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No.34692014年2月27日(木)放送
徹底追跡 精子提供サイト

徹底追跡 精子提供サイト

追跡 精子提供サイト 未婚女性がなぜ

四葉さん(仮名)
「おはようございます。

個人の精子提供サイトを利用した四葉さん(仮名)、41歳です。
去年(2013年)12月、提供を受け、実際に妊娠。
このとき9週目を迎えていました。

四葉さん(仮名)
「これが頭らしい。
下が胴体らしい。
よかったです。」

大学卒業後、会社に就職した四葉さん。
30代で新たなプロジェクトを立ち上げ、キャリアを積んできました。
交際相手はいましたが、仕事を優先するうちに30代後半になったといいます。

四葉さん(仮名)
「もちろんちゃんと結婚して、子どもがいて、家庭があったらいいなというのはあった。
仕事の都合などで婚期を逃してしまって。
でも子どもはやっぱり欲しい。」

卵子が老化し、妊娠することが難しくなると感じた四葉さん。
結婚できなくても子どもを授かる方法はないか探しました。
一部の医療機関では第三者の精子を使った人工授精が行われていましたが、対象となるのは法律上の夫婦のみ。
未婚でも利用できる海外の精子バンクは数百万円の費用がかかる上に、仕事を長期間休まなければなりません。
最終的にたどりついたのが、個人のサイトでした。

四葉さん(仮名)
「最初は怪しいなと。
会ったはいいけど、どこかに詰め込まれたり、突然車に押し込められたり、渡されたものが劇物だったらどうしよう。
不安はあったけど、私にはそこしかない。」

複数の提供者に直接会い、信用できると思った人物から提供を受けることを決めたといいます。
提供者から精子の入った容器を受け取り、自分で体内に入れる方法を繰り返し、妊娠に至りました。

個人の精子提供 その背景は

今回、私たちが確認した40余りの個人の精子提供サイト。
一体どのような人物が運営しているのか。
学歴や職業などは記載されていますが、提供者の身元は明かされず、すべて匿名です。



取材を進める中で、私たちは1人の提供者に接触しました。
現れたのは、ケイスケ(仮名)と名乗る30代の会社員でした。
受け渡しはどのように行われているのか。




ケイスケ(仮名)
「地下鉄の出口、地上に出たところで待ち合わせをして、そこで容器をもらって、30分後にまたさっき待ち合わせをしたところで、またお渡しするという形。」

精子提供を始めて8年。
これまで20人に提供しそのうち5人から出産の報告があったとしています。
何を目的に行っているのか理由を問いました。

ケイスケ(仮名)
「日本の社会もだんだん結婚しにくい状況になってきている。
そこでもやっぱり女性は子どもを産みたいだろうし。
ちょっとでも何か自分で起こせないか、そういう意識はあった。」

医療機関を介さず行われる精子提供。
提供者に安全性の認識はあるのか。
コウイチ(仮名)と名乗る提供者が女性に提示しているという、感染症の検査結果を見せてもらいました。

検査項目はHIV、梅毒、クラミジアの3項目。
しかし、仮名で受けているため本当に本人のものか確認することはできません。

「B型肝炎や、りん病はこの検査ではわからない?」

コウイチ(仮名)
「そうですね。」

「女性がこれでいいと言えば検査を追加しないのか?」

コウイチ(仮名)
「これだけでやろうと思っている。」

この男性はどのような方法で提供を行っているか。
私たちは追いました。

コウイチ(仮名)
「どうも、こんにちは。」

この日、面会に来たのは40代の女性でした。

コウイチ(仮名)
「よろしくお願いします。
じゃ、カフェに行きましょうか。」

店での面談は1時間余り。
お互いに本名を明かさず、感染症の検査結果をメールでやり取りすることで提供することが決まりました。
面談のあと、男性が向かうのは公衆トイレです。
容器に入れるとすぐに待ち合わせの場所へ。
精子が入った容器が女性に渡されました。

「提供したという事の重みはどう感じるのか?」

コウイチ(仮名)
「自分の(精子)を使って子どもができるというイメージが、まだ具体的につかめない。
子どもができて、その子どもが幸せになるのかは、結局自分自身が下した判断も多分に含まれているわけで。」

