クローズアップ現代

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No.35272014年7月8日(火)放送
運転し続けたい ~高齢ドライバー事故の対策最前線~

運転し続けたい ~高齢ドライバー事故の対策最前線~

高齢ドライバー 事故発生のメカニズム

先月(6月)18日、北海道旭川市で3人が死亡する交通事故が発生しました。
事故を起こしたのは、75歳の女性ドライバーでした。



事故当時、交差点で右折のタイミングを計っていた女性。
前の車が動き始めたので、そのまま続いて女性は交差点に進入しました。
そのときスピードを上げて迫る対向車に、女性は全く気付きませんでした。



そのまま衝突。
歩道にいた高校生まで巻き込まれる、大惨事となりました。
実は高齢者の事故のおよそ6割が、こうした交差点で起きています。



なぜ高齢者の事故は交差点に多いのか。
中野倫明教授は、高齢者は若者に比べて、交差点での判断により時間がかかるといいます。
実験ではドライブシミュレーターを使って、多くの高齢者の運転特性を調べました。

対向車の切れ目を見計らって、交差点を右折するケースで見てみます。
迫ってくる対向車と衝突するまで、何秒の余裕があるかを計測すると、若者の平均は1.9秒。
これだけの余裕があれば、安全に右折することができます。


一方、70代の高齢者の場合。
衝突までの余裕は平均1.2秒でした。
若者に比べ、僅か0.7秒の差。



しかしこれを距離に置き換えると、対向車が12メートルも近くなってから右折していることになります。
一歩判断を誤ると、事故につながる距離です。



次に歩行者も加え、より複雑な状況でも実験しました。
すると高齢者の中には、歩行者に気を取られてしまい、対向車に気付かず衝突してしまう人もいました。



名城大学 理工学部 中野倫明教授
「複数のものに注意をするというのが、加齢にともなって、苦手になってくる。
どのタイミングで、どういうふうに行動するといいかということが、すべて遅れるわけですね。
見逃したり遅れたりすると、それが事故につながっていく。」

さらに高齢者の判断が遅れる原因の一つが、明らかになりつつあります。
最新の脳科学によって、交通事故と脳の関係を明らかにしようという研究が始まっています。
高知工科大学の朴啓彰(パク・ケチャン)さんです。


高知工科大学 地域交通医学研究室 朴啓彰客員教授
「過去10年間の(事故歴の)アンケート調査をした資料がこれですね。」

パクさんは脳ドックを受けた4,000人に、過去に交通事故を起こしたことがあるか、アンケート調査を行いました。
その結果と、脳の画像をつき合わせたところ、ある傾向が浮かび上がってきました。

パクさんが注目したのは、脳の断面図に現れる白い部分。
脳の一部の血流が悪くなって出来る、白質病変という異変です。
白質病変が脳の両側にある人は、ない人に比べて、事故を起こす割合が1.6倍、高くなっていました。


さらに交差点での事故に限ると、その差は3.4倍に広がりました。

高知工科大学 地域交通医学研究室 朴啓彰客員教授
「交差点の事故と他の事故とは、事故を起こす機序(メカニズム)が違う。
高度な情報処理のところに、白質病変が影響していて、それが端的に現れる事故の形態が、交差点だと考えています。」

白質病変は脳の情報伝達機能を低下させ、重度になると認知症の原因になるといわれています。
年齢とともに増える傾向があり、交差点での事故が高齢者に多いことと一致します。
研究が進めば、まだ自覚がない人でも、脳の検査で自分が交通事故を起こしやすいかどうかが、分かるかもしれないといいます。

高知工科大学 地域交通医学研究室 朴啓彰客員教授
「今の交通行政は、年齢で全部区別している。
高齢者になればなるほど、個人差が大きい。
客観的な、科学的な指標がいる。
それが脳の検査、MRIで測ったデータだと思う。」

高齢ドライバー 免許を卒業できますか?

