるというか、稼げなくなるほうが怖い。
(乗客に)申し訳ないというのもあるけど、やっぱり生活のためには働かないと。」

急増 バス事故 見過ごされたリスク

ゲスト加藤博和さん(名古屋大学准教授)
ゲスト板倉浩蔵記者(社会部)

●健診で分かっているリスクを見過ごして起こる事故が急増 この実態、どう捉える?

加藤さん:拝見しまして、率直に言って非常に残念なデータだと思っています。
しかしながら、バス業界の現状を考えますと、こういうことも不思議ではないのかなというのが、率直なところです。

●リスクが分かっているのに放置されている最大の理由とは?

板倉記者:健康リスクに対する危機意識の低さが挙げられます。
取材をすると、たかが高血圧だと答える会社も少なくなく、事故の予兆として捉えない意識が、業界に広がっていると感じました。
もう一つの理由が、人手不足です。
取材した210件のうち、72%は路線バスでした。
路線バスはダイヤが決まっているため、一人でも欠けてしまうと、やりくりが難しくなります。
検査が必要なことは分かっていても、先延ばしにせざるを得ないケースもあると答える会社もありました。

●法律では再検査を受けさせ、乗務できるかどうかは医師が判断すべきとなっている なぜルールが守られないのか?

板倉記者:ほかの交通機関を見ると、航空は健康診断よりはるかに厳しい航空身体検査を、年1回実施することが定められています。
鉄道も医学適性検査という詳しい検査が、健康診断に加えて義務づけられています。
安全システムという点でいうと、非常停止装置が原則設置されています。
一方、バスの健康診断については、適切に運用されているか国が監査でチェックしています。
しかし健康診断を実施しているかはチェックしていても、その後の対応まで十分にチェックしきれていないケースもありました。

●深刻な人手不足 なぜ若い人たちが参入しない業界になったのか?

加藤さん:ひと言でいえば、待遇が悪く、魅力がない業界になってしまったということなんですね。
昔ですとバスの運転手というのは、花形の仕事の一つだったんですね。
そのときは待遇もよかったですし、給料も高かったと。
ところが2000年代に入りまして、バスは貸し切りバスも、路線バスも、規制が緩和されまして、新しい会社がどんどん参入できるようになりました。
その結果、競争が激しくなりまして、それまでに比べて、どうしても運賃を下げなければいけなくなった。
そうしますと、その運賃を下げた分をどこかで償わないといけないんですが、それが人件費を下げるであるとか、あるいは労働環境を悪くしてしまうであるとか、あるいは車両に対して投資ができなくなる。
そういったことによって、なかなか運転手さんにとって、入りたいと思わせるような業界ではなくなってきたということがいえます。
特にバスの運転手になるためには、大型二種免許という、難しい免許を取らなきゃいけないんですが、これはお金もかかることですが、そこまでして運転手になりたいという方が、本当に少なくなってしまったということで、それが現状です。
(かつて花形と言ったが、どのような意味で花形だったのか?
そしてどれくらい今、給料が下がり、労働環境が悪くなったのか?)
以前は、ほかの業界に比べても、給料が高い時代もありました。
でも今はここ10年で見ても、バスの運転手さんの給料は、大体平均で2~3割ぐらい下落してますし、一方で労働時間ですね、これは2割ぐらい増えてしまっているということで、結果として今、全体の平均に比べて給料は2割以上低い状態になっているということで、やはり魅力がないということは否めないと思います。

どう守る乗客の安全 バス会社の模索

どうしたら乗客の安全を確保できるのか。
危機感を強めている会社があります。
運転手およそ700人を抱える静岡市のバス会社です。



一昨年(2012年)、この会社で走行中に運転手が意識を失う事故が2件続き、乗客など11人がけがをしました。




そこで去年、健康診断に加えて導入したのが脳ドックです。
脳の血管をくまなく撮影し、脳出血や脳梗塞につながる異常がないか調べています。



健康診断で高血圧などの異常が指摘されていた望月真一郎さん、56歳です。
脳ドックで詳しく調べると、動脈りゅうが見つかりました。
血管の一部が膨らみ、いつ破裂するか分からないため、すぐに手術を受けました。

