クローズアップ現代

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No.35142014年6月16日(月)放送
“イクボス”ってどんなボス? ~人材多様化時代の上司像~

“イクボス”ってどんなボス? ~人材多様化時代の上司像~

「イクボス」を養成せよ イクメンたちの挑戦

4月中旬、平日のアフター5。
都内のある会議室に、およそ50人のサラリーマンが集まっていました。
部下からプライベートな相談を受けた時、上司はどう接するべきか。
さまざまな状況を想定した実践的な勉強会です。

男性
「私、妊娠しまして、ちょっとご報告とご相談が。」

男性
「おめでとうございます。」

その名も、イクボス養成講座。
イクボスというのは、育児や介護など、部下の私生活に配慮できる上司のことだといいます。

男性
「『イクボス』が増えることが、職場を変え、社会を変える。」

実は、この講座を立ち上げたのは「イクメン」。
みずから育児を積極的に担ってきた男性たちです。

男性
「自分はいわゆるイクメン、育児と仕事を頑張っているが、ボスになったときに、自分とチームまでできるかっていうのはなかなか難しい。」

男性
「(上司に)理解を得るというところにすごく苦労した時代を経験しているので、そういうことを自分たちの代からはなくしていきたい。」

悩めるイクメンたちにイクボスとはなんたるかを教えているのが、この人。
「元祖」イクボスとされる、川島高之さんです。

三井物産ロジスティクス・パートナーズ
代表取締役 川島高之さん
「ボスが部下の家庭や私生活にも配慮する。
結果、部下のストレスは軽減し、発揮する能力は倍増。」

川島高之、50歳。
ボスとしての奥深い流儀があります。

「イクボス」の流儀 自分の経験を糧に

三井物産ロジスティクス・パートナーズ 代表取締役 川島高之さん
「おはようございます。」

川島さんは都内の不動産投資信託会社の社長を務めています。
社員は31人。
川島さんというボスの下、それぞれが仕事だけでなく私生活も充実させています。


こちらの経理責任者。
実は、子どもの学校でPTA会長も務めています。

財務企画部 池田匠作さん
「お先です。」

こちらの男性は、毎週木曜日午後3時になると、必ず退社。
娘をピアノ教室に連れて行きます。

財務企画部 池田匠作さん
「ありがたいことです。
ただそのぶん仕事では結果は求められる。」



川島さんが大切にしている信念があります。
川島さんは、社員1人1人のプライベートの状況を把握しています。

三井物産ロジスティクス・パートナーズ
代表取締役 川島高之さん
「シングル(独身)なので、相手探しも一生懸命やっているはず。」


私生活の充実こそ、社員のやる気を最大限引き出す秘けつ。
社員が積極的に休みを取れるよう、多様な休暇制度を作りました。
子どもの誕生日など、家族の記念日に休みが取れる「アニバーサリー休暇」。
さらには「ボランティア休暇」まで。
働きやすい職場作りを行う川島さん。
その一方、業績を上げることにもこだわります。
会社の収益は、去年(2013年)から右肩上がりで伸びています。

三井物産ロジスティクス・パートナーズ
代表取締役 川島高之さん
「よっしゃー!
すばらしい、すばらしい!」

実は川島さん、かつては仕事一筋で深夜残業もいとわない猛烈サラリーマンでした。
働き方を変えたのは33歳。
フルタイムで働く妻との間に、子どもが生まれたのがきっかけでした。
できるだけ子どもと一緒にいたい。
そして、妻の仕事を応援したい。
川島さんは日中、集中して働き、極力残業を避けるようにしました。
一方で、早く退社することに後ろめたさも感じていました。
そんな経験をしてきた自分だからこそ、新たなボス像を目指そうと決意しました。

三井物産ロジスティクス・パートナーズ
代表取締役 川島高之さん
「業績を上げることと、部下にも私生活があり、それを尊重することは部分的に相反する。
でも両立は絶対出来るというか、両立したほうが仕事の成果も高まる。
実感です、私の経験値。」

