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No.35172014年6月19日(木)放送
養殖ビジネス 国際競争時代 ~日本の活路は~

養殖ビジネス 国際競争時代 ~日本の活路は~

行き詰まる日本の養殖業 試練迎える産地

日本で1、2を争う養殖ヒラメの産地、大分県佐伯市です。
今、町の飲食店では特別に育てられたヒラメがふるまわれています。

「かぼすヒラメのお刺身になります。」

大分県が最大の生産量を誇るかぼす。
その果汁をエサに混ぜ込み育てた、かぼすヒラメです。

女性
「かぼすの匂いがするね。」

女性
「脂がのってるね。」

男性
「あっさり感で、おいしいです。」

かぼすヒラメの商品化に取り組んできた養殖業者の1人、森岡道彦さんです。

森岡水産 代表 森岡道彦さん
「かわいいじゃないですか。」


1匹1匹丁寧な個体管理には定評がありましたが、仲間と工夫を重ね、2年がかりでかぼすの成分を浸透させる方法を開発しました。
その結果、通常のヒラメよりも最大でキロ当たり800円余り上乗せして取り引きできるようになりました。


こうした取り組みの背景にあるのは、長期にわたる国内市場の縮小です。
海外からの安い養殖ヒラメの流入も追い打ちをかけました。
90年代からおよそ2割も安い韓国産が輸入された結果、国内産ヒラメの市場では値崩れが起き、生産量は97年をピークに半分以下にまで落ち込んだのです。


森岡水産 代表 森岡道彦さん
「このままじゃ経営そのものが非常に厳しくなりましたので、ひと手間ふた手間かけることで、価格そのものに反映させてもっていければ。」


森岡さんたち養殖業者は、付加価値の高い商品で対抗しようとしていますが、一度落ち込んだ生産量を取り戻すには至っていません。
高い養殖技術を持ちながら生産量が伸び悩む養殖業者が今、全国各地で増えています。
養殖カンパチで日本一の生産量を誇る鹿児島県垂水市です。
漁協では水揚げしたカンパチをその日のうちに出荷することで新鮮さを売りにしてきました。
しかし、国内需要の冷え込みによる価格低迷で、この5年間で養殖業者の3割が廃業に追い込まれています。

かごしまJF販売 社長 原口欣一さん
「船の墓場みたいな感じ。
この船も再生して使えるような時代がくればいいかなと思います。」


こうした中、国が3年前から導入したのが資源保護を目的とした養殖業の生産管理の仕組みです。
魚が供給過剰にならないよう、業者ごとに生産量の上限が割り当てられ、その範囲内で魚を育てます。
万が一、価格が暴落しても損失は国などから補填されます。
一方、限度を超えて生産すると補填はされない仕組みです。
養殖生産に限度を設けるこの仕組みが始まって以来、漁協では生産量をピーク時の6割程度に抑えるようになりました。

かごしまJF販売 社長 原口欣一さん
「これだけ厳しい状況になったら、養殖業者が経営、資金繰りに持ちこたえられていないので、どれだけ生産すればいいのかということを模索している時代。」

国際化する養殖ビジネス 躍進するノルウェー

こうした養殖業の縮小生産が続く日本に対し、世界各国では養殖をビジネスと捉え、生産量を急拡大させています。
その成功例とされるのがノルウェーです。



人口3,000人の漁業の町、シャルベイ。
従業員200人を抱えるこの養殖会社では、徹底したIT化と機械化を進めています。
生産加工から輸出まで1社でコントロール。
サーモンを生のまま36時間以内に日本の市場へ届けます。
こうして年間4,000トンを日本に輸出しています。
実はこのサーモン、日本人の好みに合わせて養殖されています。

レロイ・オーロラ社CEO レナータ・ラーセンさん
「普通の養殖サーモンの色はこの辺りですが、日本向けのサーモンはこのくらいの色合いになります。」



エサの調合などによって色合いを調整しています。
さらに日本では脂の乗った魚が好まれていることを知ると、サーモンの脂肪の量が増えるように養殖方法も変えました。



レロイ・オーロラ社CEO レナータ・ラーセンさん
「わが社のサーモンは、刺身やスシで食べたときに見た目もよく、おいしく感じられるように特別な方法で育てています。」


市場を徹底的に意識して行われるノルウェーの養殖ビジネス。
その鍵になっているのが、国有会社のノルウェー水産物審議会です。
ここではマーケティングの専門家が、世界各地での市場調査や広報活動を行っています。

生食サーモンの場合、最初から日本市場がターゲットでした。
個別の養殖業者がバラバラに行うのではなく、この国有会社がすべての業者から運営資金を集め、一括して日本市場を徹底調査。
PRまで行います。
その結果はフィードバックされ、各社の商品開発に活用されます。
サーモンを生で食べる文化のなかったノルウェーが、官民挙げての売り込みで日本市場を切り開くことに成功したのです。

今では日本にとどまらず、世界各国に駐在員を配置して情報収集力を強化しています。
日本人が認めたサーモンとして売り込みをかけた結果、今では世界90か国以上に輸出。
6,000億円の市場を築き上げることに成功しました。


ノルウェー水産物審議会 ビョーネリク・スタベルさん
「養殖市場には、新規参入できる余地があります。
私たちと同じように世界の国が水産物の輸出に取り組めば、市場全体が拡大します。
世界の人たちに、もっと魚を食べてほしいと思います。」

なぜ強み生かせない 日本の養殖業

ゲスト有路昌彦さん(近畿大学農学部准教授)

●日本人が作った魚がなかなか売れないのはなぜ?