増える高齢ドライバーの事故を、どう防ぐか。
全国の警察でも取り組みが始まっています。
高齢化率が全国4位の山口県では、警察が地域住民と共に高齢者の戸別訪問を続けています。

警察官が高齢者に呼びかけているのは、運転免許の自主返納です。

警察官
「勇気を持って、運転免許証を返納してもらおうと。」

女性
「それはもうね、生きてはいけない。
大げさですけどね。
やっぱり運転できないと不便ですよね。」

しかし、すぐに免許の返納を検討する高齢者は、なかなかいません。

男性
「まだ2~3年は乗れると思います。
楽にやれると思います。」

そこで山口県警では、免許を返納した高齢者にさまざまな特典を用意しました。
その一つが、買い物をした荷物を無料で配送するサービス。
県内に14店舗を展開するスーパーの協力で実現しました。


配達員
「失礼します。」

2年前に免許を返納した男性
「(無料配送を)非常に珍重しています。」

さらにタクシーや商品の割引など、500以上のサービスを受けられるようにしたところ、免許の返納は5倍に増えました。
それでも病院通いなどのために、どうしても免許を手放せない高齢者は少なくありません。
警察では、無料の安全講習を行うなどの対策も、同時に進めています。

山口県警察本部 交通企画課 原田英樹課長補佐
「山口県では、公共交通機関が発達しておりません。
高齢化が他府県に比べ、10年も早く進んでいる。
山口県警では今後、いろいろな対策を進めていきたいと思っています。」

どう防ぐのか 高齢ドライバー事故

ゲスト所正文さん(立正大学教授)

●高齢になると、運転能力のどの点が衰えてくるか?

高齢者の交通事故というのは、自動車事故ですけれども、若い人の交通事故とは、種類とか内容が根本的に違うということです。
その背景には、高齢者の身体特性とか、心理特性が深く関わっているということでして、それには大きく3つの要因があるということです。
まず最初の要因なんですが、目に関する特性なんですけれども、目に関する特性というのは、老化現象が最も早く訪れる特性なんですけれども、ただ、運転に必要な情報の80%ぐらいは、目を通して摂取するというふうに、いわれております。

(こちらは、ある企業が研究した、走行中の視野が年代別にどうなるか。
こう見ると、65歳以上、本当に狭いが?)
今、この視野検査というのは、高齢者講習の中でも取り入れられているものなんですけれども、真正面を向いて、片目で、左右90度の範囲で物が見えることが望ましいわけなんですけれども、65歳を超えると、残念ながら60度ぐらいに狭まってしまう人が多いということです。
(理想は90度で、それが60度に?)
ええ、そうなってしまいますと、交差点での見落としなどにつながっていると、先ほどのVTRにもあったとおりですね。
(それがまず1つ目?)
はい。
2点目は、反応動作に関する特性でして、先ほどのVTRにも、これ、ございましたが、単純な作業課題であれば、それほど若い人と比べて大きな反応時間の遅れ等はないんですが、複数の作業課題を同時に扱うなんていう場合に、非常に問題が生じるわけで。
(複数というのは、歩行者だったり、信号だったり、いろいろなものを確認しながらということ?)
そうですね。
そういったときにエラーが出たり、時間がかかったりということです。
そういった状況が、まさに交差点の交通状況というのは、まさにその状況であるということになりますね。
(そして3つ目が?)
3つ目が、運転能力に関する過信と、自信の持ち過ぎということになるわけです。

(これは所さんが調べた、事故を回避する自信があるかという年代別データ。
60、そして70、75歳以上の方、ぐっと増えてるが?)
これは、自分の運転テクニックであれば、十分危険を回避できるかどうかということに関して、イエスと回答した人の割合ですが、今おっしゃられたとおり、70歳を超えるとぐんと上がってまして、75歳以上の方では、実に53%に達しているということです。
(どうしてか?)
これはですね、長年の経験から、交通規則よりも自分の経験則を重視してしまっているというようなことですね。
今まで自分の経験を重視して、大きな事故に遭ったわけでもなかったと。
ですから、交通規則よりも自分の経験則のほうを大事にしたいということかと思います。
(年を重ねて、生き方に自信を持つのはいいけれども、運転に関してはそうではないと?)
ということですね。
これが問題になっております、交差点での事故ですけれども、交差点では当然、一時停止をしなくちゃいけないわけですが、高齢者の場合、一時停止違反が非常に多いというデータが上がっているわけですけれども、一時停止すべきところを徐行で済ませるわけですね。
ここは徐行で十分だということなんですね。
それが一時停止標識を無視することにより、交差点での事故につながってしまうと、そういうことかと思いますね。

●免許返納を呼びかける運動、どう見る?