望月真一郎さん
「くも膜下出血を起こして倒れて、人生終わっていたかもしれない。
仕事中だったら、お客さんを巻き添えにしていた可能性も。」


この1年間に検査を終えたのは、およそ100人。
全額会社の負担で900万円かかりました。
勤務をやりくりするため現場の負担も増えましたが、まだ400人以上残っています。

バス会社 社員
「今日は検査だから出れないということも。
(運転手のやりくりが)大変ですね、本当。」



さらに、この会社では若い世代の採用にも本格的に乗り出しました。
運転手の年齢構成を変えなければ根本的な解決にはならないからです。

バス会社 社員
「新卒採用を今年から増やしていこうと思っています。」

この日、開いたのは高校生向けの就職説明会。
バスの運転に必要な大型二種免許の取得には、およそ40万円かかります。
その費用を会社がすべて負担することをアピールし、若い運転手をみずから増やそうとしています。

高校生
「(運転手に)向いているか向いていないかわからないけど、(大型二種)免許を取っていなくても採ってくれるのはありがたい。」

大型二種免許は、普通免許を取ってから3年経過することが取得の条件です。
運転手として採用しても、その間は、バスの整備や接客の仕事しかさせられません。
それでも若い世代を確保したい会社。
過去最多の20人の採用を目指していますが、まだ、めどは立っていません。

バス会社 人事課 秋野好紀課長
「事故が起きてしまってからでは遅いということが第一。
バス事業全体としては、これから更に高齢化に向かっていく。
どこかしらで歯止めをかけたいという思いも非常に強く持っている。」

急増 バス事故 どう守る乗客の安全

●高校生の新規採用、脳ドックの導入などの対策を取れる会社は多いのか?

加藤さん:本来だったら、いろんな会社にやっていただきたいんですが、現状では非常に難しい状況にあります。
やはり路線バスの会社も、全体の7割ほどが赤字という状態で、補助金があって初めて成り立っている。
その補助金も、自治体が財政難の状況でカットされている状態です。
それから貸し切りバスのほうも、運賃が非常に低くなっていて、なかなか収支が取れないという状況なんです。
ですから、なかなか理想的にはいかないのかなということですね。

●企業の自主的な努力では限界がある中、国は対策を取っているのか?

加藤さん:国も業界団体、あるいはバス会社等と協力して、例えば安全確保に関する監査といいますが、チェックをきちんとするようなことも、かなり強化していますし、それから運転手さんが運行できる距離の規制を厳しくすることで、長時間、運行しないということを行ったりとかですね、あるいは車のほうも前方に車や人がいると、ブレーキが自動的にかかるような、そういう装置をつけることを新車については義務づけるとか、あるいは会社全体で安全確保をするような、そういう態勢作りについて促すとか、いろんな対策を今、取っているところなんです。

●バスの安全を確保するために、どういう対策を取っていくべきか?

加藤さん:やはり安全を確保するためには、どうしてもお金がかかるということは、ご理解いただかないといけないのかなと思います。
今年度から、貸し切りバスについては運賃を値上げして、それによって安全確保をしようという試みが行われ始めてます。
そういった形できちんと車両を新しくしていく、安全装置も付ける、会社の中の態勢も整備する、それから運転手さんの給料を上げて、待遇をよくして、ゆとりある勤務体系にできるということが非常に大事なことであるというふうに思います。
そのことによって、若い方も入ってきていただいて、持続可能なバス会社、あるいはバス業界になっていくというふうに考えているところです。

●観光立国を目指したり、高齢者が増えてくると、バス需要は増える可能性もある?

加藤さん:海外からの観光客の方もたくさん来られて、貸し切りバス使われるでしょうし、それからローカルな所では、乗り合いタクシーとか、あるいはそういう小さな輸送も増えてくるというふうに思いますので、これから希望はあるんじゃないかと考えています。

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