日本はもともと養殖に関して言うと、本当にぶっちぎりですごい技術を持ってるんですね。
例えば、種苗の生産で言うんであれば、十数魚種の完全養殖が可能であると。
こんなの持ってるのは日本しかないんですね。
けれども、ずっと日本は非常にいい市場を日本に抱えていたので、海外に打って出ていくというふうなやり方を全くしてこなかったので、早い話が海外向けのマーケティングの能力がないと。
しかもそれをみんなバラバラと今やり始めているところなんで、組織力がないというところが一番大きいんじゃないでしょうかね。

●国の生産調整政策、輸出が必要な状況と矛盾している?

確かに小さくなっていくマーケットに対して、日本の市場が小さくなっていっていることに対して、対症療法的に生産調整をしようというのは、ある意味、生産者を守っていくのに必要だという考えは、理解できる部分はありますね。
ただ、やはり海外へマーケットを向けていくことで、需給バランスを取っていくということは、根本的な解決としては、そっちを選ばないといけないと。
幸い、現在、水産庁が考えている生産調整も、その部分に関しては、海外への輸出に関しては生産調整の範囲外ですよというふうにはなってますんで、流れとしては海外のほうに向かうようにはなるんじゃないかと思いますね。

●供給過剰のおそれがある一方、海外から養殖魚が入ってくるのも矛盾では?

これはですね、最終的に使っている人っていうのは、いわゆる回転ずしとか、そういう所の大手の外食チェーンになりますけど、ここでは職人さんが魚を切っているわけじゃないというふうになると、それに合わせたようないわゆる皮もむいた「フィレ」と呼ばれる状態じゃないといけないんですが、これは産地加工しないと、いい品質にはならないんですよね。
ノルウェーの場合だったら、もうそれで攻めてきてると。
日本の場合は過去の流通の方法なので、鮮魚を流通して、その魚を、要するに店頭でさばきましょうという話になるので、なかなか対応ができない。
つまり使い勝手が悪いから勝負に負けてるというところが、まずあります。

●国内のマーケティングも十分でない?

そうですね、取り組まれてるところは増えていますけれども、まだまだ全体の主流ではない、これは言えますね。

●ノルウェーの成功、最大の鍵は?

一番大きいポイントは、ノルウェーは自分の国にマーケットをそもそも持ってなかったので、海外に挑むということは、新しい市場を作っていくっていう、いわゆるブルーオーシャン戦略しか取りようがなかったんですよね。
だから、そこで今までの方法にとらわれることなく、新しい方法に挑んでいったというのがあります。
日本は過去に成功して、もともと持っていたので、なかなかそのブルーオーシャン戦略のほうに切り替えられなかったというのはあるでしょう。
ただもう1つ言えることは、やはり大きいところは、ジェネリックマーケティングと呼ばれる包括的なマーケティング、つまり、みんなで取りに行って、取ってきた成果をみんなで分配しましょうというようなやり方をノルウェーは取りましたが、今、日本はお互いにいがみ合う状態でして、なかなか、みんなでそういうふうに組織力で取りにいくということが、まだそこまで至っていないというのはいえると思います。
(それぞれが自力で輸出をしようとしていて、もう少しまとまった戦略が必要?)
そうですね。

日本の養殖業 世界に売り込め

三重県尾鷲市にある水産加工会社です。

尾鷲物産 桑原宏さん
「あちらがブリの水揚げの現場です。」

桑原宏さんたちは年間1,200トンのブリの養殖を手がけています。
これまでは海外への販売ルートを持たず、ブリはもっぱら国内に出荷されていました。

尾鷲物産 桑原宏さん
「ブリを(海外の)いろんな地域に、求められているところを持って行きたいなと考えています。」

今、ブリは日本の養殖魚の中でも輸出の最有望株として期待を集めています。
日本近海でしか取れず、刺身やスシのネタとして海外の需要を大きく伸ばしているからです。
そこで桑原さんたちは、サーモン輸出を手がけるノルウェーの会社に毎年社員を派遣し輸出のノウハウを学んでいます。

営業担当
「例えば日本でいいブリができましたと。
それを全世界にまんべんなく広めていきましょうと言ったって、各国ごとに食べる魚も違えば肉も違う。
それを各国にあわせた売り方をしっかりと研究していくべきだと。」