高齢ドライバーが激増している時代に突入してしまったわけですから、この免許の返納というのは、現実味を帯びてきたんじゃないかと思いますね。
ただその場合、いくつか条件があるかと思うんですけれども、車の運転ができるということは、お年寄りにとって、これはまさに自立の象徴なんですよね。
ですから周辺者の方が、危ないからやめろと、安易に言い放つということは、非常に自己の尊厳を傷つけるといいますか、そういう問題があります。
例えば私が調査した中では、軽度の認知症にかかっていたお年寄りですけれども、自分の運転免許は、まさに国家資格であると。
日本国が自分に与えてくれたものであると。
ですから息子さんや娘さんたちに、お前たちの言うことは聞かないと、そう言ったということです。
ですから、運転免許の問題というのは、認知症の介護破綻の一つの要因であるという、精神科医の報告などもございますから、これは非常に慎重にいかなければいけないということです。

大切なのは“自覚” 高齢ドライバー

京都府南部にある自動車教習所です。
高齢者に運転を続けてもらいながら、事故を減らすためのユニークな取り組みを行っています。

教官
「やっぱり身体的な問題で、運転に影響が出てくる。」

その取り組みとは、無意識に行っている運転の特徴を、目に見える形にし、自覚を促す講習です。

そのために使われるのが、運転技術を計測するための3つのセンサーです。
足のセンサーはアクセルやブレーキ操作を。
帽子のセンサーは、左右確認を。
車のセンサーは車の位置や速度を感知しています。


教官
「これ左に曲がるよ。」

例えばブレーキの踏み込みが甘く、減速が不十分なままカーブを曲がっていることが、センサーによって分かります。

72歳になる宇田公彦さんです。
今回、初めてセンサーを使った講習を受けることになりました。

「運転は毎日してますか?」

宇田公彦さん(72)
「してます。」

「運転は大丈夫ですか?」

宇田公彦さん(72)
「まあ、そのつもりです。」

毎日、車を運転しているという宇田さん。
運転技術にはかなりの自信を持っていました。
しかし…。

教官
「さあ、止まれのところ右に曲がりますね。」

教官
「ダンプ来てますよ、ダンプ来てますよ。
ちょっと待ってください、ちょっと待ってくださいよ。」

宇田さん、交差点で右側をよく確認しないまま、発進してしまいました。

教官
「ダンプ来てますよ、ダンプ来てますよ。」

もう少しで、ダンプカーと衝突するところでした。


運転を終えた宇田さんに、測定の結果が渡されます。
その評価は…。
こちらが宇田さんの運転を表すグラフです。
赤い部分は交差点を示し、青い線は首の左右の動きを示しています。
上が左を確認、下が右を確認したという意味です。
交差点付近で、右側がほとんど確認できていません。

左右ともしっかり確認できている模範運転と比べ、明らかに偏っていました。
運転全体では、要注意のD判定と評価されてしまいました。

教官
「ひとつあったでしょう。
ダンプ来てましたよ。」

宇田公彦さん(72)
「はい、はい。」

教官
「これ私、アシストですから、一時停止。」

運転技術には自信のあった宇田さん。
具体的なデータで自分の弱点を示され、認識が変わりました。

宇田公彦さん(72)
「こういう結果が出たということに対し、私自身もショックやし、気をつけて運転せんといかんなって感じですよね。」

とはいえ、スポーツ用品店を経営している宇田さんには、まだまだ車の運転は必要です。
講習を受けてからは意識的に、交差点での左右確認に気をつけるようになったといいます。