部下の私生活を重んじるイクボスは、自分自身の私生活も大切にし、ほぼ毎日定時に退社します。
そのために、ふだんの仕事で大事にしていることがあります。
川島さんは、どんな部下にも少し難しめの仕事を託し、成長を促します。

男性
「追加投資については25億円をどこに投資するか、しっかり考えるべき。」

こちらの社員には、まだ若手にもかかわらず、経営を左右する巨額の物件の取り引きにチャレンジさせています。

投資運用部 元山清仁さん
「厳しい面もあるんですけれど、でもこっちの方が成長する。
そういう意味でありがたい。」


そして、大きい仕事を任せながらも進捗(しんちょく)状況をチェック。

三井物産ロジスティクス・パートナーズ
代表取締役 川島高之さん
「あした、あれだっけ、船橋行くの?」

部下が悩みを抱え込まないよう、話しかけやすい雰囲気作りを心がけます。

三井物産ロジスティクス・パートナーズ
代表取締役 川島高之さん
「人が育つというのは任せること。
部下に成長してもらうことが、部下にとっても会社にとっても私自身にとってもいいこと。」

高齢社員を活用 建設現場のスゴ腕ボス

群馬県藤岡市。
人手不足の建設現場にも、注目のスゴ腕ボスがいます。
県から働きやすい職場として表彰された建設会社の専務、内田孝嗣さんです。


倭組 専務取締役 内田孝嗣さん
「おはようございます。」

高い技術力が評判のこの会社。
社員31人のうち3割が60歳以上です。
内田さんは、健康などに不安を抱えがちなベテラン社員に毎日声をかけています。

倭組 専務取締役 内田孝嗣さん
「メシ食った?」

男性
「メシ食った、大丈夫。」

男性
「あゆの放流を子どもたちがした。」

倭組 専務取締役 内田孝嗣さん
「いいなあ。」

自分が関心がない話題でも、雑談を続けます。
部下の顔色や声の調子などから、健康状態や悩み事などを探ることができるからです。

石川正男さん
「おはようございます。」

日々の声かけをきっかけに家庭の事情を配慮してもらうことができた、石川正男さんです。

石川正男さん
「ただいま。」

石川さんは同居している娘夫婦が共働きのため、孫が病気のときなど、親代わりで世話をする必要があります。
そんなベテラン社員ならではの事情を考慮したのが、「孫育て休暇」。
孫の育児のために有給休暇が取れるのです。

石川正男さん
「こんな歳だから、たまには休みたいだなんてずる休みはしない、体動かすのが好きだから。
でも、そういう制度(孫育て休暇)があるだけで助かります。」

たとえ社員が急な事情で休んでも、社員どうしでカバーし合えるようシフトの組み方に工夫をしています。
内田さんがここまで社員の事情に配慮するようになったきっかけは6年前、みずから父親になったことでした。
子どもが病気になれば現場に集中できない。
社員の心配事を極力なくすのがボスの責任と目覚めたのです。

倭組 専務取締役 内田孝嗣さん
「安定した精神状態で日々を送ると、すべてにいい結果が出る。
何よりも安全に仕事ができる。
どこまで追求できるかという部分もあるが、頑張りたい。」

人材多様化時代 変わる理想の上司像

ゲスト佐藤博樹さん(東京大学社会科学研究所教授)

●川島さんのマネージメント方針、どのように受け止める?

川島さんは管理職として、やるべきマネージメントをきちっとやれてるっていうふうに思いました。
管理職というのは、自分に課せられた課題を自分でするのではなくて、部下がきちっと仕事を意欲的に取り組むことによって、管理職の仕事が達成できるということなんですね。
そういう意味では、部下を育て、部下に意欲的に働いてもらう、これをきちっと配慮するということが管理職なんです。
川島さんは従来の管理職と違うのは何かというと、部下が意欲的に働いてもらうためには、仕事が充実しているだけではなくて、やっぱり部下1人1人の私生活ですね、プライベートの生活が充実していることもすごく大事だと。
なぜかというと、今の部下というのは仕事も大事だけど、仕事以外に、子育て、いろいろ大事なことあるわけですよね。
そういう管理職になってきたということを理解できてるということだと思います。
(部下が変わってきたということが分かってきた?)
ええ、ですから管理職で、部下が意欲的に働くことを配慮してると思っている管理職、たくさんいるんですけれども、部下が変わってきたということを十分理解していない人が多いのかなというふうに思います。
だから仕事だけじゃないんですよね。

●社員の心配事、プライベートな問題に関わるのは難しい?