男性は今も、複数の女性に対して提供を続けています。

匿名の個人が行う精子提供。
日本産科婦人科学会の苛原稔さんは、女性に対する感染症のリスクだけではなく、生まれてくる子どもに対する倫理的な問題も指摘しています。

日本産科婦人科学会 倫理委員長 苛原稔さん
「こういう医療を行う場合は、精子を提供した人のデータを長期間保存する。
私たちはそれを、生まれた子どもの『出自を知る権利』という言葉で表す。
今回のやり方は、父親がよくわからない。
必ず倫理的に大きな問題が発生する。」

個人の精子提供 その背景は

ゲスト板倉弘政記者(特別報道チーム)
ゲスト吉村泰典さん(日本生殖医学会理事長)

●どういう人が個人からの精子提供を受けている?

板倉記者: 今回、私たちも取材を始めた当初、本当にこういう行為が行われているのか、正直疑ってかかりました。
ただ、実際に提供を受けた女性などから話を聞きますと、まずは不妊症の夫を持っている女性、それから未婚の女性、こういった方々が、大体およそ同じぐらいの比率でいらっしゃいました。
中には互いに女性のカップルもいました。
こうしたことが起きる背景には、夫婦でも子どものいない夫婦であるとか、未婚化といった今の日本の社会そのものが見て取れるなと感じました。

●提供している男性側の動機は?

板倉記者: これもさまざまではあるんですけれども、まずは、子どもが欲しいと願う女性の願いに何か役に立ちたいという説明をする人がいた一方で、結婚して妻はいるけれども、共働きで子どもがいないと、自分の遺伝子は残したいという動機を挙げる人もいました。
金銭面では、数万円の謝礼を受け取っているというケースが一部にはありましたけれども、ほとんどは面談にかかっている実費のみということで、無償で行われていました。

●医学的リスクとして感染症の心配は大きい?

吉村さん: 私は2つの感染症の問題点があると思うんですね。
自分で針のない注射器で体内に精子を入れる、精液を入れるわけですから、これによって、例えば卵管炎を起こしたり、子宮内膜炎を起こしたり、ひどい場合には腹膜炎を起こす場合があるんですね。
だからそれは通常の、われわれが医療サイドで行う人工授精においても、そういったケースは時々あるわけですよね。
そういったリスクと、もう1つは、精液中に例えばエイズウイルスがいたり肝炎ウイルスがいたり、いろんな感染症があるわけですね。
要するに、そういった精液を使って自分で入れるわけですから、そうしますと子どもに感染するということだって起こってきます。
そのために学会では、エイズウイルスに関しましては感染していても検査が陽性にならない時期があるために、180日間凍結した精液を使っているといった現実があるわけでして、こういったことが全くなされていないということを考えますと、子どもに対する感染のリスクということも考えていかなければならないと思います。

●HIV、梅毒、クラミジアの検査結果を提示していたが?

吉村さん: それは、本当に証明することはもちろんできませんし、たとえもしそれが陰性であったとしても、新鮮な精液を使えば、ウィンドウ時期といいまして、陽性に出ない時期の精液を使うということだってありうるわけですから、そのへんは非常に大きな問題点になると思いますね。
(そういったものを容器で渡されて、自分でそれを体内に入れるわけですが。)
それは本当に、腹膜炎を起こしたりすることは当然起こってくると思いますね。

●女性たちの医学的リスクの認識度と抵抗感について

板倉記者: もちろん、抵抗感はあったという女性がほとんどでした。
ただ、抵抗感があっても利用せざるをえない現実というものが、その背景にはあるように感じました。
例えば、不妊症の夫を持つ女性の場合ですと、通常行われている医療機関の不妊治療は手間も時間もかかります。
ですので、今の年齢を考えると、待っていられないというふうにおっしゃっている方もいましたし、また未婚の女性の多くは、これまで仕事を優先して働いてきて、40歳前後になり、このままだと妊娠が難しくなるというふうに思って、焦りを感じたというふうに話していました。
ここからも、今の社会の課題みたいなものがやはり透けて見えるなと思いました。

●匿名での提供、学会としては倫理面の問題が大きい?

