クローズアップ現代

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No.34542014年1月20日(月)放送
“見えない”ドーピング 攻防の最前線

“見えない”ドーピング
攻防の最前線

大リーグに衝撃 スーパースターの薬物疑惑

ABCニュース
「大リーグ史上最も厳しい薬物使用での処分です。」

アメリカ中が注目したスーパースター、アレックス・ロドリゲス選手のドーピング疑惑。
筋肉増強作用のある禁止薬物を使っていた疑いに対し、11日、今年(2014年)のシーズンいっぱい、出場停止とする判断が示されました。

ロドリゲス選手が、薬物の購入先に送ったとされるメールも報道されました。

“明日は重要な日だ。
どんなのがある?”




女性
「彼にはとてもがっかりだわ。」




男性
「ファンやドーピングをしていない選手を裏切った。
公平ではないよ。」



しかし、ロドリゲス選手は争う姿勢を示しています。

ロドリゲス選手の声明
“検査に一度もひっかかったことはない。”




自分は、ドーピングの検査に一度も引っ掛かっていないと主張したのです。

ロドリゲス選手が使ったとされる、ヒト成長ホルモンです。
体内でも分泌されるため、ドーピングかどうかの見極めが難しいとされています。
大リーグ機構は、検査の陽性反応はなくとも、購買記録などから、薬物使用を裏付けられると判断。
検査をすり抜ける、見えないドーピングだと疑われています。

“見えない”ドーピング 巧妙な手口

ドーピング対策の国際機関、世界アンチ・ドーピング機構=WADAは、こうした事態に危機感を募らせています。
年々、ドーピングを検査で見つけることが、難しくなってきているのです。



世界アンチ・ドーピング機構 デビッド・ハウマン事務総長
「20年前と比べると、今はスポーツ業界に巨額の金が流れ込んでいます。
そのため、不正の手口はさらに巧妙になっています。
ドーピングの違反者たちの方が、われわれ検査機関よりも、はるかに多くの金が使えるのが現実なのです。」

ドーピング検査を欺いて、世界の頂点に立った人がいます。
アテネオリンピック自転車競技の金メダリストだった、タイラー・ハミルトンさんです。
ドーピングの常習者であったことを、告白しました。



元プロ自転車選手 タイラー・ハミルトンさん
「ツール・ド・フランスに出たい。
オリンピックにも出てみたい。
一度でいいから、経験してみたかったのです。
そのために、自分の誇りを捨てました。」

25歳のとき、ロードレースの世界的な強豪チームに加入した、ハミルトンさん。
練習を重ねても、結果が出せない日々が続いていました。
ハミルトンさんがドーピングに手を出したのは、プロ3年目。
それには、チームの医師たちも深く関わっていました。

使うことにしたのは、禁止薬物のエリスロポエチンです。
本来は貧血の治療薬ですが、赤血球を増やす作用があり、持久力の向上につながります。
数百キロの距離を走る自転車競技。
エリスロポエチンを使えば、勝負を左右するほどの大きな力が得られるのです。


元プロ自転車選手 タイラー・ハミルトンさん
「ドーピングは厳しいトレーニングの成果の上に、さらにもう一押し、力を加えてくれるもの。
1か月前なら、太刀打ちできなかったライバルたちと、肩を並べられるようになった。」


しかし、エリスロポエチンは、次第に検査で見つかるようになります。
ツール・ド・フランスなどの大会では、血液検査を導入し、監視を強めていたのです。
こうした検査をかいくぐるのに、知恵を絞ったのが、チームの医師たちでした。

元プロ自転車選手 タイラー・ハミルトンさん
「医師がスケジュールを作ってくれました。」




大会までの1か月、どのように薬物を使えば発覚しないか、計画されていました。
薬物の量や、注射する場所、そして時間まで細かく指示がありました。
薬をやめるのは大会の10日前。
大会の日の検査では、薬物が検出されず、しかも、持久力は高くなるように、計算されていたのです。
さらにハミルトンさんは、手の込んだドーピングにのめり込んでいきます。