仕事でどういうことをやりたいかというのは聞きやすいわけですけれども、仕事以外で、今、どんな事情があるのかとか、どういうやりたいことがあるのかということは、なかなか聞き出しにくいのは事実です。
今、個人のプライバシーに深く関わるのはあまりよくないことだみたいな議論もありますので。
ただ、他方でそこも分からないと支援しようがないわけですよね。
ですからやはり社員の方が個人的な事情を、やはり職場で、あるいは上司に言えるような雰囲気を作っていく。
そのためには、管理職自身が仕事だけじゃなくて、仕事以外にこんなことをやってんだとか、こういう大事なことがある、こんな事情があるんだということを、やはり職場で言っておけるような職場にすることがすごく大事だなと思います。
管理職自身もそういう生活があって、仕事だけじゃない、それも大事にしてるしということを、管理職は部下に言えるような職場にするというふうにしておくとですね、部下も言いやすくなるかなと思います。

●イクメンの数はあまり多くない?

イクメンの人たちが管理職なり、イクボスなりですね、部下の新しいマネージメントをやる、それすごく大事なんですけど、もっと大事なのはやはり今の管理職に、イクボスにどうなってもらうかと。
仕事、仕事だけじゃなくて、部下の仕事以外の生活も充実するようなマネージメントをやれるような管理職にどう変えていくかということが、企業の大きな課題かなと思います。

優しいだけじゃダメ? 管理職の意識改革

大手印刷会社の管理職研修です。
制約を抱える社員の力を引き出すため、意識の改革を迫っていました。

「とても配慮している、過剰な配慮ということをよく言われます。」

育児を理由に短時間勤務で働く部下に対し、管理職はただ配慮するだけではだめ。
能力を発揮させる働きかけが大切といいます。

実は、この会社は子育てとの両立支援制度を充実させていて、例えば短時間勤務は子どもが小学4年生の時まで利用できます。
にもかかわらず両立を断念して離職したり、働く意欲を失うケースがなくならず大きな問題になっていました。
一体なぜなのか調べると、短時間勤務の女性社員と上司の間に深い溝があることが分かりました。
上司の声です。

上司
“時間に制約があるから、重い仕事を任せてよいかわからない。”

上司
“突発的に休むため、大切な仕事を1人で任せられない。”

一方、女性社員は…。

女性社員
“補助的な仕事しか与えられない。”

女性社員
“意欲がさがった。”


この切実な問題を解決したい。
女性の定着率が低い営業部門で、この4月から管理職たちの取り組みが始まりました。
その陣頭指揮を執るのが、事業部長の浅羽信行さんです。
男性の課長4人に、子育て中の女性社員をしっかり活躍させるよう言い渡しました。

大日本印刷 情報ソリューション事業部長 浅羽信行さん
「課長が、限られた時間の中で女性の持っているパフォーマンスを出していこうとしているのか、それとも腫れ物に触るように女性社員を扱ってしまうのか、しっかり見ていってほしい。」



指示を受けた課長の1人、神谷聡介さん。
自身は家のことは妻に任せ、ひたすら仕事に打ち込んできました。
子育てのため時間に制約がある吉岡あずささんの上司となり、思わぬ課題と向き合うことになりました。
神谷課長は、毎月必ず吉岡さんと面談し、家庭の状況を鑑みながら仕事の目標や進捗状況を確認し合うことにしました。

面談に際し吉岡さんが書いたシートには、可能なかぎり保育園に迎えに行きたいが、効率よく売り上げ・利益も上げたいと記されていました。
神谷課長が吉岡さんとじっくり話し合うと、時間に制約があるにもかかわらず、仕事への意欲がますます高まっていることが分かりました。
そこで、売り上げ目標を前の年の120%と高く設定。
神谷課長は、仕事の進め方を工夫し業務を減らせば実現できるのではと考えました。

