クローズアップ現代

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No.34912014年4月28日(月)放送
新型出生前検査 導入から1年 ~命をめぐる決断 どう支えるか~

新型出生前検査 導入から1年 ~命をめぐる決断 どう支えるか~

新型出生前検査 突然決断を迫られて…

関東地方に住む43歳の女性です。
この日、新型出生前検査の結果を聞きに来ていました。
赤ちゃんに病気が見つかれば中絶するしかない。
女性はそう考えていました。


医師
「病気が出てくる確率が高いというふうに出たわけです。
42.9%です。」

検査の結果は陽性。
胎児は重い心臓病や知的障害が起きる病気、18トリソミーの可能性が40%以上あると告げられました。

病気かどうか確かめるため、女性はすぐに次の検査を受けました。
おなかに針を入れて羊水を取る検査です。
画面には妊娠18週を迎え、元気に動く赤ちゃんの姿が見えました。

新型出生前検査を受けた女性
「元気そうに見えるけど、これでも病気があるんですか?」

病気だと分かれば中絶するつもりだった女性の気持ちに、変化が現れました。

新型出生前検査を受けた女性
「かわいそうというのと、かわいいというのと、産んであげたいというのと、いとしい気持ちですね。」

中絶が認められるのは妊娠22週未満まで。
羊水検査の結果が出てから2週間しか時間がありません。
障害のある子どもを産んで育てるとしたら、どんな生活になるのか。
何か支援は受けられるのか。
逆に中絶したらどんな思いをするのか。
女性には知りたい情報がたくさんありました。
しかし医師らによる遺伝カウンセリングで伝えられたのは、検査の意味や病気の詳しい症状など、医学的な説明が中心だったといいます。
女性は、知りたかった情報をなかなか聞くことができなかったといいます。

新型出生前検査を受けた女性
「おなかにいる子を人工で陣痛を起こして死産させるという、こんなことを自分が今しようとしている恐ろしさとか、悲しさとか。
かといって産んで育ててあげようという勇気も出ない。
そのジレンマで、毎日毎日葛藤していました。」

1週間後、女性は再び病院を訪れました。
羊水検査の結果、胎児は病気ではなかったと告げられました。
5か月後、女性は元気な女の子を出産。
しかしいっときでも中絶を考えた自分に、後ろめたさを感じています。

新型出生前検査を受けた女性
「ごめんね、情けなくてね。
そのときの私は全然情報も何もなかったので、陰性だったらマル、陽性だったらバツという考えしかできなかったので、それ(中絶)しかないって思い込んでいた危うさというか、怖さも思いますし。」

新型出生前検査 戸惑う医療現場

新型の出生前検査が始まって1年。
NHKがこの検査を実施している33の医療機関に取材したところ、現在行っている遺伝カウンセリングでは、十分ではないと感じている医師が少なくないことが分かりました。

大学病院 産婦人科医
“本当の意味でのカウンセリングになっていない。
医学的な知識を妊婦や夫婦に伝えるのが精いっぱいで、なぜ自分はダウン症の子どもを産むことを選ぶのか、あるいは選ばないのかというところまでは、話が及ばない。”

大学病院 産婦人科医
“障害のある子どもを産んだ場合将来どうなるか、説明できない。
情報がない。
親御さんたちは自分が先に死ぬことの不安を口にするが、答えられない。”

一方でほとんどの妊婦は中絶すると決めてきていて、なんのためのカウンセリングなんだろうと疑問に思うことがあるなどの声もありました。
取材に答えてくれた医師の1人澤井英明さんです。


澤井さんの病院では、この1年で400人以上が新型検査を受けました。
羊水検査の結果ダウン症だと分かった6人の妊婦のうち、5人が中絶を選択しました。
胎児に病気があるなら産まないと決めている妊婦が多いといいます。

兵庫医科大学 澤井英明医師(産婦人科)
「大きな障害があれば、妊娠を続けるのはちゅうちょされることがあるわけですよね。」

新型検査を受ける妊婦
「そうですね、夫の考えも聞かないといけないんですけども、育てる自信はないかなと。」

産むか産まないかの判断は、最終的には妊婦とその家族が決めることだと澤井さんは考えています。
しかし限られた時間の中で、病気について十分知る機会もないまま中絶を選ぶ妊婦や家族を前に、もどかしさも感じています。

兵庫医科大学 澤井英明医師(産婦人科)
「病気のお子さんを育てるとどうなるのかということを、正しく認識していただいているかどうかということが分からないわけです。」