元プロ自転車選手 タイラー・ハミルトンさん
「ここを見てください。
いつもここに打っていました。」



選手みずからの血液を使い、薬と同じように赤血球の量を増やす、血液ドーピングです。
大会に向けて、あらかじめ採血し、保管しておきます。
赤血球量が減ることで、持久力はいったん落ちますが、数日たつと、自然に元どおりに回復します。
大会の直前、保存しておいた血液を体に戻すことで、本来よりも高い持久力を得られるのです。
この方法は禁止されていますが、みずからの血を使うため、極めて見つかりにくいのです。
ハミルトンさんは検査を欺きながら勝利を重ね、チームにも、多額の賞金をもたらす存在になっていきました。
そして、オリンピックの金メダリストにまで、のぼりつめたのです。

元プロ自転車選手 タイラー・ハミルトンさん
「チームは選手が検査で陽性になっては困るので、医師たちに高い報酬を支払って、検査にひっかからないドーピングの方法を考えてもらっていました。
あのレベルになると、もうスポーツというよりは、ビジネスです。
巨額な金が絡んでいて、後戻りはできませんでした。」

7年間、見つかることのなかったドーピングは、医師のささいなミスから発覚しました。
40人もの選手にドーピングを行っていた医師が、ハミルトンさんに、ほかの選手の血を輸血し、血液検査で異常が見つかったのです。
ドーピングの発覚で、過去のメダルや記録などを失ったハミルトンさん。
ドーピングは、自分が大切にしてきた自転車に乗る喜びを、捨ててしまう行為だったと感じています。

元プロ自転車選手 タイラー・ハミルトンさん
「ドーピングをする前は、純粋に自転車レースが大好きな青年でした。
結果がでなくても、『それもまた人生』と思っていました。
しかし、ドーピングにどんどんはまっていくと、勝つことだけがすべてになっていきました。
残念なことですが、自転車レースの世界で起きていたことは、他のスポーツでも起きていたし、今でも行われているのです。」

トップアスリートに広がる “見えない”ドーピング

ゲスト友添秀則さん(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)

●今のドーピング、検査で発見するのは難しい?

そうですね。
なかなか歴史的に見てみても、新しい薬が開発されると、検査法がまた新しく確立されていく、するとまた、それをすり抜けるような薬が開発される。
これをもうずっと、いたちごっこでやってきたのが現実です。
と同時に、今、薬物ドーピングが中心に、ビデオの中では報道されていましたけれども、例えば血液ドーピングもありますけれども、コーチから尿ですよね、尿をもらって、汚染されていない、薬物に汚染されていない尿をもらって、自分でぼうこうに注射針を使って入れるという、尿ドーピングですね、これ、室伏選手が繰り上がりで優勝した、ハンマー投げの1位の選手がやっていた。
これも尿ドーピングの一種でしたけど、こういった尿ドーピングがあったり、あるいは現代では、もう遺伝子ドーピングの世界に来たんではないかというふうにいわれています。
(遺伝子操作をするわけですね?)
そうです。
例えば、筋肉が発育するのを抑えるような、そういった遺伝子を壊しちゃうわけですね。
ウイルスに新しい遺伝子を挿入しながら、そうすると、筋肉はどんどんどんどん発達していくようになると。
20%から30%の筋肉がつくっていわれてます。
そういうような遺伝子操作のレベルに来てるということです。
今まさに、ドーピングは進化しているということなんですね。
(やはり尿や血液の検査では、発見が難しい?)
なかなか難しいですね。
選手を取り巻きながら、例えば今、Vの中にもありましたけれども、医者だとか、あるいは科学者だとか、みんなチームを組んでですね、いろんな手法を考えるわけですよね。
だから極端にいうと、ありとあらゆる手法を考えてきたわけです。
どうしても検査のほうが、あとになるわけですね。
多額の金が動きますので、チームにとっても必死なわけですね。
アスリートにとっても、もう一回自分がチャンピオンでお金を稼げなくなってしまうと、奈落の底に落ちてしまうかどうかの瀬戸際ですから、本当に必死に検査をくぐり抜けようとしていくということです。

●巧妙化と同時に、組織化が進んでいる?