吉村さん: そう思います。
私は生まれた子どもさんが、例えば母親に対して、この匿名の個人から、精子の提供を受けて生まれた子どもだと知った場合の子どもさんの衝撃というのは、やっぱり考えていかなければいけないと思いますし、学会では、妊娠する数をちゃんとチェックしておりまして、提供者は10人までとするということにしているんですけれども、どれくらいの子どもさんが生まれているかということも分からない。
(1人の方から?)
そうですね。
それからもう1つは、生まれた子どもさんとお母さんがいるわけですけれども、私はこの母子関係に、提供した人が介入してくるという危険性も無視することはできないというふうに思いますね。
(後になって、親権を主張したりする?)
そうですね。
私は精子の提供者ですよと言って現れる可能性だって起こりうると思うんです。
そういったことも考えていかなければならないと思います。

個人の精子提供 アメリカの実態

アメリカでは、医療機関だけでなく個人の精子提供者にも国への登録を義務づけています。
併せて感染症の検査などを行わなければ提供をすることはできません。
そんな中、世間を騒がす事態が起きました。

アメリカ ABC
“水面下にいる精子提供サイトで、この人物を超えるドナーは他にいない。”

カリフォルニア州に住む38歳のこの人物。
精子提供によって14人の子どもが生まれたといいます。

提供した男性
「多くの人が困っているので、彼女たちのために奉仕したい。」

国の規則で定められた感染症の検査を行わず、4年にわたって提供を続けていました。
事態を重く見たFDA=食品医薬品局は、精子提供の停止を命じました。
FDAは、328回もの提供を46人の女性に行っていたことを突き止め、感染症拡大のリスクを防がなければならないと指摘しました。
精子提供について調査をしている、エール大学のアルメリン准教授です。
国の規則がある中でも、個人の提供を取り締まることには限界があると指摘しています。

エール大学 レネ・アルメリン准教授(社会学)
「米国でも精子提供者が何人いるのか把握されていない。
提供者が適切に検査を受けているのか、疑問がある。
より安全に精子提供を受けられるようにするには、どう規制していけばよいのか真剣に考えるべき。」

精子提供 日本の現状は

●アメリカでは登録制度導入、それでもコントロールは難しい?

吉村さん: そうですね。
学会では営利目的での精子の提供・あっせんというものは禁止しているわけですけれども。
(それは日本の場合?)
そうですね。
今、自民党の生殖補助医療のプロジェクトチームでは、こういったことに対して罰則規定を作ろうとしてるんですけれども。
やはり営利目的でないといわれると非常に困ることもあります。
そうすると、私はやはり医療行為ではない精子の提供あっせんということも、広げて規制していかないといけないという事態になってくるんじゃないかというふうに思います。

●今の学会で作られているガイドラインは現実的か?

吉村さん: なぜ法律婚でこういった精子の提供を行っているかということになりますと、やはりこういった精子を提供受ける場合に生まれた子どもが、非常に法的な地位が不安定になることがあるわけですね。
ですから、こういった医療、第三者を介する医療を受ける場合は法律婚であっていただきたいと、それは子どもの福祉の観点からそういったことを考えているわけです。

●30代女性の未婚率が増加しているが?

吉村さん: 女性は今の現実において、わが国においては、結婚して、子どもを産みながら子育てをしながら働く環境というのがなかなかできてない状況の中で、こういったケースも生まれてきているのではないかというふうに思うんですね。
このへんもやっぱり問題として私たちは捉えていかなくちゃいけない。
ただ単に、こういったことが悪いというわけではなくて、こういった状況・背景というものを少し考えていく必要があるというふうに思います。

●女性たちからは産む権利もあるという声が聞こえてきそうだが?

吉村さん: 私は確かにそういった女性にとっては、子どもを産む権利は私はあると思うんですね。
しかしその際、女性に一番考えていただきたいことは、生まれてくる子どもがいるということです。
どんなにオートノミー=自律性を持って、自分たちがこういったことをしたいということで子どもをお作りになっても、やはり生まれてくる子の同意を得ることはできないわけですから、子どもさんのことを最優先して考えていただきたいというふうに思いますね。

●どうすればリスクの高い精子提供を防げる?

吉村さん: 私は一番大切なことは、先ほど言いましたように、こういった感染症のリスクがあるということ、そして倫理的にも、非常に大きな問題点があること。
その際には、やっぱり子どものことを考えた精子提供ではないということを、やっぱり女性の方に分かっていただくことと、教育・啓発が最も大切ではないかというふうに思います。
そういったことを教育・啓発していくことは私にとっては使命だと思っています。

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