クローズアップ現代

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No.35342014年7月24日(木)放送
精神科病床が住居に? 長期入院は減らせるか

精神科病床が住居に?
長期入院は減らせるか

失われた40年 精神科 長期入院の実態

時男さん
「こんちは。」

1年半前、精神科病院を退院した時男さんです。
それまで40年にわたる入院生活を送っていました。

時男さん
「お茶でいいよ。」

店の女性
「おとなしく飲む人だよ。
草刈正雄は。
似てると思わない?
似てるよ、ほんと似てる。」

10代のときに統合失調症と診断された時男さん。
今は症状も落ち着いています。


「私なんか精神病だと思って接してないから。」

時男さん
「ここの人たちはみんな優しい人ばかりだよ。」

40年もの入院生活から抜け出すことができたのは、東日本大震災がきっかけでした。
病院が被災し避難を余儀なくされたため思いがけず退院できたのです。

時男さん
「半世紀。
もう長いなぁ。」

16歳のとき上京して働き始めた時男さん。
人間関係のストレスから次第に妄想に襲われるようになり、都内の精神科病院に入院しました。

そこは劣悪な環境でした。
国が進める隔離収容政策のもと、当時患者は大部屋に閉じ込められ、体を拘束されることもあったといいます。

時男さん
「昔は鉄格子の中にいたからね。
俺が入った最初の病院は。
ひどい病院に入ったと思って、逃げようと思ったけど、おっかなかった。」

時男さんは数年後、ふるさとの病院に移りました。
このころからは、症状も安定。
生活訓練として病院のちゅう房作業を引き受け、規則正しい毎日を送れるようになりました。

時男さん
「仕事していれば、いつか退院できるんじゃないか。
俺はこれだけできるっていう強い気持ちができる。」



しかし、待ち望んでいた退院はかないませんでした。
当時、退院には家族の受け入れが原則でした。
ところが、周りの差別や偏見が根強いことから、一緒に暮らせないと言われました。
30年が過ぎたとき、唯一面会に来ていた父親が他界。
時男さんは、とうとう退院したいという意欲を失いました。

時男さん
「もうあきらめてた。
俺は一生(病院に)入ってるって。
退院なんかできない、無理だなと。」

2004年、国はようやく、時男さんのように長期入院を余儀なくされている患者への対策に乗り出します。

精神医療や福祉の在り方を示した政策、改革ビジョンです。
ここで入院中心の医療から地域生活中心へとかじを切ると宣言。
7万2,000人もの患者が入院治療が必要ないにもかかわらず長期入院していると公表。
10年後にゼロにすると打ち出しました。

精神科の長期入院 改善されない背景

しかし、この10年間、状況はほとんど変わりませんでした。
全国の精神科病院で作る団体の理事、千葉潜医師です。

日本精神科病院協会 千葉潜常務理事
「改革はほとんど進まなかったと思います。
進まなかった理由は、改革ビジョンそのものが『絵』、『掲げた看板』だったということ。」


背景には、退院を進めにくい制度の問題があるといいます。

病院には入院患者1人につき平均で年間およそ500万円の医療費が入ります。
しかし入院が減るとその分、収入は減ります。
一方、退院を進めるには専門の支援スタッフが必要ですが、人件費などの補助が十分ではなく経営は一層、圧迫されます。
さらに社会の偏見も根強いため、受け皿となる住まいを確保するのも難しく、病院の努力だけでは限界があるといいます。

日本精神科病院協会 千葉潜常務理事
「そういう人たち(入院患者)がいなくなったら、当然、全体収入が減る。
一生懸命やってきて、この状況で(住む場所が)まだ足りない。
国に強力なバックボーンになってもらわないと、もっと変わることはできない。」

東日本大震災がきっかけで40年ぶりに退院できた時男さんです。

時男さん
「ただいま。」

その後、避難生活の中で理解ある仲間に出会い、今は共同生活をしています。

時男さん
「あの地震がなかったら、俺まだずっと入院してる。
まだ入院している人もいる、実際に。」

なぜ40年もかかってしまったのか。
残された人生は自由に生きたいと時男さんは願っています。

時男さん
「社会に再び出た、スタートだね。」

どうなる精神科医療 長期入院は減らせるか

ゲスト伊藤哲寛さん(精神科医)

●新たな人生のスタートを始めた時男さん その姿どう見る?