松原未知さん
「こんにちは。
ご無沙汰してます。」

澤井さんは妊婦の決断の助けになればと、同様の経験をした母親を紹介する取り組みを独自に始めました。

松原未知さん
「昨日で1歳半になったんです。」

この病院でダウン症の男の子を出産した松原未知さん。
先月(3月)初めて、ある妊婦と話をする機会がありました。
松原さんは、ダウン症の子どもやその家族のことがあまりに知られていないと感じたといいます。

松原未知さん
「『ダウン症の家族がいると、一生経済的に大変』だとか、『親が死ぬまで面倒をみなくてはいけない』という誤った情報が加味されてしまっているので、想像がつかないことが1番の不安だと思うんですよね。」

自身も、産む前は不安だらけだった松原さん。
多くの妊婦とその家族に、後悔しない選択をしてもらいたいと願っています。

松原未知さん
「私は“産む”という選択肢をとりましたということで、参考にしていただければと思うだけであって、でも逆の選択をした方のお話も聞けたほうがいいだろうなと思うんですね。
いろんな話が、必要としている方に声が届く制度になっていればいいのにと思います。」

新型出生前検査 命の決断どう支える

ゲスト齋藤有紀子さん(北里大学准教授)

●中絶考え後ろめたさ感じる女性 新型出生前検査の重みどう受け止める?

出生前検査が持っている大きなジレンマの1つだと思います。
この検査は決して陽性になった方とかだけの問題ではなくて、今の映像のように、陰性になったけれども、そのことを選ぼうとしてしまった自分を考える問題もありますし、検査というものが提示されて、それを受けようか受けまいか、迷ったということ自体で、そのあとずっと悩まれる方もいらっしゃいます。

●今までの検査との違いは?

やはり羊水検査という、胎児の流産のリスクがない新型出生前検査ということで、血液だけで検査ができるということで、やはり妊婦さんにとっては検査のハードルは下がるというところがあるかと思います。
また逆に羊水だったら受けないけれどもということで、血液検査なら受けようという妊婦さんのニーズも掘り起こすというところがあるかと思います。
そのことによって、胎児がだんだんと、親が体の特徴や、胎児の体の特徴などを検査をして、妊娠中に考えてもいい、そういう対象だということを、検査自体が社会に暗黙のメッセージとして、出しているというところはあるかもしれません。

●生まれてくる生命・赤ちゃんとは別の意味が出てくる恐れがある?

そうですね。
妊婦さんがそう思うかどうかということ以前に、やはり検査ができるということ自体が、そういう社会に向かっているというメッセージになるかなという感じがいたします。
(選択の対象という?)
そうですね。

広がる出生前検査 ドイツの選択

日本より半年早く新型出生前検査を導入したドイツ。

妊娠葛藤相談所 クラマ=イラーチュ所長
「こんにちは。」

妊娠葛藤相談所と呼ばれる公的な相談機関を、全国1,500か所に設置しています。

ここでは妊婦とその家族が、専門のトレーニングを積んだ相談員のカウンセリングを何度でも無料で受けることができます。

同じような体験をした人や、支援団体も紹介してもらえます。
中絶を体験した女性を支援する団体。




ダウン症など障害のある人たちの生活を支える団体。





障害のある子どもを育てる家族への補助金や、税負担の軽減を行う窓口の紹介も受けられます。




検査後 中絶した女性
「簡単に決められず何度も迷いました。
相談は私が必要とするかぎり続けられたので、大きな助けになりました。」


ドイツでは胎児の命を巡る選択をどう考えるのか、20年以上にわたり国を挙げた議論を続けてきました。

女性
「胎児の命を守るべきです。」

女性
「(子どもの世話を)最後までするのは母親なのです。」

その中で作られたのが妊娠葛藤法。
妊娠や中絶の悩みに応じる専門の相談所を、全国に設置すると定めました。

さらに4年前には、出生前検査の急速な広がりに対応するため法律を改正。
胎児に障害があると分かった場合、検査を行った医師は妊婦に相談所を紹介しなければならないと義務づけたのです。


ドイツ倫理審議会 タウピッツ副議長
「産むのか産まないのかを決める女性の権利、おなかに宿った子どもの命、そのどちらも同じように大切なのです。
妊婦とその家族が十分に考えた上で決断ができるように、情報の提供やきめ細かな支援を、国は行うべきなのです。」

法律の改正を受け、医師と相談員の連携も進められています。
出生前検査の専門クリニックです。
ここでは、同じフロアに妊娠葛藤相談所が設置されています。
多くの妊婦は胎児に障害があると分かった直後は混乱し、相談所に足を運ぶことさえ難しくなるからです。