男性
「何かあればやっておくよ。」

男性
「言っていただければやりますよ。」

吉岡さんの意欲の高さを知った同僚たちは進んでフォローしてくれるようになってきました。
管理職が率先して育児社員に向き合うことで、職場の雰囲気、そして自分自身の働き方も変わってくると神谷さんは実感し始めています。

大日本印刷 課長 神谷聡介さん
「何が正解かわからない手探りの中で、ちょっとずつ成果出てきていますし、少しずつは進んでいるのかなと思う。」

“制約”社員どう生かす 管理職の意識改革

●管理職のまなざしを変える、最も効果的な方法とは?

2つあると思うんですね。
1つ、これは根本的な方法なんですけど、やっぱり管理職の登用基準を見直すということで、やはり管理職というのは先ほどお話しましたように、部下に意欲的に仕事をしてもらうということなんですね。
ですから、仕事が自分でできるだけじゃなくて、部下に仕事を任せて、部下が意欲的に働ける、そういうマネージメントをやれる能力、あるいは部下を育成する、そういう育成能力があるという人を管理職にする。
これはこれからの話ですけれども、2番目は、もうすでに管理職になった人のマネージメントを変えるためには、やはり会社として管理職の評価基準を変えるということですね。
ですから時間制約のある社員でも働けるように、例えば過度な残業をなくすとか、有休を取りやすいような職場にするとか、そういう取り組みをしたことを評価する。
あるいは部下の育成をきちっとやれるような管理職を評価する。
つまり管理職の評価基準を変えると。
僕はこれで相当、管理職のマネージメントは変わるというふうに思っています。

●時間制約のない社員はどれくらいいる?

これ、なかなか難しいですけど、男性の中でも本当は介護の課題がある方とか、子育て期の人だけじゃなくてあるいは勉強したいとか、そういう意味では、仕事はもちろん大事だけれども、勉強、子育て、介護、そうすると、僕は3割ぐらいになっちゃうんじゃないかなと。
逆に時間制約がある人が7割で、ない人が3割ぐらいかと。
(長時間労働もいとわず、労働がずっとできる方が3割?)
だんだんそんな時代になってくるのではないかと思います。

●100%の力を出す組織をどうやって作る?

時間制約のある人だけがニュアンスの大事な仕事を任せられないというような会社は、やはり社員の能力を引き出せませんので、時間制約がない人だけじゃなく、時間制限のある人も、先ほどの短時間勤務の方ですよね、ああいう方にもその人の能力に見合った仕事を任せて、その人も意欲的に働ける、そういうマネージメントをやる管理職を増やしていくということをしないと、これからやはり企業として人材開発ができなくなると思います。
(補助的な仕事を任せたり、早く帰っていいよと言いがち?)
そうですね。
ただ、管理職がそういう時間制約のある方もきちっとマネージメントするとか、先ほどのように、任せてフォローするというと、管理職としてやっぱり時間が必要なんですよね。
そういう意味では管理職も忙しすぎますので、やはり管理職の働き方を見直すというのは、すごく大事だと思います。
月単位でやる仕事、週単位でやってる仕事、日単位でやってる仕事、それを書き出しまして、その中で、たぶん大事な仕事なんですけども、部下に任せていい仕事を抜き出すと、いろいろやってみると3割ぐらいあるんですよね。
これを部下に任せるようにする。
ただ、そのためには部下の能力開発はセットでやらなきゃいけないんですよね。
そうすると、管理職からすれば、3割、仕事が減るわけですから、その時間を部下のマネージメント、フォロー、そういうものに使っていくっていうことが、すごく大事かなと思います。

●本当の意味で、管理職が管理職にならないといけない時代?

そういうことですね。
本来、管理職というのは自分の仕事をするんじゃないんですね。
部下に意欲的に仕事をしてもらう。
それぞれ能力開発もするし、ただ、意欲的に働いてもらうためには、仕事が充実してるだけではだめな社員が増えてきたということです。
プライベートも充実する。
そういうことを支援できる管理職が大事かなと思います。

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