さらに今、漁業関係者と共にこれまでとは全く違う仕組みを作ろうとしています。
加工や冷凍の業者、海外市場に強い商社、銀行などと手を組み、新たな会社を作ろうというのです。
川上から川下までが一体となり、しっかりと海外のニーズを把握して生産を行うことがねらいです。
桑原さんたちがねらいを定めているのが、健康志向の高いヨーロッパ。
DHAやEPAなどの魚の成分を増強する新たなエサの開発にも着手しました。

尾鷲物産 桑原宏さん
「日本の品質というものを世界にアピールしていきたい。
他の工業製品、ほとんどが世界でナンバーワンの品質をもっている国ですからね。
魚の分野でもサーモンに勝てる品質を目指していきたい。」

日本勢が参入を始めた国際養殖ビジネスの世界では、すでに新たな動きが出てきています。
養殖の魚の認証制度、ASCです。
この認証は、環境に悪影響を及ぼさない持続可能な養殖を行う業者に与えられます。
この認証を受けた魚はすでにヨーロッパを中心に37か国で扱われ、売り上げを伸ばしています。


「安心感はありますね。
きちんと育てられて、最後まで販売までしっかり見てくれている。」

イオンリテール 水産商品部 部長 奥井範彦さん
「興味を持たれているお客さんも増えてきていますので、数のある限りASC認証商品を最優先で扱っていくと。」



この国際認証を海外輸出の武器に、あえて取り組むところも出てきました。
宮崎県にあるブリ養殖の会社は、国内初のASC認証の取得を目指しています。
認証を得るためには、海の環境をできるかぎり守りながら養殖することが必要です。
そこで取り組んだのがエサの改良です。
これまで養殖業者によっては生魚や魚粉などのエサを大量に使い、水質を悪化させてしまうことがありました。

この会社では2年前から植物性たんぱく質を配合した固形のエサを本格的に導入。
食べ残しによる水質汚染のリスクを大きく減らすことができました。
高い技術力と徹底した管理で、国際マーケットでのブリのシェアを拡大したいと考えています。

黒瀬水産 社長 山瀬茂継さん
「(日本は)水産立国とかいっておきながら、(資源)管理の面が遅れているということはあると思います。
それを海外のレベルに上げていくことが求められると思います。」

激化する養殖ビジネス 国際競争に日本は

●ブリが最有力と思っていい?

そうですね。
やっぱり日本でしか生産できない魚なんですよね。
種苗もそうですし、成育環境もそうなんですけど。
今、世界では非常に魚が食べられるようになってますけども、その中でも、いわゆるマグロとサケに次いで、ブリというのは3番手に評価される魚になってますんで。
ただですね、それだけでは日本のビジネスは勝てないんで、いわゆるマダイであるとか、トラフグであるとか、ヒラメとか、いろいろなものを持っていって、その中でブリが主流になっていくのはあると思うんですけれども、いろいろな魚種で勝負するのが一番、日本にとってはいい戦略だと思いますね。

●ASCのような認証制度とどう向き合っていけばいい?

そうですね、国際的なマーケットで言うと、ああいうラベルをつけるってことは非常に重要で、ああいう識別可能性というのは、やはり非常に商品力を持たせるうえで大きな鍵になるんですね。
これは日本もそれを知っておくべきだと思うんです。
ただですね、やはり順番はまず衛生管理、これはきちっとできている、安全性の話です。
2つ目は品質。
3つ目にようやく環境がくるんですよね。
そういう順番で認証なり、ラベルなりをつけていくということをやると、十分、競争力は持てるんじゃないかなと思いますね。
(それぞれのそういう分野では、認証制度が?)
存在していますね。

●業者がたくさんいる中、摩擦を生まずにどう体制を作る?

そうですね。
ただ、実際生産される方々っていうのは現場の方々なので、つまり養殖業者さんなんですよね。
この人たちは、日本の最高の技術を持っている人たちそのものなわけですから、この人たちが個人でする状態ではなくて、組織で、つまり会社形態の中で技術者として入り込めるような状況というのを作るほうが、恐らく大規模化の鍵だと思うんですね。
あくまで排除するのではなくて一緒にやると、中で一緒に働いて、勝ちを取りにいくっていうところが、答えなんだというふうに思いますね。
それにあと1点加えると、そういうふうに大規模化していくってことで輸出が増えていくと価格も上がってきますから、中小もどんどん経営がよくなると思いますけど。

●日本のポテンシャル、潜在力をどう見る?

ポテンシャルは世界最高だと思います。
これは間違いないでしょう。
海も非常に広いですし、技術もたくさんあって、そして人もいると。
こういうふうな中で、さらに文化も持っているということを考えると、世界に日本の魚を出していって、世界のマーケットを取ったらいいんじゃないかと思います。

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