宇田公彦さん(72)
「子ども、孫の送り迎えもありますし、商売でもちょっと使いますので。」

「やっぱりもう安全運転でいかないと。」

宇田公彦さん(72)
「まあ、そういうことやね。
すべてそこに通じると思います。」

高齢者に優しい交通システムとは

事故をなくすには、当人の注意だけで万全ではありません。
交通システムそのものを、見直す試みが始まっています。
実験されているのは、低速モビリティと呼ばれる電気自動車。
時速20キロ、自転車ほどの速さの乗り物が、高齢者の足として期待されています。

時速30キロ以下では、もしも歩行者をはねても、被害者が亡くなる可能性は1%以下になります。
すでにヨーロッパの多くの国で普及し始めている、低速モビリティ。
日本で普及させるためには、どんな車や制度が適しているのか。
ニーズをつかむ実験が進められています。

女性
「ずっと車に乗っていて、歩くっていうのは抵抗があると思うので、こういうのがあったらいいなと思います。」




低速モビリティの実験を進めている、東京大学の鎌田実教授です。
鎌田教授は、安全な交通のためには、道路環境の見直しも不可欠だと考えています。
日本では、住宅街の生活道路でもトラックが往来する状態のため、低速モビリティが安全に走ることができません。

そこで、速度や大型車両の通行を規制する地域を作れば、高齢者にも優しい道路が実現できるというのです。




東京大学大学院 新領域創成科学研究科 鎌田実教授
「きたるべき高齢社会の中で、こういう地方の地域で高齢者が生き生きと動き回れるような、そういうところを目指して、ここでの実験データを基に、関係省庁に働きかけしていきたいなと思っています。」

どう防ぐのか 高齢ドライバー事故

●運転に関する自己能力の衰えを自覚することは大事?

そうですね。
すでに運転能力が、年を取るにしたがって落ちてきているということは、お年寄りの方も十分に自覚はしているかと思うんですね。
過信があるということが、一方にはあるんですけれども。
例えば、夜間視力が低下してきているので、夜の運転を控えるなんてことは、十分に高齢ドライバーの方は取られているわけです。
私の調査などを見ても、夜間の運転は、実際にしている方っていうのは、10%にも満たないわけです。
あるいは、朝夕の混雑時の運転も控えると。

ですから、そういった運転をきちんとしているわけで、そういった運転を、補償的運転行動と、補う、償うといいまして、自分の欠点をカバーする運転ですね。
そういったことを多くの高齢ドライバーの方は、されているわけです。
それはまあ、夜間とか混雑時を避けるとか、自分の慣れた道路を運転するなんていうことは、多くの方はされているわけでして、今の京都のVTRは、そのほかにさらに、自分の運転の癖をあぶり出して、それを自分の運転にいかしていくと。
そして高齢ドライバーの方もおっしゃっていましたが、運転の、その後の運転にいかしていくということですね。
そういったことはとっても重要なことだと思いますね。
健康な高齢ドライバーの方もたくさんいらっしゃるわけですから、ああいった試みは非常に大事で、今後ぜひ、続けていってほしいと思いますね。

●運転を続ける方・免許を返納する方 社会はどう支えていく?

高齢ドライバーが激増している中では、健康状態も非常にいい人もいるわけですから、そういった方は当然、運転を継続していく、長く継続していく。
それは補償的運転行動をしていくと、そして運転を継続していくと、周りの交通関係者も、それをサポートしていくのに知恵を絞っていくということが大事かと思います。
そうじゃなくて、もう一方の方は、運転を断念をしていくという人も非常に増えていくかと思います。
その場合は、安心して車を手放せる社会を作っていくということが、とても大事になってくるかと思うんですね。
自己の尊厳を傷つけないような、そういった社会を、周りの人がサポートしていくということが、とっても大事じゃないかなというふうに思います。
(安心して運転から卒業できる環境作り、社会が大事になってくる?)
そうですね。
それを決して忘れてはいけないと思いますね。
安易に車を手放すということだけを言うことは、いけないと思います。

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