40年間という、長い間入院されて、新しい人生を大震災ということを契機に始められたわけですね。
それで、長い入院にもかかわらず、生き生きと地域で生活されてる、生活を楽しんでおられる姿を見て、本当にうれしく思います。
それと時男さんのような方が、まだまだたくさん精神病院の中にはおられるということも、皆さんに分かっていただきたいと思います。
実際はもうちょっと、時男さんよりもう少し病状がまだ、改善が十分でない方でも、地域で十分生活できてます。
時男さんを見て、地域でみんな生活できるんだなということを分かっていただければと思います。

●入院から地域生活への切り替え なぜ遅れたのか?

やはり精神科の病院が、ほとんどが民間病院、9割が民間病院ということがありまして、病床を減らすと、病院の経営が苦しくなるという、そういう状況の中で、政府は病床転換を進めようとしたんですけれども、現実には、地域移行は進まなかったわけですね。
だから今後は、この構造をどうやって変えていくかということが非常に大事になるんだろうと思います。

●退院意欲が固まらない人への対策 病院敷地内の居住施設について

私は、基本的には、本当の地域移行につながらないんじゃないかなっていうふうに心配してます。
集会で関係者の方が今回の施策について、非常に反対の声を上げたわけですけれども、やはり形だけの地域移行、形だけの病床削減になってしまうんじゃないかということですね。
ですから、まず、新しい居住施設に移れるような方は、すぐ地域に帰れるはずじゃないかなと、私の経験からはそういうふうに思います。
(期限は設けるとしても、戻れる人は最初から戻れるのではないかと?)
2年間とか、期限切るということもありますけれども、そんな必要ないと思います。
今の社会的入院っていわれてる方は、もっと力はあるんじゃないかと思います。

●退院意欲がない理由 長期入院がもたらした?

意欲がなくなったり、退院に自信がなくなったりするというのは、専門用語でいえば、施設症というふうにいうんですけれども、長い入院の中では、そういうことが起こるわけですね。
だけどそういうことが起こった原因は、本人にあるんじゃなくて、そういう処遇をしてきた、われわれ病院側の責任なんですね。
ですから、意欲がないから地域移行が進まないというのは、なんかご本人の責任にしてるようですけど、そうじゃなくて、むしろ、そういう施設症を生んでしまった医療関係者の責任だというふうに思うべきではないでしょうかね。

精神科患者に“受け皿”を 地域ぐるみの取り組み

患者の退院支援を地域ぐるみで進めている北海道の十勝地方です。
ここでは、精神科病院のスタッフだけではなく、福祉や行政の専門家が連携し退院した患者を地域で支える態勢を取っています。

ソーシャルワーカー
「最近は大きな病状の悪化もなく、落ち着いて生活しております。」

メンバーの1人、沼田和祥さん。
8年前から長期入院する患者の退院をサポートしてきました。
定期的に精神科病院を訪ね、患者の相談相手になっています。
この日、沼田さんに50代の女性が声をかけてきました。
入院生活が長くなり、外で暮らすことが不安だといいます。

50代の女性
「(病院から)外泊が許されたんですけど、不安で不安でしょうがなかったの、家に行って。
病院に来たらすごい安心して、そういう時って、どうしたらいいんでしょうね。」

沼田和祥さん
「一番手っとり早いのは電話ですよね。
前の友だちとはつきあいが少なくなることもあるから。
でもその代わり病気になってから病気同士の友だちが増えるから。
そういう友だちと一緒にいるとか、共有するとかいうことで。」

実は、沼田さんも20代のころに統合失調症で入院を経験。
当事者だからこそ分かる悩みを共有し不安を和らげていきます。

50代の女性
「すごく親しみ感じたんで。」

「気持ち変わりましたか。」

50代の女性
「うん、変わりました。」

「どんな感じですか。」

50代の女性
「勇気が湧いてきました。」

患者が退院したあとも買い物や交通機関の利用など、自立して暮らせるようになるまで支えます。

一度は地域に戻る意欲を失った人も沼田さんのようなピアサポートによって退院。
今ではおよそ20人が生活を軌道に乗せています。


沼田和祥さん
「もっと元気になってもらって、私生活でもプライベートでもつながっていられるような新しい環境づくりになればいいかなと。」



この取り組みのきっかけを作ったのは、精神保健福祉士の門屋充郎さんです。
かつて、精神科病院で働いていた門屋さん。
受け皿を作るには医療者自らが地域に出て、患者中心の態勢を作ることが必要だと考えました。