そうですね。
組織化に含めていえば、例えば検査体制のほうも、一生懸命検査をやろうということをやってきたわけですけれども、例えば、尿検査をするのに、1つの検体を検査するのに、10万円程度かかるといわれているんですね。
これは多額の費用がかかるし、血液検査をするには、もっとやっぱりお金がかかるわけですね。
そして、競技会だけではなくて、抜き打ち検査といって、競技会の外でも検査をしますので、そこにも人を派遣しなければいけない。
人的にも財政的にも、もうこれは対応していくのが限界に来てるのではないか、というふうにも思うところがあります。
(検査の体制も、限界が近づいていると?)
はい。

闇社会が狙う ドーピング市場

去年(2013年)2月、世界のスポーツ関係者を驚かせる発表がありました。
スポーツ大国のオーストラリアで、ドーピングに犯罪組織が深く関わっているというものでした。

法務大臣(当時)
「今の状況は本当に深刻です。
選手が犯罪組織とつながり、危険にさらされている。」

オーストラリア政府が作った報告書です。
ドーピングで使われる薬の流通に、麻薬などの違法薬物を扱う犯罪組織などが、進出してきているという衝撃的なものでした。
ドーピングスキャンダルが起きた、オーストラリアンフットボールの人気チームです。
チームに近づいてきた薬の売人が、選手に禁止薬物を使わせていたのです。
この疑惑に、一時期深く関わっていた人物が、私たちの取材に、その手口を明かしてくれました。
薬物調達の中心となった男性です。
男性は、選手に効果がある薬を見つけだしてくることで、報酬を得ていました。
その薬には、実験段階のものや、動物用の薬も含まれていました。

薬物売買に関わった男性
「こうした薬は、合法的にも闇市場からでも、簡単に手に入れられる。」




しかし、自分たちよりも、悪質なことをやっている連中がいるといいます。
こうした売買には、マフィアやギャングなどの犯罪組織も関わっていて、選手の弱みを握り、大きな利益を上げようとしているというのです。

薬物売買に関わった男性
「犯罪組織は、『俺たちの言うことを聞かないと、ドーピングを暴露するぞ』と、選手を脅すんだ。
やつらは一度弱みを握ると、それを利用して選手を操り、八百長などをする。
それが目的なんだ。」

ドーピングを防げ 強化される監視

こうした危機感の中で、去年11月、世界中のドーピング対策の関係者が集まる会議が、開かれました。
参加者からは、スポーツの健全性を保つには、選手のドーピングに対して、これまで以上に厳しく対応していくべきだという声が上がりました。



アテネ五輪 フェンシング銀メダリスト
「選手であれ、関係者であれ、違反者はより厳しく処罰すべきです。」




アンチ・ドーピング機構(ノルウェー)
「(警察などの)公的な機関と、情報を共有する方法を探るべきだ。」




この会議での決定事項です。
警察や税関などと連携した、ドーピングの摘発体制を作ること。
違反した選手の資格停止期間を、原則2年から、4年に延長すること。
そして、特に効果が期待されているのが、選手の情報の収集強化です。
世界のトップ選手は今、みずからの個人情報を提出する義務が、課せられています。
アテネオリンピックで金、ロンドンオリンピックで銅メダルを獲得した、室伏広治選手です。

室伏広治選手
「常に向こう3か月分の予定を、申告する必要があります。」

毎日の宿泊先や、練習場所などを報告しなければなりません。
検査機関はこれをもとに、抜き打ち検査や、ドーピングにつながる行動をしていないか調べます。

室伏広治選手
「ドーピングに関しては、いろんな面で厳しい目がありますから、自分が潔白だということを証明するために、ちゃんと記録を出すこととセット。」

さらに、選手の肉体を継続的に監視する、新しい方法も始まっています。
選手の血液や尿の数値を、長期間にわたり見ていくことで、ドーピングを見つけ出そうというのです。

男性
「上下の赤い線が、この選手にとっての正常範囲を示しています。」

青い線はヘモグロビンの値です。
これは、正常な範囲に入っています。
病気などの異常がないかぎり、大きく変動することはありません。
しかしドーピングの疑いのある人の場合、大きな変化が表れます。
数値を継続的に監視し続けることで、疑わしいアスリートを見つけることができます。
日頃からアスリートの立場で、ドーピングをなくす活動をしている室伏選手。
スポーツの未来に、大きな不安を感じています。