医師
「今、時間ありますか?」

医師と相談員は常に情報を共有し、妊婦の状況に合わせた対応を考えます。

医師
「今僕のところに、この前相談にのってもらった患者が来ています。」

妊娠葛藤相談所 クラマ=イラーチュ所長
「彼女ですね。
産むか産まないか何度も考え、もう限界にきていました。」

医師
「今、彼女と話してもらえますか?」

妊娠葛藤相談所 クラマ=イラーチュ所長
「いいですよ。」

妊娠葛藤相談所 クラマ=イラーチュ所長
「妊婦やその家族と、あらゆる可能性についてじっくり話し合います。
障害のある子どもを産む産まないという判断が、どういう意味をもつのか。
そしておなかの中にいる子どものことも、責任を持って決断することが何よりも大切なのです。」

相談所の支えで、不安や混乱の中から1つの決断にたどりついたという、ある夫婦を訪ねました。
ティーツさん夫婦と長女のミアちゃんです。



2年前、出生前検査でおなかの中のミアちゃんはダウン症だと診断されました。




妻 モニカさん
「様々な思いが頭をよぎり、家族とは、中絶とは、幸せとは一体なんだろうと考え、とても混乱しました。」



夫 トーマスさん
「ものすごく泣きましたよ。
完全に打ちのめされました。」



しかし相談員と何度も話し合ううち、自分たちが本当はどうしたいのか、夫婦で確かめ合うことができたといいます。

夫 トーマスさん
「ダウン症の子どもを持つ家族とも会い、障害のある子どもを育てていくということはどういうことなのか、実感できました。
ミアは待ち望んだ私たちの子どもです。
授かった命なのだと気づいたのです。」

妊娠葛藤相談所 ヴュラス相談員
「私たちは障害のある人たちと、どう向き合っていくのか。
社会が受け入れる体制は整っているのか。
出生前検査の問題は、社会全体で議論すべきテーマです。
こうした議論を成熟させることが、妊婦とその家族の決断に大きな影響を与えるのですから。」

新型出生前検査 命の決断どう支える

●カウンセリングにはどういうことが必要なのか?

病院でお医者様たちはやっぱり、偏りのない正確な医学的な情報とか、妊婦さんの理解を促進しようというふうに説明されると思うんですが、妊婦さんの関心とか自分の心の中の迷いというのは、たぶん医学的な説明だけでは解消されなくて、やはりそれ以外の居場所といいますか、妊婦さんの迷いとか不安に、ゆっくり耳を傾けてくれる、ただそれだけをやってくださる、その上で話し合いにつなげていけるというような、人とか場所とか時間というのが、とても大事になってくると思います。

●妊婦の葛藤に対し、どういう向き合い方が求められるか?

やっぱり妊婦さんは生活に根ざした実感といいますか、これからの生まれてくる子どもとの暮らしですとか、あとは今いる、すでにいる子どもたちとの関係性、それからパートナーとの関係性がどうなるか。
しかもその検査をすること、しないことで悩むこと自体にも、先ほどのような後ろめたさを感じている中で、本当に自分が決めていいんだろうかというような思い、それを必ずしもパートナーと同じリズムで悩みや迷いを共有できないという、そういうところがあると思いますので、やっぱりそこに耳を傾けられる気持ち、心を寄せる社会制度というのが必要じゃないかと思います。
(生命を自分の決断で絶つかもしれないと思っただけで…。)
ですので、ただやはり、どの妊婦さんも多かれ少なかれ向き合う、本当に重いテーマですので、あなただけではないと。
むしろそういうふうに悩んでいることこそ、胎児とあなたがしっかり向き合っている証拠なんだということを受け止めて、否定しないで、責めずに受け入れてくれる、そういう場所が恐らく、ドイツのような、葛藤相談のような場所では、少し実現してるのではないかなというふうに思います。

●増える高齢出産、高まるリスク 社会はこの検査をどう捉え、向き合っていくべき?

社会全体でいろいろな人がやはり知恵を絞って、妊婦さんの居場所、考える場所というのを作り、それからやはり社会の中で障害を持った人、病気を持った人たちが温かく迎え入れられている、あるいは生まれてきた子どもの将来をイメージできるような、そういう社会であれば、おのずと妊婦さんの考える決断の軸というのも変わってくるという可能性はありますので、やはり今、そういうことを考えるきっかけが、この検査を通して社会に提示されてるんではないかなというふうに思っております。
(むしろ障害があって生まれてくる子が、よりいやすい場所・社会であるような方向性に向かうように、社会的な議論が進むことが大事だということか?)
そうだと思います。

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