精神保健福祉士 門屋充郎さん
「初めてつくったところですね。」

まず地元の空き家などを提供してもらい、患者が暮らせる住居を確保してきました。

精神保健福祉士 門屋充郎さん
「この電話が、私がいなければ病院にかけたり、別の人にかけたり。」

さらに近隣住民の不安を解消するため用意したのが、24時間連絡できるホットラインです。
緊急のときには病院のソーシャルワーカーがすぐに駆けつけ対応。
トラブルを未然に防ぎ、地域の理解につなげてきました。

精神保健福祉士 門屋充郎さん
「どうですか、暮らしは?」

男性
「最高です、狭いけどいいです。」

精神保健福祉士 門屋充郎さん
「現実に住んでいるところを見ていただいたり、精神病の人と接していただくことによって、そういう誤解が解けていくことによって(受け入れ態勢が)広がると思う。
退院させることを私たちが本気でやるということをすれば、たくさんの人が地域に出て行ける。」

門屋さんたちの活動を自治体も後押しするようになりました。
退院を支えるピアサポーターの養成や生活相談、そして就労支援など患者を支える態勢作りに助成金を出し取り組みが加速したのです。
その結果、地域にある6つの病院では積極的に退院を促すようになり、10年で病床を4割減らすことができました。
地域の中核を担う精神科病院です。
ここでは今、外来診療に力を入れ、退院した患者が再び入院しないようにしています。

大江病院 大江徹院長
「なるべく薬に依存しないかたちで方法を持ってれば良いんだよね。
だから電話するのもOKだし。」

さらに今年(2014年)からは通院の難しい患者の自宅を医師が訪問。
暮らしぶりを見ながら診療を続けています。
入院治療に比べて採算を取るのは難しいのが現状ですが、新たな手応えを感じているといいます。

大江病院 大江徹院長
「経営がうまくやれるっていうことよりは、患者さんが来てくれて『良かった』ってフィードバックしてくることが一番うれしい。
それが医者としての醍醐(だいご)味。
患者が良くなってくれるのが一番だ。」

どうなる精神科医療 長期入院は減らせるか

●病床を4割も減らす十勝の取り組み そのカギは?

地域のいろんな職種の方ですね、医療関係者、それからケースワーカー、それから当事者、それからボランティアの方、さらには行政の方も巻き込んで、地域でいろんな活動を展開してきたということですね。
そのことが社会資源を増やし、病床を減らすことにつながったんだろうと思います。
(地域の人には、病院からの移行に対する反対の声はなかったのか?)
初めのころは、やはり、例えばグループホームを作ろうとしたときに、住民の反対ということもありました。
しかし、最近は少なくなったんだろうと思います。
それは、地域で生活する障害者の方が、たくさん、いろんな活動をしてて、それを見てる、理解してくれる方が増えたからだと思います。

●精神障害治療を行う病院 どう経営を成り立たせていくか?

政府も急性期の治療とか、それから外来を充実させた病院には、医療費高くする施策は取ってきたんです。
それからもっとそれを進めて、慢性期の病床はあまり使わずに、急性期を十分充実させるということで、収入を上げると、病院の経営が楽になると、そういう施策をもっともっと進めるということですね。
それから病床を削減して、機能を上げた病院が、成功するというようなことにしないと、うまくいかないんじゃないでしょうか。
もっとそういうふうにしてほしいですね。
(診療報酬の仕組みを変えていく?)
変えていただければ。
(そうすると医師や看護師は、地域医療にもう少し?)
もう少し振り向けることできます。

●本人が地域に出ていきたいと思えるようになるのに大事なことは?

本当は、皆さん、退院したいって気持ち、持ってるんですね。
ただ、自信がないだけです。
それを取り戻すためには、やはり先に退院した方、ピアサポーターの方が、これだけできるんだよというふうにして、一緒に退院を考えてくれると、そういうようなことが非常に有効だと思いますね。
十勝の例でも、皆さん、理解していただいたと思いますけれども。
(実際に接する場などを作ってきた?)
はい。
それは例えば、退院した患者さんが、定期的に入院してる患者さんに会いに来ていただくとか、退院したらこんなにすばらしいんだよということを伝えていただくこともやってみました。

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