室伏広治選手
「スポーツがどうなってしまうか心配です。
(ドーピングによって)汚されて、価値がなくなってしまったら、自分が一生懸命やっている競技の価値もなくなってしまう。
これはもっと大きな損失があることも、考えなければいけない。」

犯罪組織とつながるドーピング

●ドーピングに、犯罪組織が絡んでくる現実をどう見る?

ドーピングっていうのは、ドーピングをやっている人、手挙げてくださいっていったら、誰も挙げないように、実は全部アンダーグラウンド、地下でやられてきたわけなんですね。
もう1つ、ドーピングの禁止薬物というのは、麻薬や覚醒剤、これも入っていますけれども、麻薬や覚醒剤と違って、合法なわけですね。
だからこれが、ビジネスとして成立するっていう問題があるということですね。
筋肉増強剤なんかは、実はトップアスリート、特にドーピングをやる選手だけではなくて、次のクラスの人たち、あるいはスポーツと関係ない人たち、一般の人たち、あるいは高校生、中学生まで、まん延していく可能性があるというふうにいわれてるんですね。
特にアメリカの例ですけれども、アメリカ人というのは、ある種、筋肉隆々とした、スーパーマンに憧れるとか、あるいは古い世代だと、ターザンのようなこういう体を作りたいとか、あるいは若い人だとターミネーターなんていうことをいいますけれども、そういう体が、実はこの筋肉増強剤を使うと、作れるような時代が来てるということなんですね。
女性の場合も、ダイエットに、こういう筋肉増強剤を服用するっていうようにいわれてます。
だから、そういう意味でいうと、需要が実はあるということなんですね。
ただし、合法なんだけれども、こういう薬は重篤な副作用を及ぼしますから、反社会的であるし、不道徳なものですから、どうしても地下に入って、いわゆるブラックマーケット、闇市場が作られていって、そこで売買が行われていく。
そこには犯罪組織が、これに絡んでくるということがいわれています。

●対策として、警察との連携、厳罰化などが出ているが?

確かに私は、一定の歯止めはかかるというふうに思ってます。
ただし、皮肉な言い方をすると、薬に例えますと、厳罰化、あるいは捜査的な手法を使ってやったところで、特効薬であって、実はドーピングっていうのは、慢性病なわけですから、やがて効かなくなるだろうと。
必ずや、次の手法が作られていって、破られてしまうだろうというふうに思っているところなんですね。
(いたちごっこが始まると?)
ええ。
いくつかの国では、これを刑事罰を科すようになってきています。
例えばイタリアやフランス、あるいはアメリカでは、直接的にはこういう刑罰はないので、偽証罪だとか、詐欺罪を適用しながら、やっていくわけですけれども、実はこういうことも、ちょっとスポーツをやってきた人間でいうと、少し悲しいっていう思いがするわけですね。
例えばボクシングなんかで、エキサイトして相手を死なせてしまった場合に、試合が終わったあと、殺人罪で告訴されるみたいなところがあるわけですね。
むしろもうハードの側面では、限界に来ている、つまりどんな検査法をやったところで、最終的にそれを使おうとする人たち、あるいは選手、あるいは次の若い世代たちがいる以上は、この人たちの心の在り方を変えていかないと、ドーピングっていう問題は根絶しないというふうに思っています。

●具体的にはどういう視点になるか?

これはなかなか難しいですね。
これはまずは、教育に尽きると思っています。
特にアンチドーピングの教育を、徹底してやっていく必要があると思っています。
幸い日本では、ドーピングは生まれてきてないです。
オリンピックなんかでは、摘発例がないです。
むしろ日本の中では、もう少し日本から発信していけるような、新たなアンチドーピングの運動を、世界に発信していく、これ、特に20年のオリンピックに向けて、われわれがやっていかなきゃいけない大事なことだというふうに思っているところです。

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