クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
No.34972014年5月15日(木)放送
急増する野生動物被害 ~拡大の実態~

急増する野生動物被害 ~拡大の実態~

地域社会を追いつめる野生ザル

過疎、高齢化が進む鹿児島県さつま町。
春の収穫期。
数十頭のサルの群れが農作物を目当てに下りてきます。
その様子です。
1頭の若いオスザルが大根を食べ始めます。
それでも人は追い払いに来ません。

数分後、仲間も集まりすべての大根を食べてしまいました。
農家の担い手が減る中、さつま町では小規模な畑で糖度の高い農作物を作る人が少なくありません。
サルが狙うのはそうした作物です。

農家
「畑も荒れ放題、田んぼも荒れ放題。
もう収穫ができない、作っても。
もう全滅だもん。」

人口の減少と糖度の高い農作物を作るようになったことで下がり始めた、サルと人間の境界線。
このことがサルの個体数に影響を与えているといいます。
野生のサルの出産回数を調べた、東洋大学の室山泰之さんです。

木の実など自然のものを食べる屋久島のサルは、およそ3年に1回10年で3頭を産むペースでした。
ところが畑を荒らす三重県大山田のサルは、10年で7頭を産むペースで出産していました。
境界線の変化は個体数の増加までもたらし、農地の被害をさらに拡大させるというのです。

東洋大学 室山泰之教授
「今の状態だと、どうしても農作物の被害が起こりますから。
被害が起こる以上、個体数が増えて、また新しい被害地が生まれるということで。
農作物を食べられないようにしないと、悪い連鎖は断ち切れないです。」

サルと人間社会の接近は新たな問題を生み出しています。
南さつま市坊津町の住宅街です。
4年前、片足のないオスザルが現れ、次々と人に危害を与え始めました。
この女性は自宅付近でサルと遭遇しました。

被害にあった女性
「こんな状態で来てガブッてやって、『こら!』って言った時にはパッと離す。



傷があるでしょ、これがそう。
3か所ですね、残ってますでしょ。」




この女性は玄関で。

被害にあった女性
「これくらい開けたところで、いきなり右足のふとももですね、ここかまれました。
もちろん着ているものも土間も、血だらけになりました。」


中には皮膚が裂ける大けがを負い、入院を余儀なくされた人もいました。
当時の被害記録を調べたところ、人間社会に入り込んだサルがまず、ある動物に危害を与え始めたと書かれていました。

“子猫を振り回していた。”

“近所の猫が、かみ殺された。”




町には野良猫が多く、キャットフードをあげるお年寄りが少なくありません。
この女性は、家族が町を離れ1人の時間が増えたため、猫をかわいがり餌をあげるようになりました。

女性
「あたしが(エサを)食べさせるもんだから、こうしてついてくるんですよ。」

自治体はこのキャットフードをサルが狙ったと考え、チラシを配り、餌を放置しないよう呼びかけました。
町が仕掛けたカメラの映像にも、猫を執ように追いかけるサルの姿が映っていました。
片足のない同じサルでした。

このサルはメスを求めて群れを離れ、単独で行動するハナレザルと見られていました。
餌を求めて食べ物が豊富な集落に出没する機会が増えると、人との接触が起こり、危害を与える可能性が出てくるのです。
女性のお年寄りを中心に人に危害を与え続けたサル。
被害者の数は4年間で60人以上になりました。

事態を重く見た町は去年(2013年)2月、サルを懸賞金付きで指名手配。
その半年後、山の中で発見し射殺しました。



同じように人に危害を与えるサルの事例は今、全国で相次いでいます。
4年前には、静岡県三島市などで118人が被害に遭いました。


東京大学大学院 大西賢治研究員
「ハナレザルの方が人里に下りてくるので、そういう機会(人的被害)は多い。
山の中で生活しているところから人里に下りてくる機会が増えれば、こういうこと(人的被害)が起こる可能性は上がる。」

地域社会を追いつめる野生ザル

ゲスト大井徹さん(森林総合研究所野生動物研究領域長)

●自分の集落の中で突然サルに襲われる恐怖

あの映像で映っていたのは、かなり特殊な経験を持ったサルだと考えています。
山の中でサルは、ああいったふうな行動はしません。
原因として考えられますのは、今、全国で広がってる農業被害の問題です。
農業被害対策が十分に行われないなどすると、人になれていくサルがどんどん増えてきます。
そういったサルの中から、ああいったサルが誕生したものだというふうに考えられます。
ビデオではハナレザルでしたが、群れのサルでも同様です。

●人間とサルの距離が近くなった理由とは?

これはサルの生息地の変化と関係あると思います。
突き詰めれば、人間の生産活動とも関係あるんですけれども、かつてはサルの生息場所と、人間の生活域の中に、バッファーゾーンがあったんですね。
(緩衝帯みたいな?)
緩衝帯です。
その地域が今、里山といわれているような所で、そこではかつて、まきや炭の生産のために、短期的な伐採が行われてました。
伐採してはまた木の成長を促してまた切る、10年くらいの周期でそれが行われていました。
そのために比較的若い見通しのよい林になってたんですね、人の手入れもありましたから。
そういった地域から、地域の利用がなくなって、かつ農山村の過疎化が進んでますから、手入れする人もいなくなって木々が生い茂って、サルだとか、ほかの野生動物の餌を大量に生産するような環境になったんです。
そこも野生動物、サルを含めた野生動物が利用するようになったんですけれども、そこまで下りてきたサル、あるいは野生動物に目についたのは、農作物と、人間が作ってる食べ物です。
人間が作ってる食べ物は山の中の食べ物よりも高栄養で、まとまってありますので、摂取効率がいい。
サルたちは生存するために食べ物を探すのに必死です。
里の食べ物に引かれていくのは当然です。

●人が減ってきている中、どんな対策が有効か?

そうですね。
まず農作物とか、人の食べ物、サルに食べてもらっては困るものを守る、柵とか電気柵を使って守るということです。
またそういったものを狙って出てくる動物たちを、犬などの力を借りて追い払うという対策。
(そういった犬の対策を取っている所もすでにある?)
そうですね、かなり広い地域で取られています。
さらにやむをえない場合には、捕獲をするという対策もあります。

シカが急増! 長野県の危機

年間8,000万人もの観光客が訪れる長野県。
今、その観光業が野生動物によって危険にさらされようとしています。
信州大学の竹田謙一さんは、動物による環境異変の実態を調査しています。

信州大学 農学部 竹田謙一准教授
「こういう幼木も葉がついているように見えますけど、みんな枯れていて、この木も完全に死んでますね。」



立ち枯れの原因はシカの食害。
竹田さんの調査から、被害は県の全域に広がっていることが分かってきました。
南アルプスの山々を覆っていた色とりどりの高山植物。


しかし、その姿は一変。
山肌がむき出しの状態になり、大雨などで斜面が崩壊する危険性が高まっています。
シカが異常に増加して草花を食べ尽くしたのです。


これまで3万頭前後で推移していた生息数は2000年以降、急激に増加。
その数は3倍以上となっています。
ハンターの減少や牧草地の増加が、主な原因と見られています。



その結果、これまで標高の低い所にあった生息域が拡大。
3000メートル近い高地にまでシカが現れ、草木が消えようとしているのです。



信州大学 農学部 竹田謙一准教授
「観光を考えると、登山客が期待する風景がなくなるということは、ただ単に自然の破壊だけでなく、経済的なデメリットも今後相当大きくなる。」

シカ急増に思わぬ要因?

近年、その増加に意外なものが関係していると指摘されています。
シカの不思議な行動が目撃されている八ヶ岳のふもとです。

「あっ、いた。」

国道沿いに何頭もシカが姿を現しました。

「また来た。」

すると、シカは餌となる草がないにもかかわらず、20分以上も道路をなめ続けました。
こうしたシカの行動が撮影されたことはほとんどありません。
シカは一体、何をなめていたのか。

「ちょうど、この辺りをなめてたんでしょうか。」

現場に残された水分を採取し、分析を行いました。




検出されたのは高濃度の塩分。
通常の道路に比べると30倍以上の値です。
大量の塩分をもたらしたのは、冬場、道路の凍結を防ぐためにまかれる塩化ナトリウムでした。


長野県では交通の利便性を高めるため、この10年で700キロ以上道路を延長。
シカの生息範囲拡大につながったとされています。
それとともに凍結防止剤の使用量は年々増え、今では年間1万5,000トン。
10年前の3倍にも及びます。

岡山大学 農学部 坂口英教授
「なめてますね。」

この塩がシカの増加とどのような関係があるのか。
草食動物の生態を研究する、岡山大学の坂口英さんです。


シカは食べ物を消化吸収する際に塩分を必要とします。
塩分が不足すると死につながるため、動物園では餌と共に必ず塩を与えています。
野生のシカは、冬になると山肌が雪で覆われるため、岩や土に含まれる塩分の摂取が難しくなります。
交通の利便性を高めるためにまいた塩が、シカにとって厳しい冬を乗り切るための貴重な栄養源となったというのです。

岡山大学 農学部 坂口英教授
「食べるものが冬なので(少ない)、ナトリウム(塩)が足りない。
雪があるところで塩場を供給している。
栄養状態を改善し、生きる力を与えていると思います。」

シカが急増!長野県の危機

急増するシカを減らすため、県は捕獲数をこの10年で4倍に増やしました。
しかし、シカの捕獲を担うハンターの数はピーク時の5分の1にまで減少。
このままでは担い手がいなくなると懸念されています。

そこで小諸市は去年、野生動物の専門家を全国で初めて常勤の職員として採用しました。
生息数の調査をもとに、適正な頭数を捕獲するなどの対策を行っています。

小諸市 野生鳥獣専門員 竹下毅さん
「キラキラするのは動物は嫌いなので、根元の方に。」

さらに市ではこの専門の職員の指導の下、ほかの職員にもシカの知識や管理のしかたを伝え、野生動物との共存を模索しています。

小諸市 野生鳥獣専門員 竹下毅さん
「私のような計画を立てられるような若手、人材をつくるのも仕事。
シカの絶滅ではなく、増えすぎないよう生態系のバランスをとるのが重要。」

シカ急増の原因は?

●塩をなめている長野のシカ、どう見る?

私も初めて見ました。
珍しい現象だと思います。
しかし野生動物っていうのは、特に草食獣は慢性的な塩分不足だというふうに言われています。
そのため、ああいうふうにシカが集まってくるんだと思いますけれども、あれだけ多くのシカが集まってきているというのは驚きでした。
(それだけ多くのシカが、あの地域にいるという現われ?)
そうだと思います。

●繁殖力、頭数増加への影響は?

塩の影響で繁殖力が増強されるという、そういった検証はまだなんですよね。
これからの研究課題だと思います。

●なぜここまでシカが増えた?

1つは、ほかの野生動物と同じように、第2次大戦直後まで乱獲されていたということがあります。
そのために国が、メスジカの狩猟禁止、オスジカの狩猟制限という保護政策を取りました。
その効果が1つ上がったということになります。
もう1つは、シカの生息地の開発です。
1950年代後半から70年代前半まで木材への需要が高まったものですから、国が拡大造林政策というのを取りました。
広葉樹の林を切って、そこにスギやヒノキを植えるという政策です。
そこで一時的に大面積の伐採地が出来たんです。
そこは光環境がよくなって、シカが好物である草とか、かん木が生い茂る所になりました。
森林の中にシカのいい餌場を作ってきたということになります。
と同時にですね、国民の乳製品や肉に対する、牛肉に対する要求が高まって、その需要を満たすために、牧野の開発が森林中に行われました。
そこでもシカの餌場が出来たわけです。

●国は政策でシカや害を与えるサルなどを10年後までに半減させようとしているが?

シカとかイノシシとか、数が増え過ぎて、問題が深刻になってる動物、彼らは繁殖力も高いですから、捕獲数を倍増するという対策は必要だと思います。
しかしこの対策が、サルとかクマだとか、そういった繁殖力の低い動物にも適用されるとしたら問題で、動物の種類によって適切な対応をする必要があると思います。
また今、シカは27万頭程度捕獲されてます。
それが倍増されると、その死体をどう処理するかという問題が生じます。
そこの手当てもきちんとされる必要があると思います。

●人間と動物、関係を再構築するための最大のポイントは?

そうですね、行政のほうもさまざまな手だてを考えていますけれども、今、足りないのは、野生動物の生態も知り被害対策のスキルも持った専門家を、現場の状況をきっちり把握して適切な対策を実行できる専門家を配置するということだと思います。
共存するためにまだまだ課題はあるかと思います。

あわせて読みたい

PVランキング

注目のトピックス